第2回銃撃事件9日前、山上徹也被告からメッセージ 鈴木エイトさんの葛藤

聞き手・小寺陽一郎

 安倍晋三元首相銃撃事件で殺人や銃刀法違反などの罪に問われた山上徹也被告(45)の裁判が28日、奈良地裁で始まります。ジャーナリストの鈴木エイトさんは、事件の9日前、被告からツイッター(現X)でメッセージを受け取りました。事件後の衝撃や葛藤について、話を聞きました。

 ――いつメッセージを受け取ったのですか

 被告のアカウント「silent hill 333」から2022年6月29日午後9時11分以降に2通のメッセージを受け取っていました。1通目を受け取り、ほぼリアルタイムで返していました。

 ただ、事件後も被告とは結び付きませんでした。事件から半年後の23年1月、被告の弁護士に取材していると「徹也さんが鈴木エイトさんにダイレクトメッセージを送ったことがあると言っていた」と知らされびっくりしました。

 事件後間もなく、このアカウントは凍結され、内容は読めなくなっていました。自分は事件をとめられたのではないか、とんでもないことを見過ごしたのではないか、とショックを受けました。

起きてはならない事件はどこかで止められたのか、何が必要だったのか。それを考えていくため、まもなく始まる裁判を前に、事件を見つめる人たちに聞きました。

 ――メッセージの内容や、やりとりについて教えてください

 弁護士に被告の接見時に確認してもらうと「家族に信者がおり、統一教会をウォッチしている者です」という内容のメッセージでした。

 ほかに、さいたま市で22年7月に開かれるという世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のイベントの参加者などの情報も尋ねられていたこともわかりました。

 私の返信内容は、合同結婚式関係のイベントの可能性を指摘したりチェックを続けたりする、という趣旨でした。

 当時、知人にイベントについてメールで問い合わせをしていて、その内容とも一致したので、間違いないと思いました。

 ――被告のメッセージの内容がわかり、どう思いましたか

 事件を示唆するものではなく、当時の私が止められるものではありませんでした。ただ、安倍元首相ら政治家と教団との接点を、ほぼリアルタイムで書いてきたのは自分だけです。ターゲットにしたのは自分の記事がきっかけではないか、という衝撃がありました。

 記事の内容は事実なので、記事にしたことは間違いとは思いません。「結果への責任」という表現も、少し違うと思います。ただ、記事で事件を防ぐことは、できませんでした。

 ジャーナリストとして敗北なのではないか、高額献金問題などの当事者へのケアは十分だったのか、社会、政治家は、どこかで止められたのではないか。いろんな思いが去来しました。

「放置された上で起こった事件」

 ――事件から3年以上たち、心境の変化はありましたか

 最初は衝撃だけでした。その後、自分なりに模索を続け、今は、動機面を解き明かす一助になろうと思っています。

 被告が、どの程度、教団自体や、政治家との関係を把握していたのか、それは本当に被告の「思い込み」なのか。裁判官や裁判員は、事実をもとに判断して欲しいと思っています。

 自分がジャーナリストとして、安倍元首相らを追及してきたことは間違いありません。ただ、安倍元首相に死に値するような、殺されていいような落ち度があるとまでは言えないと思います。

 被告は自分が救えなかった一人です。その一方で私が言論活動で追及する対象を奪った人間でもあるのです。

 ――事件を受け、結果的に、教団をめぐる問題が社会的関心を集めました。この構図をどうとらえていますか

 事件後、不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)や、厚生労働省による「宗教虐待対応ガイドライン」ができました。政治家と教団の関係も見直され、メディアの認識も変わりました。

 「社会が良くなった」ではなく、本来は、事件が起きる前に是正されないといけないことでした。放置された上で起こった事件だということです。

「被告が自分で語ることが大事」

 ――被告は「統一教会のトップ韓鶴子(ハンハクチャ)総裁を撃ちたかった。でも、コロナで日本に来ないので、教団と深い関わりのある安倍氏を撃った」と捜査段階で供述しています

 当初、信者である母親へ抱いた憤りが、教団トップ、政治家へ移行した形です。過去には、高額献金などの問題を受け、当事者が教団に対して「いつか重大なことが起きる」と忠告した被告以外の2世の事例を知っています。

 ただ、教団を20年以上取材してきた私の経験でも、教団の問題を扱ってきた弁護士に聞いても、政治家に向かった例を把握していません。想定外のことが起きたということです。

 ――裁判のどこに注目していますか

 なぜ被告が突出したのか、裁判で何を語るのかに注目しています。

 事件後、いろいろな人が「自分の思い」を被告に重ねているように感じています。政治的なテロだという主張から、最大限同情するという主張、被告が犯人ではないという陰謀論まで。

 コアになる事実や、本質からはずれている議論、論調もあります。これらに決着をつける意味でも、被告が自分で語ることが大事だと思います。

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 すずき・えいと ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」主筆。東京・渋谷駅前で2002年6月、旧統一教会信者による勧誘に遭遇したことをきっかけに、教団の問題を追い始める。著書に「自民党の統一教会汚染 追跡3000日」(小学館)など。

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この記事を書いた人
小寺陽一郎
東京社会部
専門・関心分野
事件事故、消費者トラブル、不動産
安倍晋三元首相銃撃事件

安倍晋三元首相銃撃事件

2022年7月8日、奈良市で選挙演説中の安倍晋三元首相が銃撃され、死亡しました。殺人や銃刀法違反などの罪で起訴された山上徹也被告の裁判員裁判が始まりました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]