人生で「承認」が得にくくなっている

そのような隘路に陥ってしまわないためには、市場とは別の領域が必要になる。しかしこれが簡単な話ではない。わたしたちが生産性という言葉にやきもきするのは、変化への適応を声高に叫ぶ国や企業が、実質的に個人にその重責を押し付けていることへの苛立ちはもちろんだが、生産性といった相対的なもの以外での承認が人生において得にくくなっているからではないのか。

とはいえ、すべてのコミュニケーションの市場化へと突き進む前代未聞の状況下において、自尊心の欠乏をインスタントに解決してくれる救世主のような存在というのは、「〈不要とされる〉という不安」から離脱したいと思う人々をカモにした巧妙な商売かもしれないのである。ブラック企業然り、自己啓発ビジネス然り……。

よい人間関係は幸せを運んでくる

精神科医のロバート・ウォールディンガーと心理学者のマーク・シュルツは、ハーバード成人発達研究以外の多様な研究成果を踏まえた上で、「よい人間関係を育むほど、人生の浮き沈みを切り抜け、幸せになれる確率も高まる」「他者との交流の頻度と質こそ、幸福の二大予測因子である」と主張している(『グッド・ライフ――幸せになるのに、遅すぎることはない』児島修訳、辰巳出版)。

ここでも強く打ち出されるのは、コントロールの可能性である。人間関係を意識的にマネジメントしていくことが推奨されている。「強い信頼の絆を築けたら、それで一安心というわけではない。なぜなら、どんなにすばらしい関係も必ず衰えるからだ。樹木が水を必要とするように、親密な関係は生き物であり、人生の季節がめぐるなかで放っておいても育つものではない。注意を向け、栄養を与える必要がある」(同前)。

とりわけ「ソーシャル・フィットネス(人間関係の健全度)」という考え方は、見事にその特徴を言語化している。人間関係も筋肉と同様、何もしなければ弱くなっていく。だから、エクササイズが必要だという趣旨である。いうまでもなく、ウォールディンガーらの知見は、昨今の孤独・孤立をめぐる社会課題の有効な処方となり得るだろう。