ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた   作:ラトソル

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そもそも原作に詳しくないから原作開始がいつなのか分からない件

「痛い」

 

 見渡す限りの一面の砂、砂、砂。

 砂漠地帯という言葉がこれ程似合う場所は無いと、そう思ってしまうほどに砂に覆われた世界で一人。

 

「痛い痛い痛い痛い」

 

 這い寄る混沌。

 人の形をした何か。

 

 知っている、知っている。それが誰なのかをよく知っているから。

 

 叫び声は聞こえない。ブツブツと、独り言のように呟かれる音の羅列。代わり映えのしない同じ単語の繰り返し。呪文のようにも聞こえる声に感情は含まれていなくて、ただ呆然とその混沌を見つめるだけ。

 

 何度も、何度も。

 同じ光景を見た。夢は全てこれだ。安眠など出来るはずもない、していい筈もない。

 

「────人殺し」

 

 ピピピ、ピピピ……。

 

 耳元で鳴り響く過剰な音。強制的に睡眠から身体を手繰り寄せてくる目覚まし音。

 二度のコールの後に、慣れたように目覚まし時計を見ることなくボタンを押して音を止める。身体は既に起き上がっていて、右手は自身の顔を覆うように添えられていた。

 

「人殺し」

 

 喉の乾きを潤そうともせずに、二度繰り返された言葉は誰に向けたものでもなく、憎しみを込めた低い声で大気へと溶けていくように弱々しく口にする。

 

 長い溜息、そうして舌打ちを一度打つ。もはやルーティンになってしまっているお決まりの行動。

 

「ぁぁ────死んじゃえよ、ほんとさ……」

 

 今日は特に夢見が悪いようで。

 いつも見ている夢だけでなくて、あの日の情景が鮮明に蘇り、繰り返される。

 

『人殺しっ、人殺しっ、人殺しッ!!!』

『お前がァァァァァァ!!!!』

 

 思い出す。

 当時は関わりすらなかった同年代の少女からの慟哭を。

 あの、殺意迸った鋭い眼光と、本来あるべき光を失った澱んだ瞳を忘れない。

 

『どうして殺したっ、何故殺せた!? 彼がお前に何かしたのか!?』

 

 胸ぐらを掴み上げられて、押し倒されて、馬乗りになって。

 殴るわけでも銃を乱射するでもなく、ただただ思いのままに感情をぶつけてきた少女の涙を知っている。

 

『小鳥遊……ホシノ……ッ』

 

 向けられた純粋な殺意に対してはなんの感情も抱かなかったのに。

 悲しみに満ち溢れたあの瞳を向けられるのだけは耐えられなくて、目を逸らして。

 

『────絶対に許さない』

 

「ぅ、ぁ」

 

 喉の乾き。それは寝起きだから、という生温いものではなくて。目眩を伴うほどの強烈なもの。

 

 深呼吸……失敗。咳き込んで喉が詰まり、胃の中のものが逆流するのを何とかこらえる。

 

「ゆ、め……せんぱい」

 

 辛うじて絞り出した声。それは吐き気からか涙する少女の先輩の名前。

 救い出して欲しい、助けて欲しい。この苦しみから解放して欲しいのだと、少女は届くはずもない言葉をガラガラの声で絞り出す。

 

 死にたいと……死ぬべきだと、何度思ったか。

 楽しく、色鮮やかだったあの日々は戻るはずのない幻想。吹けば消し飛ぶ紛い物。

 それを壊したのは、他でもない私自身なのだから。そう理解しながら、少女は願う。

 

「めぐる……めぐるぅ……ッ」

 

 たった一人の同級生。

 ヘイローを持たない、キヴォトス唯一と言ってもいいであろう男子生徒。

 

 友人だった。

 最初は不審なやつだと疑っていたけれど、気がつけば彼は少女の友達になっていた。

 冗談を言い合って、罵り、否定し、煽り合う。そんな関係。

 もう開くことのないフォトアルバムに映る自分の姿は僅かにでも柔らかなものになっているだろう。

 

 友人……そう、ただの友人。

 

 誰かが言ったか。

 大切なものは、失ってからその価値を知ることになる。

 大切なものは失った時初めて気がつく。

 

 そうだ。まさにそうだ。なんて皮肉、なんて自分勝手で遅すぎる気付きなのか。

 気付きたくない。それでも気付かされる。それが罪の代償なのだと。

 

 勝手に勘違いして、彼を殺した罪深き私にはうってつけの裁きだろう、と。

 

