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第1話『この醜くも美しくそしてエロい世界』

「なるほどこれは異世界召喚ですね。任せてください女神様。いただいたチート能力を駆使して、必ずや魔王を倒してみせましょう」


 召喚されてわずか三秒。

 僕はほとんど即座に状況を理解し、目の前に佇む麗しき女性にそう告げた。


「は、はあ……ずいぶんと理解が早いんですね?」

「近年はそういった創作物が溢れていますから。ここまで典型的な形で召喚されれば、どんなに僕が鈍感でも察しがつくというものです」


 見るからに『ここは天界です』と言わんばかりの、草花に覆われた美しい大地。小鳥の囀りや小川のせせらぎが心地よく、僕の新たな人生にファンファーレを送っているように聞こえた。


「さあ女神様、そういうわけで細かい説明は要りません! いろいろあって現世に未練もありません! 遠慮なく僕を異世界に送り込んでください!」

「あの……話が早いのは大変ありがたいんですが、いちおう詳細な説明を聞いていただけますか? リスクも大きな話ですので」


 もはや一秒も待ちきれない思いだったが、そう言われては仕方ない。

 分かりましたと頷いて、女神様の話に耳を傾ける。


「お察しのとおり、あなたに依頼したいのは異世界の魔王討伐です。討伐の助けになるよう、私からチート能力の贈呈特典もあります」

「なるほど。それでは早速」

「待ってください。ここから先が大事なんです。今回あなたが行く予定の異世界は、これまで送り込まれた転生者がすべて返り討ちに遭っている超絶難易度の世界なんです」


 ごくりと女神様は生唾を呑み、迫真の表情を作ってみせた。


「魂が本来あるべき世界と異なる世界で死を迎えれば、二度と輪廻に戻れません。永遠に存在が失われてしまいます。急かしはしませんので、まずはそのリスクを十二分に考慮した上で――」

「分かりました。行きます」

「決断が早くないですか?」


 その程度のリスクなど、まったく意に介さなかった。

 なぜなら――


「僕は異世界でチート能力で思う存分活躍してモテモテになりたいんです」

「はい?」

「聞こえませんでしたか? 僕はモテモテになりたいんです。一人や二人ではなく何十人も素敵な女性を囲ってハーレムを築きたいんです。そのチャンスを目の前にして、尻込みする理由はありません」


 あぁ……、と女神様がため息をついた。

 心の底から呆れたような表情である。


「残念ですが、そうした動機での転生はオススメできません」

「不純だからですか?」

「いいえ。これからあなたが行く異世界で、あなたが異性にモテることは基本ありえませんので」

「なぜ? チート能力で女の子をピンチから救いまくれば、自然とハーレムが形成されるのが異世界の摂理ではないのですか?」

「どこで学んだんですかそんな摂理。あのですね、世界が違えば価値観も違うんです」


 そう言うと女神は眉間に皺を寄せて指を立てた。


「たとえば、あなたの世界には孔雀という鳥がいますね。あれは美しい羽を持つオスほどメスにモテます。蝉なんかも鳴き声の大きさでメスを奪い合うそうです。そうした生き物が人間とまったく違う価値基準をもってパートナーを選ぶように、異世界の人間も地球の人間とは価値基準が違うんです」

「待ってください。それはおかしくないですか? 人間は動物のように単純ではありません。容姿であったり能力であったり収入であったり……そういった複数要素を考慮して伴侶を選ぶものでしょう?」

「それは、あなたの世界における常識です」


 女神様は冷徹に切り捨てた。

 そこには人間を孔雀やセミと変わらぬ動物と断じているような雰囲気があった。いくら人間に近い容姿でも、彼女はやはり神という上位存在なのだ。


「異世界においては、ステータスのみが異性の評価基準となるんです」

「ステータスが……?」


 はい、と女神様は頷く。


「あなたの世界の人間が複合的な価値観で異性を測るのは、明確な指標が存在しないからです。しかし異世界には、人物の価値を数値化して示す絶対的な指標――ステータスが存在します。異世界においてステータスこそ、唯一絶対の異性を測る基準なのです」

