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今後ともよろしくお願いいたします!
気温の変わりようが凄いですね……。
皆さま、体調を崩さぬようお気を付けください。
インフルにかからないよう、私も頑張りますので!
ヒフミによる、モチベーションを向上させる策。
それは効果覿面だった。特にアズサに対して目に見えて、以前との違いを確認できる。
「コハル。質問」
「うん、え、私? 私に⁉」
そう言って、手を上げてコハルに呼びかけるアズサ。
以前から真面目に取り組んではいたが、先程からその目は輝いていた。
よい成績を出して、モモフレンズのグッズを手に入れたいようだ。
指名を受け、驚くコハルに頷く。
「そう、コハルに。今同じところを勉強している筈だ。この問題なんだけど……」
「う、うん……」
緊張した面持ちで、コハルは椅子ごとアズサの机に移動する。
しかし知っている問題だったようで、表情を輝かせた後、完璧に教えることができた。
納得したようにアズサは頷いた。
「助かった。これは確かに、正義実現委員会のエリートというのも頷ける」
「⁉ そ、そうよ! エリートだもの! ……も、もしまた何か分からなかったら、私に聞いても良いから。アズサはその、特別に」
「ありがとう。助かる」
嬉しさが抜けきらないのだろう。僅かに紅潮した頬のまま、小さくコハルが言った。
アズサも嬉しそうに笑みを零す。小さい女の子同士の青春の一ページ。
ハナコはそんな光景を見て、微笑みながら言う。
「あらあら……さすが裸の付き合いをしただけはあると言いますか、もう深いところまで入った仲なのですね……♡」
「ハナコさん……僕もいるんですよ」
「ユウの言う通りよ! 変な勘違いされたらどうするの⁉ そういうのじゃないから!」
恥ずかしそうに目を伏せながら斑目が、牙を剥く猫のようにコハルが反応した。
ハナコの言葉選びは生々しい。嫌でもその光景が想像できてしまうのだ。
まだ会話に入っていないヒフミも、恥ずかしそうに俯いていた。
唯一ピンクな想像が浮かばない、純粋なアズサは首を傾げる。
「うん? ハナコも身体を洗ってほしいのか?」
「あら、いいんですか♡ それなら早速、今夜にでも……」
「ハナコさん、もうそこまでにしておきましょう⁉」
「んあっ♡」
「⁉」
斑目が制止を試みて、ハナコの肩を掴むとその口から艶やかな声が漏れた。
頬を赤らめ、恥ずかしそうにこちらを見るハナコに、反射的に手を離す。
「ご、ごめんなさいっ」
「いえいえ♡ ユウさん、意外に力が強いんですね。そんな力で、今より少し下の部分を掴まれたら、私、どうなってたんでしょうか……っ」
「下って……!」
自然にハナコの、制服を押し上げる大きな胸に視線が移った。
面白がるように、ハナコは上目遣いで自らの胸と肩に手を這わせる。
「ユウさん。今、思ったより柔らかいって……感じませんでしたか? 今掴んだところは、本当に肩と言い切れるでしょうか……? この胸とこの肩。境目なんて、あるんですかね♡」
斑目はフリーズしてしまった。だが何とか答えを絞り出そうとしている。
ハナコはニコニコとしながらそれを待っている様子だ。
英霊に敬礼し、コハルはアズサの手を引く。
彼の犠牲で、天使が堕とされるのを防げたのだ。
「勉強に戻りましょう、アズサ!」
「あ、ああ。……じゃあコハル、これも聞きたい」
コハルの気迫に押され、アズサは問題を指差した。
先程と違い、コハルの脳内でその問いに対する解答はすぐに出てこない。
アズサの瞳が少し揺れた。
「コハルも知らない問題か?」
「うーんと、これ、確か参考書で見たような……ちょ、ちょっと待って。確か持ってきたはず」
頼られたからには応えたい。
その問題がある参考書を持ってきた覚えもあった。
コハルは自分のバッグの中を漁る。
記憶を頼りに、それらしき書物を出した。
「よいしょっと!」
「?」
「「「「⁉」」」」
満面の笑みのコハル。初めて見るような表紙に、瞬きをするアズサ。
そして驚きを露わにする先生・ヒフミ・斑目・ハナコ。
最初に声を発したのはアズサだった。
