番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 24 END
その後。
生徒達をディアブロ達が乗って来た飛空船に乗せて、一路イングラシア王国へと向かう事になった。
少し名残惜しいが、サバイバル生活は終了したのだ。
ラプラスは島に残り、魔獣達とワンダーランド建設計画の打ち合わせを行っている。
要望を聞き、棲み分けを行う為に。
今後この島は、謎の飛空船の秘密基地兼、学生の修練場たる地獄の遊園地となる予定である。
護衛者付きでの一般人の入場なども、おいおい検討していく事になる。
そして――
船内にて、ディアブロ達が何をしていたのかの話を聞く事にした。
「これは何かの間違いなのですじゃ!」
と泣き叫ぶユージラスをソウエイが連行し、なんか薄汚い丸太に括り付けた。
よく見るとそれは丸太ではなく、人が魔木化したものみたいだった。
「これは?」
「ああ! 屑がNNU魔法科学究明学園に紛れ込んでおりましたので、処分したのです。御命令通り、命は奪っておりませんよ」
自信満々にディアブロが答えてくれた。
命を奪ってないのは確かだろうけど、これをどうするつもりなのか……?
「クフフフフ。尋問し終ったら、迷宮のトレントの町にて管理させようかと」
「いやあ、それはトレイニーさんが嫌がるんじゃないか?」
「そうでしょうか? では、リムル様からのプレゼントという事にしては?」
「俺が嫌だよ! 悪趣味ってレベルじゃねーぞ? 俺のセンスが疑われるわ!」
「そうですね、失礼しました。では、燃やしますか?」
「うーん、そうだね……」
漫才のようにディアブロと会話していると、丸太――じゃなくてゴルダマが、ポロポロと涙を流し始めた。
ちょっとだけ可哀相になってきたな。
だが話を聞いてみると、俺の学園計画の邪魔をしていた最有力の人物だったらしいし……素直に許す訳にはいかない。
許す理由がないのだ。
「しょうがないな。馬鹿への見せしめに晒し者にした上で、百年の樹木生活を耐え抜いたら解放でいいだろ。脳が無事なら、再起も可能だろうしさ。やっぱ、反省は大切だしね」
「流石はリムル様。慈悲に満ち溢れていますね!」
え、そうかな?
かなり厳しいような気もするけど。
激痛を味わっても死ねない、気絶出来ない、狂えない、という三拍子揃っているようだし、死ぬ方がマシかも知れないのに。
だが、この刑に百年耐え抜いたら、かなり精神が鍛えられていそうである。
その時のコイツの態度次第では、魔物の町で雇用してやってもいいかも知れない。
悪趣味だが、一つの実験にはなりそうだ。
そしてもう一人。
さっきからずっとメソメソと泣いているユージラスだが……。
魔木化させると、コイツはまず間違いなく心がもたない。
うーん、姑息な小者らしく、これと言った重大な罪を犯している訳ではないんだよね。
かと言って、学園への手出しや意味不明の身分制度推進等々、俺に対する明確なる敵対行動は取ってしまっている。
「コイツ、どうする?」
「殺しますか?」
即座に反応したのはソウエイだ。
え、いいの? みたいな感じに、ディアブロが驚いてソウエイを見ているのが面白い。
そう言えば、待てよ? 身分制度で思い出した。
「そうだ! こいつは身分にこだわりがあるみたいだし、身分を剥奪して犯罪奴隷にしよう」
「なるほど、迷宮で掃除でもさせますか」
「クフフフフ。腕輪を付ければ、死ぬ心配はないですしね」
中々にエグイ罰になりそうだ。
腕輪のお陰で、何度死んでも生き返るしな。
迷宮の掃除とは、結構命懸けなのである。
ある程度は魔物が処理しているのだが、人の手が必要な箇所もあるのだ。
そうした場所には定期的にトレイニーさん達迷宮管理者が出向くのだが、雑用をさせる者も必要となる。
当然、危険も大きい。
魔物に何度も殺される可能性があるので、犯罪奴隷の仕事となっていたのだ。
魔物の町で一番嫌われている仕事なのである。
しかしこんな会話は、生徒達の前ではとても出来ないな。
悪影響がありすぎるなんてものじゃないし。
そんな事を内心で思いつつ、ゴルダマとユージラスへの罰を決めたのだった。
続いて、マグナスにロザリー、そしてイリナの処分についてだ。
イリナは俺の顔を見るなり、
「クッ、殺しなさい!」
と叫んだ。
おお! これが世に言うクッコロさんか!
