ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』   作:ガガミラノ

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雷が鳴る時、彼女は落ちた

 

 

 

「はじめまして」

 

''君は……''

 

 

その生徒はびしょ濡れになりながら、そんな事気にも留めず私の目を見続けていた。

 

暫く見続けてやっと自分が濡れている事に気づいたようでジャケットのように着ている黒色のスーツを脱いだ。

 

 

「ああ、こんなに濡れていてごめんなさい」

 

「急に雨が降るとは思わなくて」

 

 

''う、うん……とりあえず上がる?''

 

「そうさせてもらうわ」

 

 

白色の髪をしていて、灰色のドレスを着た、真っ赤な生徒だった。

 

……そう、廃墟の廃ビルの上に立っていた生徒だ。

 

 

とりあえず玄関に立ちっぱなしにさせるのもアレだろうしオフィスにまで連れていこうと歩いていると彼女は口を開いた。

 

 

「突然ごめんなさい、雨宿りがしたくって」

 

''大丈夫だよ、タオルはいる?''

 

「お願いするわ」

 

 

オフィスに着き、タオルを渡すと彼女は椅子に座って髪の毛を丁寧に拭く。

 

 

 

''君の名前は?''

 

「西条レイナ」

 

 

 

ああ、間違いない、この子は廃墟で立っていた子だ。

それに気づいた瞬間、少しだけ謎の冷や汗が頬を濡らした。

 

彼女は私が苦い笑いを見せると彼女はニヤリと笑った。

 

 

「はじめまして、というのは取り消すわ」

 

''やっぱり、君は廃墟にいた……''

 

「その通り」

 

 

彼女は私に指をさし、また笑う。

 

 

''どうして、君は廃墟に……?''

 

「涼みに」

 

''涼みに?''

 

「あそこの平均気温はミレニアムの普通の都市より4℃低い」

 

「だから初夏になるといつもここに来るの、廃ビルが日陰になるし」

 

''私達を助けてくれたのは?''

 

「私は人を見殺しにするほど非道じゃない」

 

''ありがとう、おかげで助かったよ''

 

 

私がそうお礼をすると彼女は呆れた目をしながら私に問う。

 

 

「…………貴方はそうやって、身も知らぬ人間を自分の事務所に入れるの?」

 

''困っている人だったら誰でも入れちゃうかも''

 

「私が困っているように見えたと?」

 

''うん、何だか寂しそうにしてたよ''

 

「そう」

 

「…………シャーレの先生、貴方は━━━」

 

 

 

 

 

その時、彼女の傍にある窓の外で大きな雷鳴が轟いた。

 

 

 

「ひゃうんっ!?」

 

 

 

……それと同時に彼女から黄色い声が聞こえ、床に滑る音が聞こえた。

 

 

''大丈夫!?''

 

 

と、手を差し伸べるも……

 

 

「………………………………」

 

「……………………」

 

「……はあ」

 

 

彼女は(恐らく恥ずかしさで)顔を赤らめながら、私の事を見つめながらため息を吐いた。

 

 

「自分で、立てる」

 

 

そう言って彼女は足をガクガクさせながらも一人で立ち上がった。

 

 

''本当に大丈夫……?''

 

「うるさいっ」

 

 

と、言われるが足は未だに震わせている。

 

……もしかして、腰が抜けたのだろうか。

 

 

''腰が抜けたの?''

 

「うるさいっ!!」

 

''無理やり立つと危ないよ、ほらっ''

 

「あっ」

 

 

足腰が震えている彼女を抱っこ(お姫様)した。

というか、軽いなあ……ちゃんと食べているのだろうか、身長はイオリと同じくらいなのに凄く軽い。

 

 

「…………信じられない、信じられない」

 

''ごめん、嫌だったかな''

 

「さいあく、さいてー」

 

 

口をパクパクさせながら顔をさらに赤らめる。

流石に年頃の女の子を急に抱っこするのはまずかっただろうか。

 

 

「…………降ろして」

 

''もう大丈夫?''

