憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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3.大掃除!

 

 

 

 

 斑目は身を屈めながら、鎌を片手にひたすらに草を刈っていた。

 額から汗が落ち、水分が伝った部分の緑が際立つ。こう見ると中々綺麗で、刈るのが勿体ないと思った。

 

 しかし刈れば景観が整う。草一本と景観じゃ、当然選択するのは後者だ。

 斑目は再度鎌に力を入れ、生える草の長さを揃えていった。

 

 その時、背後から伸びた影に覆われる。

 暗くなった視界に、斑目は振り返りその人物の名を呼んだ。

 

 

 

「あ、ヒフミさん。お疲れ様です」

「お疲れ様です。ユウさん、大丈夫ですか?」

「?」

 

 

 

 ヒフミは体操着に身を包み、両手を膝に添えて、心配そうにこちらを見下ろしていた。

 スカートで隠されていた健康的な白い脚が目の前に映る。

 

 何か悪い気がして、斑目は視線を逸らしつつ首を傾げた。

 そして気が付いたように声を上げる。

 

 きっとヒフミは進捗を確認したいのだろう。

 

 

 

「順調ですよ。あと5分もあれば一帯が終わりそうです」

「そうじゃなくてっ」

 

 

 

 もう、と言いたげな顔でヒフミが何かを差し出してくる。

 それは冷えたペットボトルだ。中身は少し白く濁った液体が入っていた。

 

 スポーツドリンクである。

 

 

 

「ユウさん。ずっと作業されていますよね? 休憩はちゃんと取りましたか?」

「……あー、それはその」

 

 

 

 ヒフミが心配しているのは斑目の体調だった。

 

 彼女達は現在、合宿所の大掃除に取り組んでいる。

 長年使われていなかったのもあり、流石に集中して勉強できる環境じゃなかったのが理由だ。

 

 制服のまま掃除をするわけにもいかず、まず彼女達は体操服に着替えた。そこまでは斑目もいた。

 問題はここからだ。ヒフミがぴしゃりと言い放つ。

 

 

 

「……取ってないですよね。誰も、先生もユウさんを見てないと仰っていました」

 

 

 

 合宿所の中では先生が、差し入れとして飲み物を購入して食堂で待っていた。飲み物は簡易キッチン内にある冷蔵庫で保管されている。

 熱中症に気を付けるようアナウンスもあり、補習授業部のメンバーは適度に水分と休憩を取りつつ、掃除をこなしていたのだ。

 

 

 

『……ごめん。ちょっと斑目君を探してくるね』

『あら、先生。どうかされたのですか?』

『私ずっとここにいるんだけど、斑目君を一回も見てないの。そろそろ心配になってきて……ちょっと行ってくるっ』

『わ、私も探します‼』

 

  

 

 斑目を除いて。

 

 その時、食堂には先生とハナコとヒフミがいた。

 先生とヒフミは慌てた様子でそこから出ていき、ハナコは一人取り残されることとなる。

 

 

 

『……』

 

 

 

 彼女がその背中を静かに見送っているのを、二人は気付かなかった。

 

 

 

『も、もういない……』

『分担して探しましょうっ。先生!』

『う、うん……!』

 

 

 

 二人で彼がいる筈の場所に向かうも、手入れを終えた場所だけがそこには残っている。

 顔を見合わせ、二人は別れて探すことにした。倒れていたとしたら大変だ。結構な時間放置されていることになる。

 

 そんな懸念は良い意味で無に帰した。ヒフミは斑目と合流できたのだ。

 とはいえその間に、彼女は複数の手入れが終えられた場所を見かけている。斑目が休憩せずにしていた証拠だった。

 

 半ば押し付けるように、ヒフミはスポーツドリンクを彼に近づける。

 

 

 

「全部一人で終わらせるつもりですか、もうっ。スポーツドリンク、飲んでください!」

「ご、ごめんなさい」

 

 

 

 ヒフミの勢いに斑目は勝てなかった。

 素直に斑目はスポーツドリンクを受け取り、口内に流し込む。

 

 キャップを閉めるのを見届け、ヒフミはその腕を握った。

 

 

 

「いきますよ」

「へ?」

「室内にです。しばらくユウさんは空調が効いた部屋のお掃除を担当してください。これ以上外で作業したら、熱中症になりかねません」

 

 

 

 ヒフミは斑目の腕を掴んだまま、ずんずん歩いていく。

 その力は強い。逆らうことはできそうになかった。

 

