憑依in実験体のアビドス生徒   作:改名

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大変遅くなってしまい、申し訳ございません。
これから本格的に補修授業部と絡み合っていきます。

嬉しい……嬉しい……‼


2.『はじめまして』

 

 

 

 

 

 シャーレで待ち合わせ、斑目は先生とトリニティ総合学園に向かっていた。

 これから向かうのは、その敷地内にある長い間使われていなかった別館らしい。そこで勉強合宿をするようだ。

 

 隣を歩く先生に対し、斑目は言う。その目は少し伏せられていた。

 

 

 

「場所のURLさえ貼ってくれれば、一人で行けましたよ? なのに、一緒に向かうなんて……申し訳ないです。先生にも、別館にいる人達にも」

 

 

 

 長い間使われていなかったのだ。本来の姿を取り戻すのに別館は、数時間から半日は復旧に要すだろう。

 

 斑目はそれに関することには自信がある。

 今もそうだが昔からアビドス高等学校の校舎の壁の補修やら、草刈りやらの作業はやってきた。

 

 事前に場所さえ教えてくれれば、誰よりも早く別館に訪れ、それを行っていたのに。

 そうすれば自分も合宿をする生徒達も長く勉強をできる。先生も今より短い時間で別館に辿り着けた。

 

 先生は首を振る。

 

 

 

「ううん。いいの。斑目君を一人になんてさせられないし」

「先生もホシノさん達も過保護すぎます……。ほら、ちゃんと装備もしてますし」

 

 

 

 斑目は黒い軍用ヘルメットをつまんで押し上げる。やや上目遣いな視線は不満を物語っていた。

 

 その上半身には防弾チョッキも身に着けられている。これが彼の基本装備であるらしい。

 

 自身の肉体の脆弱さを弁えている。

 成程。確かに『彼』と比べれば、安心できる見た目ではある。

 

 

 

「でも斑目君。戦闘に自信は、正直ないでしょ?」

「う……」

 

 

 

 斑目は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 先生の指摘通りだ。斑目は戦闘に自信を持てていない。

 

 彼も一度、輸送車から脱走する際に超人的な身体能力を発揮した。

 

 だがそれは黒服による人体実験によるものだ。

 さらに言えば、その時の記憶は朧気で今すぐ当時の動きを再現してみろと言われても、出来るか怪しい。

 

 試しに腕に力を籠めるも、小さなこぶが生じるだけ。

 仮に地面を殴ったとしても、自身の拳を起点としたヒビが生じるとは思えない。斑目は溜息を吐いた。

 

 

 

「普通に物にぶつかれば痛いし、頑丈になった気もしない。このヘイロー、何のためにあるんでしょうね……」

「大丈夫」

 

 

 

 先生はそんな斑目の頭に優しく手を置く。

 そして唇を結んで微笑んだ。

 

 

 

「君もきっと強くなれる。だから焦らなくて大丈夫だよ」

「……本当ですか?」

「うん。お世辞じゃない」

 

 

 

 何たって『顔無し(ノーネーム)』が見込んだ子なのだから。

 ……そんなことは口が裂けても言えない。先生は軽く頭を振った。代わりになる言葉を口に出す。

 

 

 

「だって男の子だもん」

「あは、何ですかそれ。先生の中の男子像はどうなってるんですか」

 

 

 

 苦笑するが、でもありがとうございます、と穏やかな笑みを斑目は先生に向けた。

 同じような笑みを返す先生の視線は、どこか遠い所へ向く。

 

 

 

「……どうなってるんだろうね」

 

 

 

 きっと『彼』なら、このままの斑目でいてほしいと思う筈だ。

 

 斑目は気付いていないのかもしれない。

 もしかしたら、とっくに察してはいるが踏み出せないのかもしれない。

 

 それでもいいと思った。

 どうかこのまま、そのヘイローの意味に目を向けず、今ある力で強くなってほしいと思った。

 

 

 

 

