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抗議文

釜ヶ崎の名誉を守り、歪められた報道に抗議し、責任ある訂正・再配信を求めます

2025年8月

フランス共和国 Le Monde 社 編集部 御中

2025 年春、フランスの全国紙『Le Monde(ル・モンド)』とその雑誌、および日本での翻訳メディア『ク

ーリエ・ジャポン』(運営元:株式会社講談社)において、釜ヶ崎をテーマにした 2 本の記事が配信され

ました。

これらの記事は、釜ヶ崎地域で長年積み上げられてきた包摂と協働の取り組みを矮小化・歪曲し、また

個人名を無断で引用・掲載するなど、報道機関としての責任と倫理を著しく欠いた内容でした。

記事1では、当該地域で長年取り組んできた「西成特区構想」において、地域とともにあきらめないま

ちづくりで協働してきた関西学院大学・白波瀬達也教授が、まったく取材を受けていないにもかかわら

ず、記事では次のような「コメント」まで掲載されました。

『人生を打ち砕かれてここに辿り着いた人々を追い出し、より裕福な人たちを招き入れるため、この地

区を「高級化」しようという行政の計画。それによって「住⺠の暮らしはより厳しくなり、家賃は高くな

り、小さな商店は閉店することになるでしょう」と関⻄学院大学教授の白波瀬教授は語る。その一方で、

「地元色」を求める観光客にとって、釡ヶ崎は「貧困テーマパーク」になりつつあるのだ。』

これはコメント捏造と名誉毀損にあたる極めて重大な問題であり、記者自身がネット上の映像から独

自に解釈して書いたことを認めています。記事全体が映像資料や旧資料に依存し、現在の釜ヶ崎の実態を

無視した内容となっていることも深刻です。

記事2では、複数の地域関係者や支援団体、研究者、文化関係者の実名を挙げた上で、情報の精査がな

されないままに、釜ヶ崎をスラムや悪評の地であることを印象づけるような表現やジェントリフィケー

ションの推進という文脈で語られていることによって、地域や個人の名誉を著しく毀損するものでした。

さらに、極端にセンセーショナルで実態を歪めた表現も目立ちます。

釜ヶ崎は、確かに困難を抱える地域であり続けてきました。しかし、私たちはそれに正面から向き合い、

行政・住民・支援団体・研究者らとともに、「誰ひとり取り残さないまちづくり」を進めてきました。西

成特区構想をはじめとする複数の包摂政策は、排除ではなく共生を軸としたものであり、それらに対して

ジェントリフィケーションを推進しているまちづくりなどといった一面的な視点で切り取ることは、地

■記事1:A Osaka, un quartier misérable voué à disparaître(消されゆく日雇い労働者の街『釜ヶ崎』)

ル・モンド 2025 年 3 月 19 日付記事、記者:フィリップ・ポンス

『穏便な対処』を目指した行政の想定外 仏紙が見た『日本の貧困』─消されゆく日雇い労働者の街『釜ヶ崎』

講談社オンライン雑誌『クーリエ・ジャポン』2025 年 5 月 23 日発行、記者:フィリップ・ポンス

■記事2:大阪の無名者たちの記憶(La mémoire des sans-noms à Osaka)