「クフフフフ。では、遠慮なく!」
とディアブロが動こうとするのを、俺は慌てて止めた。
クッコロさんは殺してはいけない。
それがお約束である。
「あのさあ、お前が俺を恨んでいるのは理解した。でもな、それって逆恨みなんだよ。戦争になって、攻められても無抵抗ってのはさ、統治者が絶対に許してはならない事なんだよ。住民の安全と財産を守らずして、国は成り立たないんだ。住民が無抵抗主義を唱えるのは自由だが、統治者がそんな馬鹿な事を言い出したら、その国自体が滅ぶんだよ。それは理解出来るだろ?」
「ええ……。私が間違っているのは理解している。でも! 私は貴方を恨むしか――」
まあ、恨まずにはやってられない、といった所か。
本当に恨みが晴らせるとも思っておらず、最悪、俺の手にかかって死ぬのも本望、とでも思っていたのだろう。
面倒臭いヤツだ。
「ところで、お前の言う同郷の者って誰だよ? 帝国との戦争では、可能な限り生き返らせたんだけど?」
俺の問いに対する三者の反応は、目を見開いて驚愕、というレベルではなかった。
どうやら、初耳だったようだ。
「おいおい。生き返った兵士達から話を聞かなかったのか?」
「い、いや。聞いてはいたが、信じられなかったのだ。戦争の極限状態で、集団催眠にでもかかったのか、と……」
「そうです。信じられるハズがありません……」
マグナスとロザリーは、信じられないと言いたげに頭を振る。
うーん、それもそうかもな。
でも、本当の話なんだよね。
「谷村真治、よ。他にも、マーク・ローレンやシン・リュウセイ……。私と同郷の……この世界にやってきた、"異世界人"。必死で行方を探したけど、見つからなかった。貴方が殺したのでしょう? 例え貴方の配下の仕業だとしても、それは結局は貴方の――」
「ストーーーップ!」
俺の質問への答えなのだろう、イリナが突然俺の目を見据えて話を始めた。
その口から出た名前は、皆聞き覚えのあるものばかり。
俺はイリナの言葉を遮ると、事実を端的に告げる。
「ソイツ等、生きてるよ?」
何を言ってるの、騙されないわよ! という感じに、俺を睨みつけてくるイリナ。
本当なんですけど……。
「っていうかさ、アイツら、知り合いにも連絡取ってないのかよ?」
「それに関してはリムル様――」
ソウエイが事情を把握していた。
シンジ、マーク、シンの三名は、帝国を裏切って亡命して来た立場。それ故に、自分達から連絡を取れなかったとの事だった。
それに――
「ずっと研究に熱中して、滅多に国の外まで出向かないようです。運動は、ストレス発散も兼ねて適度に迷宮攻略などを行っているようですし」
との事。
ラミリスの高笑いが聞こえそうな状況だった。
そう言えば最近、ラミリスとヴェルドラが異様に大人しいのだ。
何やら悪巧みをしていそうで不安だったのだが、自分達の研究に没頭していたようである。
「クフフフフ。そう言えば、人材が足りないと要望が出ていましたね。ベニマルの部屋に放置されていた書類の中に、補給要員を求める書類が届いていたようです」
目端の利くディアブロは、抜け目なくベニマル宛の書類にも目を通していたらしい。
実は、その報告は俺も知っていた。
だがしかし、補給出来る者が居なかったので放置していたのである。
それなりに知識があり、魔素に耐えられる者。
そんな都合の良い人材が。
ん? 人材、ねえ……。
「イリナ。信じられないなら、会わせてやってもいいぞ?」
「えっ!?」
「ただし!」
イリナが身構えたのがわかった。
俺はニヤリと笑って、言う。
「お前もそこで、研究者として働いてもらう事になるがな。ま、この話を断るのなら、百年の懲役刑が妥当になる。当然、俺の話が本当かどうかを確かめられないだろうし、本当だったとしても会う事は出来なくなるだろうけど。お前の答え次第だから、好きに選ぶといい」
イリナは苦渋に満ちた表情となった。
だが、案外早くに心を決めたようである。
「どっちみち、懲役よりは研究出来る方がマシです。貴方の言葉が嘘だとしても、私はそこで働く方を選択します。それに……生徒達を守って下さったリムル様ならば、嘘を吐いて人の心を弄ぶような魔王ではないと信じたいですから――」
