大量投稿されたAI小説がカクヨムのランキングで1位になった件について、AIを使って文学賞に100本応募して入選した人が語る
小説投稿サイト「カクヨム」にてAI小説がランキング1位となったことで話題になっています。
この件については、背景知識を知らないと正しく理解できないと思います。そこで背景を解説した上で、第9回日経「星新一賞」にて100本応募して優秀賞に入選した私の立場から私見を述べます。
要点
何があったのか?
1日に39作品、117話、約29万字分を更新していると推測されます。
更新頻度を上げてランキング上位を取るために生成AIが使われていました。
複数の論点が絡んでいるため、整理して発言するべきです。
私見
サイト側は投稿数を制限するべきでしょう。
AIユーザーの多くはマナーを守って活動していることは、もっと知られるべきです。
大量投稿は避けるべきです。
作品のクオリティは問題ではありません。
何があったのか?
KADOKAWAが運営する小説投稿サイト「カクヨム」にて、とあるユーザーの投稿したAI生成を活用した小説が総合日間ランキングで1位を獲得しました。
これについて、多くのユーザーが意見を述べる事態に発展しています。その中には、事実を正確に把握せずにコメントしている人や、論点が全く異なるコメントも散見されるため、何が問題だったのかが分かりづらくなってしまっています。
それでは具体的に何がどうなっていたのかを見てみましょう。
1日に39作品、117話、約29万字分を更新
「1日に38本更新していた」という話が拡散していましたが、10月29日時点で実際に該当ユーザーのページを見てみると、39作品が10月29日に更新されています。39作品の合計は約590万字、本1冊を12万字と仮定すると約49冊分です。
また各作品は、主に1日3話更新されているようです。すでに大量のエピソードが自動予約投稿されています。ざっと計算して1話あたり2000~3000字のペースです。
つまり「1日に38本更新していた」という話は事実を正確に表現したものではなく、正しくは「1日に39作品、117話、約29万字分を更新していた」と推測されます。
事前に時間をかけて入念に内容をチェック・修正している可能性は極めて低く、生成したものをほぼそのまま投稿していると考えられます。
ランキング上位を取るためのカラクリ
「AI小説がランキング1位になった」のは事実ですが、それは作品が正当に評価された結果なのかというと、そうともいえない側面があります。
小説投稿サイトには特有の攻略法があります。基本的に、新着作品やランキングに掲載された作品が読まれやすくなります。読者の流入量が増えれば、評価される確率が低くても評価ポイントを多く獲得できます。
つまり評価率が10%の作品が100人の読者を獲得した場合、10ポイントを獲得しますが、評価率が1%の作品が10000人の読者を獲得した場合、100ポイントを獲得することになります。
このように、評価率が10%の作品より、評価率が1%の作品がランキングに載る可能性があるのが小説投稿サイトです。
そのための手法の一つが、更新頻度を上げることです。該当ユーザーが1日に3話を更新しているのも、これが目的です。また該当ユーザーは、サイトにアクセスする読者が多い時間帯を狙って更新していますが、それも同じ目的だといえます。
クオリティに関しては一概に言えませんが、実際に作品を読んだという方のコメントを見てみると、パッと見た感じは読めるけれど、ところどころ矛盾が発生する、といった意見が多いようです。
問題点を整理する
この件にはいくつかの問題点が絡み合っているので、論点をひとつひとつ整理して発言しないと、SNS上であっという間にすれ違いが生まれます。みなさん同じことを話題にしているようで、実は全く違う話をしていますよね。
そのため論点を整理しておくことが重要です。
論点①:ランキングシステムの歪み
論点②:創作の質やオリジナル性の低下
論点③:倫理的・社会的な影響
論点①:ランキングシステムの歪み
「ランキング上位を取るためのカラクリ」で説明したように、閲覧数や更新頻度に大きく影響されるランキングシステムの脆弱性が、今回の本質的な問題です。
「生成AI」は、ランキングシステムをハッキングするための「ツール」として使われています。生成AIによって大量生成が容易になったことは事実です。しかし、こうした行為を行う人は、ランキングをハッキングすることが目的ですから、生成AIを禁止したら今度はゴーストライターを雇って大量に文章を用意するだけです。「生成AIを禁止・抑制」することは、根本的解決にはなりません。
今回の件で生成AI批判をしている人は、「自動車が発明されたことで、強盗犯が逃げやすくなった」と言っているようなものです。冗談が上手いですね。
もちろん自動車は免許が必要になるので、それに類似した教育制度は将来的に必要かもしれません。
論点②:創作の質やオリジナリティの低下
「読みやすいが矛盾が生まれやすい」というAIが生成した文章の特徴を持っていることから、クオリティが問題視されています。
またAIに書かせることそのものへの反感を持つ人から「AIに書かせることの意味が分からない」といった意見も見られています。
個人的には、クオリティは問題視するべきではないと思っています。それについては後述します。
