「あぅ……あんまり来たくは無かったのですが……」
阿慈谷ヒフミに連れられ来たのは正義実現委員会の教室、つまりトリニティの武力組織の中心部……という事だ
阿慈谷ヒフミが扉を開き、挨拶をした。
「失礼します……どなたかいらっしゃいますか?」
そうひっそりと彼女が聞くと、ある一人の生徒が現れた。
ピンク髪で才羽姉妹よりも少しだけ背丈が高い生徒だ、頭に黒い帽子と羽が生えている。
「あっ、こ、こんにちは!え、えっと……」
「……何?」
「そ、その……」
ピンク髪の生徒は阿慈谷ヒフミの事を睨み続け、まるで「帰れ」と言っているかのような対応をしている。
「あう……わ、私何かしてしまったんでしょうか……」
''ただちょっと人見知りなんだと思うよ''
「だ、誰が人見知りよ!?ただ単純に知らない相手だから警戒してるだけなんだけど!?」
先生のフォローにツッコミを入れるピンク髪の生徒は顔を赤くしながら騒ぐ。
「……そ、それで正義実現委員会に何の用?」
「えっと、良くない事をした方がここに閉じ込められてるって聞いて……」
良くない事、というのはどういう事だろうか。
やはり万引き、強盗、爆破テロ、もしかしたら……
「こんにちは、もしかして私の事をお探しでしたか?」
…………OK、これを忘れてた。
公然わいせつ罪。
水着姿の無駄に胸がデカい人間が正義実現委員会の中心部にいる、それだけだ。
「え、は、何で!?あんたどうやって牢屋から出てきたの!?ちゃんと鍵閉めたのに!」
正義実現委員会の生徒があたふたと喚くのを「うふふ」と笑いながらこちらに近づいてく……来る……
「開いてましたよ?私の事を話されているような声が聞こえたのでこちらに来てみましたが……なるほど、もしかして補習授業の?」
「待って!その格好で出歩かないでよ!ちょっと!」
━━━浦和ハナコ・二年生
痴女、変態、公然わいせつ罪の具現者、賢者タイムを知らない者。
水着姿で学園内を徘徊し正義実現委員会に捕らえられる。
「大人の方……という事は先生ですね、こんにちは♡」
''こ、こんにちは……''
いつもはニコニコと笑顔で挨拶する先生も今回限りは苦笑いをしている……
「隣にいる方は……トリニティの方では無さそうですね、先生のお連れの方ですか?」
「あ、え、はい……」
……となると勿論私にも矛先は向き、変態は私に目線を合わせるよう少し屈んでニッコリと挨拶をした。
「はじめまして、浦和ハナコです♡」
「はい……西条レイナです……」
何をどうすればいいか分からない、だがマダムは言っていた「何時、如何なる時も上品に振る舞いなさい」と。
私は「この世にこんな人類がいるのか」と、ショックを受けながらもこれまで以上に丁寧にお辞儀し、カーテシーをした。
( ''ドン引きしながらカーテシー、プロだなぁ……'' )
「レイナさんも中々奇抜な格好をされていますね、もしかして……」
一歩近づかれる。
「違う、決して違う、やめて、同類にしないで」
二歩下がる。
「あら、そうでしたか……残念です」
「…………」
「と、とにかく早く戻って!もうすぐ先輩達が来ちゃうから!」
「でもこの方は私に━━━「うるさいッ!公共破廉恥罪ッ!早く戻れ!」
正義実現委員会に手錠をかけられ、微笑みつつも連れていかれる浦和ハナコ。
「すみません、また後ほどお会いしましょう♡」
嫌だ!!!!私あんなのに勉強教えないといけないなんて絶対やだ!!!!
