美智子さまは「歴史書にない表現」と…

先后陛下は平成末期の一時期、ニュースによく登場していた「生前退位」という表現について、歴史書で接したことがなかったためか、違和感を覚えたことを明かされている。

「新聞の一面に『生前退位』という大きな活字を見た時の衝撃は大きなものでした。それまで私は、歴史の書物の中でもこうした表現に接したことが一度もなかったので、一瞬驚きと共に痛みを覚えたのかもしれません」――平成28(2016)年10月20日、お誕生日に際せられて。

その先后陛下に対して、日本史の書物には見えず、しかも中国の故事からすれば避けられて然るべき称号が贈られた。あえて言葉を選ばずにいえば、これは先后陛下に国家ぐるみで嫌がらせをしたようなものだ。

おそらくは、わざとではなく不見識ゆえの結果であろうが、いずれにせよこの称号は、皇室の長い歴史上でも最悪級の汚点だと評するほかない。漢学者・早川太基氏(神戸大学大学院人文学研究科講師)も、次のように怒りをあらわにしている。

「伝統ある国家は、先例の積み重ねによって正統性を継承し、安定性を確保し、霊性と権威とを増すわけであり、それは本朝では『和漢の故実』を踏まえることにあたります。『上皇后』は本朝に例はなく、漢土の例は極めて不祥であり、このような称号の選択は、不学の徒による許しがたい犯罪的行為です」

「名の乱れは国家の乱れ」

令和の皇室用語に問題があるとすれば、もちろん主に非難されるべきは有識者会議であるし、また最終的責任は当時の安倍内閣のみならず、譲位特例法に賛成したほぼ全員の国会議員たちにこそある。

しかし、皇室関係の実務に携わる役所として、特例法の文言について宮内庁が意見を一切求められなかったとは考えがたい。宮内庁の高官たちは平成末期、譲位後のさまざまな名称案について何も疑問を抱かなかったのだろうか。

もしも皇室典範の改正が実現するならば、その際には皇室用語の再検討もなされて然るべきであろう。「孔子の曰く『必也正名乎(必ずや名を正さんか)』。名の乱れは、国家・社会の乱れです」(早川氏)