○月✕日(△)
風邪を引いた。
最近寒暖差が激しい所にいたせいだろう、頭が痛いし鼻水も出ている。
それはそれとして、何だか最近シャーレ所属である事が日常になりつつある気がする。
そろそろ研究所に戻りたいなあ、でも黒服は許さないだろうし。
あのメイドはムカつくし風邪は引くしマダムに呼ばれる頃だし……嫌な事尽くしだ。
私の心境に変化無し。
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ある地点。
「黒服」
「おや、マダム……」
ネクタイをキチンと締めたその大人は赤色の目をした上品な女性と見合っていた。
「レイナは今何処に?」
「レイナなら今、シャーレに潜入してもらっていますが……彼女に用ですか?」
「そろそろ例の時期です、レイナを借りても?」
「もう少し調査を……ああ、それなら━━━」
ある写真を一枚、渡す。
「シャーレの先生は恐らく、エデン条約に介入して来るでしょう」
写真には、一枚の手紙だけが写っていた。
「シャーレの先生……あの連邦生徒会長が遺した最後の切り札の事ですか?」
「はい、彼はいつか我々の仲間になりうる存在……共に競え合える存在になるはずです」
「そして……これは予想ですが━━━」
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「ちっ、まだ痛ぇ……」
「リーダー、珍しく苦戦してたよね〜」
ラーメンを食べ終わった後、C&Cのネルはレイナに撃たれた腹を撫でながら彼女との戦いの事を思い出していた。
「……なーんかアイツ、引っかかるんだよな」
「レイナさん、ですか?」
「ああ、最初は変な奴だと思ったんだけど……戦ってるうちに、殺意っつーか……
「銃口向けられた時、思わず鳥肌が立ったし……風邪引いてくしゃみをしてた時は全然そんな雰囲気出てなかったけどよ」
「でもアリスちゃん達はリーダーを怖がってたよねー」
「るせぇ!」
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腰が悲鳴をあげそうになったが何とかシャーレまでレイナを運ぶ事に成功し彼女を部屋のベッドにて寝かしつける。
''レイナ''
「……なに」
布団に潜り込んだ彼女は私の事を睨みつけている。
''今日はお疲れ様''
額をまた触り、彼女の熱を測ると……
''まだ熱っぽいね''
「軽々しく触らないで」
''あ、ごめん''
と、弱々しい手で手を払い除けられる。
「先生」
''ん?''
「一つ聞きたい事がある」
「私をどうしてシャーレに入れさせたの?」
熱で真っ赤な顔をしたその生徒は、悩んだ顔をしながら私に聞く。
''そうだね……前にも言ったけど、寂しそうに見えたからかな''
''もしかしたらレイナは友達が欲しいんじゃないかなって思って、違うかな?''
そう言うと彼女は私の事を睨みつけた。
「…………もう良い」
''……''
そのまま横になって彼女はこう言った。
「先生、貴方人を見る目が無いってよく言われないかしら」
''私はレイナをシャーレに入れて良かったと心から思っているよ''
「……もういいわ、今日は眠る」
''お大事に、レイナ''
「…………」
レイナの事を撫でると━━━━レイナは初めてそれを拒否しなかった。
(………………撫でられる事すら、日常になるのかな)
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数日後。
私のスマホの元に、ある一通のメッセージが届いた。
『レイナ!』
『先生にモモトークの連絡先を教えてもらいました!』
『風邪は大丈夫ですか?熱は下がりましたか?』
『天童さんね』
『熱は下がったし咳もしなくなった、ありがとう』
『そうですか!良かったです!』
『それより、昨日のミレニアムプライスは見ましたか!?』
『ミレニアムプライス……貴方達が応募してた大会?だったかしら』
『はい!そのミレニアムプライスでアリス達の作品が受賞したんです!』
『おめでとう、苦労が功を奏したわね』
『レイナも先生のボディガード、ありがとうございます!』
『ふふ、お疲れ様』
携帯を閉じてため息を吐いた。
暗闇の中、私はシャーレの先生から渡された『自分の部屋』を見渡す。
先生に渡された『自分の部屋』は少しだけ狭かった。
ただ、私自身広い部屋が好きという訳でも無かった為特に文句は言っていない。
私には机と椅子とベッドさえあれば良いのだ。
でも本棚があるともっと良い、読書は私唯一の趣味だ。
机の上にあるペンとノートを戸棚にしまうと━━━
「……ん」
ピロロ、ピロロ、と電話が鳴る。
電話の着信ボタンを押して……丁寧な口調で言った。
「もしもし」
『……レイナ』
「マダム?」
その声は聞き慣れた人物だった。
マダム━━━ベアトリーチェ。
アリウス分校の生徒会長、ゲマトリアのメンバー。
冷酷で冷徹で、計算高い大人だ。
『以前、貴方に私の手伝いをして欲しいと言いましたよね?』
「……そうね、いつアリウスに行けばいい?」
そう見据えたような事を言うとマダムは一言否定した。
『いいえ、こちらに来る必要はありません……貴方に頼みたいのは一つ』
『シャーレの先生の動向を私に伝えなさい、それだけです』
その言葉を聞いて私は少しだけ沈黙……思考に脳のリソースを回した。
何故?先生とマダムは面識が無いはずだ、ではどうやって……
まあ、とりあえず置いておこう。
「……アリウススクワッドと一緒に調印式を襲うって話は?」
『それについても必要ありません、マエストロから協力して頂けるので……ああ、それならマエストロの警護を頼んでも?』
「それは良いけど貴方と先生で面識があったかしら?」
『黒服からの提案です』
その言葉を聞いて私は全てを理解した。
「なるほど、了解」
簡潔に、丁寧にそう言うとマダムはかつてのように……こう言ったのだ。
『レイナ』
『期待していますからね?』
ツー、ツー、ツー。
レイナに何を食べさせる?
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甘酒
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闇鍋
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オレンジジャムのっけたトースト
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パンちゃん