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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
天魔大戦編
213/304

206話 vsダグリュール その2

 遅くなってしまい、スミマセン。

 アダルマンは死霊竜デス・ドラゴンウェンティの上に立ち、眼下を睥睨する。

 空高く舞い上がったウェンティは、その本来の姿である邪竜形態となっており、禍々しい妖気を撒き散らしていた。

 抵抗力の弱い人間なら、その妖気を浴びるだけで絶命する事になるだろう。しかし、アダルマンには逆に力を与えてくれるのだ。

 ふむ、と一つ頷き、アダルマンは思考する。

 お互いが相容れぬ主張をしている以上、戦前の口上を述べたりする意味も無い。

 既に国境を越え侵入して来ているダグリュール軍に対し、警告も無意味。

 ならば、ド派手な極大魔法を放って戦争開始の合図にするのが良いだろうと決定する。


 アダルマンは呪文を唱え始める。

 無詠唱でも発動可能だが、長年の習性にて精神統一するのに最適なので、敢えて長々と唱えているのだ。

 ただしこの呪文に関しては、無詠唱ではなくきちんとした手順を踏む方が良さそうだ、とも思っていた。

 何故ならば、迷宮内部では使用不可能な――というよりは、生前では魔力不足で実行不可能だった――知識としては存在するが、実質初めて使用する魔法を選択していたからだ。

 派手であればそれで良い。そういう趣向なのである。

 生まれて初めて実行する呪文に気負う事なく、眼下を眺め呪文の影響範囲を定める。

 通用するかどうかは気にしない。

 古の文献によると、大魔術師が数人掛りで行使したと伝えられる極大魔法。

 発動しなければお笑いだが、幸いにも此処には目撃者がいない。なので、その時は違う魔法を放つのみ。

(さてさて、この魔法が開戦の狼煙となるのです。成功して下さいよ!)

 アダルマンはそう念じながら、究極贈与アルティメットギフト魔道之書ネクロノミコン』による魔法の完全制御効果を発動させた。

 真理之究明によりアダルマンの知識は補正され、真言ワードが脳裏に刻まれる。一度成功した呪文ならば、二度目は選択するだけで即座に発動可能となるようだ。

(ああ、なるほど……これならば、呪文詠唱が必要ないのも納得ですな)

