ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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兄さんの周りに女生徒しか居ないのは謎の歯痒さがある

「■■メグルさんの遺体は私の方で回収しましたので御安心ください」

 

「────」

 

 真っ白になった頭とは違い、身体は即座に動いていて。

 

 銃を抜き取り、目の前のデスクに腰掛ける『黒服』という存在へと銃口を向ける。

 自然と息は荒く、噛み締めた歯の隙間から漏れ出ていく。

 

 無意識に漏れ出す殺気。銃口を向けられているにも関わらず態度を変えない黒服は、大袈裟なまでに首を横に振る。

 

「これは失礼。『御安心ください』などという余計な言葉を付けてしまいましたね」

 

「ふーっ、ふーっ……!!!」

 

「安心もなにも────貴女が彼を殺し、遺体を放置したのですから」

 

「っ────」

 

 武器の一切を持たないはずの相手から突き付けられる、事実という刃。

 避ける術を知らない私の胸にいとも容易く突き刺さる。

 

「私が彼の遺体を見つけた時の様子をお話しましょうか」

 

 やめて。

 

「右腕右脚は千切れ、首は少し離れた位置に落ちていましたね。あの気温の中長時間放置されていたのです。身体の断面にはハエが集って異臭もしていましたか」

 

 やめて。

 

「水分が無かったのか、身体はしわしわ、とても軽い……さぞかし、無念の最期だったのでしょうね……ひとつ、参考までに伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「ぁ、ぅ……」

 

「かつての御学友を撃ち殺すほどの理由があったのでしょう?」

 

 ────やめてなんて、どの口が言っているのだろうか。

 

「彼が貴女にどれほどの悪行を行ったのか……お伺いしたいですねぇ」

 

 悪行。

 

 悪い行い。

 

 私に対する、メグルの悪行。

 

 思い出す。かつて過ごした日々を。

 

 メグルが私に何か被害を与えてきただろうか? 

 

 ────否。

 

『……なに? 私の顔をじっと見てきてるけど』

 

『ん? いや、カッコイイな、と』

 

『……はぁ?』

 

『たまに見せる女の子らしい顔も可愛いけどさ。やっぱり俺は、ホシノのキリッとした表情っていうのかな? それが一番好きだわ』

 

『…………好き、とか。乱用するものじゃないですよ』

 

『かっこいい! イケメン!』

 

『それはそれでどうかと思うけど』

 

 メグルが私に与えてくれたのは、日常の温もり。

 

 当たり前に隣に居てくれる、もう彼無しでは生きていけないとさえ感じてしまう安心感。

 

 それを理解したのは、彼をこの手で壊した後だったから。

 

「その顔……メグルさんが見たら、どう言いますかねぇ」

 

 私の犯した大罪。

 

 決して拭うことの出来ない愚行。

 

 一人の女の子を泣かせ、日常を自ら斬り裂く理解不能の所業。

 

「『正直、グッときました』なんて、平気で言いそうですが」

 

 視界が機能しない。聴覚も、触覚も、何もかもが。

 真っ白の世界。立っているのか座っているのかも判別不可能で私が一人。

 

 罪の意識の膨張による現実逃避。

 

 今日もまた、私は私を嫌いになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「お前何やってんの?」

 

「え、あ、え!? あ、あー!! 私の名前はファウスト!! すみませんが何方かと間違えておられるのではあ”〜!? アタマが〜!?」

 

「転売品の購入の次は銀行強盗か。楽しそうだなお前の人生」

 

「ごっ、ごめんらはひ〜!!!」

 

 最近俺の中で大流行中のミステリー小説を読んでいる時にヒフミからメッセージが届いた。

 分かってはいたが一応確認し、SOSの内容が書かれていたために本に栞を挟んで部屋を出ようとしたらまさかの送信取り消しをされた。

 

 誤送か、しかしあいつにそんな友達がいるのか怪しかったためにとりあえず様子を見に行こうとヒフミを探した結果が街中で銃を乱射している覆面集団である。

 

「覆面水着団……?」

 

「ぎゃぁああぁぁぁ!? ご、ごめんなさいぃい!?」

 

「心配して探した先に居たのが巫山戯た覆面被った銀行強盗だった時の気持ちを答えよ。1,殺そうかな? 2,殴ろうかな?」

 

「3の『似合ってる可愛い!』でお願いしまぎゃぁああぁぁぁ!?」

 

 まじで1回殴ってやろうかな? 

 

「んで、なんで銀行強盗なんかしたんだよ」

 

「あぅ……じ、実は……」

 

 事の経緯をヒフミから聞く。何やら気まずそうに語り出したからどんな内容なのかと思いながら聞いてみれば馬鹿らしすぎる内容で。

 

「アビドス高校?」

 

「はいぃ……『先生』という方も一緒に居たんですけど」

 

「何してんだよあの人」

 

 身内の不祥事でした。生徒と一緒に銀行強盗する教師とか居るんですか? ああ、俺の兄ですわ。

 てかアビドスって……ホシノも居るんじゃね? あの覆面集団の中にアイツいたんだ。そう思ったらクソおもろいな。ユメ先輩も……いや、無いな。あの人が参加してたのなら銀行爆発ぐらいしてないと釣り合わないぐらいおっちょこちょいだからな。

 

 五人ぐらい居なかったっけ。マジかよ、アビドス高校大豊作じゃねぇか!! マンモス校って呼んでもいいんじゃね? 