「AIに書かせることの意味が分からない」という意見については、人格否定でありハラスメント的な言動であると感じます。誰も「あなたも生成AIを使って文章を書け」なんてことは言っていません。「私たちは生成AIを使って作品を作りたいです」と言っています。個人が表現する権利は尊重されるべきです。
「サイト側の解決策」でも後述していますが、あらゆる人の表現する権利を確保した上で、じゃあ「大量投稿するのは迷惑がかかるから投稿可能な作品数を制限しましょう」という話をしています。その前提が欠落している人とは、話が噛み合いません。
論点③:倫理的・社会的な影響
他人に迷惑をかけるような生成AIの「使い方」を指摘する意見もあります。しかし、あくまでも生成AIは道具であり、使う人次第です。
まずは「生成AIリテラシー」を普及させるところから始めなければいけません。
「無許諾学習」についての意見も見られますが、今回の根本的な問題は「ランキングシステム」であり、「無許諾学習」ではありません。これも「生成AIリテラシー」の不足といっていいでしょう。
そもそも「無許諾学習」については、文化庁など公的機関から解説する動画や資料が出ていますから、それを理解するところがスタート地点です。
私見
時間がないのであまりまとまったコメントができませんが、過去の私のツイートを引用しつつ、ざっくばらんに書きます。
サイト側の解決策
この件、私は他人に迷惑をかけるAIの使い方だと思いますね。
(中略)
カクヨム側ですぐにできる対応策としては、これだけ大量に投稿している以上、明らかに作者自身が内容を確認していない(=著作権に違反していないかの確認義務を怠っている)と言っていいと思うので、そこを指摘してカクヨムのガイドラインの「他人の著作権を含む権利を侵害する、または侵害するおそれのある投稿はお控えください」を適用して「該当する作品やエピソードの非公開化」をするのが妥当だと思います。
将来的には一人当たりの一日更新数を制限するのが良さそうですが、ランキングという小説投稿サイトの構造に対するハッキングなので、ランキング形式そのものを変えていく必要性があるのかもしれません。
Pixivさんの「AIを利用した場合はタグをつけて別ランキングに載せる」という解決策も参考になると思います。
生成AIを用いた攻略手法について、私は「他人に迷惑をかけるAIの使い方」であると考えています。そのような使い方は避けるべきです。
私は第9回日経「星新一賞」にて100作応募して、そのうち1作が優秀賞に入選しました。その制作過程については以下の記事で詳しく書いています。
こうした大量投稿については、以前から「するべきではない」ということを繰り返し発信し続けてきました。
文学賞に大量応募すれば下読みの方に迷惑をかけてしまいますし、投稿サイトであれば新着欄を埋め尽くしてしまいます。そうした迷惑行為をしないように配慮することが大切です。
(ちなみに私が100作応募した際には、それまでの応募数が約2000作前後だったので、100作増えても大きな問題はないと判断しました)
サイト側ではいくつか対策ができると思いますが、私は上記のように一人当たりの一日更新数を制限するのがよいと考えています。日経「星新一賞」では、当初から人工知能による投稿も受け付けていましたが、第11回から一人当たりの投稿数を一作品に限定しています。
Pixivさんの例も挙げていますが、PixivさんではAI作品を以下のように定義していることに留意してください。「AIを一部でも使えばAI作品として別ランキングに隔離される」などとは全く言っていません。
AI生成作品とは、制作過程のすべて、もしくはほとんどをAIによって生成された作品をいいます。
多くのAIユーザーはマナーを守ってきた
現状で悪質な大量投稿が抑制できているのは、AIユーザーの多くが最低限迷惑をかけないようマナーを守ろうと心がけているからだと私は感じています。
短時間で大量の小説を投稿サイトにアップロードする行為は、投稿サイトの新着欄を埋め尽くしてしまうなど、他利用者への迷惑行為となる可能性があります。サイトのサーバーにも大量の負荷をかけてしまいます。
それに本文に手を加えなくても十分な品質に近づきつつあることは私も感じますが、文化庁の著作権セミナーで触れられているように、人間が手を加えていなければ著作権は発生しない可能性があります。実際、星新一賞やnoteで開催されている創作大賞では、生成AIに関する規定として、生成された文章そのままではなく人間が手を入れることを求められています。
(中略)
もちろん、毎日作品を投稿するという活動は素晴らしいことだと思います。他にもそうした投稿頻度の高いAIユーザーさんを存じ上げていますが、創作を継続するのは誰にでもできることではありません。私もそうした方々は応援したいと思っていますし、気兼ねなく好きなこと好きなようにできる場があればいいなと思います。
一方で、上に挙げたような問題が存在することも事実です。そしてそうした問題は、投稿するAIユーザー個々人の規範意識によって抑制されている側面が大きいです。
こうしたマナーは現状、暗黙的になっており、投稿サイトなどで規約に明示されているケースはほとんどないと思います。「2分に1本」はダメで「1日に1本」ならOK、のような他人に迷惑をかけない明確なラインも、全員が共有しているものではありません。