 心地よい充足感に満たされ、アダルマンは自分の能力を把握した。

 そして――


「では、深く味わうが良い――古の極大魔法を――"爆覇流星嵐テンペストミーティア"!!」


 ――瞬間、天空に突如出現した極大魔法陣より、煌く眩い光が降り注ぐ。

 星降る夜の奇跡のように美しく……しかし、それは死と破壊を呼ぶ恐るべき光。

 古の大魔術師が数名掛りで成功させた大魔法よりも、規模も威力も数段上となって完成された極大魔法。そして、彼らの国を象徴する暴嵐テンペストを冠する魔法である。

 究極贈与アルティメットギフト魔道之書ネクロノミコン』の補正により、この世に完全なる効果を発揮せしめたのだ。


 古の魔術師達が召喚出来たのは数個の隕石がせいぜいであった。

 それでも、対軍魔法として多大な効果を発揮した戦術級の大魔法だったのだが……アダルマンの行使した魔法により召喚された隕石の数は千を超える。

 地上に直径50cm〜1m大の隕石の雨が降り注ぎ、ダグリュールの軍勢に死を振り撒いた。

 超再生力を誇る巨人達であっても、再生不可能なダメージを受けたならば意味が無い。隕石を受け止めようとした四肢は吹き飛ばされ、頭を砕かれ潰される。

 巨大な力にて蹂躙するつもりであった巨人族は、為す術も無く逃げ惑う事すら許されない。

 アダルマンの放った極大魔法は、アダルマンが意図した以上の効果を発揮した。

 たった一つの魔法により、ダグリュール軍の実に三割もの兵士を戦闘不能に至らしめたのである。


「見よ、ガドラよ。やはり私の魔法は素晴らしいだろう?」


 自分の想定以上の効果に驚きつつも、さも当然の事だとばかりに同行者であるガドラに自慢するアダルマン。

 骨の顔には表情が無いので、バレる事は無いのが救いである。

 ライバルであった男に自慢出来るのは、何よりも嬉しい事なのだ。



 今回の戦に無理やりついて来たガドラとしては面白くは無いが、認めるしかない威力の極大魔法であった。

 新参であるガドラ老師としては、ここで一発何か手柄を立てたいと考えていた。

 何しろ、帝国を見捨てて魔王リムルの傘下に加えて貰っただけで、一切役には立っていないのが心苦しかったからだ。

 この戦はこの世の覇権を争うものである。ならば、ここで何らかのお役に立たなかったなら、生涯何の役にも立てぬままに終わってしまう事も考えられた。

 色々な研究で相談には乗っているものの、それだけではガドラとしても納得がいかないのだ。


「ふん。抜かせ! ワシが本当の極大魔法を見せてやるわい!

 ただちょっと、ワシでは魔力が足りぬから、協力して貰おうかの……

(というか、何でコヤツ、こんな魔法を覚えおった!? 神聖魔法や死霊魔法が得意だったハズじゃが…‥

 こういう魔法はワシの得意分野じゃんよ……ワシ、寂しい)」


 腑に落ちぬ想いを抱きつつ、ガドラはアダルマンの協力の下、呪文の詠唱を開始する。

 究極贈与アルティメットギフト魔道之書グリモワール』の補助を受けて、アダルマン同様呪文の理を理解するガドラ老師。

(なるほど、これは素晴らしいわい! 残念なのは、ワシに魔力はあっても魔素量エネルギーが足りぬ事よな……)