 自分の想いを告げることも叶わない。叶うはずもない。

 これこそが、少女に課せられた罰なのだ。

 

「笑顔……笑顔にならないと……」

 

 同級生を失った……失う要因は全て自分自身だが。

 尊敬する先輩は目覚める様子がない。

 

 大切な人を殺し、恩人は救えず。

 それでも時は過ぎて、今では4人の後輩ができてしまったから。

 

 逃げることは許されない。不安を抱かせてはならない。

 優秀な後輩達。アビドスの過酷な現状を変えようと努力してくれる、真面目で優しい自慢の後輩の為にも、笑顔だけは崩さないようにしなければ。

 

 鏡の前に立つ。冷水を顔に浴びせて引き締めてから、顔を揉みほぐして笑顔を探す。

 

「あ、あー。あー、あー。ん、んんん! よしっ!」

 

 発声練習も忘れずに。今日も完璧だ、一日を頑張っていこう。

 

 口角を上げてそう自分に言い聞かせながら、目を開いた先に映るのは、世界で一番大嫌いな存在。

 

 そうして今日も、小鳥遊ホシノはアビドス高等学校へと向かう。

 

 本当の笑顔のやり方なんて、最早覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◈◈◈◈◈

 

「心を鬼にしてはっきり言いましょう。クソ不味いです」

 

「二度と菓子作りしないわ」

 

 相も変わらず暗く無駄に広いオフィス内。

 湯気の立っている紅茶を一気に呷る黒服からの評価を聞いて一気にやる気が無くなった。おいこら、紅茶で口直しするんじゃない。

 

「見た目は完璧と言わざるを得ませんがね……見た目は」

 

「なんで二回言った???」

 

 我ながら見栄えは完璧だ。宣材写真からそのまま抜き出してきたかのような焼き目、ツヤ、形。パーフェクトとはこのための言葉だと自画自賛して、味見をすることなく黒服さんに提供した結果がこれだ。

 

 うん、匂いが終わってたから薄々気づいてたよ? でもね、噎せることはないんじゃないの? もうちょい我慢して? 普通に傷付いたわ。

 

 分量はレシピ通りちゃんと量ったし、レシピ通りの作り方で行った。良くある余計なアレンジを加えた結果の大失敗なんてことはなくて、その通りに調理した筈なのに。

 

 とりあえず原因を探るために俺もひとつ手に取り口に運ぶ。表面が程よく焼けていて香ばしく、僅かにカリッとした食感がしたかと思えばふんわりとした生地がほぐれていき絶妙な温度を保った中身がこんにちは。

 

「クソマズッ」

 

「せめて自分では否定してあげてくださいよ」

 

 香ばしく、程よい甘みを感じるふわふわしつつもしっとりとしたもの。言葉にすれば美味しく聞こえるけど、これが意味が分からないほどに美味しくなかった。塩と砂糖間違えたとかいうオチじゃないのかよ。なんだこれ、論文出せるレベル。

 

「もはや芸術ですね」

 

「その感想は芸術に謝った方がいいと思いますよ」

 

「クックック……紅茶の追加をいれてきます」

 

「おいなんだその顔色。真っ黒じゃねぇか」

 

「元からです」

 

 悔しいとかいう次元の話じゃないなこれは。何かに活用できるんじゃね? と逆転の発想まで出てくる始末。

 

 おかしい。アビドスにいた頃はよく自炊していたのに。自画自賛になるだろうが、俺の作る飯は普通に美味かった。翼デカめのどこかの高校の風紀委員の子にも絶賛された程だ。さすがにあの笑顔が嘘とは思いたくはない。が、菓子は作ったことなかったな。

 

 にしても、と言うやつではあるが。もう作ることは無いでしょう。

 

「連邦生徒会長が疾走?」

 

「貴方の顔が分かりやすくて助かりました。文字間違えてますよ」

 

 俺の前に座ってわざわざ紅茶を一杯飲み干してから次の一杯を飲み始めた黒服さんに思わず俺の刀が火を噴くところだったが何とかこらえる。だって俺も全く同じ行動したしね。

 

 で、クソ不味大失敗作は当事者の俺が仕方なく食べ切って、その姿を見た黒服さんからの心からの拍手に血管が爆発した瞬間にそんなことを言ってきた。

 

「そもそも連邦生徒会長って何……というか誰ですか?」

 

「おや。アビドスでは連邦生徒会についての話などは挙がらなかったのですか?」

 

「んー……なんかホシノが憎たらしげにそんなことを言ってた気が……しなくも……なくも……なくなくも」

 

「それでは念の為説明しましょう」

 

「一文で」

 

「キヴォトスのトップ」

 

「把握」

 

 その解釈が正しいかどうかは再考の余地がありますが、とブツブツと言っているがもう文字数オーバーです。残念。

 

 キヴォトスのトップ(仮)と言える存在、連邦生徒会長。なんで生徒会にそんな権限があるんだよ巫山戯んなと心が叫びたがっていたが叫んだところでだったので何も口にせず。学園モノの生徒会って権力持ちすぎだよね、大人もっと仕事して? 

