ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
その男を拾ったのは、黒服にとって偶然の産物でしか無かった。
欠如している右腕、ボロボロの服、血だらけの肉体。
なぜ呼吸しているのかが分からないほどに、その男の身体は死に体と言えた。
決して、救おうと思った訳ではない。生きるのならそれでいい、死ぬのならそれはそれで研究のしがいがありそうだと、黒服は研究材料としてその男を連れ帰ったのだから。
黒服が幾つか所有している研究施設、そのひとつ。
保存と治療に特化した器具が揃ったその場所に連れてこられた男は、もはや呼吸の音が聞こえない程にまでなっていた。
(やってみますが……望み薄ですかね。まあ、それはそれで────)
エメラルドグリーンの液体が満ちた、人ひとりが入るには十分すぎる大きさの機械にその男を入れようと、黒服が動いたその時。
「────」
「っ」
小さな、小さな光だった。
男の胸から溢れた小さな微光。薄暗いこの部屋だからこそ見えたと言えるほどのそれは、特に大きくなることなく消えていく。そんな現象に黒服は何も思うことは無い。彼が目にしたのは、別の物だったから。
その男の肉体は、全快していた。
出血により汚れた衣服以外の全てが反転したかのように、欠損していたはずの右腕も何事も無かったかのように生えていて。
────なんて、強大な『神秘』なんだろうか。
嵐のように、津波のように、はたまた至近距離から砲撃を受けたかのような衝撃。
求めてやまない『理想』が目の前に現れたことを、黒服は心を震わせて歓迎した。
改めて、その男を見る。か細かった吐息は元に戻り、カサカサだった肌は潤いを取り戻していた。
微塵も動くことのなかった指がぴくりと動く。身体の状態とは反対に苦しそうに瞼がギュッと閉められる。
起きる。黒服は、そう直感した。
「気分はどうですか?」
動揺はあった、好奇心が擽られた。
そこにある未知に心動かされた。
しかし、それらを押さえ込んで黒服は一芝居打って出ることに決めた。
全ては予定調和であるかのように。
黒服の言葉が、機械の僅かな駆動音だけが響くこの部屋に木霊する。それを聞いてか否か、男は重い瞼をゆっくりと上げ、何処でもない空間をぼんやりと見つめ、呟く。
「
◈◈◈◈
「ほうれい線発見」
「ぶち殺しますよクソガキ」
ほうれい線じゃなくて二重の線でした。どうもこんにちはこんばんは■■廻でっす。
「知ってます? 口調が荒くなったり気が立ちやすくなるのは歳を重ねるごとに増えていくらしいですよ」
「何が言いたいのですか」
「ババア乙」
「仕事を三倍にします」
「勘弁して下さい」
アリウスに来てから1ヶ月ほどが経過した。ん〜、長い。
この学校とも言えない廃墟でやる事は時間が経とうとも変わらない。一週間の中で組み込まれていたスケジュールを繰り返すだけ。もうみんなの顔を覚えたけれど名前知らない奴しか居ない。名前と顔が一致するのはスクワット集団だけだろう。
変わったことといえば、キッチンの設備が最初に比べればマシになったぐらいか。黒服さんが顔を見せに来たことは無いが、愚痴を漏らしたことに対して気を使ってくれたのか、コンロやら食器やらを色々送ってくれた。助かる。炒飯作るゾ!!
