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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
天魔大戦編
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241話 頂上決戦 その2

 最初に動いたのはギィである。

 静止画からコマ送りしたように、無造作にヴェルダへと斬りつけた。

 それを阻止しようとダムラダと近藤が動くが、それに応じるのはヴェルドラとディアブロだ。


「クフフフフ。ヴェルドラ様、この者達なら私一人で対処出来ますが?」

「クハハハハ、何を言う。遠慮はいらん、我も手伝おうではないか!」


 涼しげな笑顔のディアブロに、焦ったようにヴェルドラが言い放った。

 ヴェルドラからすれば、ルドラを見て顔色を変えた姉――ヴェルグリンドの傍にいたくない、というのが本音である。であるから、何が何でも一人は相手しておく必要があったのだ。


「では、ヴェルドラ様は――」

「うむ。そこの軍服は、この我に対し銃弾を浴びせた男。その礼も兼ねて、ここで相手をしてやる事にしよう」

「なるほどそういう事でしたら、私はこの者の相手をするとしましょう」


 そう短く言葉を交わし、ヴェルドラとディアブロは同時に動いた。

 拳を交わすダムラダとディアブロ。

 右手に軍刀を左手に拳銃を持ち、ヴェルドラを迎え討つ近藤。

 激しいぶつかり合いにより衝撃波が発生し、天界を揺るがせる。

 そして二組は、それぞれを獲物と定めその場を離れた。


 それを横目に見て、ヴェルグリンドは思う。

 ダムラダと近藤の二人は、皇帝ルドラの腹心として長く仕えていた者達である。故に、ヴェルグリンドも二人の事は良く知っていた。

 その性格や能力も。

 人の身としては破格の力を持つ者達であり、増長や油断とは無縁の者であると。

 そんな二人が覚醒魔王を遥かに超越した力を手に入れたというのは、脅威なのは間違いない。

 とはいえ――


「ヴェルドラ、油断したら承知しないわよ!」


 とヴェルドラに声をかけただけで、ヴェルグリンドは視線をルドラに固定した。

 確かに強大なパワーではあったが、それでも"竜種"には及ばない。ヴェルドラが戦うのならば、心配はいらないと信頼していたのだ。

(とは言っても、無様な戦いをしたらお仕置きね)

 と、ヴェルドラを震え上がらせるような事を思いつつ、ヴェルグリンドは動く。

 ギィがヴェルダに剣を振り下ろそうとした刹那、横から割り込んできた光の剣がそれを受け止めていた。

 ヴェルダの前に立つ男、ルドラの仕業である。

 そのまま二人は切り結ぶように位置を変え、流れるように剣を振るい合う。

 両者ともに盾を持たない、完全攻撃の構えであった。

 二人にとっては、己の剣が武器であり盾なのだ。


「ヘッ、面白い。腕は鈍っちゃいないようだな、ギィ!」

「抜かせ、偽物如きがオレの邪魔をするんじゃねー!!」


 叫び合い、二人は互いに全力の一撃をぶつけ合った。

 その一撃は、必殺の威力を秘めている。しかし、両者は巧みに受け流しつつ、毛程の傷も相手に与える事を出来ないでいた。

 驚くべき事に偽ルドラは、完璧なまでの強さを体現していた。

 凄まじいエネルギーを凝縮した仮初の肉体を、完全に支配している証拠である。

 ヴェルグリンドには信じられない事であったが、その強さはギィに匹敵していたのだ。


「ギィ、加勢するわ!」

「馬鹿野郎、来るんじゃねーー!!」


 瞬間の出来事であった。

 ヴェルグリンドがギィへの加勢として偽ルドラへ向けて、自身の爪を剣化させた神速剣爪にて斬りかかろうとした瞬間――腕に感じるは凄まじい痛み。

(馬鹿な!? 『痛覚無効』のこの身に、痛みだと!?)

 驚愕し、飛び退るヴェルグリンド。


「ヘへッ、俺様の腕の方が鈍ったか。首を落とすつもりだったんだけどな。いや、お前の強さが増したのか――なあ、ヴェルグリンド?」


 ヴェルグリンドは初めて、偽ルドラを凝視した。

 偽物のハズの、その青年。

 若き日のルドラ。

 その荒々しいまでの強さを完全に再現させた目の前の偽物は、ヴェルグリンドの目を以ってしても本物と見分けがつかない程で……。

(ありえない。私が看取ったのだぞ、ルドラを……)


「……お前は、偽物だ!」

「はっ! 笑わせるなよ、ヴェルグリンド。それを決めるのは、俺様だ。魂がないから偽者? 復活したから偽者? 操られているから偽者? 違うね。偽者だと、認めた時に偽物になり、俺様の意思が死ぬんだ。俺様は生きているぜ? 思考し、選択し、前に進む。俺は俺、他の誰でもねーぞ! お前なら判るだろ、ヴェルグリンド? まあよ、一回死んだのが事実っぽいのは認めてやらあ。だから、初めからやり直す。俺様の偉大さを認めさせる為に、お前等を一度叩きのめしてやる。そして、改心させて仲間にしてやろう。俺は、いずれは世界を征服する男。それが、我が師でもある"星王竜"ヴェルダナーヴァとの約束だからな」