 ここは大人しく言うことを聞いておけ。本能がそう告げた気がする。

 それに従い、斑目はされるがままにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、どうしたものか。

 休憩を済まし、斑目は比較的楽な仕事を割り当てられていた。

 

 クーラーが効いたロビー。そこの埃が溜まった箇所を掃き掃除している。

 悩みの種は少し離れた位置にいる、彼より前から掃除をしている小さい影だ。

 

 斑目はちらりと見てみる。

 

 

 

「っ」

 

 

 

 その瞬間、思いっきり顔を逸らされてしまった。

 平常を装っているようだが、箒を動かす手は忙しない。

 

 

 

「……」

「っ……!」

 

 

 

 掃除をする場所を変え、少し近付いてみると等間隔で離れられた。

 

 あからさまに斑目は避けられている。

 ……下江コハルに。

 

 警戒されているのかと思ったが、それも少し違うらしい。

 

 関心は持たれているのか、視線を向けられていることは度々感じられた。

 なのに何故、避けられるのか。それが分からない。

 

 

 

「……あの」

「っ⁉ な、何!」

「僕何もしないので、そんな避けなくても……」

「べ、別に避けてるわけじゃないっ」

 

 

 

 コハルは両手を振り下ろす。

 避ける、という認識をされたことにプライドが許さなかったようだ。

 

 

 

「これは、その……っ! そう!」

 

 

 

 顔を真っ赤にして、コハルは斑目を指差し言った。

 

 

 

「あんたが襲ってきても大丈夫なように、準備しているのっ!」

「襲いませんよ⁉」

「お、男の子は二人きりになると距離を縮めて、遂には野獣になるんでしょっ? 私、知ってるんだから!」 

「なりません! ……第一、力で勝てるかも怪しい」

 

 

 

 そう呟く斑目。覇気のない声だった。

 コハルは瞬きを数回繰り返す。その発言に驚いているようだ。

 

 

 

「へ……? お、男の子なのに?」

「少なくともそこら辺の女子に、腕相撲で勝てる自信はないです」

「……そのヘイロー、偽物?」

 

 

 コハルは訝し気に尋ねる。

 

 先生のようにヘイローのない、キヴォトスの外から来た者の身体が、自分達と比べてスペックが低いことはコハルでも知っていた。キヴォトスでは常識だ。

 

 しかし斑目の頭上には、ヘイローが浮かんでいる。

 つまり自分達と同じ身体スペックである筈だ。

 

 寧ろ男であるから、こっそり読んでいる本に出てくる男達のように女子より力がある筈。

 コハルはそう考えた。

 

 

 

「っ……偽物、か」

 

 

 

 その推測は誤りだ。

 

 斑目の表情に陰が差したのを見て、コハルは自身の間違いを直感的に理解した。

 

 先程までコロコロと表情が変わっていたのが嘘のようだ。

 慌てて、コハルは言葉を出そうとする。

 

 

 

「あのっ」

「そうかもしれませんね」

 

 

 

 斑目はヘイローがある位置に手をやるが触れない。

 それは当たり前のことだが、本当に存在せず偽物のようだと感じた。実際、自分が頑丈になった気は目覚めてからしていない。

 

 力なく斑目が笑う。

 

 

 

「っ……」

 

 

 

 コハルは喉が引き攣るのを自覚した。言葉が出ない。

 その笑顔があまりに悲しく、弱々しいものだったから。

 

 斑目は静かに顔を逸らした。

 話はここで終わり。そう言外に伝えているようだ。

 

 

 

 その後、結局コハルはロビーの掃除が終わるまで斑目と会話をすることはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……こんなところかな? うん。綺麗になったと思う」

 

 

 

 先生は腰に両手を当てて、頷いた。

 それに異議を申し立てする者はいないようだ。

 

 アズサが斑目を見やる。その口角は少し上がっていた。

 

  

 

「ユウが良い働きをしていた。最初は頼りないと思ったけど、認識を改める」

「はは……お役に立てたようで何よりです」

 

 

 

 斑目の心に何かが満ちた。報われたような、充足した気分だ。

 補習授業部をサポートする役割を与えられ、それをちゃんと遂行できている。

 

 アズサからの評価がそれを裏付けさせた。

 自分がちゃんと誰かの役に立てていることが嬉しかった。

 

 

 

「うぅ……」

 

 

