映画『罪の声』
監督:土井裕泰、配給:東宝
2020年10月30日(金)より公開



物語の始まりは1984年の日本。
当時、食品会社に対する脅迫事件が相次ぎ、列島を震撼させていた。

警察やマスコミを挑発し続けた犯人グループがついに囚われることはなく、事件は未解決のまま闇に葬られた。

35年の時を経て、新聞記者の阿久津英士(小栗旬)は事件の真相を追う一方、京都でテーラー(紳士服の仕立て屋)を営む曽根俊也(星野源)は、犯人グループが使用した脅迫テープに自分の声が使われていたことを知る。

二人が共に追求した先にある衝撃の真実とは――。


本作で主人公の阿久津を演じた小栗旬さんに、自身の役どころや撮影秘話について聞いた。 



未解決事件の背後で零れ落ちた「声」

★本作『罪の声』の原作は、2016年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位を獲得した塩田武士さんのベストセラー小説です。本誌2017年9月号でも、同作について塩田さんにインタビューを行なっています。オファーが来たときの印象はいかがでしたか。 


【小栗】 

塩田さんの原作が本当に面白かったので、「ぜひ参加させていただきたいです」と快諾しました。小説はフィクションとはいえ、真実だったのではないかと思わせるほどの臨場感があった。子どもの生命を脅かす恐ろしい犯罪が行なわれ、片やメディアは劇場型の凶行をセンセーショナルに報じ、警察は「絶対に犯人を捕まえる」と豪語しながらも尻尾をつかみ切れない。 本作のモチーフとなった事件が起きた1980年代の記憶がある方には、とくに関心をもっていただけるでしょう。  



★小栗さんは1982年生まれですから、事件の記憶は薄いでしょうか。 


【小栗】 

記憶はほとんどなくて、じつは原作を読み始める前はピンときませんでした。でもいまでは、映画も原作に負けないくらいエンターテインメントとして楽しめる作品に仕上がっている、と自信をもって言えます。観る人の記憶や境遇によって視点が異なり、さまざまな角度から感情移入ができるはずです。また、モチーフとなった事件は未解決で終わっていますから、最終的にどんな真実があったのかは皆さん気になるところだと思います。 


そこで今作は、一つの仮説をフィクションとして提供している。


重大な真実が忘れ去られているなかで、零れ(コボレ)落ちた「声」があるのではないか。そんな意識を感じてもらいたいです。



 ★脚本は、テレビドラマ逃げるは恥だが役に立つ(2016年)やMIU404(2020年)など数々の話題作を手掛けている野木亜紀子さんですね。


 【小栗】 

原作は長編で400ページ以上の分量があるのですが、野木さんが見事な脚本にまとめてくださいました。また原作の世界観を約2時間20分の上映時間に昇華できたのは、土井監督の手腕によるものです。難しいテーマでありながらも、決して押しつけがましくないメッセージがこもった作品に仕上がっています。



★新聞記者の阿久津を演じてみていかがでしたか。 


【小栗】 

彼は、相手の境遇に寄り添った正義感をもっている男です。もともと社会部に所属しながらも、事件を頑なに追う仕事に葛藤を感じた結果、文化部に所属しています。そこで35年前の劇場型犯罪を追う特別企画班に抜擢されますが、今度もやはり、個人の人生に踏み込むことへの壁にぶち当たる。彼を演じるうえでは、目立ちすぎず「普通の人」であることを意識しました。阿久津はあくまでも謎を紐解いていく人間であり、本作の真の主役は、事件の脅迫テープに声を使われた子どもたちだと僕は捉えています。



 ★芝居をしていくなかで、新聞記者という仕事についてはどう思いましたか。 


【小栗】 

とくに社会部のように事件を扱う記者は、相当な強心臓の持ち主でないと務まらないと感じましたね。真実にたどり着くためには、取材対象者が聞かれたくないこともガンガン聞いていかなければいけません。阿久津のような優しさをもっていると、自分で質問にブレーキをかけてしまうかもしれない。でも踏み込んで聞き出さなければ、良い記事は書けない。記者の方々はつねにそうしたジレンマのうえに立っているのでしょう。 


原作者の塩田さんは小説家になる前は新聞記者をされていたということで、役作りのために話を聞いたら、「記者時代は地獄のような日々でした」と仰っていました(笑)。取材で神経をすり減らすだけではなく、平時でもつねにネタを探し続けなければなりませんしね。  