 ヴェルグリンドの叫びを一笑に付す。

 そしてルドラは、自分の霊気を具現化させた光の剣を消し、不敵に笑った。


「こんな玩具オモチャで戦うのは失礼だよな。俺様の本気を見せてやる」


 そう言って、両手を向き合うように翳し「神剣召喚」と呟いた。

 その瞬間、ルドラの両手の間の時空が軋み光り輝く剣が顕現したのだ。

 それを見て、紅い目に喜色を浮かべて笑みを深くするギィ。

 驚愕と混乱で、一歩後ずさるヴェルグリンド。

 そしてルドラはギィに笑みを見せつつ、剣を構えて言う。


「今日こそ決着をつけてやるぞ、ギィ!」

「ふむん。望む所だ、ルドラ!!」


 神剣召喚とは、ルドラが本気を出す相手にのみ使用する剣を出す儀式である。

 所有者を選ぶ剣――神剣"星王スター"――を呼び出せるという事は、目の前の男が偽物であるか本物であるかなど関係なく、ギィの友であったルドラに近しい意思を持つという事なのだろう。

(死んでもオレの前に立ち、邪魔するってか? オレに勝ち逃げをさせたくないんだろうが、本当に負けず嫌いな野郎だぜ)

 ギィは嬉しくなり、口元に浮かぶ笑みを隠し切れない。

 もはやヴェルダなどどうでもよくなっており、ギィはルドラとの戦いに没頭する。

 そして、ヴェルグリンドもまた――

 彼女は見守る事に決めた。

 幾星霜も昔からそれがギィとルドラの間に取り決められたルールであり、そこにヴェルグリンドやヴェルザードが介在する事は許されていないのだ。

 ヴェルグリンドが見守る中、二人の戦いは激しさを増していく……。


      ◆◆◆


 ヴェルザードもヴェルグリンドと同様の衝撃を受けた。

 だがしかし、彼女はギィの相棒であり、驚きはヴェルグリンドよりも小さなものであったといえる。

 何よりも、先程感じたギィとの絆のお陰で、ルドラを見ても動揺する事はなかったのだ。

 驚きを表情に表す事なく、淡々とミリムの怪我の治療を行うヴェルザード。

 見ればクロエがいつの間にかヴェルダに対峙し、その剣捌きで時間稼ぎをしてくれている。

 ミリムの怪我は思った程酷くはないので、このままであれば直ぐにでも回復するだろうと一安心するヴェルザード。


「すまんな、もう大丈夫だ」


 思った通り、ミリムは直ぐに回復した。

 その上、先程まるで歯が立たなかったというのに、懲りた様子もなくヴェルダに突き進もうとしている。


「ミリム、勝算はあるの?」

「む? そんなものはない。だがまあ、戦っていれば何か閃くかも知れぬだろ?」


 ああ駄目だ、と思うヴェルザード。

 案の定、ミリムはヴェルダに翻弄されるままであった。


「ええい、素早いヤツめ!」


 ヴェルザードが見守る中、ミリムは悪態をつきつつもしっかりと気を練っているようだが……。

 ミリムのエネルギーは思った程に大きくなっていない。

 覚醒魔王よりは大きいものの、"竜種"から比べれば一割程度に過ぎないのだ。

(――可笑しいわね? ギィと戦った時の膨大なエネルギーから考えれば、ミリムの今の力が小さすぎるような気がするのだけれど……)

 ギィとルドラは拮抗した戦いを演じている。

 邪魔をすれば、それこそギィの逆鱗に触れるだろう事が明白なので、そちらは放置するしかない。

 弟であるヴェルドラは、いつの間にかふてぶてしい程にしぶとくなっているようだし、放っておいても大丈夫だろうと割り切っている。

 それに、ギィとルドラが戦闘に没頭し始めた事で、ヴェルグリンドがヴェルドラ達にも気を配る余裕が出来たようだ。二人の戦いを見守りつつも、不測の事態に備えているのが見て取れた。