 

 そんな二人を見るヒフミの心境は複雑だ。

 アズサの評価は斑目が更に無理をする原因になりうる。しかし斑目も嬉しそうで、アズサの評価も否定できない。

 

 だから小さな声で唸るしかなかった。

 斑目はそれに気付かず、先生に声を掛ける。

 

 

 

「掃除はもう終わりで、これから勉強でいいですか? 先生」

「あら、ユウさん。あと一カ所だけ残ってますよ?」

「? 掃除してない場所が、ですか?」

「あれ、そうでしたっけ……?」

 

 

 斑目とヒフミの問いに、ハナコは頷いた。

 

 掃除してない場所とは、はてどこだろう。

 

 ロビーも体育館も、食堂もキッチンもした。教室もだ。

 少なくとも共用の場でそれ以上思いつかなかった。

 

 自分達が寝泊まりする部屋も、ハナコ自身が綺麗にしていたではないか。

 揃って首を傾げる斑目とヒフミに対し、ハナコは上品に微笑みながら言う。

 

 

 

「はい。屋外プールが♡」

 

 

 

 

 

 

 

「見てください! 虹ですよ! 虹!」

「ひゃっ⁉ ちょっ、ハナコちゃん冷たいですよぉ!」

(汚れに集中、汚れに集中……!)

 

 

 

 斑目はプールの方に意識を向けないよう、足元の汚れに集中する。

 水の弾ける音と少女達の黄色い声を打ち消すように、デッキブラシを鳴らした。何もしていないのに悪いことをしている気分になる。

 

 今、斑目はプールサイドにいた。先生もだ。

 やはり長い間使われていないためか、不要な色の靄がそこら中にある。

 

 

 

「可愛い女の子達より汚れに目を向けるなんて、罪な男ですな~?」

「からかわないでくださいよ……」

「言ってくれれば水着も用意するよ?」

「結構です!」

 

 

 

 それはプールの中も同様だが、斑目は水着を持ってきていなかったため、そこはヒフミ達が担当だ。

 斑目は水浸しの少女達に囲まれて、喜べるような度胸を持ち合わせていない。先生の囁きを一蹴した。

 

 逃げるように距離を取り、掃除を始める。

 その背中を見て、先生は目尻を落として小さく溜息を吐いたが、それが彼の耳に届くことはない。

 彼の耳はプールからヒフミ達とは違う、二人分の声を拾っていた。

  

 

 

「ど、どうしてこんなことに……」

「こちらのブロックは完遂した。続けて速やかにそちらへ向かう」

 

 

 

 コハルとアズサだ。二人は掃除をしているらしい。

 二人の声と一緒に、自分が発しているのと同じ音がすることに、斑目は仲間を見つけた安心感を得た。

 前者は控えめに、後者は絶えずに音を響かせている。

 

 ここで、その内の一人の足音が近づいてきていることに気付いた。

 つい、そちらに目を向けてしまう。

 

 

 

「ん……」

「ひぇ」 

「? どうしたんだユウ。そこまで日差しは強くない」

 

 

 

 貴女が原因です、とは言えなかった。

 アズサだ。目の端から現れたアズサはプールから上ってきた。

 

 多少ハナコの水がかかったようで、水着がその身体に張り付き、光沢と小さな凹凸が生じている。

 お腹より少し下にある小さな窪みも、はっきりとその輪郭を表していた。

 

 慌てて顔を逸らしつつ、言う。

 

 

 

「ごめんなさい。アズサさんの水着に……光が、反射して」

「……こちらこそごめん。今、前を閉める」

 

 

 

 アズサの上半身が上着で隠れる。

 斑目は小さく、よし、と呟いた。今度はアズサに聞こえる声量で話す。

 

 

 

「アズサさんはどうしてこっちに?」

「ユウが一人だったから」

「へ?」

「私達は目的が一致した仲間……つまりは同志と言える。でもユウはいつも一人だ、これではいつまで経っても連帯感は生まれない」 

 

 

 

 同志と言えるのだろうか……。

 斑目はその評価を申し訳なく感じた。

 

 確かにアズサ達は同志と言えるだろう、皆トリニティ生で目的が落第を免れるためと一致している。

 

 対して自分は違う。その状況に乗らせてもらっているだけだ。

 勿論、彼女達の目的を手助けしたい思いはある。しかし自分は給金が発生し、ただ勉強が捗る環境としてここを選ばせてもらっただけだ。

 