 

 

 自らが傷付くのを前提とした強さを手に入れる。

 そんな者はこれから先も、一人で十分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 別館にも教室はある。

 長い間使われていなかったとはいえ、元はトリニティが所有する建物だ。

 

 食堂、大浴場等といったような生活に欠かせない設備の他、規模の大きい『学園』であるため教室の他に体育館やプールなど、学生のための設備も別館には備え付けられていた。

 

 その教室の机には4人の少女が座っている。

 

 

 

「ヒフミちゃん。先生はこの教室で待機をしているよう、仰っていたのですね?」

「は、はい。そうです。ハナコちゃん」

「あらあら。一体何が始まるんでしょう?」

 

 

 

 その中の一人には、アビドス対策委員会や先生と交流を持った阿慈谷ヒフミがいた。

 

 彼女は特段、成績が悪いというわけではない。

 ただペロロ様のゲリラ公演を理由にテストをサボったことで、この『補習授業部』の一人となってしまった。

 

 ヒフミの返答に、彼女の右後方に座る浦和ハナコは手を口元に当てて笑う。

 膝丈まである桃色のストレートヘアと、制服を盛り上げる大きな胸が小さく揺れた。その笑顔は本当に分からないようにも、予測しているようにも見える。

 

 

 

「まさかいきなりテストっ? こんな環境で⁉」

 

 

 

 ハナコの問いに対し、その前の机に座る下江コハルが叫んだ。

 立ち上がったことで、ふわふわしたピンクの髪のツインテールが跳ねる。

 

 小さな背丈と対照的に、その目が大きく見開かれた。

 そこには、長年使われなかったことで至る所に埃が溜まっている教室が映っている。

 

 あまりに酷くて、作業したにも関わらずこれなのだ。

 こんな中、テストを受けたくはない。その表情が物語っていた。

 

 そんな彼女に対し、ヒフミの後ろの席から声が掛かる。

 

 

 

「コハル。教室に埃が積もっているとはいえ、筆記用具や机があるだけ恵まれてる。いざとなったらマスクを被ればいい」

「そんなの持ってるのアズサだけよ! そもそも、テスト中にマスクは被っちゃいけないんだから! だからそのマスクしまって!」

「む……分かった」

 

 

 

 凛とした印象を抱く白髪の少女、白洲アズサは自身のガスマスクと目を見合わせてから、すぐ取れる位置に置いた。

 

 緊急時にすぐ取れないのはまずい。そういう考えのもとだ。

 

 別に邪魔になるわけでもなく、しまえと言ったが特にコハルも何も言わずに鼻を鳴らした。

 

 

 

 彼女達が『補習授業部』。

 落第に匹敵する程の成績不振者とされ、成績を向上させることを目的に集められた者達である。

 

 

 

「っ」

 

 

 

 しばらくしてからアズサの身体が小さく動いた。何かに反応したようだ。

 廊下の方に顔を向け、小さく呟いた。

 

 この場の者にだけ聞こえるように。鋭い目で。

 

 

 

「静かに。足音がする」

「せ、先生が来ただけでしょ。そんな大げさな」

「いや、あと一人いる。……足音の消し方を熟知した者だ。多分、強い」 

 

 

 

 確かに足音は少しずつこちらに近づいてきていた。

 だが聞こえてくる足音は聞いた限り一人分だ。コハルの顔の色が、少しずつ青褪めていく。

 

 

 

「き、聞き間違いでしょ? そんな足音聞こえないんだけど……!」 

「お化け、かもしれないですね♪」

「は、はぁ⁉ 白昼堂々お化けが出るわけないでしょ! ないない、絶対ない! そ、そんなこと絶対に許さないんだから‼」 

 

  

 

 ハナコの発言にコハルは首を振った。人並みにそういったものは怖いようだ。

 対して、アズサは戦闘態勢に入っていた。装備の点検を済まし、教室の入り口に向かおうとする。

 