 

 そんな世界観の恩恵を一身に受けているような存在が疾走、もとい失踪したらしい。それを聞いた俺の感想がこちら。

 

「あそう」

 

 またの名を、「だから何?」である。だって俺その人がどれだけ凄いか知らんし。あのよく分からん蛇みたいなやつも一撃で倒せる強キャラなのかい? 

 

 辛辣とも捉えられかねない俺の返答に待ってましたと言わんばかりに懐から紙束を取り出した黒服さん。え、それ読めってこと? めちゃくちゃ嫌なんですけど。分厚っ。

 

「犯罪発生率1000%増……?」

 

「現状……という言葉を付け加えてください。まだまだ上がりますよ」

 

 もうこの世界ダメだ、解散。

 いやいやいや、アビドス時代も中々に犯罪起こってたよ? ヘルメット被った奴ら暴れてたし、一回だけ行ったことのあるブラックマーケットは二度と立ち寄らないでおこうと思ったほどに荒れてた。あれの10倍? 星が砕けます。

 

 連邦生徒会長とやらが居なくなった途端にこれだ。どれほどの抑制力となっていたのかは如実に分かる。すごい人なんでしょうねその人。あったことも見た事も聞いたこともないけど。アビドスの借金返してあげて? 一億ぐらい出してあげてよ。

 

「……ああ、そこで『先生』なのか」

 

 なるほどなるほど。それがブルーアーカイブの流れというわけか。まあ推測に推測を重ねただけの推測だけど。連邦生徒会長が失踪し、犯罪件数が指数関数的に上昇を見せてから10年後……なんてことになってたらまじでイチャイチャする余地無いだろうから流石にそろそろ来てくれるでしょ。

 

 先生の役割が何なのかは全く分からないけれど、戦闘能力は無い……気がする。となれば指示役か支援か。お兄様の恋愛模様を見るのは中々に複雑な心境ではあるが、まあ頑張って頂こう。

 

「……それも限定的な未来視、ですか」

 

「知識ですよ。ただの。知識と言っていいほどには知らないし、これ以上は本当に何も分かりませんし」

 

 も、ってなんだ。俺先生っていう単語しか知らないんだけど。ヘイローすら知らなかった人間だぞ俺は。なんだよあれ、なんで起きてる時だけ出現するんだよ、なんで浮いてるの? なんで破壊されたら死ぬの? 意味わからん。仲間はずれみたいだから俺も欲しいんですけど、ダンボールで作ろうかな。

 

 この世界、カタカナ多いんだよな。学校も地名も。覚えられねぇよ、アビドスもアドビスとごっちゃになって何回言い間違えたことか。黒服さんの組織はいつまでたっても覚えられない、ゲロバッカやらゲルニカやらそんな感じ。

 

「■■メグルさん」

 

「はい?」

 

「我々は……私は、貴方の行動を制限するつもりはありません。契約の範疇であるのならば、何をしていただいても、何処へ向かっていただいても結構です」

 

 脚を組んだ黒服さんがこちらを見やる。

 

「貴方はこれから何を為されるおつもりなのか、参考程度に伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「特には決めてないですね。別に、誰かのために……なんて柄でもないし。まあ、気ままに散歩でもして、ここに入り浸りますよ。遠慮なく、ね」

 

 ブルアカファンなら、原作介入とか救済、なんて意気込むんだろうけど……うん、原作知らんし。何が起きるのか分からないし誰がどこにいて何をするのか知るはずもなく、元の世界に帰れないことは割り切っているからもう俺のすることなんて散歩かお喋りぐらいのものだ。

 

 黒服さんの契約内容なんて大したものではないし、制限されるものでもないけれど割と設備が充実したこの空間から出ていくメリットは今のところは無い。友達がいないからとかいう事ではなくてね? 

 

 銃使えないし。反動大きすぎ。初めて使った時肩外れるかと思ってトラウマだわ。その分刀があるからまあ良しとしよう。

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