「この参考書に乗ってるのか?」
「うん! この参考書に────あれ?」
「エッチな本ですねぇ」
首を傾げるコハルに、ハナコが楽しげに残酷な真実を告げる。
もう一度表紙を見て、教室にいる皆を見て、再度表紙を見てコハルは叫んだ。
「うわあぁぁぁぁぁっ⁉ な、なんでっ⁉」
「コハルちゃんっ、それエッチな本ですよね?」
「ある意味参考書ではあるかな……うぅん。先生として没収すべき……?」
ハナコは言わずもがな、先生は意外とエッチな本には耐性があるようだった。対処で悩む余裕がある。
過去に『顔無し』の身体で興奮したり、仕方ないとはいえイオリの足を舐めた女性だ。
よく考えると当たり前のことだった。
「掃除のときに言われた男性像、これが原因か……」
斑目は掃除の時に言われたことの背景を知れ、つい呟いてしまう。
『男の子は二人きりになると距離を縮めて、遂には野獣になる』
エッチな本の導入と言われれば、確かにありがちかもしれない。
それを自分に適用されるのは、心外ではあったが。
斑目の呟きに、コハルが慌てた様子で叫ぶがもう遅い。
「わっ、バカ!」
「あらあらあら♡ 一体どんな男性像だったか、お聞きしても」
「いいわけないでしょ‼ とにかく違うの! 見間違い! 絶対に違う‼」
「私の目は誤魔化せませんよ、確実にアレなことをする本でした。証言も出ています。結構ハードな……トリニティ、いえキヴォトスでも上位を争うものだと判断しました!」
斑目は先生に顔を向け、小声で言う。
「どうしてハナコさんが分かるのか……を突っ込むのは野暮ですかね」
「いやー、あはは。最近の女子高生は進んでるねー」
「あの二人が進んでいるんですよ……」
お嬢様ともなると、やはり色々と自分には分からないプレッシャーがあるのだろうか。
楽しそうなハナコと必死に弁明しているコハルを見て、斑目はそう思うのだった。
心地の良い疲労が溜まっている。
合宿所に帰ってきた斑目は、僅かに張るふくらはぎを軽く叩いて、軽く息を吐いた。
先程まで斑目は、コハル、先生と共に正義実現委員会に赴いていた。
というのも、例のエッチな本。
どうやらコハルの私物ではなく、正義実現委員会の押収品だったらしい。
であれば、早めに返した方がいいのではないかという話になり、返してきたのだ。
『ごめんなさい。コハルさんはああいった本を読んでないのに、僕の一言のせいで皆に誤解をさせてしまった』
『べ、別にいいのよ。分かればいいの、分かれば‼』
道中、斑目とコハルの間でそんなやり取りがあった。
数秒経って、謝罪を受け入れたコハルは言う。お互い様だと。
『私も、ユウに酷いこと言ったし……』
『酷いこと?』
『偽物のヘイローって。そこに浮かんでいる時点で、偽物も何もないのに……ごめん』
あの時の斑目の表情は、深い闇のようだった。
自分に対する怒り、悲しみ、それらが混ざったような感情。
触れてはいけない何かだということは、発言の後に察した。
自分の配慮が足りず、傷付けたことをコハルは後悔していたのだ。
『ありがとうございます。そう言ってくれると嬉しいです』
斑目は微笑む。
そして触れない頭上のヘイローに手を伸ばした。
『ずっと気にしてくれていたんですね……。大丈夫ですよコハルさん、あの時のことは気にしていませんから。それに、僕は皆と同じようになることを、諦めるつもりはありませんし』
『そ、そう? ならよかった……! こ、これでおあいこだから! だからこれから、変に気遣うのはなしにしましょうお互いに!』
『分かりました。コハルさん』
そんなわけで、二人は小さな仲直りをしたのだ。
合宿所に帰ってきた斑目は、汗によって身体に張り付く服が気になったので、少し早いが割り当てられた部屋の中にある風呂に入ることにした。
入浴を終えると動きやすい服装に着替え、しばらく部屋にこもり勉強する。
複数の単元を反復し理解した。先生達と出かけてから、結構な時間が経っている。
気分転換に誰かと話そうかと肩を回してから、廊下に出た。
すると一つの部屋からヒフミ達の声が聞こえてきた。
(……先生の声は聞こえない。一緒にいないのかな?)
