唐突とは思わなかっただろうか?
私もこうすんなり事が上手くいくとは思わなかった、まさかこんなに早く、しかも相手側にそれを提案されるとは思わなかったし。
しかしこの際そちらの方が都合が良い。
私がやるべき事は二つ。
シャーレの先生を監視し、どういう行動をするか見届ける。
連れ去られたAL ー1Sの行方を探る。
……まあ、聞こえはいいが黒服が先生の動向を詳しく探りたいだけだろう。
それについてはまあ、いい。
問題は、あいつの声だ。
落ち着いててなんだか聞いていると洗いざらい何もかも話したくなるような声。
不愉快だ。
(…………やっぱり、こういう仕事は嫌いね)
蝋燭の火が消える。
━━━━━
「お疲れ様です、先生」
''アロナもお疲れ様''
シッテムの箱の空間に入るとアロナが笑顔で出迎えてくれた。
しかしアロナは笑顔から一変、不安げそうな顔になる。
「そういえば先生……本当に大丈夫なんですか?」
''レイナの事?''
「はい、レイナさんは……その、明らかに何か裏があるかと……」
''やっぱりそうだよね〜、私も何か企んでると思う''
あまりにも呑み込みが早い、まるで計画していたような、予定調和のような速さだった。
''ハッキリ言って、あの子は私の事を1ミリも信じてないと思う……いや、多分自分以外の人間を信じてないんだ''
何度も彼女の目を見て理解した。
虚ろで、目に光が無い……そんな目を私に向けていた。
少なくとも人を信じる目ではないのは確かだ。
「それは……」
''理由はまだ分からないよ、でもね……他人を信じるってのはとても大切な事だから、彼女には人を信じて欲しい''
''それを導くのが、私の役目なんじゃないかな''
''少し強引な手を使ったけどね''
━━━━━
先に言っておく、私は先生の事を1ミリも信じてなんかいない。
それどころか私は自分と自分の銃、そしてゲマトリアにいる大人達以外信じてなんかいないのだ。
他人は蹴落とすもの。
そう、それだけだ。
それを糧に、私は生きてきた。
他者を蹴落とし、騙し、撃ち落とし。
(今更やり直す?……馬鹿な事を言わないで)
(それこそ、私の生き方の否定じゃない)
そんな事を考えながら、私は慣れないベッドに潜る。
━━━━━
「…………眠い……」
次の日。
昨日、あれほどうるさかった雷や雨風はもはや綺麗さっぱり消えており、晴天が空を支配していた。
そして私は目覚めると先生に「今日は少し用事があるからシャーレの留守番をお願いしてもいいかな?」なんて言われて一人、ただやる事もないのにその場で肘をついていた。
「たいくつ」
そもそも私はまだシャーレに正式に所属していない。
入部届は連邦生徒会にまだ受理されていないし、そもそも書いてすらいない。
だがこれはチャンスだ。
今の内に先生の部屋や秘密の金庫をこじ開けて情報を探ろう。
そうと決まれば━━━━━
コンコン。
廊下のドアから誰かがこのオフィスの扉をノックする。
『先生、いる?』
(げ、知り合いか)
廊下からハスキーボイスが聞こえる。
間違いない、先生の知り合いだろう。
居留守を使う━━━と、後で先生に何か言われそうだ。
だからと言って初対面の人と、ましてや友達の友達のような関係(先生と私は決して友人ではないが)の人と二人きりだなんて、冗談じゃない。
『ん、鍵がかかってる……』
どうしようかと考えていた時、鍵穴から何かガチャガチャと音が聞こえ……
ガチャン。
『入るよ、先生』
ちょっと待て、まさかピッキングして鍵を開けたのか?
というか鍵がかかってるのに勝手に入っていいのか、本当に先生の知り合いなのか、泥棒なんじゃないのか?
ガチャ。
『お邪魔します』
(嘘でしょ???????)