多くの生成AIユーザーは、これまでマナーを守って活動をしてきました。そうした経緯を無視して「これだから生成AIユーザーは……」などと述べるのは、完全な事実誤認です。差別だと言ってもいいでしょう。
「大量に投稿するのはマナー違反である」という認識をまず広めることが重要です。それでも違反する者が多く出てくるなら、サイト側の規約で制限をかけることで対応すべきでしょう。
「0か100か」の議論を好む人が多いですが、事実を見極めて、都度、適切な対応を議論することが大切です。
大量投稿を褒めるべきではない
これに関連して文学関係者にお伝えしておきたいのは、「AIでこんなにたくさん作れるのすごいね!」という「だけ」で特定の作品を過度に持ち上げて出版までするのはやめてほしい、ということです。(もちろん大量に投稿されている作品が出版に値しないという意味ではありません)
大量生成・投稿は、努力は必要ですが、割と誰にでもできてしまいます。もしそれで出版されるという前例ができれば、現状の他人に迷惑をかけないという暗黙のルールを破る人はたくさん出てくるでしょうし、もうそうなったら私も止める言葉がありません。
今まで大量生成を控えていたのがバカらしくなりますし、「そんなことで褒められるなら、自分もやるよ」となるのは当たり前です。私も大量生成する側になる可能性は十分あります。
何より、私は3年前に星新一賞にAI小説を100本応募した人間です。できないわけがないんですよね。それでも、現在は他人に迷惑をかけてしまうことを考えて反省し、大量投稿は避けましょうと呼びかけています。
また小説の大量投稿がWeb文芸や出版文化に良い影響をもたらすことは、現状考えにくいです。
大量生成で、かつクオリティも高ければいいのか、という話になるかもしれませんが、基本的にAI生成した小説のクオリティの平均値はモデルのスペックによります。そしてモデルの性能は右肩上がりで推移しています。
したがってクオリティの高い小説を大量生成することも、近い将来実現するでしょう。もしそうなったら、それらも出版されないと不自然です。
そうした未来を考慮して、AI生成された小説を見ていただけるとうれしいです。
大量投稿して評価されるのであれば、自分もやろうと考える人は増えるでしょう。現状、私は推奨しませんが、やる人は出てくるはずです。だって暗黙のルールを真面目に守っていたのに、正直者がバカをみるようではやってられません。
小説投稿サイトというシステムを破壊する可能性のある行為を褒めてしまったら、それは他の人にも波及して悪影響が出てしまいます。そうした事態を避けるために、改めてマナーの周知が必要でしょう。
大量投稿したいなら、自分でホームページを作って掲載するなり、自分でAI小説投稿サイトを作って掲載するべきです。他人に迷惑はかかりませんからね。
クオリティは問題視するべきではない
「粗製乱造」という言葉を使って批判している人も見かけますが、私は適切な言葉ではないと考えています。
先ほどの引用にも書いていたように、AIの性能は向上します。人間よりもレベルの高い文章が大量に生成される未来はそう遠くありません。「クオリティが低いから掲載させない」を認めてしまうと、それは「人間の書いた文章でも、クオリティが低ければ掲載させない」につながってしまいます。これは「誰でも気軽に小説を投稿できるサイト」という小説投稿サイトの本質からずれてしまいます。
また「評価」は時代によって移り変わるものです。死後になってから評価された作家や芸術家の名前を挙げたらキリがありません。今の時点で「評価が低いから」という理由で世に出る機会を奪うべきではありません。
これは私のAI小説が「小説家になろう」から排除された時にも主張したことですが、あまり理解されていないようです。私たちは初期のAI芸術を経験している世代であり、こうした作品を後世に遺していく必要がある、というのが私の考えです。もちろん投稿サイト側ではどこかで線引きをする必要性がありますし、それは理解していますが、AI芸術に限らず、あらゆる作品を残すための仕組みは検討されるべきでしょう。
知っておくといいこと
その①
生成AIを使っている人は、文化庁の著作権セミナーを観て正しい情報を学びましょう。「AIに聞きました」ではダメです。
その②
ちゃんと文化庁などの信頼できる機関から出ている情報ベースで発言している、生成AIのリテラシーがある人から情報収集しましょう。
発言者が有名な作家であっても、フォロワー数の多いインフルエンサーであっても、その発言にたくさんのいいねがついていても、たくさんの賛同するコメントがついていても、誤情報は誤情報です。
少なくとも「今回の騒動で自分で調べてみたけど、よく分かんないからこのまとめ記事を読んでみよう」と思って読んでいる人は要注意です。それはあなたの情報収集能力が足りていないことを如実に表しています。
その③
インプレスさんより刊行されている拙著『小説を書く人のAI活用術 AIとの対話で物語のアイデアが広がる』も参考になります。弁護士の方が監修している著作権と法律についてのコラムもありますので、ぜひご一読ください。
終わり。



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