★もし小栗さんが新聞記者だったら、事件取材の現場で相手に踏み込んで聞き出すことはできますか。


 【小栗】 

絶対にできないです。日常生活でも、他人の探られたくない部分を聞くことが得意なタイプではないんですよ。僕は普段はこうして取材を受ける側ですが、取材をする記者は本当に大変な仕事だと痛感しました。



★映画の前半では阿久津と並行して、テーラーの俊也が、犯人グループが使用した脅迫テープに自分の声が使われていたことを知り、真実を探っていきます。俊也を演じた星野源さんとの共演はいかがでしたか。


 【小栗】 

ドラマコウノドリ(第1シリーズ、2015年)で少しだけ同じ現場にいたことはあったのですが、本格的に仕事をするのは今回が初めてでした。源ちゃんは優しくて繊細で、かわいらしい人です。小動物のような雰囲気を醸しつつ、それでいてものすごく物腰が柔らかい。「この人が普段はあんなにノリノリで歌って踊っているんだ」と思うとギャップを感じますね(笑)。 



物語の途中から、阿久津と俊也は事件の真相を追うために行動を共にします。


あるシーンを撮影する際、土井監督からは「阿久津と俊也は同世代だから、同じ時代を生きてきたことでシンパシーを感じる部分があるのではないか」と言われました。その話を聞いて、だからこそ一緒にいるときはきっと他愛のない会話もしていたんじゃないか、とのイメージが膨らみました。 



阿久津は新聞記者として事件を追い、俊也は自らが事件に関わっているかもしれないことを知って真実を探求する。境遇は違うけれど、目的は共通しているわけです。本作では、阿久津は基本的に取材のときは標準語を使っていますが、俊也と一緒にいると普段の関西弁が出ます。阿久津が徐々に俊也にほだされていく感覚は意識しました。  



★俊也は家族と平穏な日々を送ってきたのに、自分が35年前の未解決事件に関わっているかもしれない事実を突然知ることになりますね。 


【小栗】 

俊也はつねに家族のことを考えて、妻や子どもを巻き込んでしまうかもしれない危機感に苛まれます。決して自分が悪いわけではないのに、責任をすべて背負おうとする。もしも僕が同じ状況に直面したら、俊也ほど深刻に思いつめることはないでしょうね。「自分には関係ないし」と開き直ってしまうかもしれない(笑)。 




★とくに印象に残っているシーンはありますか。 


【小栗】 

俊也が、自分以外に声を使われた望ちゃんの親友の幸子さんと会う場面は、いちばんグッときました。 


事件が起きたとき、幸子さんは望ちゃんと会う約束をしていたけれど、結局、彼女の姿を見ることは叶わなかった。


35年後の現代では、「望はいまちゃんと元気に暮らしていますよね」と俊也に涙ぐみながら訴える。俊也は大人になるまで事件のことなど考えずに平和に生きてきたけれど、ほかの子どもたちは過酷な人生を生きてきたかもしれない。望ちゃんや幸子さん、そして俊也の気持ちを想像しただけで目頭が熱くなりました。


『Voice』2020年11月号より一部抜粋





罪の声スペシャル映像




映画「罪の声」

小栗旬×星野源。人気と実力を併せ持つ今の日本エンタメ界を牽引する2人が映画初共演となるこの秋最大の注目作『罪の声』。原作は、2016年「週刊文春」ミステリーベスト10で第1位を獲得するなど高い評価を得た塩田武士のベストセラー小説。フィクションでありながら、日本中を巻き込み震かんさせ、未解決のまま時効となった大事件をモチーフに、綿密な取材と着想が織り交ぜられ、事件の真相と犯人像に迫るストーリーが“本当にそうだったのではないか”と思わせるリアリティに溢れ、大きな話題を呼んだ。

事件に翻弄されながらも、その奥に眠る真実に向かって力強く進む2人の男。主人公の新聞記者、阿久津英士を演じるのは、ハリウッドにも進出し日本を代表する俳優となった小栗旬。35年以上前に起き、既に時効となっている犯罪史上類を見ない劇場型犯罪の真相と謎の犯人グループを追う記者を、その圧倒的な存在感で演じる。
そして、もう1人の主人公・曽根俊也には、俳優・音楽家・文筆家など様々なフィールドで活躍する星野源。父から受け継いだテーラーを営み、家族と共に平凡な毎日を過ごす中で、偶然にも幼少時の自分が知らないうちにこの日本中を震かんさせた未解決の大事件に関わっていたことを知ってしまう男を繊細に演じる。
監督は、『いま、会いにゆきます』『麒麟の翼』『ビリギャル』など映画ファンからも評価の高い数々の大ヒット作を手掛けてきた土井裕泰。脚本は、「逃げるは恥だが役に立つ」「重版出来!」などで土井監督とタッグを組み、「アンナチュラル」や「MIU404」も手掛ける野木亜紀子が担当。 