本心からの言葉かどうかはともかく、イリナはそう言って俺の提案を受け入れた。
後もうひと押し、だな。
「勿論だとも。イリナ君は、素直に計画を話してくれたしねえ。ペラペラとね。その功績も考えないと駄目だろう?」
悪魔のような笑みを浮かべて、俺は頷いた。
「ちょ! それは言わないで下さい」
耳まで真っ赤にして、イリナが俯く。
「ふっふっふ。イリナ君。俺にとっては、嘘を付かなくても人の心を弄ぶなんて容易い事なのだよ。この事は、シンジ達にもポロッと話してしまいそうだな。酒とか飲んじゃうと酒の肴に最適だし。だから、仕方ないよね?」
「あああああっーーー!!」
その状況を想像して、恥ずかしそうに悶絶するイリナ。
「ちゅ、忠誠を誓いますので、どうかその話は、内密にしてはもらえないでしょうか……?」
「考えておこう!」
俺は勝利を確信し、偉そうに頷いたのだった。
そして、俺とイリナのやり取りを聞いていたマグナスも。
「サトルちゃ――いや、大魔王リムル様。俺、いや私はどうなっても構わない。なので、ロザリーの罪は許してはもらえないだろうか?」
「マグナス様!?」
「むしの良い話なのは重々承知だ。だが、ロザリーは私の命令に従ったに過ぎないのです。せめて、私にロザリーの罪を肩代わりする事をお許し願いたい……」
チャラいだけの男かと思っていたが、マグナスも案外男気があるな。
というか、皇族なんだよな。
勝手に処分して、要らぬ恨みを買うのは避けたい。
国際問題になりそうだし、蹴散らせるからと好き勝手するのは俺の性分に合わないのだ。
さてどうしたものか。
そう思い悩んでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
気配は二人。
多分アイツ等かな。
来ると思っていた――というより、来て欲しいと思っていた。
良かった。
これで落とし所を用意出来そうである。
「入れ」
ソウエイが立ち上がる前に、俺が許可を出した。
入って来たのは予想通り、ユリウスとカルマの二人だ。
教師達には二人が出ようとしても止めるように申し付けていたので、二人がここに来たという事は、生徒達が二人に協力した、という事になる。
俺は、自分の口元に小さく笑みが浮かんだのを自覚した。
俺が大魔王であると知った上で、直談判にやって来るとは。
俺の不興を買うのを恐れずに、生徒達までもが協力したのだ。
やるじゃん! と、素直に思った。
「サトル先生――じゃなくて、リムル様! どうかマグナスを許してやって下さい!」
部屋に入るなり、カルマが九十度にお辞儀しつつ、そう言った。
続いて、ユリウスも。
「マグナスは私達の友です。彼の悩みに気付かず、相談も出来なかった。私もそうですが、本音で語り合う事をしていませんでした。いえ、していなかったのではなく、出来なかったのです。ですが今は、もっと語り合いたい。もっと自分の本音を曝け出し、心から語り合いたいのです! ですからどうか、私達にそのチャンスを頂けないでしょうか?」
ユリウスはそう思いのたけをぶちまけると、カルマに倣って俺に頭を下げた。
本当に良かった。
これで、許す理由が出来た。
「いいだろう。それじゃあお前達、連帯責任にしてやろう」
俺の言葉に、ユリウス、カルマ、マグナスの三名が一斉に顔を上げた。
ロザリーもまた、戸惑うように俺を見ている。
「互いに助け合い、誰かが道を踏み外しそうになったら止めてやれ。俺の生徒である間の出来事で良かったな? 生徒の仕出かした事は、教師にも責任がある。だから、今回は目を瞑る事にする」
ディアブロは優雅に寛ぎ、紅茶を楽しんでいる。
ソウエイは、俺用に紅茶のお代わりを準備してくれていた。
二人とも、俺の言葉に反論はないようだ。
「そ、それでは……私達を許して下さるのでしょうか……?」
恐る恐るという感じに、ロザリーが問うてきた。
それに答えたのは、俺ではなくディアブロである。
「クフフフフ。いいですか? リムル様が許すと仰ったのなら、全ての罪が許されるのです。目を瞑ると仰っているのだから、貴方方は今回は見逃されたのですよ。次はないので、心しなさい」
