第10話:それぞれの矜持
まずは奴隷部門の
「く、来るな! おい奴隷共、儂を助け――」
ヌポン。
次に密輸部門の長チャノハ。
「お、お願い、なんでもするから見逃して――」
ヌポポン。
それから麻薬部門の長ボンボール。
「この殺人鬼め……っ。人の命をなんだと
ヌポポポン。
小ボス三人と付属の下っ端たちを次々に虚空界へ送って行く。
そして現在、ボクとアクアは
「ふふっ、今日は大漁だね!」
「はいっ、見事な
これで後は、『暗殺部門』だけだ。
懐から調査レポートを取り出し、該当のページに目を走らせる。
・暗殺部門は十人からなる少数精鋭で、
・ドランは皇帝とも繋がっており、他国の要人を暗殺するなど、帝国の汚れ仕事を任されている。
・ドランは
「暗殺部門の拠点は……不明、か」
「も、申し訳ございません……っ」
アクアはバッと頭を下げた。
「暗殺部門は
なるほど、原作と同じだね。
「大丈夫。そうだろうと思って、『策』を練って来たんだ」
「さ、さすがはボイド様! 全てお見通しだったんですね!?」
アクアは目を輝かせ、尊敬の籠った視線をこちらへ向ける。
「ふふっ、まぁね」
ボクには『原作知識』って『チート』があるから、暗殺部門とドランのことも、当然のように知っている。
(暗殺部門の
自分たちの居場所が敵対組織にバレぬよう、月に一回という異常な頻度で、別の場所に移動している。
奴の拠点は帝都内にある100の候補地から、『
(100の候補地を一つ一つ潰すのは、さすがにちょっと手間だ)
それはあまりスマートなやり方じゃないし、こちらの動きに気付かれた場合、ちょっと面倒なことになる。
どうせドランのことだから、『ボイドが迫っている』と知れば、すぐに身を隠すことだろう。
(現状、『虚の統治者ボイド』でいる限り、暗殺部門に辿り着くことは難しい……)
であれば、どうするか?
答えは簡単だ。
(『ハイゼンベルク公爵』として活動し、
幸いにも原作ホロウとウロボロスは、『面白い縁』で繋がっており、こちらには『最高の餌』がある。
この状況、
「ボイド様ボイド様! いったいどんな凄い策を御用意なさっているんですか!?」
アクアは興味津々と言った様子だ。
こういう無邪気なところは、昔からまったく変わっていない、本当に可愛らしいと思う。
「ふふっ、今にわかるよ」
ボクは<虚空渡り>を使い、ボイドタウンから『とある家族』を呼び出した。
「……えっ……?」
「やぁ、久しぶりだね――ティアラ?」
ティアラ・ミネーロ、18歳。
身長150センチ、桃色のツインテール、見るからに気の強そうな目が特徴的だ。
背が低いうえに線も細いため、子どものようにも見えるけど……胸はしっかりとあり、魅力的な体付きをしている。
白のワンピースに黒の羽織を
ティアラはウロボロスを通じて、『ホロウ抹殺』の
当然それは失敗に終わり、今ボイドタウンで労働に
「ぼ、ぼぼぼ、ボイド様!?(隣はおそらく、
ティアラはその場で膝を突き、泡を食いながら臣下の礼を取った。
(ここは……帝国の路地裏? いやそれよりも、どうして表の世界に呼び出されたの!? もしかしてあたし、何か失態を……っ。い、嫌だ嫌だ嫌だ……もうあんな思いをするのは、『首ポッキー』だけは嫌だ……ッ)
彼女は両手を首の後ろに回し、小動物みたくカタカタカタと震え出した。
もしかしたらこの前の『首ポッキー事件』が、
(まぁ、アレは痛ましい出来事だったからね……)
あのときのことは、今でもはっきりと覚えている。
今から一か月ほど前のこと――<
【くくっ、まるで子どもの
黒い
【だ、黙れェ゛!】
彼女は怒声をあげ、大振りの一撃を放った。
ボクはそこへ軽い手刀をトンっと合わせ、
【あ゛ぅッ!?】
ティアラの意識を正確に刈り取った――つもりが、首をポッキーしてしまったのだ。