そう困惑する暇もなく、無惨にも扉が開かれる。
部屋に入った彼女はまず私を見ると……目を丸くする。
「……先生は何処?」
「……ミレニアムの用事があるって」
「貴方はどうしてここにいるの?」
「留守番をしてくれって……」
「ん、そうだったんだ……」
一瞬しょんぼりとその大きな狼耳を垂らしながら下を向くも、すぐにシャキッと戻り私の方を向く。
「えっと、先生は多分夕方まで帰ってこないから……」
「そうなんだ」
「…………あの、だから……」
「ん、隣座ってもいい?」
「いや、だから先生は暫く帰ってこないの!」
「今は貴方に興味が湧いてる」
「なんで????」
なんて強引な人だ、というか私に目を輝かせているぞ。
「名前なんて言うの?」
「……西条レイナ、貴方は?」
「砂狼シロコ、よろしく」
……砂狼シロコ、か。
聞いた事はある、黒服がアビドスで実験の準備をしていた時、実験対象の生徒として名前が挙がっていた。
「レイナはどうしてここに?」
「昨日、大雨が降って雨宿りしにここに来たら止む気配が無くて仕方ないから泊まったの」
と愛想笑いに近い微笑みを見せると彼女は心配そうな表情を見せる。
「………………頭の匂いとか嗅がれなかった?」
「お姫様抱っこされた、近いうちに連邦生徒会にクレームを入れようと思う」
「ゲヘナの風紀委員会の子は足を舐められたらしいよ」
「うわあ、やっぱりケダモノね、あの大人は」
「レイナも気をつけた方がいい、そのうち骨までしゃぶられる」
「肝に銘じておくわ」
と、くすくすと先生を揶揄うような話をしていると……
「……あ、そういえばそろそろ学校に戻らないと」
「へえ、どこの学校にいるの?」
「アビドス、知ってる?」
「知ってる、砂漠地帯の学校……だったかしら」
「ん、そうそう」
「……大変そうね」
「結構楽しい、レイナも来てくれたら歓迎するよ」
そうニコリと嘘偽りの無い微笑みを見せる彼女に私は少しだけ疎外感を感じた。
そんな笑顔、私には
「……いいや、私は遠慮しておくわ、紫外線には出来るだけ当たりたくないの」
「そっか、それじゃあまた」
「さようなら」
……彼女が去ったのを確認した時、私はため息を吐きながら鍵をまた閉めた。
「……黒服、私に何をさせたいの?」
━━━━━
''ただいま''
私がシャーレのオフィスに戻ると明らかに不機嫌そうな表情とオーラが出ているレイナが椅子に座っていた。
「先生、まず一つ、私がここで留守番する必要はあった?」
''いやあ……何処かに行くと行き先分かんないから……''
「束縛してるつもり?」
''違うよ!''
いや違う、決して違う、ただ彼女と連絡先を交換するという発想が朝に出てこず留守番を頼むという発想に至った私が全面的に悪いがそれだけは違う。
「そう、それならいいけど」
しかし彼女の不機嫌そうな顔は変わらず、私は慌てつつもある一枚の紙を見せた。
''これを持ってこようと思って''
「……シャーレの入部届け」
そう、ミレニアムから帰る時ついでにリンちゃんからこれを貰ったのだ。
リンちゃんからは「やっと仕事の手伝いをする必要が無くなりそうですね」とため息を吐かれながら貰ったその紙。
''当番に入るのはウチにあるんだけど、シャーレ所属になる紙は連邦生徒会にあってさ''
「今度からそういう書類はここに置いておいた方がいいわよ、面倒だし」
''そうだね、何枚か置いておくよ''
''それじゃあここの必須事項だけ書いて欲しいな''
彼女は紙を受け取るとテキパキと書いていき、あっという間に必須事項を書き終えた。
「はい」
''早いね''
渡された書類を見ているとレイナはぽつりと呟く。
「…………先生」
''ん?''
「生徒の足舐めた事あるってほんと?」
''…………………………………………''
''……はい''
「私に同じ事やったら連邦生徒会に苦情入れるから」
''…………肝に銘じておきます…………''
かくして、私はレイナと奇妙な共同生活が始まった。
私自身、何故彼女をシャーレに誘おうと思ったかは自分でも分からない。
しかも彼女はそれを知っていたかのように行動する。
……ただ、彼女が寂しそうだったから誘った。
理由としては不十分だろう。
Q.なんで先生はレイナをシャーレに誘ったんですか?
A.レイナの誘導でシャーレに誘おうと思わせたからです。
Q.なんでシロコはオフィスに来たんですか?
A.サイクリング中にシャーレに寄ったらオフィスの鍵がかかっているのと中から異様な空気(レイナ)がしたからです。
これでプロローグは完結です
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