218話 vsダグリュール その7
色々あって、更新が遅れました。
破壊の権化であるダグリュールと、暴風の王たるヴェルドラ。
その権能に共通するのは、雷である。
ダグリュールは自身の超絶能力により、大地と大気の電位差を自在に操る事が可能である。
故に、自然界最強の攻撃手段である雷による攻撃を多用出来るのだが、それはヴェルドラも同様であった。
ヴェルドラは自身のエネルギーを循環させる事で、自然に雷を生じさせる。
故に、両者共に雷に対しては高い耐性を持つ。であるから、雷撃をぶつけ合う事に意味はない。
意味は無いにも関わらず、互いの闘気を雷に変換し、ぶつけ合う二人。
その結果、性質の異なるエネルギーがぶつかり合う事で、周囲の広大な範囲に雷の柱を乱立させる事になったのだ。
ダグリュールは、振動波を自在に操作する。
大地を揺らせば地震を起こし、大気を震わせて放電を発生させる。意図的に気流を操作し、真空波を生み出す事も容易であった。
しかし、ヴェルドラには通用しない。
当然である。何しろ、ヴェルドラは暴風の化身なのだから。
そんな事はダグリュールも熟知しており、今更慌てふためく事でもない。
長年の喧嘩相手でもあるし、互いの性質は熟知しているのだから。
だが、制限が解除され三位一体となった、本来の姿である戦闘形態での戦闘は初めての事。
ダグリュールは、自身の血が沸き立ち興奮している事を自覚する。
今こそ、長き因縁の相手であるヴェルドラとの雌雄を決する時なのだと思って。
故に――
「ふははははは! 流石だな、ヴェルドラよ。
だが、本来の力を解放したワシは、今までとは違うぞ!」
叫ぶ。
三面六臂になり、死角は無くなっている。
それ以前に、魔法は通用しない。
そして――『硬化能力』により金剛石をも軽く凌駕する最強硬度に到達した肉体は、いかなる攻撃をも跳ね返す。
仮に、神話級の武器を以ってグラソード級の達人が攻撃したとしても、ダグリュールには通用しないだろう。
それほどまに、現在のダグリュールは防御力に特化しているのである。
無敵。それが、今のダグリュールなのだ。
「クアハハハハ! 笑止!」
ヴェルドラはダグリュールの叫びを一笑に付す。
そして、そのまま雷嵐咆哮を放った。
圧縮された大気の塊が、放電を放ちつつダグリュールに迫る。
しかし、その超密度の攻撃は、ダグリュールの突き出した腕の一本により鷲掴みにされ消失する。
「つまらぬな、ヴェルドラよ。この程度の小手先の技など、ワシには通じぬと言っておる」
ヴェルドラは意に介さない。
雷嵐咆哮を放った本体よりも早く、分身体がダグリュールの背後に回り込んでいる。
「本命はこちらよ! 喰らうが良い、竜爪滅撃!」
超高速で放たれたヴェルドラの拳は、竜の巨体に似合わぬ小ささである。
しかし、その6本の指に生える禍々しい爪は、この世のいかなる物質をも切り裂く『分断能力』を有していた。
ダグリュールの『硬化能力』と、ヴェルドラの『分断能力』が衝突し、世界が軋むような音を奏でる。
衝撃――そして、消失する腕と腕。
ヴェルドラの爪を防いだダグリュールの腕の一本が消失し、それを成し遂げたヴェルドラの左拳も消失してしまったのだ。
相打ち、である。
ダグリュールには未だ5本の腕が健在であった。そして、失った腕の再生も一瞬である。
対するヴェルドラもまた、『並列存在』により分身は幾らでも生み出せるのだ。
「ちぃっ! 相変わらず、理不尽なまでに頑丈なヤツめ――」
「理不尽なのは貴様よ、ヴェルドラ。今のワシに傷を負わせるとは……」
ヴェルドラが必殺の一撃が防がれた事を腹立たしく思うのと同様、ダグリュールも無敵の肉体に傷がついた事に忌々しい気持ちになっている。
未だ、互いに小手調べ。
闘いを楽しむように、両者の攻撃は更なる苛烈さを増していく。
生半可な攻撃は、互いに意味がない。
その事は熟知しているのだが、かといって大技をいきなり出せるものでもない。
相手の油断には期待出来ない以上、どうにか隙を作る必要があるのだ。
