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「彼氏彼女の事情」は、庵野秀明の黒歴史なのか?

今回は、ガイナックスについて少し書いてみたい。

ガイナックス、昨年には破産申告が受理されたらしい。
といっても、今さらこれを騒ぐ人もおるまい。
この会社はかつての虫プロと同じで、本家は破産したけどそこから派生したサンライズやマッドハウスをはじめとした分家が、その後どんどん成長していったパターンさ。
ガイナックスの遺伝子は、今なおカラーTRIGGERがきっちり受け継いでるからね。

カラーとTRIGGERが、今どういう関係性にあるのかはよく知らん。
私のイメージとしては、カラーが「ガイナックス本流」、TRIGGERの方は「ガイナックス傍流」といったところじゃないかと。
いうなれば、ジブリ分家の中でもポノックが「ジブリ本流」、STUDIO4℃が「ジブリ傍流」というイメージがあるでしょ?
それと似た感じだと思う。

カラー(2006年設立)

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TRIGGER(2011年設立)

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なお、カラーとTRIGGERを分け隔てるものは何かというと、

カラー⇒ガイナックスの母体、DICON FILMというサークル時代からのメンバーが中心

TRIGGER⇒ガイナックス設立後に入社したメンバーが中心


という感じで、ようは「第一世代」と「第二世代」ってことでしょ。
そして作家としては、カラーの主軸が庵野秀明、TRIGGERの主軸が今石洋之である。
その作家性も、だいぶ違うんだよね。

じゃ、まずは今石さんの作家性について。
こういう作家性ってものについては、まず処女作見るのが一番手っ取り早いのよ。
そこにやりたいことが全部詰まってるから。
・・じゃ、今石監督の商業デビュー作をひとつご覧いただきましょう。

「DEAD LEAVES」(04年)監督/今石洋之


・・何これ? サイコーじゃん!

この「DEAD LEAVES」には、「グレンラガン」「キルラキル」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」、後のあらゆる作品の要素が詰まってるわ。
こういうパワーと勢いでグイグイいくのが大好きなんだろうなぁ・・。

今石さんは武蔵野美大卒って人だし、基本、オタクというよりアーティストなんですよ。
といいつつも、しっかりと金田伊功オタクではあるけど。

一方、庵野さんの商業デビュー作は多分これだね↓↓

「無限戦士ヴァリス」(87年)監督/庵野秀明

・・超ダサい(笑)。

なんか、ファミコンソフトのプロモーションビデオらしいですわ。
この翌年に、「トップをねらえ!」でブレイクすることになるんだけどね。

まぁでも、「トップをねらえ!」や「エヴァンゲリオン」はあまりにも有名すぎる作品だし、今回はそっちじゃなくて、庵野さんの作家性を敢えてこの作品↓↓の中に見つけてみたい。

「彼氏彼女の事情」(98年)監督/庵野秀明

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これねぇ、色々な意味で興味深い作品なんですよ。

これまで庵野さんが手掛けたTVアニメは3本のみ。
ナディア」「エヴァ」そして3本目がこの「彼氏彼女の事情」。
まさか、少女漫画原作のラブコメをやるとは・・。
私はこの原作漫画をよく知らんのだが、聞けば発行部数1000万部以上という大ヒット作らしく、ひょっとしたら庵野さんも愛読者だった可能性もある。
この人、少女漫画まで守備範囲だったのかな?

ただ、この物語はさすが庵野さんが好むだけのことはあり、かなり内省的な内容である。
私の少女漫画基準はあくまで「君に届け」や「フルーツバスケット」あたりだが、そのてのやつは大体、主人公男女がくっつくまでに長~い長~い道程があるのに対し、この作品は割と早い段階から主人公男女がカレシ/カノジョの関係となるという展開。

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ヒロイン雪野と、そのカレシ有馬

でも、この物語、むしろふたりが付き合い始めてからが本格的に面白くなるわけで、そういう意味では「ホリミヤ」に近いかも。
・・いや、「ホリミヤ」ほどにノーテンキではない。
だって交際以降、ヒロイン雪野はクラスの女子からきっちりイジメられるし、有馬の方も心の奥底に闇を抱えてて、なんか終始不穏なんだ。

基本、物語はヒロイン雪野視点のモノローグで進められていく感じね。
そのスタイルは、ちょうどこの頃に庵野さんが手掛けていた実写映画「ラブ&ポップ」と同じ。

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「ラブ&ポップ」(1998年)監督/庵野秀明

かたやアニメ、かたや実写、全く同じ時期に<女子高生>を素材にした作品を庵野さんが手掛けたというのは、もちろん偶然ではないだろう。

「ラブ&ポップ」援助交際をする女子高生が主人公
「彼氏彼女の事情」成績学年トップ優等生の女子高生が主人公


敢えて真逆の対象をチョイスしたのも偶然ではないと思う。
意図して同じコインの裏表、という印象。

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「ラブ&ポップ」

「ラブ&ポップ」は物語としてはあれだが、映像作品としてはめちゃくちゃ面白い出来上がりなんですよ。
で、「彼氏彼女の事情」もそれに近いニュアンスというか、映像作品としてはかなり斬新。

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ちょいちょい、こういう映像↑↑を挿入するのはいかにも庵野さんっぽいし、最初のうちは「こういうの好きやなぁ・・」ぐらいに捉えてたのよ。
・・だけどさ、こういう<庵野っぽさ>が回を追うごとにだんだんと増えてきて、しまいにはちょっと見過ごせないボリュームになってくるんだよね。
序盤こそ<物語9:庵野1>だったのに、やがて<物語5:庵野5>になって、もう最終回には<物語2:庵野8>ぐらいになってたと思う。
彼は「エヴァ」最終回でもかなり物議をかもしたと思うが、この「彼氏彼女の事情」でも相当なものである。
じゃ、ちょっとその回を見ていただきたい↓↓

・・こんな最終回、許されるのか?