 そんな利を得ている自分が、彼女達の同志と言っていいのだろうか。

 

 

 

「僕は……」

「いこう、ユウ」

「ちょっ⁉」

 

 

 

 業を煮やしたのか、アズサは斑目の腕を掴み、プールに向かって走り出す。

 突発的な出来事に斑目の体幹は働かなかった。

 

 青春の一ページのように、連なる二人の影がプールサイドから跳んだ。

 アズサは華麗に着地した。そして次に落ちてくるであろう斑目の方に顔を向ける。

 

 彼の身体の軸はぶれていたので、恐らくうまく着地できない。

 その原因は自分なので、受け止めてあげようと思った。

 

 

 

「……⁉」

 

 

 

 だから、その光景を見てアズサは目を見張る。

 斑目の瞳は閉じられていた。これから痛みがくることを恐れたからだろう。

 

 

 

 だが、『その身体』の動きは相反するものだった。

 

 

 

 足のつま先、かかと、膝が揃えられる。膝はやや曲げ気味に、身体は前傾姿勢となっていた。

 足裏、ふくらはぎ、太もも、尻、背中から肩。順序良く設地し、斑目を大の字に寝かせた。

 

 見事な五点接地だ。瞳を閉じているにも関わらず。

 やり慣れている者の動きだった。

 

 

 

「うう……これ制服なのに」

 

 

 

 当の本人は顔を顰め、呻いている。水で張り付く制服に違和感を抱いているようだ。

 

 アズサは立ち上がり、斑目を見下ろす。

 分からなかった。初対面の時の歩き方にしろ、今回の動きにしろ……性格と動きが矛盾しているように感じられる。

 

 斑目はこちらを見下ろすアズサに気付き、首を傾げた。

  

 

 

「? アズサさん?」

「ユウ、あなたは……」

「ユウさん、アズサちゃん大丈夫ですか⁉」

「飛び込みは駄目! 水が張られてなきゃ尚更よ! 馬鹿じゃないの⁉」

 

 

 

 何者なんだ。

 

 そう言おうとしたが、ヒフミとコハルが駆け寄ってきたことで止められる。

 二人の剣幕に、申し訳なさそうにアズサは肩を落とした。

 

 

 

「ご、ごめん」

「もう。先走りは駄目ですよ♡」

「さきっ……! 死刑ェ‼」

 

 

 

 ハナコはホースを片手に、ゆっくりと歩み寄ってきた。

 この中で一番露出度が高いと言っていい。上に制服を着ているものの、大きな胸がそれを押し上げ、お腹は丸見えになっている。

 

 下を隠す三角ビキニからは、白く丁度良い太さの生足が伸びていた。

 

 

 

「あら……? ユウさん、どうかされましたか?」

「頭打ったの……? ぼうっとしているけど」

「いや、ユウは見事な着地を決めていた。それはないだろう」

「ええと、ユウさん、大丈夫ですか……?」

 

 

 

 水着を着た美少女四人に囲まれる。

 皆、一様にこちらを見下ろしていた。斑目は視線を右往左往させる。特にハナコとヒフミの顔から下に目を向けないように。

 

 

 

「だ、大丈夫です。気にしないで……」

「瞳がぐりんぐりんしてますけど⁉」

 

 

 

 それは逆効果だった。

 斑目を心配し近付いてきたヒフミ。スクール水着を纏ったその女体が、斑目の視界を覆いつくす。

 

 間近で見る刺激的な光景に耐え切れず、斑目の意識が落ちた。

 その身体が脱力し、ヒフミは思わず抱き起す。

 

 

 

「ユウさん⁉ ……き、気絶しちゃっています」

「まさかただの水着でKOとは。ユウさんも初心ですね♡」

「あんたがそんな恰好しているのが原因じゃないの?」 

「取り敢えず運ぼう」

 

  

 

 斑目の身体は少女達によって持ち上げられる。

 そのままプールサイドに向かって、運ばれていった。

 

 先生は呟く。

 

 

 

「ホシノ。もしユウくんとプールとか海とか行くことになったら、苦労するだろうなぁ」

 

 

 

 いつかくるであろうホシノの苦労に、先生は苦笑するのだった。

 

 

 

 

 




メンタル超合金と揶揄された『顔無し』と比べたら、やっぱり斑目君はまだ弱いですね。徐々に成長させていけたらいいなぁ……。
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