そしてソウエイも、
「そうだな。そもそも、問題は学園側にあった。お前達は、ある意味では被害者だ。それに、人材を育てて中枢へ送り込むという作戦は面白かったぞ。それだけなら、なんの罪にもならないからな」
と言い添えた。
そうなんだよね。
結局の話、生徒達への洗脳的な教育は駄目だが、それ以外は大して問題とはならないのだ。
「ま、そういう事。イリナにも言ったけど、国家間の争いは、所属する国が違えば見方も変わってくる。歴史も同様で、自国有利に編纂するのは、ある意味仕方のない話だしな。だからこそ、歴史を勉強する場合は、多数の国家の歴史を同時に学ぶ必要があるんだよ。双方の言い分を聞いて、公平に判断する為にな。ま、魔王である俺が言っても、説得力がないかも知れないけどな」
そう言って、話を締めくくった。
マグナス達に退出を命じようとして、ふと、足元に転がる丸太が目に入った。
「――そうだ。ユリウス君、俺の事が嫌いだ、とか叫んでいたよね?」
「ほう?」
「……」
俺の呟きにディアブロが反応し、ソウエイもピクリと眉をひそめた。
「あ、いえ……それは……」
整った顔から脂汗を垂らし、ユリウスが必死に言葉を探している。
ふっふっふ。
あの言葉、聞き流したけれど、ちょっぴり心が痛かったのだ。
「流石の俺も、嫌いだと面と向かって言われると傷ついちゃったなあ」
「それは言葉の綾と申しますか……」
涙目になるユリウス。
このくらいで許してやるか。
「冗談だよ。水に流してやるが、一つ条件がある」
「条件、ですか?」
「うむ。コレを世話しろ」
そう言って、俺は丸太を指し示した。
ユリウスは嫌そうな表情となったが、文句を言わずに了承した。
「連帯責任だから、各学園で持ち回りするように。お前らへの罰にもなるし、一年交代で公平にな。馬鹿をしそうな生徒にはコレを見せて反省させればいいだろうし、一石二鳥だろ?」
三名とロザリーは、非常に嫌そうな表情だった。
それを見て、俺も満足である。
処分に困っていたブツも始末出来たし、マグナス達への処罰も済んだ。
万々歳である。
後、"人類解放同盟"の革新派とやらは、思想がかなり過激なので全員捕縛を命じておいた。
ソウエイの配下が既に手配済みで、間もなく全員を捕らえる事が出来るとの事。
彼等は貴重な労働力として、ラプラスに預ける事にしよう。
きっと素晴らしい働きを見せてくれると思う。
こうして俺の意図せぬままに、学園の大掃除と不穏分子の排除が完了したのだった。
――その後。
ユリウスやマグナス、カルマ達の所属した年度の学生達は、大魔王に手料理をご馳走になった勇士として伝説に名を残す事になる。
中にはマーシャのように、新魔法体系の祖と呼ばれるような本物の英雄も生まれた。
俺の脱走が原因でそうした逸話が多数生まれる事になったのだが、それはまた別のお話なのだ。
◇◇◇
魔物の国、帰還後。
俺の本体であるリムルンは、無残にも真っ二つになっていた。
スライムなので、小さく二体になっただけなんだけど……それでも、自分の身であると思えばなんだか思うところがある。
「こ、これは……その……」
「違うのです! シュナ様が手を離さないから!」
シオンの怪力に、シュナが対抗したというだけでも驚きであった。
だがそれ以上に、頑強なる俺の本体が、真っ二つにされたという事実に衝撃を受けた。
この二人は怒らせてはならない。
再度心に誓った瞬間である。
ちなみに、ミニリムルン二体は俺が吸収する事で元通りになった。
シュナやシオンが寂しそうにしていたので、今度人形でも作ってプレゼントしようと思ったのだった。
◆◆◆
イングラシア学園都市にて開催されたフォーラム――魔法と科学の発展 第八回――にて。
マイが素晴らしい講演を行った。
十年かけて、異世界への門を安定させる事に成功したのだ。
その講演を聴きながら、『次は皆で異世界へ遊びに行くのも面白いかも』なんて考えたのは、ここだけの秘密なのである。
To be continued?
後書きと宣伝を活動報告に上げますので、宜しければ御覧になって下さい。