互角の存在である"破壊神"と"暴風竜"。
柔道で言う"崩し"の如く、先ずは自身の優位性を確保する事が重要となる。
前哨戦から全力を出すのは愚の骨頂なのだ。
だが――
ヴェルドラはそういったセオリーを一切無視し、一気呵成にダグリュールへの攻撃を開始した。
「クアハハハハ! どんどん行くぞ! 竜翼翔斬刃!」
複数の分身体が、超高速飛行によりダグリュールに迫る。
その翼は振動を発し、高周波ブレードと化す。大小二対の翼の振動は、分子結合を切り裂く絶死結界を創り出すのだ。
ヴェルドラの巨体を覆う絶死結界は、一つの巨大な破壊球となった。
その凶悪な破壊球が、ヴェルドラの分身体の数だけ生み出されているという事。
その全てが、同時にダグリュールへと襲い掛かったのだ。
「むうん!」
だが、ダグリュールは慌てない。
グラソードの顔が正面を向き、手に両手大剣を構える。
そして、迫り来る複数のヴェルドラを同時に迎撃してのけた。
10mを超える長さとなった大剣の先端速度は、音速を軽く凌駕する。
ダグリュールの振るう一閃ごとに、ヴェルドラの分身が生み出した破壊球は打ち消されていったのだ。
それはつまり、分身体が消滅した事を意味する。
ダグリュールは攻撃の手を緩めない。
続けて、
「縛鎖封滅獄!」
フェンの顔が正面を向き、手に持つ聖魔封じの鎖でヴェルドラの捕縛を試みた。
ダグリュールの『真なる眼』は、複数の分身体の中より最大のエネルギー量を誇る個体を、難なく発見していたのだ。
どれだけ分身しようとも、『真なる眼』の前では意味がない――はずだった……。
「残念! それは我の偽物でしたー!!」
ヴェルドラが小馬鹿にしたように叫ぶ。
事実、聖魔封じの鎖が捕縛した個体は、アッサリと消滅して消え失せたのだ。
余りにもアッサリとし過ぎていたのである。
「ほう……貴様、ワシの目を欺くとは……。どのような手品を使った?」
「ふっふっふ。ダグリュールよ、お前が真なる力を解放しようとも、我には勝てぬ。
勝てぬ理由があるのだ!
それに、我も成長しておるのだ。昔と同じと思って貰っては困るのだよ!」
ヴェルドラは、ダグリュールの問いかけをはぐらかした。
本来であれば、『真なる眼』を欺く事は出来ない。
だが、ヴェルドラは『存在確率変動』により、一瞬で分身間での入れ替わりが可能なのだ。
並列存在と確率操作を同時に操る事で可能とする、奥義の一つである。
その二つに加え、空間操作系も利用しているとリムルが能力の説明をしていたが、ヴェルドラは聞き流していた。
細かい原理など理解出来ていなくても、本能的に使い方をマスターしているのだから問題ないと、ヴェルドラは考えているのである。
そんな訳で、説明しようにも出来ないというのが実情だったのだ。
逆に理解出来ていたならば、自慢気に説明してしまっていただろうから、ヴェルドラにとっては知らない方が都合が良かったと言えるだろう。
ヴェルドラの名誉の為に付け加えるならば、理解力が足りないのではなく、理論が難しすぎただけの事。
本能で理解し使いこなせても、言葉にして人に説明は出来ないという事であった。
ダグリュールも答えが返ってくるとは期待していなかったので、気にせずに言葉を続ける。
「勝てぬ理由だと? 何を寝言を……。だが、貴様が昔と違うというのは、本当のようだな。
本体が見抜けぬなら、その複数の分身も全て同時に消し去ってやるわ!」
会話しつつ、自分に都合の良い状況を創り出す。
それもまた、戦闘技術の一つである。
ダグリュール程の強者であっても、小手先の技術を蔑ろにする事はなかった。
寧ろ、そういう小技で少しでも優位性を得る事こそ大事だと考えている。
静かに空間把握を行い、干渉波の及ぶ範囲を拡大させる。
『真なる眼』により、ヴェルドラの分身体が隠れ潜んでいない事を確認した後、次元を切り取り、隔絶空間を形成してのけた。
この空間内に、ヴェルドラとダグリュールのみが存在するように。