「待ってください。だとしても……僕はチート能力をもらって凄まじいステータスで異世界に行けるのでしょう? それなら結局モテモテになれるんじゃないですか?」


 女神様は残酷に首を振った。


「いいえ。神がチート能力を与えた場合、ステータスは規格を外れて『表示不可能』となります。もちろん他者を助ければ尊敬も感謝もされるでしょうが、『表示不可能』というステータスは異世界の人間において完璧に恋愛対象外です。恋愛方面では無機物みたいな扱いを受けるでしょう」

「つまり……僕がどれだけ頑張っても『いい人だけどちょっと恋愛対象にはならないよね』って評価の男で終わってしまうわけですか……?」

「そうなります」


 僕は愕然として膝をついた。

 だが、己を奮起させるように拳で地を叩く。


「なら……! チート能力はいりません! その代わり、ちょうどいい感じにモテそうなステータスを授けていただくことはできますか!?」

「うーん……授ける能力を下方修正することは簡単ですが『モテるステータス』というのは神の立場からしてあまりお勧めできるものではないんですよね……」


 たとえば、と女神様が空中に数値表を投影する。


【魔術師】

性別:女性

レベル:25


生命力タフネス:1

攻撃力アタック:1

魔法力マジック:121

敏捷性スピード:1

技巧テクニック:1


【習得スキル】

<炎属性魔法><攻撃魔法威力上昇><瞑想>


「これはとある女性魔術師さんのステータスですが、率直にどう思いますか?」

「めちゃくちゃバランス悪いなって思います。パーティーメンバーがこんな紙装甲だと怖すぎますよ。ネトゲだったら荒らし扱いで即キックですね」

「ですが、異世界の男性はそう思わないんです。基本的にこういう紙装甲ステータスは『護ってあげたい』とか『放っておけない』という印象を与えます。典型的な『モテるステータス』といってよいでしょう」

「これが……? まあ、確かに護らないとすぐ死んでしまいそうな感じはありますが……」


 それはこんな極端なステータスの伸ばし方をした奴の自己責任ではないのだろうか。

 いやしかし、目の前に華奢な女の子がいたら自分も全身全霊で護りたくなるだろう。喜んで盾になるだろう。男とはそういうものだ。


「それから今度はこちらの例を」


 僕が微妙に納得して頷いていると、女神が空中のステータス画面を切り替えた。


【魔法剣士】

性別:男性

レベル:65


生命力:65

攻撃力:65

魔法力:65

敏捷性:65

技巧:65


【習得スキル】

<炎属性魔法><風属性魔法><剛腕><詠唱簡略化>



「おお。さっきのよりずいぶんとバランスがいいですね。これはかなり王道にモテるステータスなのでは?」

「これは非常に女性受けが悪いステータスです」

「えっ?」


 一瞬、聞き間違いを疑って女神様を二度見してしまった。ここまで即戦力に思えるステータスのどこが悪いのか。


「いわゆる『思考停止ステータス』あるいは『堕落ステータス』と呼ばれるものです」

「どうして。万能型の頼りになるステータスに見えますよ?」


 女神様は少し唸って、


「言ったでしょう。この世界においてステータスというのは、あなた方の世界における容姿でありファッションでもあるんです。何の面白みもなく順当にステータスを伸ばす行為は、現実世界でいう『身だしなみに一切気を遣わない人』のような扱いを受けます」

「なんだかピンとこないんですが……」

「だらしなくお菓子をたくさん食べては太ってしまうでしょう? このステータスも漫然と考えなく伸ばした『だらしないステータス』とみなされてしまうんです。なんならこのステータスを見ただけで『うわ、クッサ。風呂入ってなさそう』『いつまでも実家住んでそう』と蔑まれることすらあります」

「なんでステータスだけでそんなこと言われなきゃいけないんですか。この魔法剣士の人があまりにも可哀想です」

「まあ、モデルになった魔法剣士さんは四十歳過ぎの実家暮らしで週一しか風呂に入ってなかったんですけど」


 なんてこった。

 そんな説得力のある事実で殴られてはこちらもそれ以上反論できない。


「お分かりいただけましたか。この世界における『モテるステータス』というのは戦闘実用性を捨てて非合理的な自己アピールに特化したものなんです。あなたが魔王討伐を目指すのであれば、決して勧められるものではありません」

