ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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Q1. ■■廻は、いつ「先生の弟」であることを自覚したのか。


クソガキ

 頭に乗せられた手の暖かみを覚えている。

 

「本当に……手が掛かるな」

 

 血だらけのその背中を頼もしいと思ってしまった。頼ってしまった。

 

 その肩はあまりにも多くのものを背負い過ぎていた。

 

「後輩の前だぞ……笑えよ」

 

 吹き荒れる熱風、鳴り響く雷鳴。

 この世の終焉を誘う全てがここに集約してしまっていた。

 

 待って、と言いたかった。

 私も行く、と叫びたかった。

 

 その全てを、彼はただ手を頭に添えるだけで止めてきたから。

 

「兄さんが示したんだ。俺も頑張らないと、な」

 

 誰よりも強く、誰よりも脆いその人は誰よりも前線に立ち、誰よりも傷付いていたのに。

 

 私を助けてくれた二人がこんな形で殺し合いをするところを見たくなかった。

 

 どちらかが死ぬのは分かっていたのに。

 

「砂狼」

 

 名前を呼ばれた。

 彼だけの呼び方で。

 

 他の誰からも呼び慣れないその呼称は、彼の口からだけは自然と受け入れられた。

 

 震える瞼を動かして、瞳の焦点を彼へと向ける。

 私の方を向かず、けれどこちらに手を差し伸べて来てくれたかつての記憶と重なる光景がそこにはあった。

 

「俺の刀持っとけ。要らなかったら棄てていい」

 

 ずっしりと、動かしてもいない私の手に彼だけの刀を握らせてくれた。

 重く、鋭く、冷たく、そして暖かい刀。

 

 会話は成立しない。私が何も口に出来ないから。

 終ぞ、私の顔を見なかった彼は私の頭に乗せていた手を離し、災害とも呼ぶべき場所へと武器を持たずに走っていった。

 

 飛び出した彼を呆然と見つめる。

 頭に残る彼の熱を確かめて、私は彼の最期を見るだけだった。

 

 何も派手なことは起きず、焔の嵐は消えていく。

 

「────」

 

 空が晴れていく。私を嘲笑うかのように。

 世界が正されていく。それら全てが私への皮肉でしか無かった。

 

 そうして後に残ったのは、五体満足で座り込むホシノ先輩。

 

 そして、彼女の腕に収まるようにあった、彼の頭部と、首のない身体だけだった。

 

 何も出来なかった私は、その光景を受け入れられずにただ座り込むだけ。

 

 私の手に残る刀を持ち上げる。

 私たちが持つ銃器よりも重いかもしれない細い刀を見つめ、何を思う訳でもなく呆然としている中で、私の耳に確かに届いた発砲音。

 

「────────ぅ、ぁ」

 

 動けなかった私を、動かなかった私を。

 

 この結末は私の選択によるものなのだと。そう、上位者から告げられているような悪寒を感じ取って。

 

 紅い花が咲き誇る。ドサリと倒れるホシノ先輩。

 彼女が持っていたピンクの銃は赤く染まり、命の鼓動は聞こえない。

 

 何も出来なかった、何もしなかった。

 何も残せなかった。

 

 私に残されたのは、先輩の刀だけ。それだけしか、無かった。

 

 風が靡く。私を笑いに来たかのように。

 砂が舞う。お前もこうなるぞと告げてくるかのように。

 

 太陽が輝く。憐れな姿を世界に見せつけてやろうと嗤っているかのように。

 

 もう、何もかもが……どうでもよかった。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「ヒフミの声は聞こえるようにしとくとは言ったけどな」

 

「はい」

 

「お前が危険になった時は助けてやるって言ってたけどな」

 

「……はい」

 

「率先して危険地帯に行けとは一言も言ってねぇんだわ」

 

「……はいぃぃぃ」

 

 はいどうも■■廻です。

 

 アホがアホな呼び方で俺の名前を叫んだためにアホを救出に向かった俺は、アホの前に立ってた如何にもな女の子をとりあえず気絶させてからアホの首根っこを掴みあげて街の隅へと隠れたのです。はい。

 

 んで、今のお説教タイムに繋がるわけ。

 

「何してたのお前?」

 

「小鳥遊ホシノさんが捕まったという話を先生から聞きまして……微力ながら助力出来れば、と……」

 

「ペロロ絡みに統一してくんねぇかな、お前の危険要因」

 

 人助け属性がこの子に付いてしまった。人助けをしているヒフミを俺が助けてるんだからもうヒフミ経由するのが無駄すぎるんだけどね。そこに仲介人要らないんだよ。

 

「すみません……」と肩を落とすヒフミ。自分が悪いと思っているようで、反省はしているようだ。

 この子の性格にため息を吐きつつ、俺はヒフミの頬を人差し指で突く。

 

