憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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気温の変わりようが凄いですね……。
皆さま、体調を崩さぬようお気を付けください。
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6.小さな仲直り

 

 

 

 

 

 

 ヒフミによる、モチベーションを向上させる策。

 それは効果覿面だった。特にアズサに対して目に見えて、以前との違いを確認できる。

 

 

 

「コハル。質問」

「うん、え、私? 私に⁉」

 

 

 

 そう言って、手を上げてコハルに呼びかけるアズサ。

 

 以前から真面目に取り組んではいたが、先程からその目は輝いていた。

 よい成績を出して、モモフレンズのグッズを手に入れたいようだ。

 

 指名を受け、驚くコハルに頷く。

 

 

 

「そう、コハルに。今同じところを勉強している筈だ。この問題なんだけど……」

「う、うん……」

 

 

 

 緊張した面持ちで、コハルは椅子ごとアズサの机に移動する。

 しかし知っている問題だったようで、表情を輝かせた後、完璧に教えることができた。

 

 納得したようにアズサは頷いた。

 

 

 

「助かった。これは確かに、正義実現委員会のエリートというのも頷ける」

「⁉ そ、そうよ! エリートだもの! ……も、もしまた何か分からなかったら、私に聞いても良いから。アズサはその、特別に」

「ありがとう。助かる」

 

 

 

 嬉しさが抜けきらないのだろう。僅かに紅潮した頬のまま、小さくコハルが言った。

 アズサも嬉しそうに笑みを零す。小さい女の子同士の青春の一ページ。

 

 ハナコはそんな光景を見て、微笑みながら言う。

 

 

 

「あらあら……さすが裸の付き合いをしただけはあると言いますか、もう深いところまで入った仲なのですね……♡」

「ハナコさん……僕もいるんですよ」

「ユウの言う通りよ! 変な勘違いされたらどうするの⁉ そういうのじゃないから!」

 

 

 

 恥ずかしそうに目を伏せながら斑目が、牙を剥く猫のようにコハルが反応した。

 

 ハナコの言葉選びは生々しい。嫌でもその光景が想像できてしまうのだ。

 まだ会話に入っていないヒフミも、恥ずかしそうに俯いていた。

 

 唯一ピンクな想像が浮かばない、純粋なアズサは首を傾げる。

 

 

 

「うん? ハナコも身体を洗ってほしいのか?」

「あら、いいんですか♡ それなら早速、今夜にでも……」

「ハナコさん、もうそこまでにしておきましょう⁉」

「んあっ♡」

「⁉」

 

 

 

 斑目が制止を試みて、ハナコの肩を掴むとその口から艶やかな声が漏れた。

 頬を赤らめ、恥ずかしそうにこちらを見るハナコに、反射的に手を離す。

 

 

 

「ご、ごめんなさいっ」

「いえいえ♡ ユウさん、意外に力が強いんですね。そんな力で、今より少し下の部分を掴まれたら、私、どうなってたんでしょうか……っ」

「下って……!」

 

 

 

 自然にハナコの、制服を押し上げる大きな胸に視線が移った。

 面白がるように、ハナコは上目遣いで自らの胸と肩に手を這わせる。

 

 

 

「ユウさん。今、思ったより柔らかいって……感じませんでしたか? 今掴んだところは、本当に肩と言い切れるでしょうか……? この胸とこの肩。境目なんて、あるんですかね♡」

 

 

 

 斑目はフリーズしてしまった。だが何とか答えを絞り出そうとしている。

 ハナコはニコニコとしながらそれを待っている様子だ。

 

 英霊に敬礼し、コハルはアズサの手を引く。

 彼の犠牲で、天使が堕とされるのを防げたのだ。

 

 

 

「勉強に戻りましょう、アズサ!」

「あ、ああ。……じゃあコハル、これも聞きたい」

 

 

 

 コハルの気迫に押され、アズサは問題を指差した。

 先程と違い、コハルの脳内でその問いに対する解答はすぐに出てこない。

 

 アズサの瞳が少し揺れた。

 

 

 

「コハルも知らない問題か?」

「うーんと、これ、確か参考書で見たような……ちょ、ちょっと待って。確か持ってきたはず」

 

 

 

 頼られたからには応えたい。

 その問題がある参考書を持ってきた覚えもあった。

 

 コハルは自分のバッグの中を漁る。

 記憶を頼りに、それらしき書物を出した。

 

 

 

「よいしょっと!」

「?」

「「「「⁉」」」」

 

 

 

 満面の笑みのコハル。初めて見るような表紙に、瞬きをするアズサ。

 そして驚きを露わにする先生・ヒフミ・斑目・ハナコ。

 

 最初に声を発したのはアズサだった。

 

 

 

「この参考書に乗ってるのか?」

「うん! この参考書に────あれ?」

「エッチな本ですねぇ」

 

 

 

 首を傾げるコハルに、ハナコが楽しげに残酷な真実を告げる。

 もう一度表紙を見て、教室にいる皆を見て、再度表紙を見てコハルは叫んだ。

 

