第43話:自動化の夜明けと、二方面からのプレッシャー

センサーネットワークの構築は、ダンジョン運営に新たな次元をもたらした。ダッシュボードには、リアルタイムでダンジョン内の環境パラメータが表示され、まるで生き物の脈動のように、湿度や魔力濃度が微細に変化する様子を可視化してくれる。これにより、環境異常への対応は格段に迅速かつ的確になった。コアによる魔力循環の微調整と、ゴブジたちが設置したハーブ燻蒸器(ジンの知識とリナのハーブ鑑定、そしてゴブジの工作スキルが見事に融合した産物だ)の効果もあり、ダンジョン内の環境は急速に安定を取り戻しつつあった。


だが、俺の野心は、単なる監視システムの完成では満たされない。目指すは、さらなる自動化だ。センサーデータをトリガーとして、ダンジョン機能が自律的に作動するシステム――「自動化ルールエンジン」の開発が、俺とコアの次の目標となっていた。


「コア、最初のプロトタイプができたようだな。テストしてみよう。」

俺は、コアが設計し、ゴブジが(苦労しながらも)物理的な機構部分を組み立てた、最初の自動化ユニットの前に立っていた。それは、地下二階層の、まだモンスターが配置されていない一角に設置された、湿度センサーと連動する簡易的な除湿魔法陣だった。


「では、テストを開始します。」

コアが、周辺の湿度を意図的に上昇させる魔法を発動する。ダッシュボード上の湿度グラフが急上昇し、設定した閾値を超えた瞬間――


ウィィン…という微かな作動音と共に、床に描かれた魔法陣が淡い光を放ち始めた。魔法陣は周囲の湿気を吸収し、清浄な空気を放出しているようだ。ダッシュボードの湿度グラフが、みるみるうちに低下していく。


「…成功だ! センサーの値に応じて、自動で魔法陣が作動・停止する。完璧じゃないか!」

俺は思わず声を上げた。これは、小さな一歩だが、ダンジョン自動化への大きな前進だ。


「次は、侵入者検知のテストだ。温度変化と空気流の変化を捉える高感度センサーを、この通路に設置した。擬似的な侵入者(コアが操作する小型ゴーレム)が通過したら、近くに待機させているスラきちに自動で警告が送られ、粘液で威嚇射撃を行う、というルールを設定した。」


『擬似侵入者、指定エリアに進入…温度・空気流センサー、正常に反応! ルールエンジン作動! スラきちへ警告及び射撃命令を送信!』


コアの報告と同時に、通路の隅で待機していたスラきちが、素早く反応! 擬似侵入者ゴーレムの足元めがけて、粘液弾を発射した! 粘液はゴーレムに命中し、その動きを鈍らせる。


「これも成功だ! 素晴らしいぞ、コア! ゴブジ! スラきちもよくやった!」


センサーとアクチュエーター(この場合は魔法陣やスライム)を、ルールエンジンで結びつける。この基本構造を応用すれば、様々な自動化が可能になるだろう。罠の発動、モンスターへの指示、施設の制御…可能性は無限大だ。


「この自動化ルールエンジンが完成すれば、俺の仕事はさらに減るな…ふふふ、ホワイトダンジョンへの道がまた一歩近づいた。」

俺は、究極の効率化への期待に胸を膨らませた。


自動化への道筋が見えたことで、俺は地下二階層の最終仕上げとモンスター配置に、より集中できるようになった。

DPも1480まで回復。目標達成は目前だ。


「よし、コア。地下二階層『水没した遺跡』エリア、最終工程だ。水棲モンスター、ジャイアントリーチを5体、戦略的なポイントに配置。罠コンボ『アクア・スパイク』の最終調整と、濃霧発生装置のデフォルト設定を完了させろ。」


『承知いたしました。地下二階層、最終工程を開始します。』


これで、地下二階層も、いよいよ本格的な稼働を開始することになる。Bランクパーティを撃退( যদিও 逃げられたが)した実績を持つこのフロアは、今後のダンジョンの防衛において、文字通り「水の壁」となるだろう。


しかし、そんな内部の発展とは裏腹に、外部からのプレッシャーは、静かに、しかし確実に高まっていた。


まず、領主側からの動き。

ジンからの報告によれば、フロンティアの町に駐留する領主騎士の数が増え、森への巡回も、より組織的かつ広範囲になっているという。さらに、ギルドを通じて、「ベルクシュタインの森周辺の地理情報、およびモンスター生息状況に関する詳細なレポート」の提出を求める、高額な依頼が出されたらしい。