 それを見て、何かあればヴェルグリンドに任せれば良いとヴェルザードは判断したのだ。

 問題はヴェルダだ。

 クロエは流石と言える慎重さで、様子見に徹している。慎重に冷静に、ヴェルダの力をはかっているようだ。

 それに対し、ミリムは無謀ともいえる特攻を繰り返している。

 ヴェルザードがミリムへの攻撃を防ぐ盾を出し防御に手を貸しているのだが、それでもそれなりのダメージが蓄積しているだろう。

 手を抜いているようには見えないのに、遥か昔にギィと戦った頃よりも弱く見えるのだ。

 ヴェルザードはそれを不審に思う。


「ミリム、貴女……」

「ミリム、この馬鹿! テメエ、本気を出しやがれ!」


 ヴェルザードが疑問を口にしようとした時、業を煮やしたようにギィが叫んだ。

 それに対し、面白くなさそうにミリムが反論する。


「ワタシは全力なのだ! 手を抜いてなどおらぬぞ!?」

「アホウ。昔のテメーはもっと強烈だったぞ!? お前、『憤怒之王サタナエル』を使ってねーだろーが!」

「むっ!?」


 ギィに指摘され、ミリムは忘れてた! と言わんばかりに、一瞬だけ視線を泳がせた。

 だが、言いくるめられては沽券に関わるとでも言いたげに、


「だ、だが! あれは自分でも制御出来ぬようになるやもしれん。前回も貴様やラミリスに――」

「ええい! いいから、やれ! オレだって、こいつの相手で手一杯なんだぞ!? さっさとあのクソ野郎をブッ飛ばしてしまえ!」


 半ばヤケクソ気味に、ギィはミリムに発破をかける。

 事実、ギィとルドラの実力は伯仲しており、ミリムと話をする余裕などギィにはないのだ。

 それだけをミリムに告げ、ルドラに向き直る。


「待たせたな」

「何、いいって事よ。本気でやり合わないとツマランからな」


 ミリムに忠告する間、手を抜いてくれていたらしいルドラへ礼を述べるギィ。

 鷹揚に頷くルドラ。

 そして二人は同時に剣を放ち、激しい火花を撒き散らす。


 ヴェルザードはそんな二人を呆れたように見てから溜息を吐き、自分の疑問が氷解するのを感じていた。

 ミリムは本気を出していない訳ではなく、究極能力を使用していなかっただけだった。

 ただし、ミリムの言葉も正しいのだ。

 使いこなせぬ程に強力な『魔素増殖炉』、それが『憤怒之王サタナエル』の正体である。

 激しい怒りと魔素を燃料にして、どんどんと魔素を増殖させる究極の力。

 燃料にくべた魔素は、更なる力となって還元される。文字通り、増殖するのだ。

 これを発動させている限り、ミリムの魔素量エネルギーは一気に増大する。しかも、使っても使っても減る事がない、まさに究極の能力なのだった。

 個にして無限の力を操る者、それがミリムという魔王なのである。

 ヴェルダナーヴァの落とし子の名は、伊達ではなかったのだ。

 しかしミリムは、『憤怒之王サタナエル』を一切発動させてはいない。

 その事に気付いたのは、以前戦った時に能力の再現に成功したギィのみだった。

 ギィは、自分の『傲慢之王ルシファー』にて『憤怒之王サタナエル』を再現する事に成功はしたものの、その余りにも強力な力に常時発動を諦めた。四十%程度にて常駐させ、残りの容量を用いて他の能力を使用しているのである。そして、自我を保ったまま全力で発動させるとしても、九十%程度が限界だろうと自己分析出来ていた。

 だが、ミリムなら――

 それ程までに強力無比な能力だがミリムならば制御出来る――そう、ギィは確信していたのだ。

 そしてまたヴェルザードも、今のミリムを見て以前にギィより聞かされていたその話を思い出していた。

 覚醒魔王を超える膨大な魔素量エネルギーを保有していたせいで、究極能力を使う必要がなかったミリム。

 そんなミリムが『憤怒之王サタナエル』を発動させたならば、その力はどれだけ跳ね上がるか想像もつかないとヴェルザードは思う。

(ひょっとすると、我等"竜種"すらも超える力を体現出来るかもしれないわね――)

 その脅威に思い至る。

 だが、目の前のヴェルダを倒すには、それは必要な事だと思い直した。それにミリムならば、その強靭な意志により『憤怒之王サタナエル』を完全に制御出来ると信じる事にしたのだった。


 そしてミリムは――

 激しい葛藤はあるものの、今の自分の力がヴェルダに及ばぬ事は理解出来ている。

 だからこそ、『憤怒之王サタナエル』へと怒りを注ぎ込む決意をする。

 そんなミリムの気配を感じ取ったのか、


「ルドラ、遊んでいないでさっさと終らせろ!」


 と、ヴェルダが叫んだ。

 しかしそれに対する返答は――


「うるせえ、手を抜いて勝てるような甘い相手じゃねーんだよ! 俺様の師匠なら理解出来るだろうが! そんなくだらん事を言うようじゃ、やはり俺様の師匠ではないようだな。だが、まあいいさ。コイツとの決着を付ける機会をくれた事には感謝してるしな。だから、黙ってろ。その礼に、全力を尽くしてやる。わかったら、俺様に命令するんじゃねー!!」


 一刀両断に、ルドラはヴェルダへと言い捨てる。

 ルドラの心にあるのは、ギィとの決着のみ。

 ギィとの戦いを心の底から楽しんでいる今、ヴェルダの言葉を邪魔にしか感じていないのだ。

 そんなルドラの反応にヴェルダが顔を顰めた時、ミリムの声が響いた。


「待たせたな。今度こそ、本気で行くぞ!」


 全身に竜の鱗のような蒼白い紋章を浮かび上がらせて、ミリムが立つ。

 ――その身から吹き出る膨大な妖気を綺麗に循環させ、あらゆる攻撃に対応する防御膜を形成させて。


 竜皇女ミリム・ナーヴァが今、その真なる力を解放したのだ。


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