 

「め、メグルさん……?」

 

「……ん?」

 

「あの……手が……」

 

「あ、ごめんごめん」

 

 兄の不祥事に頭を悩ませてたら、ヒフミの頭の上に手を乗せていたことを忘れていた。失敬失敬。ヒフミの様子を見るに単純な疑問だったようで、特に嫌悪感なんかは無さそうだ。耐えたな。

 

「お知り合い……ですか?」

 

「あ〜……いや。俺が一方的に知ってるだけだよ。だから俺の名前とかあんまり出さないでね」

 

「はぁ……分かり、ました?」

 

 ここでふと考える。

 兄さんやホシノ達が銀行強盗をした理由はなんだろうか。

 理由なしにそんなことをする奴らだとは思っていないから理由は必ず存在する。

 

 真っ先に思いついたのはアビドス高校の借金。意味分からんくらい借金あるからなあそこ。定期的な借金返済が出来ないほどに資金が無くなったのか、それともあのロボ公が金利を爆上げでもしたのか。

 

「直接話聞きに行くか……」

 

 といっても手段がある訳じゃないし。強引に突破してもいいが、そこまでするほどの緊急性は感じられない。

 黒服さんが何かしてるっぽいし、アポイントは取れるだろ。その時が来たら聞けばいいか。

 

「あの……」

 

 そんな考え事をしていたら、不意にヒフミが声を掛けてきた。

 

「アビドス高校の先生って……もしかして、メグルさんの────」

 

「兄だよ」

 

「……あ、あっさりと……聞くの躊躇ったのに……」

 

 隠すほどの事じゃないしね。

 けど、俺と兄さんってあんまり似てないと思うんだけどな。あの人優しそうだけど俺は別にそんな感じじゃないし、どっちかっていうと鋭めの目つきしてるし。髪質も違う、身長も体格も。

 

 ああ、声は似てるか。

 

「会いに行ったりは」

 

「してないな。というか会う予定も無いし。俺がいること知らないだろうし」

 

「そう、ですか……深くは聞きませんけど。私っ、口はかたい方ですから!!」

 

 気を使ってくれる優しい女の子。ペロロが絡めばまじでヤバいやつだがこういった所はいい子なんだよなぁ。それを打ち消すやばさではあるんだけど。

 

「んで、ヒフミはなんでブラックマーケットに行ったんだよ」

 

「ペロロ様の転売ヤーを駆逐しようかと」

 

「100か0かでしか動けないのかお前は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────」

 

 そんなはずは無いということは分かりきっている事だった。

 

 メグルくんは死んだのだから。

 

 顔だって違う。あんな癖毛じゃ無かったし、もっと筋肉質だったし。もっとかっこいい顔だった。

 

「風紀委員長……だって?」

 

「っ」

 

 だけど。その声が。

『先生』の口から聞こえてくる音の中に含まれている僅かな既視感が。

 

(メグル、くん……)

 

 私の後ろには風紀委員の子達がいる。

 一瞬頭が真っ白になってしまった私はそのことを思い出して、風紀委員長として毅然とした振る舞いを再開する。

 

 そして。

 

「うへぇ。凄いことになってるねぇ」

 

 その声が、その気配が。

 

「ホシノ先輩!?」

 

「ごめんねぇ。ちょっと昼寝しててさぁ」

 

 その、気色の悪い抑揚が。

 

 私の神経を逆撫でする全てが詰まったような女が現れて。

 

 知らぬ間に銃へと伸ばしていた腕を何とか止める。あとはもう、引き金を引くだけだったけど。それでも、今の私は風紀委員長だから。

 

 私は、風紀委員長だから。

 

「そうだね……うん────ごめんね、ヒナちゃん」

 

「……小鳥遊、ホシノ」

 

 私の大切を、この世から消し去った元凶。

 

 その女が、今。

 アビドス高生を守るために私の前に立ち塞がっている。

 

「────ふふっ」

 

「っ……」

 

 ダメだ、嗤ってしまった。

 どうしよう、止まらない。なんでだろう。

 

「ふふふ、ふふふふふふふふふふ……」

 

 ああ。なんて滑稽なんだろう。なんて無様なんだろう。

 

 彼を殺したこの女が、後輩を守るために前に出ている。罪滅ぼしでもしているつもりなのだろうか。

 

 似合わない口調で、それでもあの子達を安心させようと巫山戯た態度を継続している。滑稽極まりない。

 

「気持ち悪い」

 

「ご……めん、ね……」

 

 突然謝りだした女に思わず首を傾げてしまう。何を言っているんだろうか。

 

「似合わないね、その口調。彼がそっちの方が良いとでも言ったの?」

 

「違う、よ……?」

 

 何を一人で話しているのだろう。脈絡が無さすぎる。謝ったと思えば次は否定。何を考えているのだろうか。

 

 私はこいつが憎い。憎くて憎くて仕方がない。

 だけど、私には立場がある。出来てしまったから。個人的な感情の吐露なんて、みんなの士気に関わることはしない。

 

「人殺しが」

 

「ッ」

 

 だって、私は。

 

「お前がどれだけの善行を重ねても彼は帰って来ない」

 

 風紀委員長なのだから。

 

「彼は、帰って来ないッ」

 

「ごめん…………ごめん」

 

 だから、秘めた思いは絶対に口にしない。

 

 そういうものは、心の中で言わなければならない。

 

 だからこそ、ここで発散しておかないと。

 

「────お前が死ねよ」

 

 よし。

 

 誰にも聞かれてない。

 

 ────目の前で押しつぶされそうな顔をしている女以外には。

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