「これは…明らかに、次の手を打つための情報収集だな。」

俺は報告を聞きながら眉をひそめた。「領主アルフレッドは、我々の返答を鵜呑みにはせず、独自に調査を進め、我々の『正体』と『実力』を見極めようとしているのだろう。」


「へっ、次はどんな手を打ってくるかねぇ。騎士団を差し向けてくるか、あるいは、ギルドの冒険者を使って、もっと汚い手で探りを入れてくるか…」

ジンが、面白がるように言う。


「いずれにせよ、油断はできない。ジン、引き続き情報収集を頼む。特に、領主の性格や、過去の紛争解決事例など、彼の思考パターンを探る手がかりになる情報が欲しい。」


「了解だ。ラットにもう少しハッパをかけてみるか。」


次に、ロザリア側の動き。

ゴブジの報告によれば、インプによる偵察は依然として続いており、先日解除したセンサー罠以外にも、新たに数種類の妨害工作(例えば、ダンジョン周辺の木々に、微弱な呪いを込めた印を刻むなど)が試みられているらしい。どれも、ゴブジのスキルアップとコアの解析能力によって、事前に発見・無力化できているが、相手が着実にこちらへの干渉を強めているのは明らかだ。


「呪いの印、か…直接的な攻撃ではないが、不気味な手を使ってくるな。」

リナが、嫌悪感を露わにしながら言った。「紅蓮の魔女と呼ばれるだけあって、火属性だけでなく、呪術系の魔法にも長けているのかもしれません。」


「だとしたら、こちらも黙ってやられているわけにはいかないな。」

俺は、反撃の時が来たと判断した。「ゴブジ、お前に新たな任務を与える。ジンの指導で学んだ罠設置スキルを活かし、インプがよく使う飛行ルートや、奴らの拠点周辺に、こちらから『お返し』の罠を仕掛けてこい。ただし、目的はあくまで牽制と情報収集だ。本格的な戦闘は避けろ。」


『ギギッ…! やってやる!』

ゴブジは、目を輝かせて頷いた。彼にとっても、自分のスキルを試す絶好の機会だろう。


こうして、ロザリアとの間でも、静かなる妨害と反撃の応酬が始まった。情報戦は、次の段階へと移行したのだ。


領主とロザリア。二つの異なる方向からのプレッシャーが、同時に高まってきている。いつ、どちらか、あるいは双方が、本格的な行動を起こしてきてもおかしくない状況だ。


「…やはり、さらなる戦力増強が必要か。」

俺は、ダッシュボードに表示されたDP残高――1480DP――を見つめた。地下二階層はほぼ完成した。このDPを、次は何に投資すべきか。


ゴブリン部隊の強化? オーク部隊の本格運用? 新たな罠コンボの開発?

どれも重要だが、俺の頭の中には、もう一つの選択肢が浮かんでいた。


「コア、ゴーレムの開発について、本格的に検討を開始したい。」


プロットにもあった、自動防衛システム、素材運搬の自動化。そして、オークのような扱いにくいパワータイプを安全に運用するための「乗り物」あるいは「制御ユニット」としての可能性。ゴーレムは、俺が目指す究極の効率化ダンジョンを実現するための、鍵となる存在かもしれない。


『ゴーレム開発プロジェクト、ですね。承知いたしました。基本設計思想、動力源(魔石か、コアからの直接供給か)、素材(石、金属、あるいはミスリル?)、制御システム(自律型か、遠隔操作型か)…検討すべき課題は山積みですが、非常に挑戦しがいのあるプロジェクトです。』

コアも、新たな開発プロジェクトに意欲を見せているようだった。


「まずは、小型の試作機からだ。工房のゴブジにも協力させよう。彼なら、精密な部品加工もできるはずだ。」


『了解しました。ゴーレム開発計画(フェーズ1:試作機開発)を始動します。必要となる基礎理論、設計図、素材リストを作成します。』


領主とロザリアからのプレッシャーが高まる中、俺はゴーレム開発という新たな希望(と、さらなる効率化への道)に目を向けた。内外からの課題が山積する状況は変わらない。だが、俺たちのダンジョンもまた、日々進化を続けているのだ。


自動化の夜明けが訪れ、地下二階層が完成し、そしてゴーレムという新たな力が生まれようとしている。

この複雑で、刺激的なダンジョン運営。俺は、その面白さと難しさを改めて噛み締めながら、次なるステップへと進む決意を固めた。

迫り来る脅威に、俺たちは決して屈しない。むしろ、それを乗り越え、さらに強くなってみせる。ホワイトダンジョンへの道は、まだ長く、そして険しいのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る