 自分一人の力で魔法を行使出来ない事を残念に思うが、仕方ないと割り切るガドラ。

 転生を繰り返し、人よりは強大な魔素量エネルギーを誇るのだが、魔物の国テンペストの上位陣からすれば微々たるものなのだ。

 嘗てのライバルであったアダルマンに負けて悔しい気持ちはあるが、今見栄を張っても意味が無いと理解している。

 なので、自分の知り得る限り最強の魔法を選択し、詠唱する。

 アダルマンすら知りえない、暗黒魔法の極意。

 今アダルマンが使用したのは、召喚魔法の極意の一つであろう。召喚術を使えるアダルマンならば、その応用から究極へ至ったとしても不思議では無いのだ。

 ならば、自分は自分のもっとも得意とする暗黒魔法の極意で以て、この場で披露して見せるとしよう! ガドラはそう考えた。

 そして――


「永遠の飢餓に苦しむ者よ、来たれ! "絶牙虚無災害ニヒリスティックハザード"!!」


 神聖魔法で最強の魔法は、究極の対人対物破壊魔法である"霊子崩壊ディスインティグレーション"なのは有名な話だ。

 使用出来る者が少ない事も有名であるが、その威力の高さは折り紙付き。

 直撃を受けて生き残れる者は存在しないと言われている。ただし、欠点があるとすれば、対個人であるという事だろう。

 その攻撃範囲は極端に狭いのだ。高威力の魔法である故当然ではあるのだが、対軍団に対しては意味の無い魔法であった。

 その点を熟知しているからこそ、アダルマンは召喚系の最強魔法を使用したのだろうから――

 ――そしてガドラが選択したのは、"霊子崩壊ディスインティグレーション"の対となる暗黒魔法最強の広範囲殲滅魔法であった。

 地上と天空に極大の魔法陣が出現する。

 そして、天と地を繋ぐように、暗黒の放電が開始され――無数の放電球が放たれた。

 それは、全ての物質を飲み込む暗黒の牙。

 禁呪の一つとされる、虚無をこの世に生み出す暗黒魔法である。

 この世に解き放たれた虚無は、その負の存在値マイナスエネルギーをゼロにするまで消える事はない。

 天と地を結ぶ魔法陣の結界内部の全てのモノに喰らいつき、その存在を消失せしめるのである。

 一度制御を失敗すると、この世に破滅を齎す恐れすらある、究極魔法の一つであった。


「ワハハハハ! どうじゃ! すごいじゃろ!?」

「アホかぁーー! 貴様は何を考えている! 私が協力しなければ、絶対に制御に失敗してただろうが!?」

「そ、それはそうじゃが、ワシだって目立ちたいんじゃもん!」

「もん、じゃないわ! あんな危険な魔法をぶちかましおって……」


 呆れかえるアダルマン。

 確かに、制御に失敗すればこの世を崩壊させる恐れがあっただけに、ガドラとしても言い訳しにくい。

 制御には自信があったのだが、魔素量エネルギーが足りずに意識を手放したら終わりだったのだ。

 以前の自分の魔素量エネルギーで実験に成功した時は、せいぜい数名を結界に閉じ込める事が出来るかどうかであった。対個人よりマシ、という程度である。

 あの時もギリギリ成功であったが、仮に失敗していても村が消える程度の被害で済んだだろう。

 それは込めたエネルギーが少ないからであり、今のような膨大な魔素を込めて発動した魔法が暴走した場合、本当に世界の危機であったのは間違いない。

 だが、失敗したら、の話である。


「ま、まあ良いでは無いか。成功したんじゃし!」


 反省する様子の無いガドラは、腐っても狂気の天才と呼ばれるだけの事はあるのだろう。

 その事を思い出し、アダルマンは溜息を吐いて諦めた。

 どうせ言っても無駄だし、事実、成功したので問題は無いのだ。

 それに、二つの極大魔法により、敵の軍団を大きく減じる事に成功したようである。

 魔素量エネルギーの塊とも言える巨人族であっただけに、負の存在値マイナスエネルギーを相殺したにも関わらず全滅してはいないようだ。

 だがそれでも、最初の数から比べて、既に半数以下に減ってしまっていた。通常ならばここで戦争を諦めて撤退する状況である。

 果たして彼らの選択は……?

 そう思い、アダルマン達は固唾を飲んで眼下の様子を伺った。



 ――巨人達は、仲間の死をまるで気にする事なく、進撃を開始する。

 即死を免れた者たちは、その超絶的な回復力により、何事も無かったかのように再生されていき――数を減らした事さえも気にする素振りさえ見せない。

 その姿は余りにも不気味であり、対峙する者の恐怖心を掻き立てるものであった。

 だがそれは、対峙する者達に恐怖心があったならば、の話だ。



 そんなダグリュールの軍勢の動向を見て、アダルマン達はウンザリした。


「やれやれ……あの者達は、恐怖を感じないのか?」

「全くじゃな。普通は対策を考えるなり、一旦引くなりするものじゃが、な」


 顔を見合わせ、お互いの考えの一致に頷き合う。


「戻るとするかの?」

「うむ。流石に魔力を使い過ぎた。一旦引くとしよう。

 しかし、私の軍団が死を恐れぬ不死者の軍団イモータルレギオンで良かったよ。

 死ぬ事を何とも思わぬ巨人兵団なぞ、単なる死兵よりもタチが悪いぞ……」

「全くのう。だが、ここで数を減らせたのは僥倖じゃったぞ。

 あの数でも脅威だが、何も知らぬままにぶつかっておったら負けておる所だ」

「数の上での優位性なんて意味は無いだろうしな。まあ、戻ってシオン殿に報告するとしよう」


 アダルマンは死霊竜デス・ドラゴンウェンティの頭を撫でて、帰還を命じた。

 当初の目的通り、挨拶がてらの大魔法により打撃を与えるのには成功したのだ。長居する必要は無かった。

 さっさと戻って、ダグリュールの軍団の脅威を報告する必要がある。

 恐るべきは、その不動の心と、超回復であった。

 不死者の軍団イモータルレギオンも復活可能とは言え、砕かれ粉々にされれば流石に無理な話だろう。

 だが、巨人達はその圧倒的な破壊力で不死者の軍団イモータルレギオンを蹂躙しそうな予感がある。

 まあ、それならばそれで良い。

 可能な限り多数で一体を仕留めていき、とにかく巨人達の数を減らす事を考えれば良いのだ。

(ともかくは、戻って相談だな)