キャスト

小栗 旬 星野 源 松重 豊 古館寛治 宇野祥平 篠原ゆき子 原菜乃華 阿部亮平 尾上寛之 川口 覚阿部純子 水澤紳吾 山口祥行 堀内正美 木場勝己 橋本じゅん 桜木健一 浅茅陽子 高田聖子 佐藤蛾次郎 佐川満夫 宮下順子 塩見三省 正司照枝 沼田 爆 岡本 麗 若葉竜也 須藤理彩

市川実日子 火野正平 宇崎竜童 梶芽衣子


主題歌 Uru『振り子』
原作 罪の声「ギンガ萬堂事件」の時効が成立し、証言者たちの記憶も大分薄れている事から、事件の真相に迫る調査は難航するが、“今だから言える”という真実の証言を得て、じわじわとその真相に迫っていく。もう一人の男、京都でテーラーを営む曽根俊也。死んだ父親は事件に関係していたのか? さらに、自分以外の子供の声は一体どこの子供なのか? 事件の裏に隠された悲しい真実。そこには事件をきっかけに人生を翻弄された普通の人々がいた。

誰もが知る有名な事件を推理し、その事件に関わった人たちの波乱の人生を大胆予想した、エンターテインメントフィクション。阿久津と俊也の二人は独自に事件を調べ続け、その交点に真相が浮上してくる。パズルを組み立てるように調査は続き記者はついに犯人の一人に到達。事件の全貌を世に放つ――。冒頭で取材は難航し失敗の連続と思われるのだが、その行程が後に収斂し全ての謎が回収されていく構成。

これまでに判明しているグリ森事件の事実関係を凹型とすれば、それにピタリと組み合わされる凸型の推論パートを描き出し複雑な事件構成にも関わらず破綻も見せずに犯人像を絞り込んでいく。

著者の塩田氏は執筆にあたり実際の事件舞台を踏んだのであろう。身代金取引現場などの描写は細かい。全四一六ページの重厚な書ではあるが、取材開始までの各アプローチシーンなどはややくどい気もする。

終盤、取材手法を振り返り「貼り絵のように情報の欠片をコツコツと重ね合わせていった結果で、この手法こそが、今も昔もこれからも人々が求め続ける調査報道のあり方だ」と記す。まさに調査報道取材の疑似体験ができるのか……。

いやいや冗談ではない。こんなにスルスルと重大事件の謎解きができてたまるか、というのが実際にグリ森事件当時の取材にも関わった偏屈記者(私)の正直な感想でもあるのだが、それはともかくミステリーとしての読み応えは十分だろう。過去、グリ森事件を題材にした作品は数多い。ノンフィクションの体を取りつつ「真犯人」に到達したかのような噴飯物の書も存在する中、本書が被害社名を架空のものとしフィクションであることを明確にしているのは賢明だ。元新聞記者である著者の矜持として「事実と創作」の安易な混在を避けたのではなかろうか。ならばこそ、グリ森とはいったいどんな事件だったのか、当時を知らぬ世代の人たちにとっては、詳細をひもとく史料にもなるはずだ。

評者:清水 潔

(週刊文春 2016.10.24掲載)




原作を読んでいないので、いくつかのヒントをたよりに想像が膨らんでいる…もうちょいヒントを…なんて思いながらこのインタビューを読んでいた。


いつそう思ったかは覚えていないが、グリ森事件の脅迫音声は、作りものだと思っていた。しかし実在する子どもの声だった。そこに焦点を当てたストーリー。原作はフィクションだけれども、実際、事件で自分の声を使われた子供はいるのだ。それは事実。

その子の人生は狂わされてしまったかどうかはわからないが…一つの仮説として、この映画が教えてくれるのだ…。そして、私の持つかすかな事件の記憶と想像の答え合わせをするかのように観ることになる映画罪の声、公開が楽しみだぁ!










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