ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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冗談で言ったSOS実行するなよ恥ずかしい

「小鳥遊ホシノさんの解放……ですか」

 

「そうだ」

 

 カーテンの向こうから僅かに光が差し込むだけの事務室。

 そこに二人の大人……私と黒服が対面していた。

 

 人の形をしているけれど、その顔は私や生徒達とは似ても似つかない、奇妙な光がヒビ割れかのように走っていた。

 

 額からモヤが漏れ出しているその男……恐らく、男。

 そいつは、私が来ることを事前に分かっていたかのように余裕綽々としていて、台本が用意されていたかのようにスラスラと言葉を放ってくる。

 

 僅かな不気味さを感じながら、私は黒服と会話を続けた。

 

「彼女は、私の生徒だ」

 

「ふっ……アレが、ですか?」

 

「何が言いたい」

 

「いえいえ。中々に酔狂な趣味をしておられると思いましてねぇ」

 

 黒服の声を聞いて、心が揺さぶられるような感覚。

 会話を続けるのは危険だと警鐘を鳴らしている気がしたために、本題だけを伝え、早々にこの場を立ち去ることを決めた。

 

「お前からの評価なんてどうでもいい。ホシノを返せ」

 

「返せと言われましても。元々アレは私の所有物でもなんでもありません。欲しいのならどうぞご自由に。カイザーPMC基地の実験室に小鳥遊ホシノさんは居ますよ」

 

「……やけにすんなりと教えるんだな」

 

「要りませんよ、あんなもの。揶揄うにはちょうどいいですがね」

 

 黒服の物言いが一々癇に障るものばかり。

 

 生徒をモノ扱いしている奴の口調に怒りが湧いてくるのを抑え、存外すんなりと目的を達成したために私はこの場を足早に去るため振り返った。

 

「神秘の裏側、つまりは『恐怖』を、生きた生徒に適応することが出来るのか。それを確かめる為に、私は小鳥遊ホシノさんに接触したのです」

 

 何かを語り出した黒服の声が背中に突き刺さる。けれど、私はそのまま扉の方へと歩いていく。

 やけに遠く感じた出口。

 

「以前、彼女と接触した時は驚きましたよ……人とは、これ程までに壊れていても、自己を偽り行動できるものなのかと……ね」

 

 遠く、近い扉。

 すぐそこにあるはずなのに、私はいつまで経ってもそこに辿り着けない。

 

「あれほど憐れで滑稽で、面白い存在は他に居ませんよ」

 

「────口を閉じろ」

 

 違う。扉が遠くなっているんじゃない。

 私の歩みが遅くなっていたんだ。

 

 遂には私の足は止まり、振り返るまいと決め込んだ過去は消え、私は黒服へと鋭い瞳を向けていた。

 

「私の生徒を侮辱するな」

 

「侮辱? そんなものではありませんよ。事実を羅列したまでです」

 

「ホシノは誰よりもアビドス高校を守りたいと行動し、後輩達に尊敬されている。私の自慢の生徒だ……ホシノを、侮辱するな」

 

「生徒、ですか。率直な疑問なのですが、あなたは彼女の何を知っているのですか?」

 

 その質問は。

 

(駄目だ、聞くな)

 

 そこに踏み入れば、戻れない気がした。

 

 彼女を、生徒として見れない気がしたから。

 

 それを聞いてはいけないと思ってしまった。

 

「何が、言いたい」

 

 けれど、私の口は動いてしまっていた。

 それは『先生』としての行動なのか。それとも、『■■■■』としての行動なのか。

 

 私からの問いかけに、黒服は何を思ったのか、表情を変えることなく首を傾げて私を見た。

 

「なぜ、梔子ユメがあの状態に陥ったのか」

 

 それは、踏み入れなければならない議題。

 知らなければならない、ホシノの過去。

 

 無意識的に避けてきた、かつて起きた何か。

 

「小鳥遊ホシノさんの同級生だった()は、何処へ消えたのか」

 

 ドクン、と。

 強く心臓が跳ねた。

 