そして、複数いようとも全てのヴェルドラの分身を、同時に撃滅する為に。
「むっ!?」
「捕えたぞ、ヴェルドラよ。喰らうが良い! 時空振滅激神覇!!」
切り取られた空間内部に、激震が走った。
超時空振動がダグリュールを基点として、空間内部を満たす。
目視不可能の光量を放ち、不可逆的破壊干渉波が生じる。ダグリュールが自身のエネルギーの六割を消耗し、生み出した吸収光線であった。
ダグリュールが、その身を擬似的なブラックホールへと変換し、空間内部の全ての物質を破壊し吸収しているのだ。
その時生じる摩擦により、隔絶した次元を超えて、眩い光が溢れ出す。
如何なる生命体であっても、この圧倒的なまでの超高密度エネルギーの干渉を受けたならば、その存在維持は不可能であろう。
ただ分解され、ブラックホールへと飲み込まれ消滅するのみである。
ただし、吸収したエネルギーの大半は、自身の存在維持に利用されている。ダグリュールが全てを取り込める訳では無いので、連続して使用する事など出来ぬ一撃必殺の攻撃手段であった。
ダグリュールは必殺の確信を持ち、結果を確認する。
ダグリュールの生み出した次元の隔絶空間は、放射した光線をダグリュールが吸い込んだ時に一緒に閉じている。
しかし、次元に歪みが残り、元の世界にまでも影響を及ぼしていたのが見て取れた。
それは時が経てば、周囲と同化し元に戻るのだが――超絶的な破壊の傷跡であると言えた。
その攻撃に耐え得る物など、存在するハズも無く……。
「ぐぬぬぬっ……い、今のは危なかったぞッ――」
ダグリュールは驚愕に目を見開いた。
「ば、馬鹿な!! あれを喰らって、生きている、だと!?」
あまりの衝撃に、ダグリュールは叫んでいた。
完全に消滅させるつもりで放った、最強の一撃だったのだ。
ダグリュールが驚愕するのも当然であった。
限定された空間内であり、逃げ場は無かった。それなのに、直撃を受けたはずのヴェルドラが無事でいる事など、有り得ない話だったのだ。
だが、現にこうして、ヴェルドラは生き延びているのである。
「……く、クア、クアハハハハ! こ、この程度、我にとってはどうという事もないわ!」
よく見ると、ヴェルドラも無事では無い。
大小二対の翼はボロボロになっており、全身傷だらけであった。やせ我慢しているだけである。
実の所、今の攻撃は完全には回避出来ていない。
究極能力『混沌之王』を駆使し、極限まで存在確率を薄める事で、辛うじて破壊エネルギーの干渉波を回避出来たのである。だが、分身数体は回避に失敗し、干渉波に巻き込まれて消滅していたのだ。
恐るべき技であり、少し前までのヴェルドラであれば、間違いなく滅ぼされていたであろう。
自身の分身体を全て統合し、現状確認を行うヴェルドラ。
シオンに奪われた分も計算に入れて、現状での残存エネルギーは五割といった所であった。
(えらく消耗したものよ。しかし、計算通り!)
ダグリュールとヴェルドラは、ほぼ互角である。
ヴェルドラは、戦闘が開始する前にシオンに三割程度のエネルギーを奪われていた。
故に、不利な状況を覆すべく、ダグリュールを消耗させる必要があったのである。
現在の残存エネルギー量は、ヴェルドラ五割に対し、ダグリュールは四割。逆転であった。
しかし、賭けに成功したから良いようなものの、今の攻撃に生き延びれる確率は非常に小さなものであった。
ヴェルドラは、『混沌之王』により回避出来る事に賭けたのである。
その賭けに、ヴェルドラは勝ったのだった。
……もっとも、その賭けに負けたとしても、リムルにより再生して貰えば良いという計算が働いていた事は間違いないのだが。
(再生して貰えるとわかっておれば、どんな危険な勝負も怖くないのだ! クアーーーッハッハッハ!)
決して表に出せない本心で、高笑いするヴェルドラ。
まさに、ヴェルドラが先程言った、ダグリュールがヴェルドラに勝てない理由とはこれであった。
「貴様、わかっておるのか? 一歩間違えば、再生不能な致命的な消滅が訪れたのだぞ!?