「一ついいですか女神様」

「何ですか?」


 僕は素朴な疑問を口にする。


「そんな風に実用性とかけ離れたところでステータスに余計な価値を見出してるから、この世界は魔王に滅ぼされかけてるんじゃないんですか?」

「否定はしません」


 求愛のため派手な尾羽を伸ばし続けた結果、捕食者にも発見されやすくなって絶滅した鳥の話を聞いたことがある。この世界の人類も、そうした残念な方面に進化してしまったのだろう。


 女神様は「ちなみに」と前置いて、


「魔王もこの世界の元人間です。<ステータス超成長>というレアスキルを持って生まれたんですが、あまりに上昇幅が激しすぎたため『気色悪いステータス』『変な病気持ってそうなステータス』『見ただけで吐けるステータス』などと周囲に蔑まれ続け、闇堕ちした結果が今です。本来はレアスキルといえど神由来のチート能力には遠く及ばないはずなんですが、それを覆すくらい世界への憎悪が深かったんでしょうね……」

「もうこの世界滅んだ方がいいと思います」


 女神様が空中に魔王の姿を投影した。

 辺境の荒野にうずくまる巨大な泥人形じみた怪物は、ただ静かに『滅ぶべきだ……人類など……』と呟いている。哀愁と虚無感。不覚にも僕は魔王に対して強いシンパシーを覚えてしまった。


「憎悪のあまりこのような姿に変貌してしまった魔王に対し、異世界の人間たちは『やっぱりあいつ変な病気だったんだ!』『ステータスめっちゃキモかったもん!』と確信を深めるに至り……」

「もういいです、女神様。僕はもう……この異世界を救う気にはなれません」

「そうですか……。私としても死地に人間の魂を送り込むのは気が引けましたので、それならそれで構いません」


 そのとき。

 魔王を映していた空中映像に、別の人影が映りこんだ。


『見つけたぞ魔王! 俺たちが相手だ!』


 それは冒険者の一団だった。その数は数十名。徒党を組んで魔王を倒そうという算段なのだろうが、


「ああっ、なんてことでしょう。魔王の力はあまりにも強大……この程度の戦力で敵う相手ではありません」


 女神様の懸念は的中した。

 魔王が面倒くさそうに腕を持ち上げると、泥人形のようだった腕が一瞬で獅子のごとく強壮な獣の腕に変貌する。それが軽く一振りされただけで、冒険者たちはあっけなく吹き飛ばされて気を失ってしまったのだ。


 しかし、さきほどから僕の視線は別のところに向いていた。


 吹き飛ばされた冒険者たち。その中の女性メンバーはいずれも――なんか妙に露出度の高い装備を着ていた。ゲームでいうところのビキニアーマーとかそういう類の装備に近い。


「女神様。なんであの人たち、あんなに露出多めの装備なんですか?」

「この世界はステータスが恋愛の基準ですので、性的嗜好の対象も当然ステータスとなります。ですので、肌の露出に対する羞恥心というものが存在しないのです。風呂やトイレも男女で分かれていませんし、文化的背景としても露出はむしろ好ましいものとされ……」

「行きます」

「えっ」


 たった数秒で、僕の心は完全にひっくり返った。


「お願いします女神様。僕はこの世界の素晴らしさを知りました。滅びの危機を見捨てるわけにはいきません。どうか僕に、この世界を救わせてください……」


 滂沱の涙を流す僕に対し女神様は、


「さっきまで『滅んだ方がいい』とか言ってたくせに、よくその温度感で泣けますね。情緒イカレてないですか? まあいいですけど。じゃあチート能力はどうします? 『表示不可能』のチート能力値にしますか? それとも他にリクエストは……」

「あの魔王と同じレアスキルをください」

「え?」


 僕は泣きながら笑った。

 女神様はあくまで冷めた面をしていた。


魔王あいつに教えてやるんです……。この世界も捨てたものじゃないって。どんなに蔑まれようと見下されようと、別ベクトルで世界を楽しむ術はあるんだって。まったく同じ能力を持った仲間としてだったら、その言葉があいつに届くかもしれない……」