扉の前で、ノックしようとした手を止める。
何というか入りにくい。今の彼女達は勉強を目的とした集まりではなく、ただ話すためだけに集まっている。
そんな中に男の自分が入るのは、恥ずかしく感じた。
「あ、いいことを思いつきました。今度お風呂代わりに、みんな裸でプールに飛び込むのはどうでしょう?」
「さらっと何言ってんの⁉ ダメ! そんなすごいの絶対禁止っ!!」
やっぱり入らない方がよさそうだ。
室内から聞こえた話題に、斑目は静かにその場を去るのだった。
自室での勉強を終え、喉が渇いたので食堂に行った帰り道。
廊下を歩いていると、先生の部屋の前にヒフミが立っていた。
「ヒフミさん?」
「あ、ユウさん。こんばんは」
「こんばんは。何かあったんですか?」
「はい……少し先生にお話ししたいことがあって」
ヒフミは迷う素振りを見せた後、顔を上げた。
「っそうだ。ユウさんも聞いていただけませんか?」
「勿論。助けになるかは分かりませんが……」
「あはは。聞いてくれるだけで十分助かりますよ」
ありがとうございます。
そう笑顔で言われ、斑目はたじろぎつつ、小さく頷いた。
嬉しい気持ちを、何とか抑える。
ヒフミはそんな彼の姿を見て、自身の小さな胸を押さえた。
「はうっ」
「? ヒフミさん、どうかしましたかっ」
「だ、大丈夫です。ちょっと」
ユウさんに母性本能が働いただけです……。
そう、ヒフミは心の中で付け加えた。
口に出したら、男子である斑目は気にしてしまうと思ったからだ。
だがヒフミより少し背が高く。童顔だ。
かつ実年齢は上だけど精神年齢が下の異性の仕草は、時に彼女の母性本能を刺激するものだった。
「なら良いのですが……」
斑目はそう言って、先生の部屋の扉を3回ノックする。
すぐに室内から声が返ってきた。
「どうぞ」
「先生、失礼します」
「斑目君? ヒフミも。どうしたの?」
「えっと先生。お話したいことがありまして。あ、ユウさんとは先生の部屋の前で偶然会って」
「成程ね。いいよ、二人共ベッドに座って」
斑目とヒフミは同じベッドに座る。
先生は椅子に座りながら、話を聞く姿勢になった。
「実はハナコちゃんのこと、なのですが……」
そこから話された内容は、斑目にとっても驚く内容だった。
ヒフミが模範解答を集めている際、何故か束になっているものがあったこと。
その束が昨年の1~3年生までの、全ての試験における解答用紙の纏まりだったこと。
全てそれを回答した者がおり、3年生の秀才クラスでも難しいとされる課程を含めて「全ての試験」で満点を出していたこと。
その人物が、ハナコだったこと。
「確かハナコさんは今、2年生ですよね? ……凄い1年生だ」
「完膚なきまでに秀才、と言えるね」
「私は1年生の分の試験結果を見て、ハナコちゃんはきっと『今年になって急に成績が落ちてしまったんだ』と思っていました。でも、この結果を見る限り」
「……わざと試験に落ちている、ということですか」
去年の段階でどんな問題でも解けている以上、ヒフミの推測は成り立たない。
斑目は内心で呟く。
(……多分、ハナコさんは裏切り者じゃない)
斑目は裏切り者の立場になって考えてみた。
その人にとって落第は避けたい筈だ。自由に動くことができないのだから。
にも拘らず、ハナコは自らその方向に進んでいる。
だから裏切り者じゃない。そう考えたのだ。
(……というか、もっとも裏切り者であってほしくないかな……)
ハナコの頭脳はズバ抜けている。斑目は勝てる気がしなかった。
それに彼女を裏切り者だと考えれば、いつもの言動はこちらのペースを崩すための偽りの姿なのではと、どんどん思考の渦に嵌まってしまいそうだ。
しかし困った。
本試験に合格できなければ補習授業部に待つのは、落第ではなく退学なのだ。
どういう理由で試験に落ちているかは分からないが、ハナコのそれは早めに対処しなければならない問題だろう。
「ハナコちゃん、一体どうして……」
ヒフミが小さく零す。
3人はその理由について、頭を突き合わせて考えてみたが、一向にそれらしい答えは見つからなかった。
そのままお開きとなった。
自室のベッドの上で、斑目は溜息を吐く。
三人寄れば文殊の知恵。3人が集まれば素晴らしい知恵が出るという諺。
そうはいうものの、諺が現実に現れることはあまりないようだった。
アビドスでは現れている途中である。石の上にも3年が。
最初は辛くても、辛抱すれば報われる。その兆しが見えてきたのだ。
ここ補習授業部も、最終的にはハッピーエンドで終わってほしい。
そう願いながら、斑目は瞼を閉じるのだった。
次回、ピンクのお姫様。襲来