ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
独りだった。何も無かった。
この手に握るのは一本の刀。あとは身につけている衣類のみ。
たったそれだけで、気が付けば知らない地に放り込まれていたのだから。
土地勘はもちろん無く、縁も無い。
ただ、見えないゴールへ向かって正しいのかも分からない道をとぼとぼと歩く時間が過ぎていく。どこに向かっているのかも分からない。
寂しさと不安で死にそうだった。
人外が歩いている。明らかに人じゃない何かが二足歩行で言葉を発している。
人間の男が居ない。制服を着た女生徒の頭上には何かが浮かんでいた。
もう、訳が分からなかった。
「大丈夫?」
それは偶然なのだろう。
他の誰でもない、その人に出会えたことが奇跡だったのだろう。
野垂れ死ぬだけが運命として定められていた俺の前に現れた彼女は、なんの躊躇いもなく手を差し伸ばしてきた。
俺の恩人。
「私の通ってる学校においでよ!!」
その人の声を覚えている。
その人の顔を覚えている。
その時の感動を、俺は忘れない。
頼れる人は誰も居ない、知ってる場所も人も居ない。
そんな俺に生まれた縁。初めての人との繋がり。
俺は、大恩を受けたあの人に、恩を返すことを誓ったんだ。
◈◈◈
メグルくんの情報の全てを消去した。
アビドス高等学校への在籍記録、活動、全て。
戸籍に関するものは最初からなかったから、それらを消すだけで済んだ。
彼の生きた証を消すことに躊躇いは無かった。彼は私の中で生き続けているのだから。
彼の作ってくれたお弁当の味を何度でも楽しめる。
彼の暖かさを思い出せる。
だから、私以外が彼のことを知る必要は無いのだ。
たった一人の例外を除いて。
その例外を叩き潰す為だけに、私は生涯を費やすと決めたのだから。
「爪を剥がせば、泣いてくれるかな」
何をしたら、アレは泣き叫んでくれるのだろう。
「目を潰したら、蹲ってくれるかな」
何をすれば、アレは生きる意思を無くすのだろう。
アレの周りを利用したりなんかしない。アレだけで完結する方法で、念入りに、一生、ずっと。
「泣いて、叫んで、吐いて、蹲って、助けを求めて、周りに誰もいなくなって、のたうち回って、生きて、生きて、生きて、生きて」
世界に絶望して、自分自身に絶望して、生きる意思を失った虚空の瞳になった小鳥遊ホシノの前に、私は立ってこう言うんだ。
「────ざまぁみろ」
その日を夢見て、私は今日も業務を熟す。
私の生きる糧は、もはや小鳥遊ホシノという存在だけだった。
◈◈◈
「ルルルルルォイヤルルゥゥゥゥウウウウウッッッ!!! ストレェェェエエエイトォォオオオオ!!! フルルルルァァアアアッッッシュゥウウウウ!!!!」
「
「ジーザスッッ!!!」
ぬか喜びさせられた。ども、■■廻です。
ロイヤルもストレートもフラッシュも全然来ないから成立役とか覚えてないよね。ロイヤルってなんだよ。
この三単語が噛み合った瞬間役限定されるのなんなの? 数字を指定するな、揃わねぇだろ。
ホシノの顔(気絶中)や兄さん(正常の姿)を見た後でも、俺の生活はビックリするぐらい変わらない。代わり映えがないのである。
「では、ビルの修繕費分、働いていただきます」
「ヒフミに請求してくださいよッッッ」
「あなたが頑なに会わせてくださらないので。というか、割ったのはメグルさんですよ」
「ギャァォアアアアアア!!!」
正論すぎて何も言えねぇ。
ヒフミを助けに行った時、緊急だったために俺はこのビルを踏み台として跳躍をした。その時、全力で踏み込んだためにその階は全壊し、ガラス面は全て割れた。うん、聞こえてました。でも、ね? こういうのって時間をあければ何も無かったかのように元通りになってるのがお約束ではないですかね? それを期待して何も言わずに過ごしてたのに、今朝突然黒服さんからビルの修繕についての話が舞い降りてきた。
『────ほどですかね』
『おっほ……』
桁がおかしい。
もちろん、働いてもいない俺に金があるわけが無い。研究協力という名目で黒服さんからお金を頂いてはいるけれど、そんなものでは到底払いきれない金額である。アビドスの借金設定したの貴方ですか??