何故防御に徹しない? 危険な賭けをせずとも、貴様が全力で防御に徹すれば、消滅は免れたはず……。
ワシも、戦闘不能になった貴様にトドメを刺す気は無かったのだ。
何故貴様が、ルミナスや人間共の為に死を賭す必要があるというのだ!?」
「フン! それを言うなら、ダグリュールよ。
何故お前が、ヴェルダ如きに従う必要がある? アレは、我が兄ではないわ!!」
「――かも、知れんな。
だが、あの覇気は、紛れもなくヴェルダナーヴァ様のものであった。
それで十分。ワシ等は、かの方にお仕えする為に生きておるのだ」
「笑止! 偽者如きにいいように扱き使われるなど、破壊神の名が泣くわ!」
「黙れ、ヴェルドラ! かの方を愚弄するなど、弟の貴様でも許しがたい」
ダグリュールは、闘気を高める。
すると、15m程もある巨体が、みるみる小さくなっていく。
3m程度の大きさになったダグリュール。だが、その身体からは雷が閃光を発し、超圧縮されたエネルギーを感じさせた。
「む!?」
「ふはははは。貴様が教えてくれたのではないか、ヴェルドラよ。
怒りをコントロールすると、更なる力が手に入る――と」
その言葉で、ヴェルドラも思い出した。
そういえば、聖典の知識を、ダグリュールにも語って聞かせた事があった、と。
たったそれだけの情報から、見事に実戦レベルまで昇華してのけたダグリュール。
圧縮された事で、エネルギー密度が凄まじい事になっているようだ。
大きさは力だが、このままでは分が悪い。ヴェルドラはそう悟った。
「やれやれ、そこまでのコントロールを身に付けるとは、な。
流石はダグリュールよ。だが、我も負けてはおらぬのだ!」
ヴェルドラも人化してエネルギーを圧縮させ、ダグリュールに応じる。
超常的な格闘戦が始まった。
ダグリュールの拳がヴェルドラの腹部にめり込む。
同時に、ヴェルドラの肘がダグリュールの顔面を穿っている。
闘いは数時間に及び、両者一歩も譲らない。
蹴りには蹴りで、拳には拳で。
互いの攻撃は、そのまま自身への攻撃となって跳ね返されるのだ。
大地を踏みしめて戦うのではなく、闘いの場は次々と移ろっていた。
高空から地上へ。
そして周囲を吹き飛ばしつつ、砂漠へと。
そしてまた、高空へ。
ある時は、大気圏の外にまで。
エネルギーの塊である両者にとって、戦場はどこであっても同じである。
自身の身体を発射台として、超圧縮させたエネルギーを相手に叩き込むのみ。
そして、受けたエネルギーを上手く体外へと放出し、致命傷を防ぐ。
可能な限り自分のエネルギー損耗を抑え、相手を消耗させるのが重要なのだ。
本来であれば上位魔人すらも一撃で葬り去る威力を秘めて、互いの攻撃が交差する。
周囲に多大なる被害を撒き散らしているが、互いにとっては既に眼中にない出来事だ。
壮絶なる闘いは、いつまでも続くかに思われた。
しかし――
ヴェルドラは機会を伺い続けていた。
ゼギオンやウルティマとの修行や、迷宮内の強者達の指導。
それに加え、ヴェルグリンドやリムルとの戦闘経験が、ヴェルドラを一段階強く成長させていた。
近接格闘戦闘は、ヴェルドラにとってもっとも得意な戦闘方法だったのだ。
「極めたと思ったが、ワシもまだまだだな……」
「ダグリュールよ、もう一度言う。あの偽者へ従うのを止めるのだ」
「くどいぞ、ヴェルドラ。ワシの忠義は、死んでも変わらぬわ!」
「そうか――残念だよ、ダグリュール。我の最奥義にて、終わりにしてやろうぞ!」
ヴェルドラの言葉に、ダグリュールに緊張が走る。
しかし、時既に遅し。既に準備は完了していたのだ。
ヴェルドラは、能力を発動させた。
その瞬間、虹色の闇が周囲を覆う。
神聖法皇国ルベリオスの国土と死の砂漠地帯をも覆う程の、広大な範囲を飲み込んで。
「豊穣なる神秘の波動!!」
ヴェルドラが小さく呟く。
虹色の闇の中、残酷なる奇跡が発現したのだ。