憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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水着ヒヨリとミサキお出迎えしました。
あの戦闘終了画面いいっすね~‼


4.裏切り者の存在

 

 

 

 んぅ……とくぐもった声がした。

 斑目はそれを聞いたところで何とも思わず、眼を薄く開ける。

 

 自分が今ベッドの上で寝ていて、その声を発したのが自身だと分かったからだ。

 きっと少し背を丸めた体勢で寝ていたのが原因だろう。

 

 

 

(……そうだ。僕、プールで)

 

 

 

 何故ベッドで寝ているのかという疑問は、記憶を遡れば何となく察せた。

 同時にまたあの男子にとって刺激的な光景が想起される。慌てて斑目は強く目を瞑り、目の前に広がる黒に集中した。

 

 煩悩が去る。次に斑目は今いる場所を確認しようとした。

 寝返るふりをしてみれば、先生が一人椅子に座っている。ここは彼女の部屋のようだ。

 

 大人として、何事もなく子供が起きるまで見守るために自分の部屋で寝かせた。

 斑目はそう推測し、心配をかけてしまったことを申し訳なく思う。

 

 

 

(お礼を言って、謝りたいんだけど……)

 

 

 

 先生は真剣な表情だった。そして何か考え事をしているようである。

 果たして声を掛けるべきか、斑目は悩んだ。

 

 そんな時、先生の部屋がノックされた。

 丁寧に3回。控えめかつ規則正しい間隔が空けられた音だ。

 

 

 

「どうぞ、入って」

「あ、えと、失礼します……」

 

 

 

 ゆっくりと扉を開けたのはヒフミだった。

 昼に見た体操着姿だ。パジャマ代わりなのだろう。

 

 

 

「その、夜中にすみません」

「ヒフミ、どうしたの?」

「何だか眠れないと言いますか……。あれこれ考えていたら、その……あぅぅ……」

 

 

 

 ヒフミがそう言うと、先生は椅子から立ち上がる。

 そして空いているベッドに座った。柔らかいものを叩く音が2回する。

 

 

 

「ヒフミ。一緒にお話しよう? 少しはすっきりするかもしれないし」

「あ、ありがとうございますっ」

 

 

 

 ヒフミは先生と並んでベッドに座った。

 少し彼女の顔が動く。直感的にこちらを見ると斑目は予測し、目を瞑った。

 

 理由は分からない。

 寝起きで、知り合ったばかりの異性と目が合うのが気まずかったのかもしれない。

 

 心配そうにヒフミが言う。

 目を閉じていても、その視線が自分に向けられていることを斑目は感じ取った。

 

 

 

「ユウさん、まだ起きませんね……大丈夫でしょうか?」

「外傷はなかったし大丈夫だと思う。きっと疲労が溜まっていたんだね、今日はこのまま寝かせてあげるつもり」

「……そうですね。一番頑張ってくれたのは、ユウさんですから。これで明日からは、集中して勉強ができそうです」

 

 

 

(っ! やった……‼)

 

 

 

 一番頑張ってくれた。

 その言葉に、斑目の胸の内に熱いものがこみ上げてくる。

 

 誰かの『役に立てている』ことが自覚出来て嬉しかった。

 もっと頑張ろう。斑目は強くそう思った。

 

 

 

「あまり無理してほしくはないんですけどね……でも」

 

 

 

 小さな不満を述べた後、その声に陰が落ちる。

 

 

 

「明日から本格的な合宿なのですが……私達、このままで大丈夫なのでしょうか……」

「……」

「もし一週間後の二次試験に落ちてしまったら、三次試験。万が一それにも落ちてしまったら……」

 

 

 

 ヒフミが口にした仮定。

 それに続く先生の声も自然と小さく、低いものとなる。

 

 

 

「……全員退学」

(え……⁉)

 

 

 

 内容が内容だった。仕方ないことだ。

 斑目も驚きを隠せなかった。落第に課されるペナルティがあまりにも大きすぎる。連帯責任とは……。

 