なぜ、こんなトンデモない演出になったんだろう?

・半分以上が紙芝居
・キャラには色さえつけていない
・主人公より、サブキャラがメイン
・終盤のクライマックスになるはずの<学園祭>が始まる前で終幕
・最終回なのに、「つづく」でフィニッシュ

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・・これ、何なの?
打ち切りなの?
私はこれの放送当時のことは知らないけど、普通に考えればこんな最終回はほとんど放送事故レベルである。

ひょっとして納期スケジュールの問題、もしくは予算の問題で作画できないなどの状況にあったんだろうか?
確かに、このシリーズの終盤は

24話⇒総集編的な内容
25話⇒急遽、この回だけは脚本/佐藤竜雄、絵コンテ/中山勝一という既存外スタッフがリリーフ(番外編的な内容)
26話⇒上記の最終回

という不穏な流れになっており、おそらくガイナックス内部で何かが起きていたというのは間違いない。

ちなみに、庵野さんは第14話の段階でもう監督降板を申し出ていたらしい。
そういや、「ナディア」の時も後半はほとんど樋口さんが監督代行してたとも聞く。
私が思うに、

彼って、連続テレビアニメ(週ごとのノルマをこなす制作)に適性がない人なのでは?

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そういや庵野さんの「自殺未遂」って、ちょうどこの時期ぐらいのことじゃなかったっけ?
確か、90年代の終盤だったはず。
多分だが、この頃にはもう鬱病を思いっきり患ってたんじゃないのか?

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98年当時の庵野さん

実写映画とテレビアニメ掛け持ちというストレスもあり、そりゃ大変だっただろうよ。

ただ、この「彼氏彼女の事情」は原作ファンにはかなり評判悪いのかもしれないけど、一方でアニメファンにはそこそこ支持されてるんだよね。
めっちゃ面白い、と。

で、実際、結構面白いんですよ。


その面白さは原作に地力があることが大きいにせよ、その一方で「だんだん壊れていく庵野秀明のライブ記録」という意味合いの面白さもあるわけさ。
私はこれ、当時リアルタイムでは見てなかったけど、もしもリアタイで見てたら、間違いなく毎週ドキドキしっぱなしだったと思うわ~。
だって、何をしでかすか分からん怖さがあるんだから(笑)。

こういうのって、あれだよな。
昔でいえば、太宰治がそうだったんですよ。
彼が執筆していた新聞連載小説って、その時代の民衆に大人気だったらしいんだけど、それって多分、読者は「太宰、このままで大丈夫なの・・?」という<太宰ライブ>として注目してたと思う。
で、実際「グッバイ」の時に彼は「グッバイ」してしまったわけで・・。

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太宰治

そして、この時期の庵野さん、明らかにちょっと「太宰」が入ってるんだよね~。
その心の闇の痕跡が、しっかりアニメの中にも刻まれている。
多分、本人的に今となっては封印したい類いの作品なのかもしれない。

でもさ、彼みたく自分と作品をシンクロさせる作家なんて世の中にたくさんいるもんじゃないし、やっぱ庵野作品はどれも面白いですよ。

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「彼氏彼女の事情」、未見の方がいらしたら、ぜひご覧になってみて下さい。

私は、これ間違いなく名作だと思うのよ。

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コメント

1

「彼氏彼女の事情」のアニメは間違いなく名作だと思います。
当時子供だった自分は毎週リアルタイムで観ていましたが、子供ながらに「アニメってこんな表現の仕方があるんだ」と思わせてくれるアイディアが詰め込まれていました!

恐らく作画の節約も兼ねての苦しい事情から生まれたものなのでしょうが、キャラの切り絵を棒にくっつけて物理的に動かしパラパラ漫画や人形劇のような体で見せる、などはほぼ実写なのにちゃんとアニメだと認識できて、すごく画期的な絵面だと感じたのを今でもよく覚えています。

アニメでハマり原作コミックも買いましたが、アニメでとても面白く表現されていたシーンがコミックだとごく普通の何でもない1シーンだと知った時には驚きでした…

最終回のサブキャラの話で急に終わる唐突な終わり方だけは「え?」って思ってしまいましたけどw

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体は剣で出来ている 血潮は鉄で心は硝子 幾たびの戦場を越えて不敗 ただ一度の敗走もなく ただ一度の勝利もなし 担い手はここに独り 剣の丘で鉄を鍛つ ならば我が生涯に意味は不要ず この体は無限の剣で出来ていた
「彼氏彼女の事情」は、庵野秀明の黒歴史なのか?|yoh
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