 煙幕を手に取ったことから、奇襲を仕掛けるつもりのようだ。

 

 

 

「先生を人質にとった不審者かもしれない。皆は下がってて」

「ス、ストップですアズサちゃん‼ 不審者でもお化けでもありません‼ 試験監督といいますか、私達のお手伝いをしてくれる人ですよ‼」

「試験監督?」  

「お手伝いさん?」

 

 

 

 慌ててヒフミが制止した。アズサとコハルは首を傾げる。

 そんな時、教室の前扉が開かれた。

 

 

 

「そうそう。ヒフミの言う通りだよ。ね? 斑目君」

 

 

 

 教室に入ってきた先生が言う。

 彼女は廊下に目を向けた。この場の全員の視線が、後を追ってこれから教室に入ってくる者へ集まる。

 

 

 

「ど、どうも」

 

 

 

 後頭部を掻きながら、斑目が小さく頭を下げた。

 何がどうして不審者と判断されたのか分からず、気まずげな表情を浮かべている。

 

 異性から不審者扱いされたのは、中々堪えたらしい。

 そんな彼に対する反応はそれぞれだった。

 

 

 

「……?」

 

 

 

 アズサは訝し気に首を傾げる。

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

 ハナコは思案するように小さく俯く。

 一瞬、その目が真っすぐ斑目に向けられた。

 

 

 

「お、男の子……? この場所に、一人……⁉」 

 

 

 

 コハルは何を想像したのか、頬を紅潮させる。

 そしてヒフミは、胸の前で小さく手を握った。

 

 

 

(この人が……斑目さん)

 

 

 

 『顔無し』の、忘れ形見とも呼べる存在。肉体的には同一人物とも言える。

 

 その素顔を見たことは殆どなかった。

 最後に見た記憶は遠くからで、彼が傷を負いながら笑みを浮かべ戦っている姿だけだ。

 

 

 

(やっぱり、『顔無し』さんとは全然違います……)

 

 

 

 間近で見ても、あの時の彼と同一人物だとは思えなかった。

 性格でここまで人は変わるのかと内心驚く。

 

 ……それでも、自分のすることは変わらない。

 ビデオレターで残されたメッセージを思い出す。

 

 

 

『それともし、斑目と会う機会があれば仲良くしてやってくれ。俺と全く口調も性格も違くて面食らうだろうが、優しいお前とは気が合うと思う。それにヒフミの明るい雰囲気は接しやすいしな』

 

 

 

 少なくともここは斑目にとって馴染みのない場所だ。

 アビドス対策委員会のように安心できる環境ではない。

 

 それを無視することはできない。

 ヒフミはそれを軽減してあげたかったし、『顔無し』は自分と気が合うと言っていた。

 

 

 ならきっと、素敵な友達になれる筈だ。

 

 

 

「『はじめまして』。ユウさん、私は阿慈谷ヒフミといいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私と、お友達になってくれませんか?

 

 

 

 天使のような笑顔と共に、差し伸べられた手。

 

 

 

「貴女が……ヒフミさん……?」

 

 

 

 斑目が噛み締めるように呟く。

 

 その名前には聞き覚えがあった。

 先生からも、ホシノ達からも。

 

 カイザーとの戦いで一緒に戦ってくれたと。そう聞いている。

 

 実際に対面して納得した。

 この少女は本当に、所属する学校が違うのにアビドスに協力してくれたのだろう。

 

 目の前の少女から感じる悪感情はなく。

 真っすぐ向けられるのは、打算も何もない純粋な気持ちだった。

 

 

 

「……『はじめまして』。斑目ユウです……こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 それらが斑目の心を解す。

 この人なら信じられると思った。

 

 おずおずと斑目の手が伸ばされ、やがて二人の手は小さな力で繋がれるのだった。

 

 




エルデンリング:ナイトレイン面白いですね。
追跡者と無頼漢が得意です。バッタするの楽しいんじゃ~^^
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