 

 

(……皆、仲良くなり始めているのに……)

 

 

 

 少ない時間ではあるが補習授業部と一緒に過ごし、彼女達のやり取りを見てきた斑目。

 その光景は輝いていた。アビドスで過ごす彼女達のように。

 

 それが引き裂かれるのを想像すると、ぽっかりと胸に穴が空いたような気持ちになった。

 ヒフミは息を零すだけだ。ただその深さから、悩んでいることは明白だった。

 

 

 

「やっぱり先生も知っていたんですね……。まだ誰にも言っていませんが、そもそも言って良いことなのかどうかも分からなくて……」 

「学力試験なのに、どうしてこういう『全員一斉に』みたいな評価システムなのかもよく分かっていませんし、私達の試験のためだけにこんな合宿施設まで提供してもらえるなんて……」

 

 

 

 

 それに、とヒフミは言いかけるが、黙ってしまう。

 先生が問いかけた。問う、というよりは確認に近い。

 

 

 

「もしかしてヒフミ、他にもナギサから何か言われたりした……?」

「いえ、そ、その……⁉」

「うん」

「……はい。ナギサ様から『誰にも言わないように』と言われていたのですが、私の手に負えるような話ではなくって……」

 

 

 

 斑目を置いて話は進んでいく。

 

 今のところ彼が何とか理解したのは、ナギサという者がヒフミに対し、合宿で結果を残さなければ補習授業部全員が退学になると告げたということだ。

 

 だがまだ何かあるらしい。

 心当たりがあるらしく、先生が一呼吸置いて言った。

 

 

 

「……『トリニティの裏切り者』を見つけてほしい、って?」 

「⁉」

(裏切り者……っ?)

 

 

 

 穏やかじゃない単語だ。こんな平穏な勉強合宿に似つかわしくない。

 何かの冗談だと思いたかったが、ヒフミの反応がそれを真実だと示した。

 

 

 

「先生もそう言われたってこと、ですよね……?」

「うん」 

 

 

 

 先生は頷く。そしてナギサから聞いた内容を話し始めた。

 

 トリニティとゲヘナの間で結ばれる不可侵条約である『エデン条約』のこと。

 締結される直前まできた今、ナギサはそれを妨害しようとする者達がいる情報を耳にしたこと。

 特定はできなかったため、その可能性がある容疑者を一カ所に集めたこと。

 

 それが補習授業部だということ。

 

 裏切り者はその中にいるが、誰かは分からないこと。

 試験結果によっては全員退学。その状況下、試験はナギサの手の上で、突然、範囲や会場、難易度が上がる可能性もあること。

 

 

 

(……色々と何というか、手が込んでいるというか……ホシノさんが気を付けてって言った意味が分かる気がする)

 

 

 

 斑目は寒気に身体を震わす。ただ単に恐ろしかった。

 無駄のない裏切り者追放ドミノだ。疑わしいだけの者をも巻き込んだ。

 

 太陽に照らされ、敷居が高い雰囲気を感じさせる合宿所。

 そのイメージが斑目の中で暗澹なものに変わる。まるで入った者が襲われる幽霊屋敷のように。

 

 もしその矛先が、自分の知らないうちにアビドスに向けられると考えると……斑目は頭を振る。

 考えるのも恐ろしかった。

  

 

 

「大丈夫」

 

 

 

 先生が言う。自分に言われていないと分かっていながらも、斑目は自分の内に力が宿るような気がした。

 

 

 

「私に任せて。私がどうにか解決して見せる」

「ヒフミは、ヒフミにできることを頑張ってほしい」

 

 

 

 それはヒフミも同じだったようだ。

 昼間と同じように、明るい様子で答える。迷いは吹っ切れたようだ。

 

 

 

「っはい! 分かりました! あ、その、私に何ができるのかはまだ分かりませんが……ちょっと考えてみようと思います!」

 

