今の宮内庁の「ネーミングセンス」は信頼できない
信子妃殿下の場合は、もしかすると複雑な親子関係という特殊事情ゆえに、三笠宮家から追い出されたという印象を和らげようとしたのかもしれない。しかし申し訳ないけれども筆者は、そのような配慮によるものだと素直に捉えられるほど、今の宮内庁を信頼することができない。
それというのも、平成から令和への御代替わりに際して創造された、新しい皇室用語の数々について、今もなお強い不満を抱いているからである。
具体例としては、宮内庁の内部部局として存在する、上皇ご夫妻をお支えするための「上皇職」や、皇嗣となられた秋篠宮ご一家をお支えするための「皇嗣職」などの補助機関が挙げられる。
これらの用語のいったい何が問題なのか。たとえば、平成以前に皇太子をお支えしてきた機関の名称は、「東宮職」であって「皇太子職」ではなかった。まずは、この表現の違いで意味にどのような差異が生じるかを考えていきたい。
軽視された「直接的言及を避ける」という作法
東宮とは言うまでもなく皇太子の別称であるが、この言葉は、古代中国において、皇太子の宮殿が皇居の東に位置していたことに由来している。
歴史的慣習として、貴人について言及する際、直接名指しするのは畏れ多いがために、そのご住居を以て呼んだのである。かつての上皇による政治を「院政」と呼ぶが、この「院」というのも、元々は上皇自身ではなくそのご居所を意味していた。
すなわち、原義的に東宮職という言葉は、皇太子にお仕えする人々というよりも、皇太子のお住まいに奉仕する人々という意味であると解せられる。大昔に置かれた「院司」や「中宮職」、比較的近年まで置かれていた「皇后宮職」や「皇太后宮職」。これらも、あくまで宮殿の奉仕者を指すものだったのである。
このような観点から考えると、上皇職や皇嗣職は、個人を明示するものであるがために、皇室用語の歴史的統一性を損ねてしまっている。政府の有識者会議で提示された中にはより好ましく感じられる案もあっただけに、今の形になってしまったことが残念でならない。
「補佐機関の名称は『東宮職』との統一性から考えて、『院宮職』としてはどうか。歴史的には、太上天皇や太皇太后、皇太后を指す言葉として『院宮』という言葉があった」
神道学者・新田均氏(皇學館大学現代日本社会学部教授)
出典=「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議最終報告・参考資料」