ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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原作開始か分からないけど、多分始まった気がする

『……食べる?』

 

 忘れることの無い記憶。

 

 貧困では無いし、死にそうな程に空腹だった訳でもない。

 

 風紀委員会の一員としての業務を行い始めていたある日。ただの一幕。

 他の人たちと比べて能力が高くて、少しばかり周りから距離を感じてしまっていた時期だったからなのか。

 

 なんにせよ、あの日。

 

 彼が私にくれたお弁当は本当に……本当に、今までも、これから食べるであろうどの食事よりも美味しくて。

 

 数える程しか出会うことは無かった。その一回一回の邂逅と交流が私の中では揺るがない宝物になって。

 

『死、亡……?』

 

 風紀委員会の人達とも打ち解け始めた。

 実力を買われて一年生ながらに次期風紀委員長候補として上の業務にも携わった。

 

 だから私は、ごく一部の人間しか知らないその情報を見つけてしまった。

 

 ────許さない、許さない。

 

 私はお前を許さない。

 

 あの時のように、ただ衝動に身を任せて地面へと叩きつけ感情の全てをぶつけるような真似はもうしない。

 私はもう、組織のトップになってしまったから。私の行動によって生じる影響を理解しているから。

 

 けれど、私はお前を絶対に許さない。

 

 お前がこれからどれだけの善行を為そうとも、どれだけその行為に理由があったのだとしても。

 

 お前だけは、絶対に。

 

「……ヒナ委員長」

 

「────ん、ごめん」

 

 牢屋になんて入れてやらない。法の裁きも与えてやらない。

 

 殺すなんて生温い。

 

「最近、少し働きすぎではないですか……? 目のクマがさらに濃くなって」

 

「大丈夫……大丈夫」

 

「ヒナ委員長……」

 

「アコ。私は大丈夫だから」

 

「それは……いえ、分かりました」

 

 彼がそんなこと望んでいないって? 

 

 うん、そうかもしれない。彼は……メグル君は優しいから。きっと私の行動を見たら止められそうだね。

 

 でも。彼はもう居ないから。

 

 彼が許しても、私は許さない。

 

(────小鳥遊ホシノ)

 

 絶対に許さない。

 

 どんな事情があったとしても。

 

 どんなに罪滅ぼしを行ったとしても。

 

 ────お前だけは、絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

「ヘイローを持たない身で神秘を示した。矛盾した存在であるかつての貴方の真髄、そこに────」

 

 なんか難しいこと言ってるから適当に頷いといた。

 

 どうも、■■廻です。相も変わらず黒服さんとお茶会してます。もしや俺ボッチなのではと思い出した今日この頃。

 

 いつもの日常。黒服さんとお喋りし、料理して、たまに外を散歩する。

 

 犯罪発生率がいよいよ1500%を突破したが、それ以上増えるような見込みは無いようだ。噂によれば、何処かの風紀委員だかが働きまくっているらしい。この前俺を襲いに来た子から聞いた。

 この世界はあれか。学園モノなだけあって生徒会やら風紀委員やら、委員会というものの権力が桁違いなのだろうか。風紀委員なんて現実であるんだな。あったとしてもじゃん負けだろ。

 

(お。今日の紅茶は中々……)

 

 湯気が立っている紅茶を一口含み、ホッと一息。

 ポケットに入れているスマホのバイブを感じ取ると落ち着いた気分が急下落し、熱々の紅茶を一気に飲み干して机へと置く。

 

「────おや。いつものですか?」

 

「いつものですよ……」

 

 初めて会ってから二週間と経っていないのにあの狂人娘からのSOSはこれで五回目である。黒服さんにとってももはや恒例化してしまったこれはそろそろキレてもいいのでは無いだろうか。

 

【たすけえくはさい〜!!!】

 

 走りながら打ってるなこいつ。

 

 ペラペラと難しいことを話していた黒服さんは話しを中断されたことについては何も思うことなく、気さくに(俺調べ)俺を送り出してくれた。

 結局、この人は俺をどうしたいのだろうか。契約内容的に察せられることもあるけど全てでは無い。こちらのメリットが大きすぎる気もする。

 

 まあ。俺自身、この人について悪感情は抱いていないし、ユメ先輩に並ぶ恩人の一人だ。

 

「ふえぇ。ありがとうございま……あぎゃ!?」

 

「お前これで何回目? なぁ、おい。何回目?」

 

「ひぃぃ……すみません……」

 

 やはりブラックマーケットは荒れている。いつ来ても爆音に発砲音。ここだけ毎日地震起きてるんじゃね? というほどだ。

 まあここで一番ヤバイやつは余所者のはずなのに常連になっているヒフミなのだが。

 

「ペロロ様のグッズがどうしても欲しくて……ここにしかないんですよぉ!」

 

「ペロロペロロペロロペロロ……もはやそのペロロに腹立ってきたわ」

 

「ペロロ様を侮辱するんですか?」

 

「お前マジで一回死ぬか???」

 

 味わわせてやろうか。死の体験。まあ俺の場合ほぼ即死だったから辛いことは無かったんですけどね。

 

「というかお前。一介のペロロファンならグッズは公式販売で買うべきじゃねぇの……?」

 

「……ふぇ?」

 

「転売品の購入って……ファンとしてどうなん?」

 

