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早く間平君を出したい思うこの頃……。
平和な日常もいいけど、バトルシーンも書きてぇんだァ。
黒板には第一次模擬試験の結果が板書されていた。
低い順から並べ直すと4点。15点。33点。68点となる。
順にハナコ、コハル、アズサ、ヒフミだ。合格者は68点のヒフミだけである。
斑目が小さく溜息を零した。
(なんか……ヒフミさんが一番裏切り者っぽいかも。点数だけ見たら)
勿論、本気でそう思っているわけではない。ある種の現実逃避だ。
余計に裏切り者が誰か分からなくなった。
というのも、裏切り者の目的はエデン条約の締結を妨害すること。
それを防ぐため、容疑者4人はここに集められた。それが補習授業部の正体と先生は言っていた。
(……当然、裏切り者からしたら早くこの場から解放されたいに決まってる。高得点を必死に求める筈)
このような論理から、唯一合格しているヒフミが一番裏切り者に適していると言える。
だがヒフミは裏切り者じゃない。実際は彼女以外の、不合格の3人のうちの誰かだ。
しかし絞れる要素がない。答えの出ない問いに、斑目は頭を悩ませた。
「ここからあと一週間、みんなで60点を超えるためには、残りの時間を効率的に使っていかなければならないのです!」
ヒフミの声が教室内に響き渡る。
斑目の脳を揺らし、彼を思考の渦から強制的に抜け出させた。
身体を小さく跳ねさせ、斑目はヒフミに視線を向ける。そこには教卓に手をつき、自分達を見渡す彼女がいた。
まるで先生のようだ。
「そこで! まず、コハルちゃんとアズサちゃんがどちらも一年生用試験ですので、私とハナコちゃんがお二人の勉強内容をお手伝いします!」
「ヒフミさん……あの、僕も参加していいですか」
恐る恐る手を上げる斑目。
言いにくいのか、その声量はいつもより小さい。
「できれば教えてもらう側で……」
「あら? ユウさんも一年生だったのですか?」
「一応……二年生です。年齢通りなら三年です」
「まあ、それは……」
ハナコは片手を口にやる。
目の前の童顔の少年が年上であることに驚いた様子だ。
今度はコハルが斑目に目を向けた。
「それなのに一年生の勉強に自信がないの?」
「正直……。学び直したい気持ちはあります」
斑目が二年生になれたのは、ホシノ達のサポートと彼自身の死ぬ気の詰め込みが功を奏したから。結果、アビドスを出て行った一年生からでなく、二年生からで何とか復学できたのだ。
だがスピードを意識した勉強故か、知識が定着している実感はない。
それでは今後の学習に支障をきたす可能性もあった。
「学び直したい、ですか。一年生の内容を……」
「そう。そうなんだ……!」
「?」
ハナコは斑目の発言を復唱し、コハルは勇気をもらった様子だった。
二人が何故そのような反応をするのか分からず、斑目は首を傾げる。
慌てた様子でヒフミが言った。
「も、勿論、大丈夫ですよユウさん‼ 一緒に勉強しましょう‼」
それからハナコに顔を向ける。今度は声量を落とし、寄り添うようにヒフミは口を開いた。
「……ハナコちゃん、最近何があったのかは知らないのですが、一年生の時の試験では高得点だったんですよね」
「あら……? えっと、まあそうですね……」
「実はその、一年生の時のハナコちゃんの答案を見つけてしまいまして……それでハナコちゃんの方については後程、今の状態になってしまった原因をしっかり把握したうえで、私と先生と一緒に解決策を探しましょう‼」
ハナコは沈黙で返す。斑目は気になってそちらを見てみた。
彼女の表情に変化は見られない。が、少し俯いたからか罪悪感を抱いているように思えた。
ヒフミは続ける。
「まだ途中ですが他にも試験を作成中ですので、今日から定期的に模試を行って、進捗具合も確認できればと思っています」
……これが恐らくは、今できるベストの選択。
ヒフミはそう心の底で呟き、作った模試を教卓の上に乗せてから、顔を上げた。
「頑張りましょう! きっと、頑張ればどうにか、皆で合格できる筈です……!」
それは本心から出たものだ。打算も偽りもない、混じりっけなしのヒフミの本心。
それに心が打たれたのだろう。
「……うん、了解。指示に従う」
「わ、分かった……」
アズサ、コハルが頷いた。
ハナコは感心したように息を吐く。