「倒さずに止めるというんですか?」

「ええ。後発の僕が同じレアスキルを持っていても勝ち目はないでしょう、でも、男としての熱い魂を共有する親友ともになれたら、きっとこの不毛な争いを終わらせることができる」

「真正のゲスのくせにいいこと言ってる雰囲気なのが腹立ちますね。分かりました、じゃあ異世界に送りますよ」


 女神様が掌を広げると、異世界に通じるゲートが生じた。


「ありがとうございます。では!」

「あっ! ちょっと待っ……まだゲートの行き先設定が……!」


 女神様の慌てる声がしたが、もう遅かった。

 既にゲートに前のめりで飛び込んでいた僕が飛ばされたのは――


「貴様……どこから湧いてきた。む? その異質な気配。さては女神の差し金か?」


 巨大な泥人形の怪物。魔王の目の前だった。

 冒険者たちはすでに全員倒れ伏しており、僕が一人で魔王と相対している形だ。


「まあいい。女神の手先だろうが何だろうが、我の力には及ばん。虫けらのごとく叩き潰してくれる」

「待て魔王。これを見ろ! ステータスオープン!」


 往々にして異世界では『ステータスオープン』と叫べばその場にステータスが表示されるものである。

 予想的中。僕の正面にゲームじみた四角形の枠が表示され、そこに文字列を記す。さきほどまでと違って異世界言語での表示になっており、日本語ではなくなっていたが、意味は僕にも理解できた。


【ハギ・ケイイチロウ(萩・恵一郎)/初級冒険者】

性別:男性

レベル:1


生命力:1

攻撃力:1

魔法力:1

敏捷性:1

技巧:1


【習得スキル】

<ステータス超成長>


 ゴミのような数値だが、肝心なのは一番最後のスキルだ。魔王にもこれで「自分は同じ業を背負った仲間だ」と伝えるのだ。

 ところが、


「ぎゃああああっ!?」


 魔王は悲鳴を上げていきなり大きく飛び退いた。


「どうしたんだ? 僕は仲間だぞ! 怯えないでくれ!」

「だ、誰が仲間だ! そんな風にいきなり生ステータスを開陳する奴などと我を一緒にするな! この変態!」

「生ステータスを開陳……? それはいけないことなのか!?」

「当たり前だろう! 普通に捕まるぞ! 夜道でいきなり生ステータスを開陳する変態がよく捕まってるだろうが!」


 しまった。最初からコミュニケーション失敗だ。

 どうもこの世界で、迂闊に「ステータスオープン」してはならないらしい。この魔王の反応は、いきなり服を脱ぐ変態を前にしたときと同じだ。


「いや、待ってくれ魔王! だとしたらこの世界の人間はどうやってステータスを他人に伝えているんだ? さっきの生ステータス画面を写真とかで撮って手渡すのか?」

「しゃ、写真!? ふざけるな! そんな気軽にステータスポルノを量産するな!」


 写真で生ステータスを撮影することはステータスポルノの製造に該当するらしい。まだ僕はこの世界で学ぶべきことが多々あるようだ。


「じゃあどうやればいいんだ?」

「ククク……。冥途の土産に教えてやろう。ステータスの書面化は行政機関において、しかるべき所定の様式で発行されなければならない。行政サイドは字体や書式を極めて事務的に整え、性的な雰囲気を極力排さねばならない。それが正しいステータス証明書の発行法だ」

「くっ、まるで住民票みたいだ。エロスの介在する余地がない」


 まあ、もともと僕にとってはステータスなんか最初から興奮の対象外ではあるけれど。


「無論、手書きでのステータス記載など論外中の論外だ。自らの筆跡でステータスを記すなど猥褻すぎる。けしからんカップルの一部には、お互いの手書きステータスを交換してお守りにしている輩もいるようだが」