「お前のその性格は好ましく思うよ。向こう見ずなところは直して欲しいけど」

 

「うぅ……しゅみません……あぅっ」

 

「けど、まぁ。俺の同期を助けてくれてありがとな。ヒフミが直接的な手助けになってたのかは知らんけど」

 

 あの契約書にサインしたアホ。兄さんの背に背負われていたあの子は今頃猛省しているのだろう。

 

 その姿を見て、前よりも伸びた髪が何処かユメ先輩に似てるなぁと思ったり、安心したりもした。

 俺を殺した罪とかを問われてたら可哀想だなと思ってたし。

 

 まぁそうか。俺の死体は無いだろうし、証拠不十分で罪に問われないでしょ。

 この世界の警察的機関がどれほど優秀なのかは分からないし、生徒のデータベースが精密なのかは知らない。けれど、ホシノがああして後輩達とワイワイできているのならそれはいい事なんだろう。

 

「会わなくて、ひいんですか?」

 

「良いよ」

 

 ぷにぷにとしたヒフミの頬を突いたり摘んだりこねたり。

 俺の手遊びにされるがままになっているヒフミからの言葉に俺は即答する。

 

「先生……お兄さんにも?」

 

「大丈夫だろ」

 

 何度も考えては、同じ答えに辿り着く。

 

 俺は、ホシノや兄さんに会いに行こうとは微塵も思わないのだ。

 一目見たいとは思った。そしてそれは達成された。それ以上に生まれてくる欲求は無かった。

 

 ホシノには後輩達がいる。

 名前も知らないけど、見た限りで四人も居た。楽しんでいるのだろう、あいつも。

 

 それに、ユメ先輩もいる。あいつは大丈夫だ。

 あの人は天然に見えて、その実、人の感情の機微に敏感だ。フワフワした言動は相手の感情を考えてのこと。あの人に振り回されているホシノは楽しくやって行けるだろう。

 

 そういえば、ユメ先輩はあの場には居なかったな、と不意に思い付いた。

 まぁ別にいいか、と区切りをつける。

 

 兄さんには生徒達がいる。ロリコンでは無いことを祈るばかりであるが。

 足をしゃぶるのは趣味なのか。俺にそれが遺伝していなかったことだけが唯一の救いである。親譲りなのだとしたら俺の親もその趣味があるということ。死にたくなるね。

 

 まぁ冗談は置いておいて。

 アビドスで定職するわけが無いし、もしかしたら派遣のような扱いかもしれない。そういえば、黒服さんがそんなニュアンスのことを言っていた気がする。忘れた。

 

 ブルーアーカイブの展開的にもどうせ学校を転々とするだろうし。女子高生を侍らせてハーレム形成を成し遂げるのだろうか。是非とも俺の見ていないところでやっていてもらいたい。

 

 ブルアカ知識が皆無な俺に何を考えられるのかは分かったものではないが。俺は俺で自由に生きると決めているから。俺が必要だから、必要じゃないからという思考で動いてはいない。

 

 気ままに、散歩するように。

 今のところは、黒服さんとお茶を飲んで、ヒフミと話せている環境に満足しているし。

 

「兄さんには、■.■.■.■.■が着いてるしな」

 

「……?」

 

 俺と同じように生身であろう兄さんだけど、生徒が守ってくれるだろうし、何より兄さんには■.■.■.■.■がいる。あのクソ無愛想なガキがいるなら情報戦で無双するだろうし。

 

「メグルさん?」

 

 今思い出してもイラつくなあいつ。俺に対して当たりが強いんだよ。感情の起伏少なすぎる抑揚で俺のことディスりやがって。俺にしか聞こえてないからって言いたい放題が過ぎるんだよ。実体化しろや。叩けねぇだろ。

 

「殴りてぇ」

 

「やめてくださいよ!?」

 

 右手から伝わってきた柔らかい感触と温度が離れていく。両手で頭を抑えながら後ろへと飛び退いたヒフミ。アワアワと口を動かして涙目でこちらを見ている。どうやら何か声に出していた可能性があるかもしれない。とりあえずヒフミに対しての言葉じゃないよと謝っておいた。

 

「そ、そうですか……ふぅ……」

 

「お前にするのは折檻だけだよ」

 

「まだ終わってなかった……」

 

 ペロロ1ヶ月禁止にしようかな。でもそれしたらこいつ幻覚見そうで怖い。というか自分がペロロなんだと騒ぎ始めそう。

 

 そして、特にアビドスに向かう訳でもなくいつも通りの生活を続けていたある日、黒服さんから何気ないように情報を伝えられた。

 

「小鳥遊ホシノさんが三度目の自首を行い、三度目の釈放をされたそうです」

 

「何してんのあいつ?」

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈

 

 メグルを喪って一週間後。

 