 アダルマンは今後の展開を考えつつ、自陣営に居るシオンの下へと戻って行くのだった。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 縛鎖巨神団の総数は、凡そ10万であった。

 主力軍同士の衝突を前にその数を5万弱にまで減じる事になったのは、ダグリュールにとっても誤算であった事だろう。

 しかし彼にとっては、大して損失に感じる事は無い。

 今の魔法で死ぬ者は、運が無いだけでなく実力も無い事の証明に他ならないからだ。

 見事な魔法であったのは事実だ。

 だが、武人たる者、対集団を想定した魔法等に遅れを取る事など、あってはならぬ事なのである。

 事実、真なる主力の腹心達は、誰一人として欠ける事なくその歩を止める事もない。

 先程の魔法は確かに見事であった。

 恐らくは、転移魔法陣の設営に訪れた、あのアダルマンという死霊の王の仕業であろう。

 流石に超一流の腕前である。

 その友人であるという魔法使いも、中々の知恵者であるようだったし、二つ目の魔法は彼の仕業であっても不思議ではない。

 素晴らしい者達である。敵として、この上なく心を沸き立たせてくれる。

 ただ残念なのは、魔法では・・・・・・ダグリュールを倒す事は出来ない、という事か。

 真なる巨人ならば、『魔法無効』という絶対能力を有しているのだから。

 絶対魔法防御アンチマジックガードが発動し、全ての魔法攻撃を自動で中和してくれる。

 この能力が有る限り、魔法攻撃は無視出来た。

 だからこそ、今の魔法で死ぬような者達は未熟だと切って捨てられる存在なのだ。


 ふと、思う。

 彼の息子達、ダグラ、リューラ、デブラの三人について。

 今回敵対する事になってしまったが、彼らはどの様な戦いを見せてくれるだろう?

 甘やかして育てた故に、力だけは大きいが、その実力は然程でも無い息子達。

 ディーノ辺りは、あの息子らの誰でも良いから跡目を譲れ、などと抜かしていたが……

 あの食えない男の事だ。どうせ、息子達を堕落させ、配下に加えようとでも考えていた上でのお世辞であろう。

 ……或いは、本当にダグリュールを引退させて、堕落させるのが狙いだったのかも知れない。

 今回の、この事態を見越した上で。


 ――ダグリュールを堕落させ引退させる事により、ヴェルダナーヴァの支配下から脱する事が出来るように?


 考えすぎか、とダグリュールはその考えを打ち消した。

 あの気の良い友もまた、ヴェルダの傘下に入っている。そう、自分達はヴェルダの命令に逆らう事など出来ないのだ。

 創造主に逆らうなど、絶対に不可能なのだから。

 だが、自分の息子達ならば、その呪縛からは解き放たれている。

(そうか、ワシは……息子達に自由に生きて欲しいと願っておったのか?)

 だとしても、敵として自分の前に立つならば、ダグリュールは一切の手加減をしないだろう。

(精々、強くなっておると良いがな。せめて、ワシを前にして少しは持つ程度には、な)

 ダグリュールに迷いは無い。

 彼は、彼の使命を果たすだけなのだ。

 愚直な迄に、彼は武人であった。


 そして――

 この戦域に、巨人の暴威が吹き荒れる。

 年内はこれが最後の更新になりそうです。

 新年も親戚の家に行く等と色々忙しいので、更新は暫くお待ち下さい!

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