 

「はやく」

 

 

そう言われ、静かに降ろすも彼女はまだ顔を赤くしている。

 

 

「…………信じられない、最悪最低」

 

「ただのセクハラよ、セクシャルハラスメント、センシティブ、変態、どうして身も知らない人の事をそうやって抱っこ出来るの、ありえない」

 

「もういい、かえる」

 

 

彼女はカタコトになりながらも、重い足取りで玄関へ向かう。

 

 

「信じられない、信じられない、信じられない……」

 

 

小言のようにずーーーっと呟く彼女に何だか不安さを感じる。

 

 

「それじゃあサヨナラ、もう来ないから」

 

 

彼女がオフィスを立ち去ろうとした時、また雷が轟いた。

 

また彼女は腰を抜かした。

 

ついでに停電もした。

 

 

 

━━━━━

 

 

 

「……」

 

''今日はここに泊まるの?''

 

「ダメ?セクハラ教師」

 

''えーっと、その……''

 

「私はその気になれば連邦生徒会にクレームを入れる事が出来る」

 

''泊まって大丈夫です!!''

 

 

今、私は蝋燭の炎の明かりを頼りに紅茶を注いでいる。

 

私自身、紅茶はあまり飲む方では無いが彼女が紅茶が好きなようなのでわざわざ暗い棚から紅茶のパックを開封し注いでいるのだ。

 

 

「…………貴方、注ぐの下手くそね」

 

''むっ、じゃあレイナがやってみてよ''

 

 

彼女がティーポットを持ち、注ぎ口から静かに紅茶が流す。

音もなく、暗闇の中なのに正確にカップに注がれている。

 

その紅茶を飲みながら、彼女は私に質問をした。

 

 

「……さっき、私の事が寂しそうって言ったわよね」

 

''うん''

 

「私は今も寂しそうにしてる?」

 

''少しだけ楽しそうにしてる……かな''

 

 

私が頬を掻きながら言うと彼女は 「そう」 とだけ言い、紅茶を一口飲んだ。

 

 

「もう一つ」

 

''ん?''

 

「あの工場の内部にどうやって入ったの?」

 

''それが、よく分からなくて……''

 

「でしょうね」

 

 

けらけらと笑いながら彼女は紅茶のカップを皿に置く。

 

 

''レイナはあの工場について何か知ってるの?''

 

「いいえ、ただ……あそこに何か隠されてるのだけ知ってるわ」

 

「先生、あそこに何があったの?」

 

 

私の目を見つめて、彼女は私を尋問するように問われ私は思わず目を逸らしてしまう。

 

 

''……うーん、特に何も無かったよ''

 

「へえ、期待して損したわ」

 

 

アリスの事を言っては流石にマズイだろう。

 

私は慌てて話題を逸らす。

 

 

''レイナ、あそこは危ないからあんまり行っちゃダメだよ''

 

「助けた人間に言われても説得力が無い」

 

''うっ''

 

 

ごもっともだ、自分でも苦しい話題逸らしだと思う。

 

 

「いいね、私がシスターフッドの生徒ならもっと問い詰めてた」

 

 

シスターフッド、というとトリニティの宗教組織だっただろうか。

 

その言葉を聞いて、私はある質問が思い浮かんだので聞いてみた。

 

 

''そういえばレイナは何処の学園の子なの?''

 

「秘密」

 

 

ニヤニヤと笑いながら彼女は髪を拭いていたタオルを私に渡す。

 

 

「貴方について気になる事がまだあるの」

 

「貴方は身も知らない私を自分の家で歓迎してくれている、どうして?」

 

''生徒が困っていたら助けるのは当然だからかな''

 

「へえ」

 

 

そう一言、乾いた笑いのような感情が一瞬彼女の表情に現れ━━━

 

 

「それは間違っている」

 

 

━━━こめかみに冷たい鉄のような物が当たる感覚。

 

それと同時に、背筋が凍るような感覚と闇に包まれ不安になるような感覚。

 

 

''………………''

 

「ばーん」

 

 

と、彼女が銃を上げると銃口から炎が飛び出した。

 

……ただのおもちゃのライターだ。

 

 

「だから軽はずみに人を信じない方がいいのよ」

 

''それがレイナの使ってる銃?''

