ゴアテックスとはもはや裸のこと
そんな性能はいらない。
少なくとも自分の用途では必要ない、ということが多々ある。象に踏まれても大丈夫なほど頑丈な筆箱があったとしても、おそらく自分の用途では象に踏まれることはない。小学校のどこに象がいるのだろうか。もし象に踏まれる場面に出会った場合は、それどころではないので、踏まれてもいい気がする。筆箱の中にあるシャーペンの安否はもはや気にならない。
そんなことはわかっているのに必要のない性能を求めてしまう。宇宙服にも使われているとか、米軍も使っているとか、そのようなオーバースペックをガラス越しのトランペットのように羨望の眼差しで見てしまう。
アウトドア用のジャケット。
ゴアテックスをカッコいいと思ってしまう、というか求めてしまう。別にゴアテックスである必要なんてないのだ。撥水すればいいし、蒸れだって脱げばいいので、そんなには気にならない。でもゴアテックスがいい。
ゴアテックスとは、アメリカの会社が製造する防水透湿性素材のこと。防水性と透湿性がある素材で、多くのアウトドアメーカーがこの素材を使ったジャケットを販売している。特徴の一つは高いことだ。値段がとても高いのだ。
近年は、ゴアテックスのような特徴を持った素材を使ったジャケットも増えている。各アウトドアメーカーが独自に開発したゴアテックスのような素材があるのだ。モンベルならば「ドライテック」、コロンビアなら「オムニテック」、ノースフェイスの「ハイベント」など。十分に魅力的できちんと高い。
ただ古い人間なのだろう。
ゴアテックスへの憧れを断ち切れない。モンベルの「ドライテック」も、コロンビアの「オムニテック」も、素晴らしい。なぜならその両方を持っているから。ゴアテックスと遜色ないというか、たぶんそれ以上にいいのではないか、とも思う。
もはやゴアテックスという響きが好きなだけなのだ。ゴアテックスだからよかった、なんてことは私の生活の中ではない。「ドライテック」でいいし、「オムニテック」いい。というか、撥水加工されただけのジャケットでなんら問題ない。
高い金を出してゴアテックスを買う意味がもはや憧れだけしかない。
そこで探した。
ネットで安いゴアテックスのジャケットを探した。ゴアテックスは高い。平気で2万円とかする。安くて1万円台。すでに持っているので、さらにゴアテックスのものを買う必要なんてないのだけれど、厳しい環境で使えるゴアテックスを、高いという理由で大切に使ってしまい、厳しい環境に持っていくのを躊躇してしまうので、安いゴアテックスが欲しかった。
見つけた。
8000円だった。ゴアテックスのジャケットが8000円。逆にそうなるとこれ本当にゴアテックスか? となる。メーカーは聞いたことがないものだった。ただゴアテックスを使ったとだけは書いてある。お馴染みのゴアテックスのタグもついている。ただ8000円。これ本当にゴアテックスか? という疑惑だけがずっと私の中に、あの日の淡い思い出のように引っかかる。
その商品のレビューを見たのだけれど、性能はいい気がするけれど、本当にゴアテックスか? と疑問には思っていると書いてあった。誰もが同じことを思うのだ。これが8000円ではなくて、2万円だとすれば、ゴアテックスだと思って着ることができるのだけれど、8000円だと本当にゴアテックスだとしても、ゴアテックスだと思えないのだ。
我々はゴアテックスを着ているわけではないのだ。
2万円という金額をゴアテックスと呼び着ているということだ。あるいはブランドかもしれない。モンベルとか、ノースフェイスとかと書いてあれば、8000円でもゴアテックスと思えるけれど(本物ならば)、ノーブランドの8000円はゴアテックスでも、もはやゴアテックスを着ているとは思えない。
つまり着ているけれど、裸と一緒だ。
いま私はこれを書きながら裸だ。偶然にも裸だ。なぜ裸なのかはわからないけれど、裸の方が筆の進みがいいことだってある。もしいま誰かがピンポーンと鳴らせば、私は裸で玄関を開けることになる。警察を呼ばれるかもしれない。
しかし、私は言う。
「違うんです、8000円のゴアテックスを着ているんです」と。8000円のゴアテックスはもはやゴアテックスとは思えず着ていないと一緒、つまり裸と同じわけなので、裸ということは8000円のゴアテックスを着ている状態とも定義できる。つまり私は裸ではない。裸ではないのだ。裸に見えるかもしれないけれど、8000円のゴアテックスを着ているのだ。
問題は私が言っている8000円のゴアテックスはジャケットだけであり、パンツは含まれない。私が下半身も何も履いていない裸の状態については、警察にうまく説明できない。4サイズくらい大きい8000円のゴアテックスを買えば、下半身も隠せるかもしれない。
ただ4サイズほど大きい8000円のゴアテックスを買ったところで、その値段ではゴアテックスと思えないので、結局は着ていないのと一緒。裸だ。どしても裸は回避できない。本当のゴアテックスとは裸のことなのではないだろうか。いまそんな気がしてきた。人類は生まれながらにしてゴアテックスを着ているのだ。
つまり裸とは最上のアウトドアなのだ。学べた気がする、何かを。



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