ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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銃弾飛び交う日常に足を踏み入れたら普通に死ぬよね

 死と再生は表裏一体。

 

 故に、俺はユメ先輩を殺して上書きする。

 それが正しいのか分からない。この行動が何になるのかも分かっていない。

 

 それでも、直感が囁いてきたから。

 なんの根拠もなく、事実もなく、確信もない。頼りにならない感情で、それでも俺のやるべきことは定まってしまっていたから。

 

 あんなにも艶があった先輩の女の子らしい肌はカサカサで生気が無く、左腕はギリギリ肩と繋がっている程度。開かれた瞼から見える瞳には砂漠の砂が疎らに付着していてどこを見てるのかも分からない。

 

 聞こえない呼吸音、上下しない胸の鼓動、大量に辺りを染める出血。

 

 今にもちぎれそうな俺の右脚を何とか動かして近づき、先輩の心臓に刀を突き刺す。

 

「────ぇ、ぁ」

 

 痛みは無い。

 突如暴れ回る視界。上下左右にグルグルと回転する世界は、俺の首が吹き飛ばされたからこそ起こった現象で。

 

 何が起こったのかは分からない。その瞬間の思考なんて覚えていないし、ユメ先輩に集中していたから周りなんて見れていなくて。

 

 けれど、それでも。

 暗転する直前に、意識が飛ぶ最中に。

 

 火薬が煙となって舞う銃口を此方に向けていた桜色の髪を持つ少女が、ただただ呆然と俺を見つめていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────夢見が終わってる」

 

 アラームなんて設定していない。

 別に仕事があるわけでも用事がある訳でもなく、アラームの必要性を感じなくなってきたこの頃。

 

 黒服さんから提供されている一室。無駄に広く、無駄に豪華で無駄にふかふかなベッドも完備されている。

 そのベッドの上で、自然と瞼が開き意識が覚醒していくのを感じた。

 

 夢なんてあまり見ないのに、今日は何故だからあの日、死の直前の記憶が鮮明に蘇った。二度寝なんてするような気分ではないから、珍しく俺はすぐにベッドから起き上がる。

 

 怒りは無い。憎しみもない。恨んでなんかいないのだから。

 あの時はわけも分からずに死んで、こうして目覚めた時にじっくりと考えた結果辿り着いた死因。その時ですら、俺はただただホシノに申し訳ないという感情しか湧かなかったのだから。

 

『メグル』

 

 思い出す。

 あの、凛々しくカッコイイ、けれどたまに見せる少女然とした表情や仕草が可愛らしい女の子を。

 

 アビドス復興を掲げ、大人の汚さを理解していて、現実を見てしまっていたからこそ苦悩していたか弱き少女を。

 

『メグルくんっ』

 

 思い出す。

 異邦の地で右も左も分からずにさまよっていた不審な男に手を差し伸べ、生きる場所を与えてくれた恩人を。

 

 俺がアビドス高等学校に所属するまで、一年近くたった一人で借金返済に奔走し、学校を守り抜いていた大いなる存在を。

 

 俺が駆けつけた頃には既に事切れていて、巨大なヘビのようなものに死体を弄ばれていた悲しき先輩を。

 

「……水」

 

 喉が渇きを嘆き、水分を求めだしたのを感じ、台所まで歩いていく。

 軽くうがいをした後に両手をお椀のように合わせて水を汲み取り、啜るように水を摂取する。

 

 カラカラの喉を水が通っていき、いつもの味とは違った感覚を感じて、さらなる渇きにもう一度水を呷る。ついでに顔を冷水で引き締めて意識を完全に覚醒させて、一息吐いてからタオルで顔に付着している水を拭き取った。

 

「ホシノ……まあ、あいつなら大丈夫か」

 

 やはり頭の中で浮かび上がるのは一人の少女。

 共に過し、最後には人を殺す経験をさせてしまった罪悪感が積もる。

 