 

「まさか、オートマチックなんて素人が使う物よ」

 

''じゃあレイナはリボルバーを使ってるんだ''

 

「そう、リボルバーは最高の銃よ」

 

 

ガタッと、机の上に何かが置かれる。

 

蝋燭の火を反射している銀色の銃身……リボルバーだ。

 

 

''これが……''

 

「少しだけ改造したコルトパイソン、ダブルアクションタイプで……ロングバレルなのがミソよ」

 

''私は銃に関してあまり知識は無いけど凄くかっこいいのは分かるよ''

 

「それだけじゃない、頭に当たれば並大抵の連中はノックダウン……戦車は爆破され、ヘリは墜落し、ボートは沈没する」

 

「私が信じたのは自分の腕と、コレ」

 

 

そう言って銃をコンコンと指で叩くレイナ。

 

 

''でもレイナ、人に対して銃を向けるのは良くないと思うな''

 

()()で私は生きてきた、今更、私の人生に指図するなんて図々しいとは思わない?」

 

 

ニタニタと笑う彼女に、私は少し絶句した。

 

彼女は嘘をついていない、その目を見れば分かる。

目は笑っているが目の奥はどこか虚ろだ。

 

 

''……それは、あまりにも……''

 

「悲しい」

 

「それでいいの」

 

 

その時私はピンと来た、彼女の実態に。

初めてキヴォトスに来た時……ワカモを見た時と同じような笑い方をしている。

 

 

''……レイナ、君は学園に所属していないね?''

 

「ええ」

 

''理由を聞いてもいいかな''

 

「理由は必要?」

 

''必ずあるはずだよ''

 

「…………青春、それが私の嫌いな言葉」

 

「無責任なのよ、自分の青さを春だからという理由で誤魔化すなんて馬鹿げている」

 

「責任は子供だろうが大人だろうが、均等に背負わされる」

 

「私、無責任な事嫌いなの、だから学校に行かない」

 

「責任は人々が全員均等に背負う物、違う?」

 

''違う''

 

''責任は大人が背負うものなんだよ''

 

''……子供が背負うなんて、あってはいけないんだ''

 

 

私は今までの弱々しい態度から一変して、確固たる意志を伝えるように彼女の目を見た。

 

 

「へえ」

 

 

彼女はそう一言言って笑い、紅茶を一口飲んだ。

 

 

「…………今からでも遅くない、と?」

 

''うん、レイナが望むならシャーレで……''

 

「セクシャルハラスメント、通称セクハラ」

 

''違うよ!?''

 

 

私の叫び声に彼女はけらけらと笑う。

 

 

''レイナ、今からでも遅くないよ''

 

''シャーレじゃなくても色々な学園を紹介するから……子供らしくなってみない?''

 

 

蝋燭が揺れる。

窓も雨風で揺れる。

 

 

「……いいね、それが貴方の戦い方?」

 

''戦いじゃないよ、説得''

 

「そう」

 

 

カップを紅茶に置き……彼女はにこやかに微笑んだ。

 

 

「……それじゃあ少しの間シャーレにお邪魔させて貰おうかしら」

 

''ホント!?''

 

「ホント」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、これから宜しくね?」

 

「……シャーレの先生」




━━━西条レイナ
彼女は様々な呼ばれ方をする。
道徳を軽んじ、冷酷でシニカルな人物、テロリスト、スパイ、忍者━━━そして、研究者。
彼女は極端な人間だ、愛する物は底の果てまで愛し、憎む物は天の果てまで憎む。

彼女の好物はブドウとミカンだ、週に一度は必ず食べる。
彼女の苦手な食べ物はトーストと牛乳だ、いつ如何なる時でも彼女はそれを口にしない。

何故彼女はそこまで極端な人間になってしまったのか?

……当然だ、ゲマトリアという組織は極端な思想で出来ているものだろう?

裏切り者の思考は常に極端なものだ。
そうだろう、黒服。







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