2025 年 5 月 25 日、記者:ギヨム・ロアレ

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域に生きる人々の営みと尊厳を踏みにじる行為です。

現地では長年にわたり、簡易宿所を活用した住まいの支援、医療や生活相談、仕事づくりや学習支援、

まちづくり情報発信・地域啓発など、官民の垣根を超えた取り組みが続けられています。近年では若者の

孤立対策や文化芸術活動の導入、外国人宿泊者とのトラブル回避の対策強化など、まちの課題に対応しな

がら多面的な改善を積み重ねてきました。

それらの改善が当事者である地域住民から支持されながら進んでいることも併せた現地取材が不可避

であると考えます。

さらに深刻なのは、今回の誤った報道に基づいた内容が、Wikipedia(ウィキペディア)における

Kamagasaki の項目のリファレンスとして掲載され、英語をはじめとする多言語で世界中に拡散されてい

るという事実です。掲載された誤情報が世界的に既成事実化してしまうことは、釜ヶ崎だけでなく、日本

における都市貧困政策全体の理解を歪めかねません。

そこで、私たちは以下のことを、ル・モンド社ならびに記者本人に対して強く求めます。

1. 白波瀬教授のコメントを捏造したことに対する公式な説明と謝罪

2. 地域関係者・団体等への再取材による記事全体のファクトチェックの実施

3. 記事の撤回・削除。再取材に基づく新記事の掲載・配信

4. 誤った情報が拡散された媒体・SNS における訂正の周知

5. 報道機関としての編集体制および倫理ガイドラインの見直しと再発防止策の提示

釜ヶ崎は「貧困を社会問題化するために語るスラム」ではなく、「共に生き、つくり続けるまち」です。

この地域には、再起しようとする人々の努力と、支え合う仕組みが存在します。報道がその姿を歪め、尊

厳を損なうようなものであってはなりません。

私たちが報道機関に求めているのは「処罰」ではありません。「責任」です。

報道は、人々の信頼をもとに社会に影響を与える力を持っています。だからこそ、誤りがあったときに

は誠実に向き合い、修正し、再び信頼を築いていく覚悟と行動が必要です。特に報道機関として社会的責

任を担うル・モンド社には、その名にふさわしい説明責任と再発防止の姿勢が求められます。人々の声な

き声を拾うはずの報道が、当事者の声を踏みにじるものであってはなりません。

私たちは、今回の報道がもたらした影響を真摯に見つめ、再取材に基づく新記事の公開、そして持続的

な対話によって、信頼回復への道を共に切り開くことを望みます。なお、今回の記事の欠陥に気づかず、

日本語訳して不用意にネット配信した「クーリエ・ジャポン」(講談社)は、編集長が謝罪のために来阪

し、新たな記事の機会を提案しています。

報道機関の誠実さを信じているからこそ、私たちはあえて声を上げます。どうか、この声を無視せず、

共に考え、共に歩んでください。

2025 年8月

(仮称)萩之茶屋まちづくり拡大会議・西成特区構想有識者 一同

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抗議文賛同団体名 (順不同)

■(仮称)萩之茶屋まちづくり拡大会議 構成メンバー有志

○大阪国際ゲストハウス地域創出委員会

○大阪府簡易宿所生活衛生同業組合

○釜ヶ崎日雇労働組合

○釜ヶ崎反失業連絡会

○住まいとくらし SOS おおさか実行委員会

○釜ヶ崎キリスト教協友会

○釜ヶ崎芸術大学(NPO 法人ココルーム)

○釜ヶ崎のまち再生フォーラム

○社会福祉法人 釜ヶ崎ストロームの家

○認定 NPO 法人 こどもの里

○わが町にしなり子育てネット

○NPO 法人 サポ―ティブハウス連絡協議会

○NPO 法人 バリアフリーサービスつばさ

○山王訪問看護ステーション

○西成区商店会連盟

○萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社

○社会福祉法人 大阪社会医療センター

■ 記事に見られる主な問題個所

記事 問題の概要 詳細内容

記事 1

・白波瀬教授のコメントを捏

・西成特区構想の取り組みを

『排除のための高級化』と断

・釜ヶ崎の歴史を暴動・貧困

に限定

・旧資料・映像への依存

・取材を一切受けていないにもかかわらず、教授の発言が捏造され掲載された。本人

が否定し、記者も映像からの想像による創作であると認めている。

・共生と包摂を目指す地域政策を「排除の装置」と断定的に報じた。地域政策を全否定

し、都市整備の側面のみを切り取って評価しており、生活支援や包括的施策を無視。

・地域再生やまちづくりの努力に一切触れず、過去の負のイメージのみを強調。

・記事の大部分がネット上の動画と旧資料に基づき、取材も偏った対象に留まってい

る。過去のドキュメンタリー映像などを主根拠としており、現場の現状との乖離があ

る。

記事 2

・事実誤認

・釜ヶ崎に対する印象操作

(改善された事実を取り上げ

ず、いまだ過去の姿が無策

によって続いていると読者

に印象付けている。

Ex.生活環境改善、生活保

護、高齢者特別清掃事業や

まち美化パトロール等々)

・ステレオタイプの強調

〔記事文面ママ〕

・2011 年から大阪市を率いるポピュリスト政党「維新の会」は釜ヶ崎の貧困に公には触

れず、地区のジェントリフィケーションを進めている。

・新今宮駅から釜ヶ崎へ足を踏み入れると、不精ひげをたくわえた高齢の男性たちが

目につく。彼らはブツブツと独り言を言いながら歩いており、通りは低い声で満ちてい

る。体はゆっくりと、背を丸め、松葉杖をつく者や車椅子にくずおれた者もいる。これ

が釜ヶ崎の住人、ホームレスや退職した労働者たちだ。彼らは過酷な労働に体を蝕

まれ、時代から見捨てられた人々である。

・釜ヶ崎の惨めな人々の物語を聞き」

・1945 年の時点ですでにこの地域は、貧しい労働者や「悪童」たちの溜まり場とされて

いた。 など

両記事

共通

・直接取材の欠如

・英語版 Wikipedia への

誤引用

・記事の中心テーマとなる人物や団体への取材が偏り、一方的な外部視点で構成され

ている。情報源や事実確認が不十分。

・これらの記事に基づいた情報が Wikipedia 英語版等に拡散し、世界的な誤認を生ん

でいる。

○社会福祉法人 大阪自彊館

○西成市民館

○NPO 法人山王エックス

*同・拡大会議構成メンバー外有志

○わてらと釜ヶ崎