あとは、俺の生活環境が及第点に到達したこと。なんかめっちゃ寒いこの地域、いい感じの毛布を送ってくれた黒服さんには是非とも足を向けて眠りたいものである。
「いつ終わるんですかね、この仕事は」
「知っていますか? 黒服が拠点としているあのビルはあの地域で最も高いらしいですよ」
「ぶひー! 働くっすよ〜!!」
「お手」
手を伸ばして来たベアトリーチェさん。その手を右手で叩き落として威嚇しておいた。全部の目が俺の事睨んでくる。普通に怖っ。とりあえず手を振っておいた。叩かれた。痛い。
「紅茶を淹れるのが下手ですね。もう少しまともなものを出して欲しいものです」
「ここの設備見てからモノ言えやクソアマ」
「寝て、訓練をして、寝る。最高の環境では?」
「あなたのような人を正しく『老害』って言うんですよ」
「存在自体が『災害』のような人が何を言っているんだか」
左手で紅茶を持ちながら右手の中指をビシッと立てる。脚を組んでこちらを見やるベアトリーチェさんは馬鹿にするように息をハッと吐き出し、何やら資料を取り出すとパラパラと捲り目を通していた。
「貴方の扱いには本当に困りますよ」
「ベアトリーチェさんも目が多すぎて何処が正面か分からないから困りますね」
「黙りなさい単細胞」
「なんだとこら複眼」
銃声が僅かに耳に届く。訓練所からは少し離れてはいるけれど、これ程までに音が小さいのはこの部屋が防音の機能を含んでいるからだろうか。
「黒服からの牽制にも似た条件の押付け。これを守らなければ確かに私にも被害が押し寄せてくるのが見え見えなので従いますがね」
「なんでそこで俺を見るんですか」
「本当に厄介なガキだこと」
「それでもお年玉は貰いマース!!」
「本当に厄介なガキですね」
黒服さん然り、マエストロさん然り、ゴリラゴリラ……じゃなくて、ゴルコンダさん然り、この人達の目的や思想はあんまり分からない。真剣に聞いたことが一度もないからというのもあるけど、知ったところで、みたいな所はある。
この人もそう。目が多いぐらいしか知らないし、なんか企んでるなぁと漠然と見ているだけだ。俺から見たこの人は厄介な姑である。別に俺が誰かと結ばれてる訳ではないけれど、こんなのがいたら面倒だろうな。
「貴女みたいな人がいるから世の奥様方の心労が溜まる一方なんですよ」
「あなたは何を言っているのですか?」
会話が成立しない。これが種族の壁か……。
「知っていますか? 偏差値が20違うと会話にならないらしいですよ」
「ポッポるっぷ、ピッピピピー!」
「差が40になりましたが、どうなさるおつもりで?」
まあ会話してる分には面白いから嫌悪感は無いけど。弄っとけば勝ちなんよ。
そこからは言葉という名の刃の応酬。結果は俺の負け。友達の少なさを指摘された時は痺れたね、涙腺が。
「好き!!」
「お出口はあちらです」
仕事をしに、訓練所へと向かう最中に通り魔に襲われそうになったところを軽くいなして戦闘訓練へと参加する。
「終わり」
「「うぇ……」」
ごめんね? 別に危なかったから、とかはなくて普通にいつも通りの対処に飽き飽きしてきてたから趣向を変えて掌底から突きに切り替えたら思ってたよりも腹に突き刺さったっぽくて嘔吐く人が続出してた。安心しなよ、君たちの身体丈夫だから。攻撃した俺の指の骨毎回粉々だから。ほんとこの仕様どうにかして欲しい。痛みには慣れないんよ。それでも何回も実行できるのは俺もイカれてる証拠なのか?
「油淋鶏パーティぃぃぃぃ!!!!!」
『イェェエエイィィィィ!!!!!』
「い、ぇい」
「おー」
「なんなんだ本当にお前は……」
と、マジで同じような日々が過ぎていくばかり。
カレンダーがどこにも無いから時間感覚バグりそうになるけど俺にはスマホがあるのでご安心を。いつここに来たっけ???