「ううん。何がいいのかさっぱり分からないな……」

「ほう?」


 魔王は興味を示したかのように身を乗り出した。


「貴様も分かるか? この世界の歪さが……?」

「ああ、よく分かる。人間にはステータスなんかよりもっと素晴らしいものがある。この世界の人間は数値なんかに囚われて、もっと大事なものを忘れてしまっている」

「変態かと思いきや、なかなかどうして話が分かる奴ではないか。ならば共に世界を滅ぼさぬか? 貴様のそのスキルがあれば、いずれ我に次ぐ実力者となろう……」


 僕は笑って、しかし首を振った。


「逆だよ、魔王」

「逆? 逆とは何だ?」

「誘うのは僕の方だ。この世界を滅ぼすのはもったいない。一緒に楽しまないか?」

「楽しむ? 正気か? この腐り果てた世界をどう楽しめというのだ!」

「君の目にとってこの世界は滅ぼすべき掃き溜めにしか映らないだろう。だけど、それもまたステータス至上主義から脱却できていない証拠なんだ。僕と一緒に来い。そして君の中に新しい地平が拓けたとき――この世界も捨てたものじゃないと思えるようになるだろう!」


 そう言いながら僕は背後をちょっと振り返って、倒れている女性冒険者たちの露出多めな姿を見た。心に温かなものが満ちた。


「この我も、ステータスの縛めから抜け出せていないだと? ふざけるなよ、貴様……」

「なら勝負しよう。僕はこの呪われたスキルを持ったまま、面白おかしく、そして楽しくこの世界を生きてみせる。そんな僕の姿を羨ましいと思ったら、世界を滅ぼすのなんてやめて一緒に来い。楽しい人生の過ごし方を教えてやる」


 泥人形じみた魔王の顔が、苛立つように歪むのが分かった。


「後悔するぞ。人間はみな、貴様を蔑んで迫害することだろう。それから我に助けを乞うても手遅れだ。我は二度も慈悲をくれてやるほど甘くない」

「僕はわりと甘い方だから、君がいつ宗旨替えをしても大歓迎さ」

「ここで今すぐ貴様を殺すは容易いが……いいだろう。その勝負とやらに乗ってやる」


 やがて魔王は、不気味な哄笑を響かせ始めた。


「その能天気な間抜け面が、絶望と憎悪に堕ちるのを見届けてから殺すのもまた一興というものよ」


 そう言うと、魔王の姿が次第に薄れて消えていく。おそらく転移魔法とかの類だろう。


「いいとも。存分に僕を見ていてくれ」


 絶望なんてするものか。

 人間の本当に美しいところはステータスなんかではない。そしてこの異世界は、その本当に美しいところをあれやこれやと眺め放題のパラダイスなのだ。たとえ全世界の人間に蔑まれようと余裕でお釣りが来るというものである。


 晴れて魔王を同好の道に引きずり込んだ日には、最高の親友ともとして異世界ライフを謳歌しよう――……




――――――――――――――――




「まったく……おかしな人間だった。我をここまで愚弄するとは」


 世界の最果て。

 瘴気によって空間の歪んだ魔境と呼ばれる地帯で、魔王はその泥人形じみた巨体を地に降ろした。


「しかし……我を見ても恐れず、ステータスなど関係ないと豪語した人間は初めてだったな。少しだけ面白い奴だ」


 どろり、と。

 巨体を形成していた泥が地面に流れ落ち、内側にあった魔王の『本体』の姿を露わとしていく。魔王という怪物に成り果てると決めたとき、二度と誰にも見せるまいと誓った人間としての姿が。


「さぁて。どう絶望させてやれば、あの者は我に泣いて赦しを乞うものかな?」


 深紅の瞳をギラリと輝かせ、長い銀髪を揺らす美しい少女。

 そんな魔王の正体を――今は世界の誰も知らない。


読んでくださってありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
相変わらずコメディで面白い気配。 でも主人公がいきなり生ステータス見せつけるような変態だなんて……!なんかいろいろ大丈夫なんだろうか? あとあの女神も他人のステータス勝手に見せるなんてモラルがなってな…
新連載ありがとうございます。 そんな、いきなり生ステータスの披露だなんて、ノクターンじゃなくていいんですか!?
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