 

 

 部屋から出る際、ありがとうございました! と頭を下げてから、ヒフミは先生の部屋から去っていく。

 先生はその姿を見届けた後、少しまた何か考えて、部屋の電気を消して就寝した。

 

 

 

 

「……僕も何かしてみよう」

 

 

 

 先生の寝息が聞こえてくるのを確認し、斑目は目を開く。

 そして小さく掛けられた布団を蹴り、廊下へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼に着ていたものは既に乾いていた。

 万が一のため、防弾チョッキとヘルメットを身に着けて、斑目は月の光でぎりぎり暗闇となっていない廊下を歩く。

 

 先生の部屋で時計を見たが、この時間帯なら皆が眠っている筈だ。

 善良な者ならば。

 

 

 

(完全にイメージだけど、こういう誰も行動していない時間に裏切り者って、外部と連絡を取ったり工作活動とかしてるんだよな……)

 

 

 

 裏切り者の目的はエデン条約の阻止だという。

 だというのに、自分は身動きを取れない。そうなれば思い当たる手段は、外部と連絡して状況を伝えたりとか、仲間が救助に来てくれた時、簡単に合流できるように何らかの工作をしておくことだ。

 

 勿論、それらは白昼堂々行えるようなものではない。

 だからやるなら今だろう。

 

 

 

(要するに裏切り者さえ見つかれば、他の人は退学しないで済む。……特にヒフミさんはアビドスを助けてくれた、なら僕もここで出来ることをしないと)

 

 

 

 まあ、そんな簡単に見つけられるわけもない。

 斑目は不審な行動をする人物を見つけられなかった。

 

 何も知らない人からしたら、自分以外全員女子な館で夜な夜な歩いている僕が不審人物かもしれない。

 字面だけ見れば否定できなかった。自虐に斑目の口から乾いた笑いが出る。

 

 今夜巡回を続けても収穫は得られない。そう思い、斑目は巡回を切り上げることにした。

 寝る前にホットミルクを飲もうと、斑目は食堂を通り過ぎ、簡易キッチンへと向かう。

 

 

 

「牛乳よし。……蜂蜜よし、砂糖よし」

 

 

 

 ヘルメットを外し、マグカップを食器棚から取り出して材料を並べた。

 砂糖を甘くなり過ぎない程度にマグカップに入れてから、牛乳を注いでかき混ぜる。

 そして電子レンジに入れた。

 

 温度が上がったマグカップを手に取り、スプーンで張った膜を掬って捨てる。

 スプーンに溢れない程度の蜂蜜を垂らし、それをマグカップの中に入れてかき混ぜた。

 

 

 

「よしっ」

 

 

 

 スプーンから蜂蜜は殆ど消えている。ちゃんと溶け切ったようだ。

 味見をしようとホットミルクをスプーンで掬い、頭を下げる。僅かに残った蜂蜜の濃い味と、甘いホットミルクが絶妙なのだ。

 

 すると後頭部から頭頂部にかけて、風が走る。

 疑問に思う前に、目の前から大きな音がした。置いておいたヘルメットが壁とぶつかった。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁ⁉」

 

 

 

 突然現れたそれと音に、斑目は驚いて尻餅をついてしまう。

 咄嗟に後ろを向いた。

 

 

 

「あらあら……」

「……ごめん、ユウ」

 

 

 

 そこには困ったように笑うハナコと、しょんぼりと肩を落とすアズサがいた。

 

 

 

 

  

 

 

「あら、美味しいですね。このホットミルク」

「うん。初めて飲んだけど美味しい。最近は初めて食べるものに出会えてばかりだ」

 

 

 

 喜んでもらえたようで何よりだ。

 自分のホットミルクに口をつけ、頬を緩ませてくれる二人に斑目も釣られて、笑みを零す。

 

 しかしだ。

 斑目は苦笑する。

 

 

 