 けれど、あの子なら思い悩むことはないのかもしれない。

 一時は悩むだろうけれど、彼女ならきっと割り切ってくれるだろうから。というか、あの場面なら銃弾ブッパするのは理解出来る。というか普通にするだろう。あそこだけ切りとったらユメ先輩にトドメを刺してる男の構図だ。

 

「ままならないねぇ」

 

 会いたい気持ちは勿論ある。けれど会うべきではないとすら思ってしまっている。

 きっとこれが最善で最良の判断だと願うばかりだ。

 あいつのことだ。きっと良い後輩に恵まれているはず。それで、今までは後輩ポジしか経験していなかったから良い先輩の姿がよく分からなくて、たどたどしくも最初はユメ先輩の真似をするんだろう。

 

 ……あいつが「ひぃぃん」とか言い出したら爆笑する未来しか見えないが。

 

「はぁ……ブラックマーケット、行くかぁ」

 

 犯罪発生率急増中のキヴォトス。

 もうすぐ1500%増まで突破しそうな勢いの中で、ブラックマーケットに行くとか何考えてんの、死ぬの? と言った感じだけど。今日は何となく、外に出たい気分だから。

 

 俺の知ってる地域はアビドスかブラックマーケットかぐらいだから、アビドス高等学校付近はNGなために、ブラックマーケットしか選択肢はない。

 

 未開拓の地域? 行くわけねぇだろ、この状況で迷ってみろ、犯罪に巻き込まれてまた死ぬわ。

 

「……で、お前は何をしたわけ?」

 

「知りませんよぉ〜!? というか貴方はどちら様ですか!?」

 

 分かってはいたよ? 以前に行った時も荒れてたのに今この状況、まだ『先生』が到着しておらず、連邦生徒会長が失踪したタイミングのブラックマーケットなんてそりゃ犯罪ホイホイでしょ? うん、知ってるよ。

 

「待てやコラァ!!」

「トリニティのお嬢様ぁ、サクッと拉致って大儲けしてやるぜ!!」

 

「友達から呼ばれてるぞお嬢様」

 

「はうぅ!! この状況で私とあの人達が親しい関係だと思うんですかぁ!?」

 

 クソダサいリュックを背負った少女。見た目はホシノといい勝負しそうなくらいガキだけど、年下だろうな。一年生か? もちろん記憶にありません。俺が知ってるブルアカキャラなんてアイコンのあの子くらいだ。名前は知らない。

 

 というか今日刀置いてきたんだよなぁ。冷静に考えて意味分からん判断だけど。なんで丸腰でブラックマーケットに入ったんだ俺? そもそもなんでブラックマーケット?? 一時間前の俺の思考を疑ってしまう。

 

「痛っ……やっぱ肉体強度はクソザコのままだよな」

 

 背後から俺に向けて放たれた銃弾の側面を手で弾く。高速で回転している銃弾は触れただけで皮膚を抉って手の甲から血液が僅かに吹き出していた。次からは避けるか。

 

「本当に知り合いじゃないんだよな?」

 

「さっきからそう言ってるじゃないですか〜!!」

 

 キャンキャンと泣き喚く少女にイラッとしながら進行方向を180度転回。速度を落とすことなく切り返したことによる慣性の重圧を感じながら、身体が耐えられるように力を抑えて踏み込み、十メートルほど離れていた二人の不良の元へと一歩で近づく。

 

「ごめんな」

 

 いい感じに近くを走ってくれていたために、二人の顔面を鷲掴みにして後頭部を地面へと叩き付ける。僅かに陥没したコンクリート、鳴ってはいけないような破壊音が聞こえてきたけれど、それはコンクリートのもので、キヴォトス人であるこのヤンキー達は気絶で済む程度。やはりこいつらは頭がいかれているようだ。身体か。頭は俺が叩きつけたからな。

 

「よ、容赦のない……」

 