 私は、自分の行いの全てを正確に把握し、自首した。

 

 ────同級生を殺しました。

 

 そう言って、私はヴァルキューレ警察学校の人間に自身の身柄を預けた。

 

 数名に囲まれながらの取り調べに正直に答え、吐き気のする自分自身の罪を全て打ち明けた。

 

 事実確認をすると、私は数日間仮投獄のような形で、拘束された。

 

 そして、二日後。

 

 私は、証拠不十分により、釈放された。

 

 意味が分からなかった。証拠は揃っていたのに。

 メグルの遺体は無くなっていたけれど、メグルの消息が途絶えたという事実だけで十分な証拠になるはずだと抗議した。

 

『アビドス高等学校に、■■メグルという生徒が居るという情報はありません』

 

 冷たく、そして異常者を見るような瞳でそう告げてきた少女の言葉を、私は理解出来なかった。

 

 精神に異常があるのかと、カウンセリングのようなものが始まった。その時の問答は覚えていない。理解が追いついていなかったから。

 

 学校へ戻り、最初に行ったのはユメ先輩の意識が戻っているかどうかの確認。当然のように、先輩は起きる様子が無かった。

 

 そして、飛び出すように私は学校を走り回った。唯一無二の同級生の姿を探すために。

 すぐに外へ出て、砂漠を走った。走って、走って、走った。

 

 何も見えず、建物もない、砂だけがそこにある地で、それでも私は一縷の望みを夢見て走り続けた。

 

「無駄だよ」

 

 息も絶え絶えに、真上から差してくる太陽の熱に肌を焦がして、それでも足を緩めずにいた私の鳩尾を鋭く貫いてきた銃口。

 

「ご、ぁ……ッ」

 

「逃がすはずがない」

 

 何も入っていない胃の中のものが逆流してくる。出てくるのは胃液だけ。

 強烈な痛みと吐き気、そして自覚し始めた倦怠感に視界が揺れる。膝を付き、熱い砂に倒れ込んだ私の耳を貫いてくる小さな声。

 

「自首なんてさせるはずがない」

 

 激しい耳鳴りの隙間から聞こえてくる少女の声。

 気味が悪いほどにその声は穏やかで。

 

「もっと……もぉぉっと……苦しんでよね」

 

 動けなくなった私。

 意識が朦朧とし始め、視界がぼやけると同時に乱雑に首元を掴まれて引き摺られる。

 

 靴の中に砂が入り込む。ザラザラとした感触が足を擦る。

 もう保てなくなった意識の最後に私が目にしたのは、異常なまでに口角を釣り上げていた白い少女の姿だった。

 

 

 

「────ね?」

 

 分かりきっていた結果に自嘲する。逃げることは許されていないのだと再確認する。

 

「私のやった事、全部無かったことにされてるんだ」

 

「……」

 

 顔見知りになってしまっていた看守の人に見送られて、私は外の景色を一日ぶりに目にする。

 

 三度目の今になっては、拘束時間は一日に満たない。きっと、私のことは精神異常者としてブラックリストに載っているのかもしれない。

 

「無理、なんだ……はは……」

 

「……」

 

 想像通りの光景。

 今までは一人で入り、一人で出てきたこの場所に、もう一人が追加された。

 私を待っていた人。

 

「ね、先生?」

 

「……それでも」

 

「無理……なの」

 

「ッ」

 

「無理……なんだ、よ……」

 

 全身を掻きむしりたくなる衝動を抑える。

 痛みもなく外に出てきた自分を殴り飛ばしたいけれど、それはこの人が許さない。

 

 私をいちばん許せないのは、この人のはずなのに。

 

 先生の顔を見る。

 

 なんと表現すれば良いのだろうか。

 生徒を思いやる慈愛の色が見える。生徒のために何が出来るのだろうかと悩む様子が見て取れる。

 

 何より、憎悪の感情が見えたからこそ。

 

「先生」

 

 だから、私は先生を呼ぶ。

 

「────私を裁いて(殺して)

 

 彼にしか出来ないこと。

 彼に権利のあること。

 

「メグルを殺した私を」

 

 だって、それは。

 

「先生の弟を……殺した私を」

 

 当然の権利なのだから。

 

 我ながら意地悪だと思う。性根が腐っているのかもしれない。

 生徒を思う先生の気持ちを利用して、私は先生に決断を強要しているのだから。

 

 罪を犯した私を、先生は救おうとする。

 けれどそれは、責任を負う、罪を償わせてからのこと。

 

 彼が『先生』なのであれば、それは当然の決断。

 

 私事での判断を、彼は出来ない。

 

 だから。

 

「…………ああ。私は」

 

 先生から向けられる瞳は。

 

「キミを、裁く(救う)よ」

 

 それだけで、私に対する罰になるのだろう。

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