「まさか僕が怪しまれていたとは……」

「歩き方や落下からの着地。そこから只者ではないと思っていたが……勘違いだった。驚かせてごめん」

「……女の子みたいな取り乱し方でしたからね。うふふ」

「忘れてください……」

 

 

 

 一拍置いて、ハナコは口に手を当てて笑った。

 斑目は目を合わせるのも恥ずかしくなり、ホットミルクを口に含む。

 

 アズサ曰く、彼の動きは戦闘の経験を積んだ者と遜色がないらしい。

 偶然、何度目かの見張りをしていたら眠れず出歩くハナコと合流。そして食堂の方から明かりが漏れているのを見つけ、斑目の姿を確認した。

 

 折角なので、彼が素人か実力者か確かめるべく、置いてあったヘルメットを投げたそうだ。

 

 

 

 その結果、アズサは斑目を前者として判断した。

 避けられはしたが、あれは偶然だろう。その後の物音に対する反応も合わされば、実力者とは思えなかった。

 

 

 

「そういえばユウさん、もう出歩いて大丈夫なんですか?」

「え?」

「長い間気絶されていたではないですか」

「……あー、あはは。はい。特に病気ではないのでご心配なさらず」

「ユウさんは女体に耐性がないのですね♡」

「はい……って何を言わせるんですか⁉」

 

 

 

 つい肯定してしまった。事実ではあるが。

 斑目の反応にハナコは口に手をやる。その目は見開かれていた。

 

 

 

「では否定されると……⁉ ユウさん、そんな童顔でプレイボーイだなんてっ」

「ぐっ……僕は、女の子の身体に耐性がありません……‼」

 

 

 

 自分の口から言うのは堪える。斑目は歯を軋ませながら言った。

 だが今後、プレイボーイと見なされるよりはマシだ。

 

 ハナコは小さく笑う。

 

 

 

「っふふ、ごめんなさい。からかい過ぎました」

「もう……勘弁してくださいよ」

「ユウさんの反応がつい面白くて。それで、私達が言えた話ではありませんがユウさんはこんな時間に何を?」

 

 

 

 ハナコからの問いに、斑目は脳を働かせる。

 

 貴女達の中にいる裏切り者を探すため。

 勿論、そんなことは言えない。ただ装備をしている以上、眠れなくてという言い訳は通じないだろう。

 

 斑目が答えを捻り出すより先に、アズサが言った。

 

 

 

「恰好から察するに、ユウも見張りか。根気にしろ、見どころがある。装備を外していたのが修正点」

「耳が痛い……。今後はそうします」

「まあ、ユウさんも。私達のために頑張ってくれるのはいいですが、あまり無理なさらないでくださいね……」

 

 

 

 アズサの助け舟もあり、ハナコは特に追及してこなかった。

 寧ろ、話題の対象がアズサに変わる。

 

 

 

「これはアズサちゃんにも言ってますよ?」

「大丈夫だ。ここの環境は劣悪とは言い難い。そう簡単には倒れない」

 

 

 

 ハナコは困ったように笑うだけだ。

 本当に心配しているのだろう。だがアズサの意志の固さは知っているようで、それ以上言えないようだった。

 

 斑目は目の前の二人を視界に改めて収める。

 仮に彼女達のうちどちらかが裏切り者だとしても、やはり自分は信じられないだろう。

 

 

 

(一体、裏切り者は誰なんだろう……)

 

 

 

 二人と別れ、ベッドに寝転んだ後も斑目はしばらく考えていた。

 そういえば今日は全く勉強ができなかったことを思い出す。自分も補習授業部程ではないが、勉強しないとまずいのだ。明日からはちゃんとしようと思った。

 

 そして翌日、補習授業部は模擬試験を受ける。

 結果はヒフミを除く3人共不合格。その点数はお世辞にも惜しいとは言えない。

 

 

 裏切り者は誰なのか。

 余計に分からなくなり、溜息を吐く斑目の姿がそこにはあった。

 

 

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