「────────はっ!?」

 

「まじかこいつ」

 

 今まで転売品買ってたことに気付いてなかったのかこの子は。転売ヤーから高値でグッズを買うなんてファンに有るまじき行いである。そこで正座しときなさい。

 

 一気に顔を青ざめさせたヒフミはガクガクと膝を震わせると脱力したように地面へと座り込み涙目になりながらアワアワとしている。

 

「そん、な……わ、わたし……ペロロ様っ、すみませんでしたぁぁ!!!」

 

「まじかこいつ」

 

 自分の鞄に着けているペロログッズに泣きながら土下座し始めたこの子は恐らく末期です。

 

「わたしは、なんてことを……わたし、ペロロ様に顔向け出来ない……」

 

「そうなんだすごいね」

 

「真面目な話ですよっ!!」

 

 もう帰っていいかな。いいよね。

 

 随分と動揺していらっしゃるようで。顔が青いというかもはや白い。いやこいつ肌綺麗だから元々白っぽいしよく分からんか。

 まあこれでヒフミもブラックマーケットに行かなくなるだろう。

 

「め、めめめめめメグルさん!? わ、ワタワタわわわわ私はどうすればっ!?」

 

「これからは転売品を買わずにちゃんと買うでいいんじゃね?」

 

「ペロロ様っ!! 私の全財産を捧げますッッ!!!」

 

「こいつの友達辞めようかな」

 

 連絡先を消すか本気で悩んだが、やめた。

 近い内にまた呼び出しが来てしまうから、この時の選択は間違ってはなかったのかもしれない。いや、間違いかも。

 

 と、狂信者の如く狂うヒフミの様子を冷めた目で見ていた時、ポケットのスマホから振動が伝わってくる。ヒフミの時とデジャブだなぁ、なんて思いながらもバイブレーションが長いから電話であることが分かった。

 

 俺に電話するなんて一人くらいで。俺は相手の名前を見ることなく通話ボタンを押す。

 

「────兄さんが?」

 

『ええ。先程連邦生徒会と共に行動している様子を確認致しました。恐らく『先生』かと。念の為、メグルさんにご報告を、と』

 

 連邦生徒会か……普通に何処か知らん。我ながらこの世界について知らなすぎだろ俺。地理ぐらい理解しとけよな。

 

 しかし、兄さん……『先生』がこの世界へとやってきたということは、いよいよ原作が始まったということでは無いだろうか。そうでなければ困るが。

 

 俺の想像していたブルーアーカイブ。戦闘なんて無縁の王道青春学園モノという世界は既に消え去っている。恐らく元々こういう世界線だったのだろうが、兄さんはこの世界で生きていけるのだろうか。

 

 俺みたいに身体能力だけは向上しているという線も捨てられないが、なんとなく、先生という立場の人間がゴリゴリに戦闘するのは想像がつかない。恐らく司令官か後方支援。肉体強度は俺と同じくクソザコなのでは無いだろうか。

 

「お兄さん……?」

 

「兄さんは無事ですか?」

 

『ええ。かなりの激戦地へと向かわれているようですが、先生の周りには各学園の主力とまでは行きませんが、手練が護衛しているようです。問題は無いかと』

 

「まあ初戦から死にゲーとか有り得ないか、そういう世界じゃあるまいし」

 

『位置情報を送りましょうか?』

 

「いえ。俺が兄さんに介入することは余程のこと以外は無いので。それに俺、死人ですし」

 

『それは貴方の神秘上……いえ、分かりました。それでは失礼します』

 

 さてさて。これから兄さんは可愛い生徒達とのラブラブイチャイチャな戦場へと駆り出されていくのだろう。なんだそれ地獄か? 

 俺? 俺は同級生から好かれてなかったしなんなら殺されたし。まあ普通に楽しかったからいいんですけどね。今は美少女の皮を被った狂信者の友達ですわ。そのうちペロロ様の壺とか買わされそうで怖い。

 

「……あの、メグルさん?」

 

「……ん?」

 

「お兄さんがどうかされたんですか?」

 

「あ、聞こえてた? なんも無いよ、気にしないで」

 

「そう……ですか?」

 

 物語に俺は不要。関わるべきでは無いとまでは言わないけど、関わる必要性は感じないよね。

 兄さんに会いたい気持ちはあるけれど、そこまででは無いし。それよりは、ユメ先輩が元気してるか、ホシノが俺を殺したこと気にしてないかの確認はしたいかな。

 

 それほど遠くないうちに、兄さんが女生徒の足を舐めている姿を目撃する訳だが。

 

 そんなことを知らなかった俺は、原作と言うやつが始まったことに一抹の不安を抱えながらヒフミを安全地帯まで送っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────廻?」

 

 アビドス高等学校にある保健室、そのベッド。

 

 この学校に元々所属していた生徒の一人が今も眠り続けている傍に置かれた花瓶、その前に立て掛けられた一枚の写真。

 

 そこに写る三人の生徒であろう姿のうちの一人。

 

 今とは違いショートカットで鋭い目付きのホシノと、真ん中で二人を抱き締める女生徒……ユメ。

 そして、ユメに抱き寄せられて驚いたように目を丸くしている男子生徒は……私の唯一の弟に酷似していた。

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