多分二ヶ月ぐらいが経過したとある日。
「馬鹿すぎて補習授業の部活に入れられるやつなんて初めて見たわ」
『ふぇぇ……メグルさ〜ん……』
ブラックマーケットを一掃していないか心配になり、
何か知らんがいつでも泣けますみたいなスタンスの彼女の話を聞いてみれば、どうやらアホすぎて補習授業部というものに入れられてしまったらしい。
「いつかはやると思っていました」
『犯罪犯してませんよ私!?』
「ファウスト」
『…………ぁ、わわ……あぅ……』
ベアおば? いらんいらん、やっぱ時代はヒフミなんよね。あの人と話すよりも三倍面白いわ。やはり友達しか勝たん。
「兄さんが手伝いを?」
『はい。先生が私達の追試に向けての勉強のお手伝いをして下さっているんです』
こいつまじでネームドすぎるだろ。どれだけ
それはさておき。
兄さんが関わっているということは何も起きないわけがなく、この世界のやばさ加減を考えればただのアオハルじゃなくて普通にグロ展開が開幕しそうな気配がビンビンである。
兄さんがその中心にいることは間違いなく、そしてその一番近くと言ってもいい場所にいるヒフミは当然その波に巻き込まれるはずなのだ。メタ的な思考だけど。
「なんかあったらすぐ呼べよ」
『ふえ? は、はい……?』
アリウスはヒフミのいる場所まで離れているだろう。あいつのいる学校がどこにあるのか知らんけど、ブラックマーケットに通えてたってことはそこそこブラマに近いところにあるんだろう。前に比べて、到着の時間は遅れるかもしれない。
(マジで心配だなあいつ)
何が起こるのだろうか考えてみる。
最有力候補としては、ペロロ狂信者集団が現れてヒフミを攫いに来るとか、ペロロ過激派が、転売品を購入したことのあるヒフミを制裁しに来るとか。巻き込んで欲しくない案件しか出てこない。
この世界って死人出るのか? 女の子しかいないし可愛い子しかいないしなんだかんだで誰も死なないハッピーな世界だったりして。あ、俺は男なのでノーカンですか? あ、はい。
『皆さん、その……クセが強い方が多くて、ですね……』
「ペロロ投げときゃ解決できるだろ。あの熱量をここで出しとけ。ファイトファイト」
『私も頑張らないと……!! ありがとうございます、メグルさん!!』
「なんかごめん」
『はい?』
ピュアなんだよなぁこの子。俺のゴミクソな部分が浮き彫りになっちゃう。
画面の奥でフンスッ、としてる様子が目に浮かぶ。というか実際にしてる。ビデオ通話なので。
「明日も勉強会あるんだろ。早く寝なくていいのか?」
電話を始めて……えぇ、三時間?
夜の9時に電話を始めたから、気が付いたらもう日を跨いでしまっていた。俺はいつも一時前くらいに寝てるから別にいいが、ヒフミは俺のイメージ的には九時就寝タイプ。女の子は美容うんたらかんたらで早寝が基本ではなかろうか。
今は勉強合宿中。きっと朝からギチギチスケジュールなのだろう。そう思って、向こうの心配を示してみると、ポカンとした表情を見せたヒフミは俺から見て左へと顔を向けると腑抜けた声を出して目を開く。
『じ、十二時回っちゃってる!? さっきお話し始めたばかりなのに!? 早く寝ないとっ、お休みなさいメグルさん!! まだまだ話し足らないので明日も電話しましょぉぉおおお!!!』
「ほいー」
『ではっ!』
「また明日な」
『はい!!』
ヒフミ自体も時間の流れが早く感じていたのだろう。そして、明日の朝も早いのだと分かるほどに大慌てで寝る準備を始めたヒフミは俺を見つめてから手を振って『また明日』と告げてくる。
一瞬にして電話を切ったのは明日も電話出来るのだと確信しているからだろう。実際、明日も電話をするのだろうけど、ヒフミの中での俺の立ち位置がなかなかに仲のいい友達のようで安心した。普通に嬉しい。友達少ない弊害が出てるな、俺。
「いつ終わるのかねぇ、この仕事」
毎日同じことの繰り返し。黒服さんのとこにいた時もお茶を飲むだけの日々だったけど、形式化されてしまったスケジュールに沿って動くのが退屈で仕方が無い。
だからだろうか。
別に、前から会いたいとは思っていたけれど、改めて思う。
兄さんとホシノの姿を確認出来たからこそ。
(ユメ先輩、元気かな)
俺の、恩人。
あの人の姿だけは、どうしてかまだ見ていなかったな、と思ったから。
「────いつか、また話したいな」
そう、思った。
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学園:アビドス高等学校→
部活:■hf|””◇◇
学年:三年生
年齢:17歳
誕生日:■月■日
身長:1■■cm
趣味:散歩