「なぜ、ゲヘナの風紀委員長は、彼女に殺意よりも深い感情を向けているのか」

 

「……やめろ」

 

「いいえ。貴方は知らなくてはならないのですよ……先生」

 

 思い出すのは、アビドス高校の保健室で見た一枚の写真。

 ホシノとユメに並んで写っていた、一人の男子生徒が。

 

 小さな頃からその成長を見守ってきた、肉親。

 

「先生」

 

 呼吸が荒くなってきた私を見て、黒服は嗤う。

 首を傾げて、心配するような仕草をあえてして。

 

 そうして、あいつは核心を突いてくる。

 

 無知なように、生徒が先生に質問をするかのように、自然と。

 

「殺人は、許される罪だと思いますか?」

 

 そいつは、なんて事ないように……平穏を打ち砕いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「兄が地面に這いつくばって女子高生の足の指をしゃぶり尽くしていたのを目撃した時の弟の気持ちを答えよ」

 

「『尊敬』ですか?」

 

「正解は、『きっつ……』でした」

 

 はいどうも■■廻です。

 

 兄の性癖を目にして直後、流石に一人で抱え込めなかったためにいつもの時間ではないけれど黒服さんの所へと駆け込んだ。

 

 衝撃。それに尽きる。

 

 普通に大人が女子高生の前で這いつくばって足を舐めてる絵面だけでもグロいのに、それが自分の肉親だという最悪のスパイスをマシマシでぶっかけてるもんだから普通に吐きそうなったわ。思わずヒフミにも連絡したもんね。

 

【あは、頑張ってください!】

 

「言葉見つかってない感じがきつい」

 

「相変わらず愉快な方ですね」

 

 そしてタイムリーにヒフミから返信が来て、内容がこれである。

 直球で嫌悪的な感想を言ってくれた方がマシだった。気を使わせているのが顔を見合わせてないのに分かる。めちゃくちゃ申し訳なくなったわ。

 

「メグルさんの友人、ですか。私の方でも、一度お会いしてみたいものです」

 

「絶対会わせないよ?」

 

 盗撮魔をヒフミに会わせられませんね、はい。あいつ普通に可愛いんだよなぁ。そして危なっかしいからそういう界隈の人は盛り上がるのだ。黒服さんなんて、ヒフミの写真(360度ver)を両手で抱えてニヤニヤしてそうだし。兄さんの写真とセットで。きっつ……。

 

 今、頭の中で兄さんがヒフミの足をしゃぶっている所をヨダレを垂らして盗撮してる黒服さんというカオスオブカオスな状況を想像してしまった。

 

「自重してください、マジで」

 

「そこまで真剣に言われると来るものがありますね」

 

「表現がいちいち気持ち悪い」

 

 どっち? 喜んでる? 悲しんでる? これ点数配分高そうな問題だな。選択肢二個だけだが正答率50%だろ。むじぃよ。

 

 いつものように、しかし話の内容は俺の愚痴になっていたけれど。

 黒服さんと話して、お茶をしばいて、片手間にヒフミとのメールのやり取り。

 

「ご報告が遅れましたが。先日、先生と対談しまして」

 

「結婚報告みたいな入りやめて?」

 

「いやはや、素晴らしいお方でしたよ。【先生】と【兄】の狭間に立たされての葛藤をあれほど強く行っておいででしたから」

 

 難しい話が始まりそうな気配がしたので、「いやはや」の段階で聴覚を遮断しておいた。話が終わりそうなタイミングで戻せばいいか。それまでは適当に相槌しておこう。

 

「初めて対話をして、直に先生を見て思いましたが……似ていませんね、貴方達兄弟は」

 

「声はなんとなく似てると思いますけどね。それ以外は全く」

 

 性格も違う、好みも違う、髪質も違う。

 身長も、目も、全然違う。世にいる兄弟の相似度に比べれば俺達はかなり似ていない部類に入るはずだ。初見で兄弟ってわかるやつは少ないだろう。

 