 まず感謝な? 讃えろよ俺の事を。聖歌を謳え。崇め奉れ。

 

 と一瞬思っていたらその思考が読まれたのかと思うぐらいに切り替えた少女は俺へと深く頭を下げる。それはもう何度も。「ありがとうございました!!」と声高々に。

 

 気絶している子達を拘束する手段がないし、するつもりもなかったからとりあえず手頃な建物を壁替わりに使って寝かせる。

 髪色と目の色がほぼ一緒の女の子は純粋な感謝を見せてきてくれるけど感謝されすぎて逆に気まづい。分かったからもう黙れ。

 

「えっと、なんだっけ……とりっぴー?」

 

「トリニティです」

 

 トリニティなんちゃらとかいういい所のお嬢様なようだ。カタカナが多い。もっとシンプルな名前にしてくれ。アビドスで限界だ。

 

 なんでも、キヴォトス三大学園だとかなんとかのひとつらしい。まあその他二つを知らないからへーそうなんですか、しか感想は出てこないけれど。

 

「ペロロ……ペ、ペロ……なに?」

 

「ペロロ様です!!!」

 

 あのリュックのデザインのキャラクターに並々ならない思い入れがあるらしい。目が完全にイッている。追及するのは凶と見た。

 

「貴方もペロロ様信者になりませんか」

 

「結構です」

 

 怪しい壺と気持ち悪いキャラ物は買うなって兄さんから言われてるからね。多分。知らんけど。

 

 そして当然のように付いてきた女の子……ヒフミというらしい。

 まあ別に不都合がある訳ではないし、この子がまた襲われるようなことがあっても後味が悪いから護衛はするつもりだったけど。

 

 短い時間しか話していないが、人懐っこい性格で天然。天然である。いちいちリアクションが大きくて困る。

 で、話してて分かったことだが、やはり人型の男子生徒と言うのは聞いた事がないそうだ。そりゃそうか。キヴォトス唯一とはいえ、閉鎖寸前でコサックダンスしてるようなアビドスの情報なんて把握しているはずもない。なんかいるらしいよー、みたいな情報を上層部が握ってるかもしれないぐらいか。

 

「ペロログッズを買いたいがためにブラックマーケットに一人で……?」

 

「ぎゃぁぁああああ!? ごめんなさいごめんなさい頭鷲掴みにしないでください〜!?」

 

 天然ではあるが頭は可笑しいようだ。

 しかも一度や二度のことではないようで。こいつのためにも一度攫われた方が良いのでは、と思ってしまうほど。

 

「もう一人でここに来ないように」

 

「……………………はい!」

 

「やり直し」

 

「あぁぁぁぁあ頭がァァァ!?」

 

 お目当てのグッズとやらはどうやら無かったようだ。

 この調子なら、僅かな情報でも入手すればすぐにここにやって来そうはものである。かと言って、友達に付いてきてもらえなんて言えるような場所ではないし、次こそは本当に事件に巻き込まれそうだなこの子。

 

「……はぁ」

 

「え……モモトーク、ですか?」

 

「行くなって言っても行くだろお前。なら、行く時は俺に連絡してくれ。暇な時は護衛くらいはするよ」

 

「本当ですか!! ありがとうございます!!」

 

 喜んでいるようだけど、この子普通に何も言わずにブラックマーケット行きそうだな。そうなったらまじゲンコツだけど。

 

 アビドスにいた頃とは異なる端末なので俺のモモトークに入っている連絡先は黒服さんぐらいなもの。あと二人ほどいるけど連絡した覚えは無いし、実質的に二人目の連絡先ゲットと言っても過言ではない。女の子の連絡先……これがブルアカか! と思ったけど相手がヒフミなのですぐに冷静になる。

 

「メグルさん……ですね。よろしくお願いします!」

 

 やべ。名前そのままにしてたの忘れてた。まあ良いか。

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