「次はお前だ」と言われるために秩父鉄道に乗った日
どうも、シャカ夫です。
こんな言葉を突然投げられたら、誰しもドキリとしてしまうのではないでしょうか。
自分が何かしらのターゲットに選ばれてしまった驚き、何かが確定しておりそれを断定口調で宣言される恐怖、「お前」と高圧的な口調を使われるプレッシャーと、ビビってしまう要素がたった7音にこれでもかと詰め込まれています。
ですが、普通に生活していると中々聞くことの無いセリフなのも事実。
非日常に憧れる私のような人間は、少しばかりのワクワクも感じてしまうのです。
そしてある日、私はこんなウワサを耳にしました。
秩父鉄道に乗れば誰でも、「次はお前だ」と言ってもらえるらしい。
これを聞いた私は、すぐさま家を飛び出し、さいたま市随一のターミナル駅である大宮駅から電車に乗りました。
「次はお前だ」と言われるための旅の始まりです。
大宮駅から秩父鉄道に乗り換えるには、熊谷駅を経由する必要があります。
日本最高気温の記録を保持していたこともある熱波の都市・熊谷ですが、撮影日は秋も深まり過ごしやすい空気。
さあ、それでは目的の秩父鉄道に乗っていきましょう。
秩父鉄道で「次はお前だ」と言われるというのは、何もいきなり車掌さんに詰められるとかそういうことではありません。
何のことはない、秩父鉄道沿線には「小前田(おまえだ)駅」という駅が存在しているのです。
「次は〇〇(駅)~~」のアナウンスが「次はオマエダ」となるので、乗っていた人が「次はお前だ」と言わたように聞こえるらしく、それが真相なのです。
というわけで、熊谷駅から影森方面へ20分ほど乗車するだけで「次はお前だ」と言ってもらう、それが今回の旅の目的です。
簡単ですね。
秩父鉄道の車窓から見えるのはのどかな田園風景や住宅街、そして工場です。
秩父地方は昔からセメント工業から盛んで、日本の鉄筋コンクリート建築の隆盛を支えた歴史があります。
コンクリートの加工場のような施設が森の間に時折現れ、すぐに過ぎ去っていきました。
電車に乗客はほとんどいらっしゃらず、ゆったりと席に座ることができます。
この状態なら、電光掲示をしきりに撮影していても怪しまれることはないでしょう。
しかし、こんな落ち着いた車内でいきなり「次はオマエダ」と言われるとさぞ驚いてしまうことでしょうね。
そうこうしているうちに、小前田駅がすぐそこまで近づいてきました。
小前田の1駅前、ふかや花園。
ここを発車する際に「次はオマエダ~」と言ってもらえるはずです!
さぁ、さぁさぁさぁ!
どうだ……!?
…………あれ?
たしかに、「次はオマエダ」という表示は出てきました。
これだけでも十分おどろおどろしくはあるのですが……一向に車掌さんによる呼びかけがありません。
…………。
そういえば、ここまでずっと「次は〇〇~」といったアナウンスはなかったような……。
あ、もしかして言ってはもらえないのか?
困惑しているうちに、とうとう列車は小前田駅に到着。
ついぞ、「次はオマエダ」のアナウンスはありませんでした。
小前田駅は落ち着いたのどかな駅で、私の出身地方に似た落ち着いた雰囲気が漂っていました。
しかし、私の心は穏やかではありません。
せっかく1時間半ほどかけて電車に乗ってきたのに、ちょっと不気味な表示を見ただけ。
あの非日常的な言葉を投げかけられる素敵な体験をすることはできませんでした……。
聞いた話では、アナウンスでも「次はオマエダ」と言われるはずだったのですが、そういった案内を行なっていない車両だったのでしょうか。
あるいは、本当に「次はお前だ」と聞き間違えてビックリする人が多かったため、口頭のアナウンスはしないように路線全体で改善されたのかもしれません。
ともかく、目的を完遂できないまま、私は知らない小前田の地に降り立ったのです。
煮え切らない思いで改札前のベンチにへたり込む私。
別の列車では音声アナウンスがあったりしないか……?
あるいは、これから人が増えてきたらアナウンスするとかないか……?
ていうか、普通に心霊スポットとか行った方がゾクゾクを味わえたのでは……?
たくさんの考えが私の頭をよぎりますが、中々まとまらず。
気づけば30分が経過……。
時間はもう夕飯時。
そして、私は別の用事に追われて昼食を抜いてしまっている。
つまり……
腹が
……減った。
幸せの秘訣は、何よりもまずお腹を満たすこと。
知らぬ土地で探す飯屋というのもおつなものじゃあないですか。
やはりこの小前田駅周辺、私の地元と雰囲気がとても似ています。
地形や漂う匂い、空の色までが懐かしく感じられ、かえって異世界にはいりこんでしまったような気配すらあります。
でも、なんかいいな……。
そうこうブラブラしているうちに、私の目に飛び込んできたのは……
1軒のラーメン屋でした。
素晴らしくいい匂いが漂ってきましたので、即決で入店。
座敷にテーブル席がある変わった店内で、その年期の入った内観がいかにも「地域で愛される老舗」という感じでした。
その名もずばりの「ラーメン」を注文すると……
うまそ~~~~~!!!
やさしい家系といった面構えで実に食欲をそそられる。
うっっっっま……!!
空腹に繊細な風味のスープともちもち麺が染み渡る……。
お土産屋さんのような店内と、さっきから抱いていた懐かしい気分も相まって、非日常な食体験をしている気分になる。
……ガラガラ(店から出る音)
うん、美味かったな、すごく……。
……そうだよな。
ウワサだけを聞きつけてそれを確かめるだけだなんて、そんなことして非日常を味わえるわけないんだよな。
こうやって知らない場所に1歩踏み出す心意気こそが、日常を打ち壊すために一番大事なものなんだろう。
そうして私は、暮れなずむ小前田駅をあとにした。
「次はお前だ」とは言ってもらえなかったけど、きっとそんなことよりもいい体験ができた、そう満足しながら。
そうだな、今度またこの駅をたずねてみよう。
そして、次はもっと見たことのないものを見つけて、懐かしいものも見つけて、入ったことのない店で食べてみよう。
そう心に誓った私は、家の近くの心霊スポットをじっくり堪能した後、心臓をバクバクさせながら、帰宅した。
(終)


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