「ちょうど、ベアトリーチェから依頼を受けてましてねぇ。面倒なので、メグルさんが行ってきてください」
「え〜〜〜〜」
「修繕費を払うのは私ですよ」
「頑張るっす!」
お金ナイナイ。そう考えれば、黒服さんの金はどこから湧いているのだろうか。色々な所と取引をしているし、なんかビルとかも持ってそうだし、そういう所で大儲けしているのだろうか。もっと金が欲しいね。まあ、黒服さんと繋がってる人とかろくな奴がいなさそうだけど。
「行ってらっしゃい」
「目的地教えて??」
そうして、あれよあれよと準備をして、まさかの当日中に派遣された俺はどんぶらこどんぶらこと歩いて行き。
「……なぜあなたがここに?」
「どもども。相変わらず目が多いですねベアトリーチェさん」
「縫いますよその口」
目が多すぎてもはや何も見えてないでお馴染みのベアトリーチェさんの元へと辿り着いた。相変わらず紅いね〜このひと。
久しぶり、と言いつつも二ヶ月ぶりくらい。まあ久しぶりに入るか。
何も見た目の変わらないベアトリーチェさん。まあほかの人たち、マエストロさんやゴリラゴリラ……じゃなくて、ゴルコンダさん達も見た目変わらないしな。服も一緒とか何、臭そう。
片目しか表面上に出ていない黒服さんにマウントを取ろうとして失敗したかのような目の多さのベアトリーチェさんは、俺がここに来たことを本気で知らなかったのか、困惑した様子でウザったらしそうに俺を見下ろしてくる。身長高ェ。
そしてたっぷり5秒俺を見つめた後に、はあ、と溜息を吐くと「まぁいいです」と言い放ち、俺に背を向けて歩いていく。
「背中で語るには十分すぎる面積ですけど、言葉の方が分かりやすいですよ」
「黙らっしゃい。言わずとも着いてくるでしょうあなた」
数歩歩いた彼女との距離を一歩で詰め、少し後方を着いて歩く。
「マカロンありがとうございました。ちゃんと捨てときましたよあの毒入り」
「ちっ」
「確信犯がよ。蹴り上げるぞババァ」
「そっちの方が貴方らしくていいんじゃないですか。心底腹立たしい態度とかピッタリです」
周りを見渡す。
ボロボロで、どこかの跡地と言われても納得できてしまいそうな佇まい。
外観は、城と言うのがあっているだろうか。中は綺麗なところもあるけど、やはり整備が整っていない空間。
アリウス分校。
「これ以上学校の名前覚えられないって」
「ハトの方がまだ賢いですよ」
概要は黒服さんから聞いている。もう忘れた。難しい言葉が多すぎるんだよなぁ。連想ワードが無さすぎて覚える気にもならなかったわ。とりあえず学校名だけは記憶しておいた。
在学生の数、不明。というか、学校として機能しているのかも不明。ベアトリーチェさんがいる時点で臭いけど、お金の為ならば働かなくてはならないのである。
「戦闘訓練の相手役?」
「元々、黒服に依頼していたのは武器や兵器等でしたので。蓋を開けてみれば小生意気な男がいたわけですが」
「良かったですね」
「直接的な皮肉です」
ベアトリーチェさんはアリウスの教師的立ち位置らしい。生徒会長とか言い出した時は流石に鼻で笑った。
んで、戦闘訓練を毎日行っているらしく、消耗品である武器等の発注を黒服さんに依頼したところ、俺が寄越されたというわけである。
ベアトリーチェさんとしても予想外ではあるものの、相手が俺であればまぁ替えはきくということで、俺を戦闘訓練の相手役として急遽置くことにしたそうな。