「ヒフミちゃん……凄いですね。昨晩だけでこんなに準備を……」
「あ、いえいえ、先生も手伝ってくださったので……」
「なるほど、先生が……」
「大したことはしてないよ。これはヒフミの頑張りの成果」
確かに、と斑目は心の中で頷く。
先生の部屋で、ヒフミと先生の話はこっそり聞いていた。その最中、模試を作る様子なんて見られなかったことを思い出す。
つまり先生の部屋から出た後、ヒフミは一人で模試を作ったのだろう。先生はその背中を押しただけ。
全てはヒフミの優しさと行動力によるものだ。本当に良い人だと、斑目は教卓の後ろに立つヒフミを見た。
「それだけではありません、何とご褒美も用意しちゃいました! えっと……」
ガサゴソ、とヒフミは教卓の陰に隠れる。予めそこに用意していたようだ。
「こちらです! よい成績を出せた方には、この『モモフレンズ』のグッズをプレゼントしちゃいます!」
「モモフレンズ……?」
「何……この、何……?」
満面の笑みで、教卓の上にヒフミはモモフレンズのグッズを置く。
ハナコとコハルは首を傾げるだけだ。こちらは心に響かなかったらしい。
「あ、あれ……? 最近流行りの、あの『モモフレンズ』ですが……もしかして、ご存じないですか? ユ、ユウさんはありますよね⁉」
「ノノミさんから聞いたような気が……」
「……初めて見たかと思いましたが、私もどこかでちらっと見た気も……?」
斑目はノノミ経由で名前を知っているようだが、それだけだった。
しーん、とした空気が教室に染みわたる。先程までのエネルギッシュな空気が嘘のようだった。
(ど、どうしましょう……! この空気っ)
(い、今からでも喜ぶ⁉ で、でも嘘っぽくて余計にダメな空気になったら……!)
(確かノノミさんが言っていたキャラは、えーと、な、何だったっけ……⁉)
ヒフミは自身の選択による結果を嘆き。
コハルは今できる行動と、それに伴うリスクに頭を悩ませ。
斑目は過去の記憶から、何とかモモフレンズに関する知識を取り出そうとする。
そんな時、救いの女神が舞い降りた。
「か、可愛い……‼」
「「「⁉」」」
「あら……?」
アズサだ。
湧き上がる衝動に我慢できなかったのだろう。教卓の前まで駆けてきた彼女は、ペロロ様のグッズを抱き上げた。
「か、可愛すぎる……! 何だこれは、この丸くてフワフワした生物は……!」
「この目、表情が見えない……何を考えているのか全く分からない……!」
それは褒めているのだろうか。
斑目は首を傾げるが、アズサの瞳は輝いている。そこに魅力を感じているのは確かなようだ。
人の好みは色々あるらしい。
コハルとハナコも、アズサの豹変ぶりに驚いている。ヒフミは嬉しそうに両手を合わせた。
「さすがはアズサちゃん、ペロロ様の可愛さに気付いてくれたんですね! そうです! そういうところが可愛いんです!」
「こ、こっちは? この長いのは? イモリ……いや、キリン? 何だか首に巻いたら温かそうな……!」
「それは──」
ヒフミとアズサが会話に花を咲かせる。
アズサがグッズを手に取り、それについて聞かれたヒフミが解説していた。
ハナコは困ったように笑い、コハルは困惑している様子だ。
「あらあら……」
「な、何なの……」
「まあでも、よかったじゃないですか」
グッズはまだある。しばらく二人の話は終わらないだろう。
斑目はそれでも良いと思った。
アズサは初めてのものに触れ、ヒフミは話の合う友達が出来て嬉しそうだ。
あのまま微妙な空気で終わるよりずっと、今の光景を見れた方がいい。
「二人共楽しそうで」
「……フフっ。はい、そうですね」
ハナコはそう言って頷く。
二人が再び教卓の方に目を向けた頃には、アズサとヒフミの話は終わっていた。
アズサが教卓にグッズの一つを置く。
「……やむを得ない、全力を出すとしよう」
そのまま自らの誓いを、教室内に響かせた。
「良いモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう。必ずや任務を果たして、あの不思議でふわふわした動物を手にして見せる‼」
「は、はい! ファイトです!」
ヒフミの頬が緩む。
「えへ、えへへへへへへ」
自分の好きなモモフレンズをきっかけに、アズサがここまでモチベーションを上げたこと。
それがとても嬉しかったのかもしれない。二人は今後も良い関係を築けそうだと斑目は思うのだった。