場は一気に凍りつき、お通夜ムードが漂っていた。
「レイナさん、大丈夫ですか?」
「素数を数えて落ち着くわね、4」
「4は偶数ですよ」
「12」
''ダメみたいだね……''
何を失礼な、私はこうやって素数を数えて落ち着こうとしているではないか。
「はあ、はあ……」
息を切らしながらも正義実現委員会の生徒が走って戻ってきた。
名簿を確認しながら、阿慈谷ヒフミはその名を呼んだ。
「え、えっと、もう一人は……白洲アズサさんですね」
その時、複数人の人間が教室にゾロゾロと入ってきた。
「ただいま戻りました」
「任務完了です!現行犯で白洲アズサさんを確保しました!」
正義実現委員会の制服を着た生徒が二人、そして一人のガスマスクを着けた生徒が入ってくる。
…………ん?
「……は、はいいっ!?」
阿慈谷ヒフミの驚く声が教室に響いた。
「……惜しかった、弾丸さえ足りてればもう少し道連れに出来たのに」
(そうそう、こういうのでいいんだよこういうので………………はあ)
ため息。
━━━白洲アズサ・二年生。
テロリスト、ゲリラ戦の専門家、ブービートラップの覇者。
暴力行為の疑いで正義実現委員会から追われていたところ催涙弾の弾薬倉庫を占拠。
約一トンの催涙弾を爆破、三時間に渡る抵抗の末逮捕。
━━━━━
「…………なるほど、先生が補習授業の担任に……」
正義実現委員会の胸が大きい生徒が先生に説明をされ納得した表情をした。
''あの二人、連れて行ってもいいかな?''
「はぁ!?絶対ダメ!凶悪犯なのよ!?」
「コハル、先生はティーパーティーから依頼を受けてこちらにいらっしゃってるのです、規定上は何の問題もありません、補習授業部の顧問になるのですから」
「えぇ……まあでも、先輩がそう言うなら……」
と、苦々しい表情をしつつ納得する小さい方の正義実現委員会は腕を組んで高らかに豪語した。
「ふん、でも良いザマよ!こっちはこんな凶悪犯達と一緒にいなくで済むし、そもそも補習授業部だなんて恥ずかしい!良いんじゃない?悪党と変態の組み合わせ!そこにバカの称号なんて私なら一緒にいるだけで羞恥心で死んじゃいそう!」
「……あの、その……非常に言いにくいのですが……最後の一人は、下江コハルさんです」
「……え、私?」
━━━下江コハル・一年生
アホの子。
三回連続で赤点を叩き出し留年目前。
━━━━━
さて、これでメンバー全員が揃った訳だ、もう一度整理しよう。
・前衛的な鳥(もしくはセイウチ)が好きな少女
・痴女
・テロリスト
・人見知りのアホの子
(…………)
目を覆う。
「あの……レイナさん、大丈夫ですか?」
「阿慈谷さん、私どこで間違えたのかしら」
「そ、そこまで悲観しなくても……」
補習授業部の為に貸し出された教室で私は阿慈谷ヒフミと共に三人を待っていた。
そうだ、悲観するだろう、悲観しないはずがないだろう。
こんな問題児と共に私は何日も過ごさなければならないのだ、今すぐシャーレを辞めたい。
と、事態に絶望していた時。
ゴーン、ゴーン、二度重い鐘の音が鳴り響く。
鐘の音はトリニティ中に響き、当然私にも届いた。
「…………あの時計台、やかましいわね」
「あ、トリニティ大聖堂の時計塔ですか?」
鐘の音の正体は私達がいる校舎のすぐ隣にある時計塔。
邪魔だ。
「壊してもいい?」
「ダメですよ!?」
「ダメか」
「トリニティの文化遺産なんですからダメに決まってるじゃないですか!」
暑い風が室内に入り込む。
雲一つも無い青い空、不愉快なほど煌めく太陽。
(…………一波乱の予感)
夏が始まった。
━━━西条レイナ・二年生
シャーレの生徒。
先生と共に補習授業部に勉強を教えに来た、それだけの生徒。
レイナに何を食べさせる?
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甘酒
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闇鍋
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オレンジジャムのっけたトースト
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パンちゃん