「もし、兄さんの顔を見て俺を連想する奴がいたら、それはもう変態ぐらいですよ」

 

 くつくつと笑ってお茶を飲む黒服さん。結構湯気立ってるけど熱くないのかな。猫舌じゃないけどあれはきつそうだ。

 

 本日のお茶請けは洋菓子ではなく煎餅。

 醤油で味付けされているのが丸分かりな色味をしているそれを口に含めばバリボリと口の中で騒音が演奏される。恐らく黒服さんにも聞こえているであろうほどの軽快な音。そこまで味は濃い訳ではなく、甘塩っぱいこれはお茶に非常に合うのだろう。なぜ紅茶を用意してしまったのか。遅すぎる後悔である。

 

「兄さんに会ったんですね」

 

「ええ。ご存知だったでしょう?」

 

「エレベーター降りた瞬間に横のエレベーターに兄さん入っていってたので」

 

 いやぁ、あれはびっくりしたね。散歩に行こうとしてエレベーター降りたら見覚えのある天パが隣のエレベーターに乗り込んでいく姿を見たから。普通に隠れたわ。いや、会いたくないとかじゃないんだけどね? ここで再会するのなんか変じゃね? みたいな。

 

 顔を見た訳じゃないけど、弟なんで。まあ兄さんだということは分かるよね。

 

 そして、兄さんが黒服さんの元を訪れた目的。

 

「ホシノの居場所を教えろ〜、って言われた感じで?」

 

「お見事です」

 

 予想通りすぎるな。それを黒服さんに言ったところでだが。

 

 黒服さんがホシノに何かしているのは知っている。契約内容見た感じ、あれにサインしたということはホシノの身柄は今頃あのロボット銭ゲバ野郎の所だろう。エロ本展開になっていたら胸糞すぎるな。

 

 契約書なんて無視すればいいだろうに。違約金? 知りませんねそんなもの。アビドスの借金に比べたらクソみたいなものでしょ。踏み倒せ。

 

「貴方は小鳥遊ホシノさんを助けに行かないのですか?」

 

「何度目の確認ですか、それ」

 

 ホシノの学友。仲が良かったかと聞かれれば、まあ普通だと答える。

 俺は別にホシノが嫌いじゃない。どちらかと言えば好きと言えるだろう。

 

 ただ、今の俺は死人だ。アビドス高校の■■メグルじゃない。黒服さんとお茶を飲んで、ヒフミの友人である、ただの■■廻だ。あ、先生の弟っていう属性追加しといてね。

 

 助けるべきではないとか、資格がないとか言わない。キモいし。

 ただ、率先して助けようと思っていないだけ。ブルーアーカイブという作品があるということを知っているからこそ、どうせ先生が助けるんだろうなぁ、というメタ的思考になっているのも要因の一つだろう。

 

 ただ、まぁ。

 

「『助けてくれ』って言われたら、流石に助けに行きますよ」

 

 俺に向けてでなくても、耳に入ったのなら俺は動くのだろう。

 他人じゃない、ホシノの言葉だから。

 

 まあ、そんなことは無いだろうけど。ホシノの声が聞こえるところにいないし、俺。

 

 可能性があるとすれば、なんか巻き込まれたヒフミからのSOSで俺が飛んで行くくらいだろう。

 

「何度も言いますが、私は貴方の行動を制限するつもりはありません。貴方の選択、貴方を巡っての周りの方々の選択。それに伴いたどり着く解答。それを、見たいのです」

 

「俺の周りなんてヒフミぐらいしか居ませんよ」

 

「クックック……いいえ、いいえ。貴方は自覚するべきです。貴方という特異な存在による影響を」

 

 分からん。何言ってんだこの人は。

 

 考えたら負けな気がした。煎餅を頬張り紅茶で流し込む。うん、合わん! 

 

 そうして、何事もなく時間は過ぎて行き。

 

『────メグルンルン! お助け〜っ!!!』

 

 クソ恥ずかしいセリフを叫んだ友達(アホ)を助けに、俺は全力でビルを踏み台にして空を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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