首というのは多くの人が思っている以上にデリケートな部位で、神経・血管・筋肉・骨格・自律神経が極めて密集している場所で、話題になっていたたとえばヨガのラクダのポーズ(ウシュトラ・アーサナ)のように頸部を大きく反らせる姿勢では、首の骨の間を通って脳に血液を送る椎骨動脈が過伸展されることがあり、本来この動脈は首の動きに合わせてたわむようにできていますが、急激な動きや強い角度で反らすことで内膜が微細に損傷し、そこから血栓ができて脳梗塞を引き起こすことがある。特に脱水や血圧の変動があるときはリスクが高まる。
マッサージガンや強い指圧も同様で、首の前側には血圧を感知する頸動脈洞や、心拍や内臓の働きに関わる迷走神経が走っていて、ここを強く押したり長時間刺激すると、急激な血圧低下や脈拍の変化が起こることがあり、場合によっては意識を失うこともある。また、首の側面や後ろを叩いたり押しすぎたりすると、頸神経叢や交感神経幹などの神経を刺激してめまいや吐き気を誘発することがあります。
指でこりをほぐそうとして強く押すと、筋膜や小血管が傷ついて炎症が慢性化したり、筋肉の緊張がかえって強まることもあります。特に斜角筋や胸鎖乳突筋のあたりは、動脈・静脈・神経が入り組んでいるため、闇雲に強く押すのは危険です。
首は単なる「筋肉の一部」ではなく、脳と身体をつなぐ経路そのもので、呼吸、血流、姿勢制御、平衡感覚、ホルモン分泌、自律神経のバランスなど、生命活動に関わる多くの機能がこの狭いエリアを通っている。だから「気持ちいいから」「伸ばしたほうがいいから」と自己流で刺激を加えるのは想像以上にリスクが高い。
首を安全に整えたい場合は、強い圧ではなく「支える・圧を一切かけずに優しく触れる」程度の触れ方を意識し、動かすよりも「ゆるむのを待つ」感覚で、呼吸と連動させた微細な動きを取り入れる。
首は全身の中でも結果が出る場所ではあっても、原因がそこにあることはほとんどない。むしろ、首の緊張や違和感というのは「身体のどこか別の部位の負担を代わりに引き受けているサイン」であることが多いです。
たとえば、足裏や骨盤、肋骨、背中などの動きが固まると、重心のバランスを取るために頭の位置が微妙にズレ、その調整を首の筋肉が引き受ける。特に、胸郭が動かない人ほど呼吸のたびに首の筋肉で補おうとするため、首が常に“呼吸筋化”してしまう。だから、首を直接ゆるめるよりも、呼吸・足・骨盤・背骨の動きを整えて、首の仕事を減らしてあげるほうが、根本的に楽になります。首の緊張を取るには、「首をゆるめる」よりも「首が頑張らなくて済む環境をつくる」こと。