 

 

「うわあぁぁぁぁぁっ⁉ な、なんでっ⁉」

「コハルちゃんっ、それエッチな本ですよね?」 

「ある意味参考書ではあるかな……うぅん。先生として没収すべき……?」

 

 

 

 ハナコは言わずもがな、先生は意外とエッチな本には耐性があるようだった。対処で悩む余裕がある。

 過去に『顔無し』の身体で興奮したり、仕方ないとはいえイオリの足を舐めた女性だ。

 よく考えると当たり前のことだった。

 

 

 

「掃除のときに言われた男性像、これが原因か……」

 

 

 

 斑目は掃除の時に言われたことの背景を知れ、つい呟いてしまう。

 

 『男の子は二人きりになると距離を縮めて、遂には野獣になる』

 エッチな本の導入と言われれば、確かにありがちかもしれない。

 それを自分に適用されるのは、心外ではあったが。

 

 斑目の呟きに、コハルが慌てた様子で叫ぶがもう遅い。

 

 

 

「わっ、バカ!」

「あらあらあら♡ 一体どんな男性像だったか、お聞きしても」

「いいわけないでしょ‼ とにかく違うの! 見間違い! 絶対に違う‼」

「私の目は誤魔化せませんよ、確実にアレなことをする本でした。証言も出ています。結構ハードな……トリニティ、いえキヴォトスでも上位を争うものだと判断しました!」

 

 

 

 斑目は先生に顔を向け、小声で言う。

 

 

 

「どうしてハナコさんが分かるのか……を突っ込むのは野暮ですかね」

「いやー、あはは。最近の女子高生は進んでるねー」

「あの二人が進んでいるんですよ……」

 

 

 

 お嬢様ともなると、やはり色々と自分には分からないプレッシャーがあるのだろうか。

 楽しそうなハナコと必死に弁明しているコハルを見て、斑目はそう思うのだった。 

 

 

 

 

 

 

 心地の良い疲労が溜まっている。

 合宿所に帰ってきた斑目は、僅かに張るふくらはぎを軽く叩いて、軽く息を吐いた。

 

 先程まで斑目は、コハル、先生と共に正義実現委員会に赴いていた。

 というのも、例のエッチな本。

 どうやらコハルの私物ではなく、正義実現委員会の押収品だったらしい。

 

 であれば、早めに返した方がいいのではないかという話になり、返してきたのだ。

 

 

 

『ごめんなさい。コハルさんはああいった本を読んでないのに、僕の一言のせいで皆に誤解をさせてしまった』

『べ、別にいいのよ。分かればいいの、分かれば‼』

 

 

 

 道中、斑目とコハルの間でそんなやり取りがあった。

 数秒経って、謝罪を受け入れたコハルは言う。お互い様だと。

 

 

 

『私も、ユウに酷いこと言ったし……』

『酷いこと?』

『偽物のヘイローって。そこに浮かんでいる時点で、偽物も何もないのに……ごめん』

 

 

 

 あの時の斑目の表情は、深い闇のようだった。

 自分に対する怒り、悲しみ、それらが混ざったような感情。

 

 触れてはいけない何かだということは、発言の後に察した。

 自分の配慮が足りず、傷付けたことをコハルは後悔していたのだ。

 

 

 

『ありがとうございます。そう言ってくれると嬉しいです』

 

 

 

 斑目は微笑む。

 そして触れない頭上のヘイローに手を伸ばした。

 

 

 

『ずっと気にしてくれていたんですね……。大丈夫ですよコハルさん、あの時のことは気にしていませんから。それに、僕は皆と同じようになることを、諦めるつもりはありませんし』

『そ、そう? ならよかった……! こ、これでおあいこだから! だからこれから、変に気遣うのはなしにしましょうお互いに!』

『分かりました。コハルさん』

 

 

 

 そんなわけで、二人は小さな仲直りをしたのだ。

 

 合宿所に帰ってきた斑目は、汗によって身体に張り付く服が気になったので、少し早いが割り当てられた部屋の中にある風呂に入ることにした。

 

 入浴を終えると動きやすい服装に着替え、しばらく部屋にこもり勉強する。

 複数の単元を反復し理解した。先生達と出かけてから、結構な時間が経っている。

 

 気分転換に誰かと話そうかと肩を回してから、廊下に出た。

 すると一つの部屋からヒフミ達の声が聞こえてきた。

 

 

 

(……先生の声は聞こえない。一緒にいないのかな?)

