ホシノに殺された俺。どうやら先生の弟だったようなので、とりあえず黒服とお茶会してみた 作:ラトソル
続かない
「『神秘』と『恐怖』をご存知ですか?」
「なんか凄いやつと、怖いと思う感情」
「説明しましょう」
「長くなりそうなんで大丈夫です」
「『神秘』と『恐怖』はイコールで結びつけるのです」
「話聞いて?」
お茶会ってテラス席で行ったり、外に出て綺麗な景色見ながら見目麗しいお嬢様方がキャッキャウフフとするような客観的に見ても楽しめる光景だと思うわけで。
ただの学生と顔面真っ黒罅割れピカピカな怪しさ満点の大人とが、さらに暗い部屋で机を挟んで紅茶を飲むような奇妙な場ではないと思うんですよ。
……このフィナンシェ美味しいな。どこに売ってるやつだろ、今度買い溜めしよう。
ていうか紅茶も美味い。違いとか正直分からないけれど、うん。飲みやすいねこれ。黒服さんが紅茶入れてる姿はなぜだか容易に想像出来てしまう。
「────『崇高』へと────」
まだなんか言ってる。
ここに入り浸って一年と少し。相変わらず黒服さんのことは理解出来ない。
というかこの世界ほんと終わってる。
ええ? 学園青春ものの王道タイトルじゃないの? 生徒と先生のキャッキャウフフを見守るほのぼのゲームじゃないの? なんでみんな銃火器持ってるんだよ怖いわ。んで、撃たれても痛いで済ませるなキヴォトス人。普通に怖いわ。俺の死因は普通に射殺だぞ、舐めんな。
毎日どこかしらで爆発音に発砲音、生徒以外は人外で、獣タイプかロボット、あとはゲルニカみたいな名前の組織みたいなThe・人外ばかり。どうなってんのマジで? 男どこ? 俺ぼっち? 兄上早くこっち来て?? 俺もうこの世界で2周目の人生始まっちゃってるんだわ。
「故に私は、キヴォトス最高の神秘である小鳥遊ホシノさんに────」
紅茶のお代りないかな。もう空になりそうなんだけど。あ、ポット発見。六割程度注いで揺らぐ湯気を目で楽しみホッと一息。落ち着くねぇ。
「え、今ホシノって言った???」
「一分ほど前に」
脳への伝達遅すぎだろ俺、というかどんなけ喋っとんねんこの人。
「え、黒服さんって生徒に手を出すタイプの人だったんだ……まあ、いいと思いますよ?」
「ゴミを見る目で言われても困ります」
相変わらずすました顔……顔? を向けてきて紅茶を呷る黒服さん。それ口なんだ、と思いながら俺も一口。
「そういえば、小鳥遊ホシノさんの同級生でしたね、メグルさんは」
「一年も一緒じゃなかったけどね。嫌われてはなかっただろうけど、好かれてもなかっただろうし」
じゃないと俺の事撃ち殺さないでしょ。痛みも感じずに死んだなぁあの時、そう思えばせめてもの情けだったのかな? 俺何もしてないけど。
「もう一度会いたいとは思わないので?」
「会いたいといえば会いたいけど、そこまででは……元気にやってくれてたらいいとは思いますけどね」
「ふむ……なるほど……」
何やら意味深に考え始めるまっくろくろすけ。この部屋暗すぎて貴方の姿は罅割れた顔から漏れ出てくる光しか見えないんだよな。なんで黒いスーツ着てるんだよ脱げ、白いシャツにしろ。
「このフィナンシェ美味しいですね。何処のやつですか」
「お褒めに与り光栄です。私の手作りですよ」
「うわ気持ち悪っ」
「思ってても言わないのが礼儀では?」
生産者さんの顔が見えると安心ですねぇ、なんてことがあるけれど今回は知りたくなかったわ。頭の中でニコニコした黒服さんがエプロン着て鼻歌歌いながらフィナンシェ焼いてる姿が4Kで再生される。頬を染めるな気持ち悪いっ。
「……話を戻しますが」
心做しか落ち込んでるように見える黒服さん。ごめんて、今度俺も作りますから。作ったことないけど。
「メグルさんはホシノさんを恨んではいないのですね」
「恨む?」
何を言っているのか、この人は。
「貴方の『神秘』の性質上、このように今を生きることが出来てはいますが、彼女は貴方を殺害しているのですよ。言うなれば、あなた自身の仇では?」
なんかよくわからんこと言われたけれど、恨んでいるか、ね。
恨んでないな。というか気にしてない。痛くなかったし。初めては痛いって聞いてたけどなハッハッハ! なんて冗談が言えるくらいには気にしてないのだ。
むしろクソザコナメクジでごめんね? って感じ。
「というと?」
「ほら、この世界の人達って肉体強度バケモンじゃないですか。ロケランで気絶か重症に収まるってバグでしょ? 俺は身体能力だけはこの世界準拠になってたけど肉体は一般人……ああ、元の世界換算でね。だったし」
だから、あの子達に取って銃火器は一種の牽制手段になっていて、凶器という認識は甘い。
「銃の一発でのダメージなんて傷が残るかどうかの問題で死ぬわけないって言うのが共通認識でしょ? だから申し訳ないな、と」
「それは、何に対して?」
「だって、挨拶程度の威力しかない拳銃で……牽制目的かは知らないけど、それで人を殺してしまったんですよ、ホシノは。その意思が無かったのに……無かったよね? だから、トラウマになってなければなぁ……とは思いますよ。レモンティー貰えます?」
「クックック……貴方もイカれていますよ、例に漏れずね。ご用意致しますので少々お待ちを」
クックック、と笑いながら立ち上がった黒服さんはレモンと追加の紅茶を用意しに歩いていく。
手持ち無沙汰になったためにフィナンシェをもうひとつ口にしようとしたところで茶菓子も無くなっていたことに気がついて溜息を吐く。思った以上に美味しかったためか、かなり量はあったはずなのにもう残っていないことに少し驚いた。
「ホシノ……ホシノなぁ……」
砂嵐に襲われて砂だらけの都市になったとかいう意味不明な砂漠地帯に建つアビドス高等学校。俺が約一年在籍した……というか、拾ってくれた学校だ。
『じゃあさ────私たちの学校に来ない?』
ほんと、今思えばありえないことだろう。
知りもしない、身元不明の不審な男に手を差し伸べて。
私たち、とか言いながら実際向かえば高校にはその人一人しかいなかったけど。
「二人仲良くやっててくれてるかねぇ……」
死人に口なし。まあ生きてるけど、一度死んだことには違いないのだから、何かしようとは思わない。
俺の交友関係なんてその二人くらい。あと一人、たまたまで会ったホシノくらいちっさい子がいたけれど、関わった時間は短いものだ。何処だっけか、トリッピー? ゲボ? 忘れた、どっかの学校の風紀委員のやつ。忘れた、いいや。
「レモンティーです……クックック」
「怪しっ」
まあもう関係ないし。会うこともないだろう。
そういえばその子も俺と同年代で、ということはホシノもその子も三年生になっているのだろう。
二人とも、後輩の面倒を見る立場になっていると考えれば感慨深いものがある。流石に二人とも主要人物、というかネームドではあるのだろうし、『先生』とどんなイチャイチャを繰り広げるのか見てみたいと思った。黒服さんに頼も。