その一冊、そっと借りてそっと返せばいい 常識破りの学校図書館とは
本を借りる手続きはゼロ。そんな学校図書館が、じわりと増えている。常識破りの理由を知るヒントは、並ぶ本のテーマにあった。
埼玉県立飯能高校の図書館。ある本棚の約100冊に限っては、生徒たちが黙って借りていける。返すときも、そっと棚に戻せばいい。
貸し出しカウンターの司書にも図書委員にも知られずに読める。そんな本が並ぶ本棚には名前がついている。「あなたをまもる本」だ。
貸し出し記録なし 紛失もなし
本には特徴があった。
「デートDVと恋愛」(大月書店)
「友だち地獄」(筑摩書房)
「いろんな自殺の方法を試してみました」(つむぎ書房)
虐待やいじめ、妊娠、リストカット……。借りていることを知られたくないと感じる人が多そうなセンシティブなテーマが目立つ。
たとえ戻ってこなくても 司書の思い
「全国的にもユニーク」と言われた取り組みを始めたのは、2016年のことだった。
前任の司書だった湯川康宏さん(60)は、校舎最上階の隅にある図書館を「すみっコ図書館」と名付けた。
こたつやハンモック、ボードゲームを持ち込んだり、私語もOKにしたりして、居場所としての機能を充実させようとした。「あなたをまもる本」もその一環だった。
湯川さんは「誰にも借りられずに本棚に並んでいるだけなら、ないのと同じ。たとえ本が戻ってこなくても、1人でも生徒のためになるなら、その方がいいと考えた」と振り返る。
貸し出しの記録はないから、どれだけの利用があるか数字ではわからない。ただ、本の場所が変わっていることもあり、読まれている形跡はあるという。
本棚は現在の司書、高橋秀人さん(53)に引き継がれ、最近は毒親に関するコミックエッセーや精神疾患に関する本も増やしている。
紛失はこれまで1冊もない。湯川さんは言う。「学校の大人が『あなたたちのことを気にかけているよ』というメッセージにもなると考えているんです」
広がる取り組み 大学ではブラックバイトの本
この取り組みは他校にも広がっている。
埼玉県内では川越西高校で遅くとも18年から、三郷北高校は25年9月から、同じようなコーナーを始めた。
高校だけではない。白梅学園大学・短期大学(東京都)でも、飯能高校の取り組みを知った司書の昼間史さん(50)が24年から導入した。
コロナ禍で飲食店などのアルバイトができなくなって生活に苦しむ学生が増え、家庭の機能不全が可視化されるようになったことも背景の一つだという。
図書館利用者のほとんどが18歳以上のため、ブラックバイトやマルチ商法といった金銭トラブルの本もそろえた。
昼間さんは「本は体系的な情報を得られる手段。学生たちが何かを感じられる入り口になってくれたら」と話す。
常識破りな学校図書館を専門家も評価している。都留文科大学の日向良和教授(図書館情報学)は「貸し出し手続きには財産管理の意味があるが、それよりも必要としている人に本を届けることを重視したすばらしい取り組みだ。他の学校にも広がってほしい」。
「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは2カ月間無料体験