(そう言えば……そろそろ『手刀の練習』もしなきゃだね)
そんなことを考えながら、努めて優しく声を掛ける。
「ティアラ、もっと楽にしていいよ。何も取って食おうというわけじゃないからさ」
「は、はぃ……っ」
口ではそういうものの……膝を突いたまま、姿勢を崩そうとしない。
どうやらボクは、とても怖がられてしまっているようだ。
「確かキミって、ウロボロスの一員だったよね?」
「恐れながら、暗殺部門の幹部でした」
「へぇ、凄いじゃん」
「恐縮です」
「……ボイド様、どうして私は呼び出されたのでしょう? もしや、何か失態を……?」
「違う違う。そういうのじゃないから安心してよ」
「そう、ですか(よ、よかったぁ……っ)」
ティアラはホッと
緊張が解けたようで何よりだね。
「実は今、帝国を『侵略』……じゃなかった、『観光』しててさ」
「さ、左様でございますか(帝国を支配なさるおつもりだ……っ)」
「うちの馬カスが――ってアレのことは知らないか。まぁいろいろと込み入った事情があってね。大急ぎで『帝都競馬場』を押さえる必要があるんだ」
「帝都競馬場であれば、ウロボロスの賭博部門が仕切っていますね」
「そう。だから、今さっき潰して来たんだ。ついでに奴隷部門と密輸部門と麻薬部門もね」
ボクはそう言いながら、<虚空渡り>を展開し――新たに家族となった小ボス四人の顔、それらを一瞬だけチラリと見せてあげた。
「なる、ほど……っ(やはりボイド様は化物だ。まさかこんな軽い気持ちで、ウロボロスの80%が潰されるなんて……ッ)」
「残すは暗殺部門だけなんだけど、奴等の拠点がわからなくてね」
「ドランは臆病な男ですので、無理からぬ話かと」
「うん、そこでティアラの力を借りたいんだ」
ボクの言葉を受け、彼女は首を横へ振る。
「……恐れながら、あたしは任務に失敗したため、ウロボロスから除籍されております。もはや連絡係としての価値もありません」
「いや、頼みたいのは
「と、申しますと……?」
「キミにはこれから『餌』になってもらう」
「餌……?」
「そっ、ドランを釣るための『
「……っ」
ティアラは口を一文字に結び、複雑な表情で
この反応……自分が餌となって、かつての仲間を呼び寄せることに対し、忌避感を覚えているのだろう。
(そう言えば彼女って、『仕事に誇りを持つタイプ』だったね)
確か前に尋問しようとしたときも、
【煮るなり焼くなり、好きにしなよ。死んでも口は割らない。これでも暗殺者としての誇りがある】
とかなんとか、言っていたような気がする。
(まぁ結局、即効性の催眠薬『とろみちゃん』を使って、洗いざらい吐かせたんだけど……)
ティアラが高い職業
「なるほど……元同僚を売りたくないというその心、とても立派なモノだと思う。ボクはティアラの意思を――『暗殺者の
「あ、ありがとうございます!」
ティアラが深々と頭を下げ、感謝の言葉を述べる中、
「……ボイド様、本当によろしいのですか?」
静かに成り行きを見守っていたアクアが、不安そうに問い掛けてきた。
「うん、これでいい。やりたくもないことを無理にさせたって、それは絶対『イイ仕事』にならないからね。モチベーションっていうのは、とても大切なパラメーターなんだ」
「な、なるほど……勉強になりますっ!」
彼女が納得したところで、パンと両手を打ち鳴らす。
「さて、それじゃボクも、『極悪貴族の矜持』を見せようかな」
「……えっ……?」
ここで素直に引いては、ホロウ・フォン・ハイゼンベルクの名が泣いてしまう。
原作のキャラ設定を守るためにも、
「とりあえず、ティアラの心をへし折ろう。まずは三日間、『仲良しの家』に――」
「――え、『餌』になりますっ! 『
彼女はすぐに
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