「ここを真っ直ぐ行って突き当たりを左、すぐに右に行って真っ直ぐ進み、右左なんやかんやあって訓練所に着きます。では、頼みますよ」
「頭までババァかよ」
そして、冒頭に戻ることなく、そのまま時間は進んだ。
俺の紹介に付き添う気のないババァはさっさとどこかへ消えていき、あとは任せたと言う言葉だけを残した。
中指を立ててからとりあえず校舎を一人で歩いていく。人気の無い寂しい景観。誰かが使っているとは到底思えないほどにガラッとした教室。
広さの割に生徒数が少ないのだろうか。たまたまこの区域は使われておらず、奥の方で学んでいるのだろうか。
光のない、薄暗い廊下をカツカツと歩き、突き当たりを言われた通りに左に曲がったところで、俺は携えた刀を抜き放ち顔の前に構える。
数瞬後に聞こえてきた火薬の爆ぜる音とほぼ同時に俺の刀が銃弾を両断した。
「あのババァ……マジで殴る」
暗闇の中から向けられた無数の敵意。今までの静寂が嘘のように響く銃弾の音。
自分に当たる弾丸だけを全て切り落とし、俺は走ることなく、そのまま歩いて目的地を目指した。
◈◈◈◈
『今から一人の男が校舎内を徘徊します。その男を殺しなさい』
短く、しかし確かな命令をマダムから受けた。
アリウス分校の生徒全員が即座に装備を整え、顔の見えない誰かの殺害命令を受け入れ、その時を待った。
それは私たち、アリウススクワッドも例外では無かった。
トリニティに向かった一人を除き、私達は対象の殺害に向けて動いた。いつものように、生きる為に。
失敗は、マダムからの粛清を意味するのだから。
女、ではなく、男。
脅威になり得る存在は各学校の主戦力しか知らず、戦力的に見て脅威と言える男は知らない。
だからこそ、気の緩みがあったのだろう。いいや、たとえ万全の準備をしていたとしても、その男には。
(────なんだ、この男は!?)
「も、もうほとんどが壊滅!? リーダー!?」
「サオリ。これ、やばい」
「────ッ」
至る所から聞こえてきた銃声や爆発は今は何も聞こえない。それは対象の殺害を意味するものではないと私達は理解していた。
まだ、その男を目視出来ていない。どんな存在なのか分かっていない。
武装も、何もかもが不明な中で、ヒヨリからもたらされた情報は私達に悪寒を走らせるには十分なもの。
「刀一本だと……!!」
銃火器が一般的であるこの世界で、近接戦闘特化の刀単体を持ち、それ以外はラフな軽装。
それだけで、あの数の戦力を制圧しているという事実だけが残った。
「……あ、やば────」
初めに、ミサキの通信が途絶えた。
そう時間も経たずに、ヒヨリの断末魔が響いた後にガシャっと通信が切断された。
「っ……姫!!」
残ったのは私と姫……アツコだけ。その瞬間に、私はアツコの身を案じて彼女の元へと走った。
遮蔽物を転々とし、慎重に、最速で。
行く先々で目を回した生徒達が倒れていた。彼女達に傷は見られず、無傷での制圧だという巫山戯た所業に冷や汗を流し、私はアツコの元へと急ぐ。
「あと一人か」
柱の裏に隠れ、アツコが居るはずの場所まであと一歩というところで足を溜める。
顔を出した訳でもなく、完全に体を隠していた私の耳にその声が聞こえた瞬間に、私の意識は闇の中へと放り投げられた。
「────カレーパーティ〜〜〜〜!!!! イエェェエエエエイッッッッ!!!」
目を覚ました私の目に飛び込んできた光景は、そんな巫山戯たものだった。