 

 

 

 扉の前で、ノックしようとした手を止める。

 何というか入りにくい。今の彼女達は勉強を目的とした集まりではなく、ただ話すためだけに集まっている。

 

 そんな中に男の自分が入るのは、恥ずかしく感じた。

 

 

 

「あ、いいことを思いつきました。今度お風呂代わりに、みんな裸でプールに飛び込むのはどうでしょう?」

「さらっと何言ってんの⁉ ダメ! そんなすごいの絶対禁止っ!!」

 

 

 

 やっぱり入らない方がよさそうだ。

 室内から聞こえた話題に、斑目は静かにその場を去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 自室での勉強を終え、喉が渇いたので食堂に行った帰り道。

 廊下を歩いていると、先生の部屋の前にヒフミが立っていた。

 

 

 

「ヒフミさん?」 

「あ、ユウさん。こんばんは」

「こんばんは。何かあったんですか?」

「はい……少し先生にお話ししたいことがあって」

 

 

 

 ヒフミは迷う素振りを見せた後、顔を上げた。

 

 

 

「っそうだ。ユウさんも聞いていただけませんか?」 

「勿論。助けになるかは分かりませんが……」

「あはは。聞いてくれるだけで十分助かりますよ」 

 

 

 

 ありがとうございます。

 そう笑顔で言われ、斑目はたじろぎつつ、小さく頷いた。

 嬉しい気持ちを、何とか抑える。

 

 ヒフミはそんな彼の姿を見て、自身の小さな胸を押さえた。

 

 

 

「はうっ」

「? ヒフミさん、どうかしましたかっ」

「だ、大丈夫です。ちょっと」

 

 

 

 ユウさんに母性本能が働いただけです……。

 そう、ヒフミは心の中で付け加えた。

 口に出したら、男子である斑目は気にしてしまうと思ったからだ。

 

 だがヒフミより少し背が高く。童顔だ。

 かつ実年齢は上だけど精神年齢が下の異性の仕草は、時に彼女の母性本能を刺激するものだった。

 

 

 

「なら良いのですが……」

 

 

 

 斑目はそう言って、先生の部屋の扉を3回ノックする。

 すぐに室内から声が返ってきた。

 

 

 

「どうぞ」

「先生、失礼します」

「斑目君? ヒフミも。どうしたの?」

「えっと先生。お話したいことがありまして。あ、ユウさんとは先生の部屋の前で偶然会って」

「成程ね。いいよ、二人共ベッドに座って」

 

 

 

 斑目とヒフミは同じベッドに座る。

 先生は椅子に座りながら、話を聞く姿勢になった。

 

 

 

「実はハナコちゃんのこと、なのですが……」

 

 

 

 そこから話された内容は、斑目にとっても驚く内容だった。

 

 ヒフミが模範解答を集めている際、何故か束になっているものがあったこと。

 その束が昨年の1~3年生までの、全ての試験における解答用紙の纏まりだったこと。

 

 全てそれを回答した者がおり、3年生の秀才クラスでも難しいとされる課程を含めて「全ての試験」で満点を出していたこと。

 その人物が、ハナコだったこと。

 

 

 

「確かハナコさんは今、2年生ですよね? ……凄い1年生だ」

「完膚なきまでに秀才、と言えるね」

「私は1年生の分の試験結果を見て、ハナコちゃんはきっと『今年になって急に成績が落ちてしまったんだ』と思っていました。でも、この結果を見る限り」

「……わざと試験に落ちている、ということですか」

 

 

 

 去年の段階でどんな問題でも解けている以上、ヒフミの推測は成り立たない。

 斑目は内心で呟く。

 

 

 

(……多分、ハナコさんは裏切り者じゃない)

 

 

 

 斑目は裏切り者の立場になって考えてみた。

 その人にとって落第は避けたい筈だ。自由に動くことができないのだから。

 

 にも拘らず、ハナコは自らその方向に進んでいる。

 だから裏切り者じゃない。そう考えたのだ。

 

 

 

(……というか、もっとも裏切り者であってほしくないかな……)

 

 

 

 ハナコの頭脳はズバ抜けている。斑目は勝てる気がしなかった。

 それに彼女を裏切り者だと考えれば、いつもの言動はこちらのペースを崩すための偽りの姿なのではと、どんどん思考の渦に嵌まってしまいそうだ。

 

 しかし困った。

 本試験に合格できなければ補習授業部に待つのは、落第ではなく退学なのだ。

 どういう理由で試験に落ちているかは分からないが、ハナコのそれは早めに対処しなければならない問題だろう。

 

 

 

「ハナコちゃん、一体どうして……」

 

 

   

 ヒフミが小さく零す。

 3人はその理由について、頭を突き合わせて考えてみたが、一向にそれらしい答えは見つからなかった。

 そのままお開きとなった。

 

 

 自室のベッドの上で、斑目は溜息を吐く。

 

 三人寄れば文殊の知恵。3人が集まれば素晴らしい知恵が出るという諺。

 そうはいうものの、諺が現実に現れることはあまりないようだった。

 

 アビドスでは現れている途中である。石の上にも3年が。

 最初は辛くても、辛抱すれば報われる。その兆しが見えてきたのだ。

 

 

 

 ここ補習授業部も、最終的にはハッピーエンドで終わってほしい。

 そう願いながら、斑目は瞼を閉じるのだった。

 

 

 




次回、ピンクのお姫様。襲来
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