第3回山上被告の人生「過剰に考慮すべきでない」「教団に翻弄」 主張対立

遠藤美波 仙道洸 森下裕介

 犯行の根底には、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の影響があった――。28日に奈良地裁であった安倍晋三元首相銃撃事件の初公判で、検察側と弁護側の見解は一致した。大きく異なったのは、被告本人の責任に対する見方だ。

検察側、人生を過剰考慮すべきでないと訴え

 「被告にとって、家庭は安息の場所ではなくなった」。検察側は山上被告の生い立ちについて、こう説き起こした。

 1991年に母親が教団に入信したこと、多額の献金によって祖父と対立したこと、経済的な理由から大学の進学を断念したこと……。

 海上自衛隊で自殺を図って退職した後は、派遣の仕事を転々。被告が教団への恨みを募らせたのはこの頃からだとした。

 そうした恨みが犯行の起点にあることは「争いがない」としつつ、強調したのは、40代となった事件当時まで影響が及んだとは考えられないということだ。

 事件当時に無職になったのは、人間関係のトラブルによるものだったとし、転職を繰り返して「思い描いた人生」を送れなかったのは「プライドが高く対人関係が苦手だったこと」が主な原因だと指摘した。

 自身の不遇が「自己責任とみなされることへの不満や憤り」が、母親が傾倒した教団と結びついた結果、被告の人生と関係のない安倍氏の殺害に至ったと批判。「生い立ちを過剰に考慮すべきではない」と訴えた。

 証拠調べで検察官は、山上被告の自宅から押収された手製銃3丁と、奈良市内の山中で試射したときに使ったとされる穴の開いたベニヤ板2枚を裁判員に見せた。被告が試射した際の動画もモニターに映し出し、犯行の危険性を説明した。

弁護側、教団が人生に与えた影響を強調

 弁護側は犯行の動機が短絡的なものではなく、長い時間をかけて醸成されたとして、その「根深さ」を立証する方針を示した。強調したのは、教団が人生に与えた影響だ。

 父の自死や兄の大病を受けて入信した母は、父の生命保険金など約1億円を献金し、家庭内の不和は極まったと指摘。母は子どもを残して韓国に長く出かけることもあり、被告は心の平穏を失ったとした。

 入隊した海上自衛隊にはなじめず、「社会に対する厭世観(えんせいかん)」にさいなまれたという。退職後も通信制大学に願書を出すなど「彼なりの努力はしていた」が、再び母と同居を始めると、兄は教団との関係をめぐって母と激しくぶつかった。

 転機としたのは、兄の自死だ。きょうだいを代表して母をいさめた存在を失い、大きな「自責」の念を抱いたという。「自分や家族の人生は教団に翻弄(ほんろう)された」と思い、復讐(ふくしゅう)心を募らせた。

 「確実に襲撃するには、対象を銃で撃つ」。そう考えて銃を作り始め、試射を繰り返した。安倍氏を狙ったのは「教団に親和的な姿勢を見せる政治家」だったからで、岡山市での演説を狙って断念した後、奈良市の自宅近くで演説すると知って「偶然を超えたもの」を感じて犯行に及んだという。

 弁護人は今後の母親や妹、宗教学者らの証人尋問から浮かぶ「犯行の動機や経緯」は、量刑で「十分に考慮されるべきだ」と述べた。

 法定刑が重い銃刀法違反の発射罪については、被告が使った手製銃が当時の法律で規制される「拳銃等」には当たらないと訴えた。

「最大の焦点は量刑」 本庄武・一橋大教授(刑事法学)

 影響力のある政治家を公衆の前で殺害した凶悪事件か。過酷な生い立ちが引き起こした悲劇か。人によって見え方が大きく異なる事件だ。双方の冒頭陳述の違いも、そのことを表している。

 最大の焦点は量刑だ。刑の重さは、犯行動機や行為の危険性といった「犯情」で大枠を定めた後、被告の反省の度合いや遺族感情など、犯罪に直接関わらない「一般情状」を考慮して決まる。

 この犯情について、検察側は「聴衆に被害が出てもおかしくなかった」と犯行の危険性を指摘した。元首相を公衆の前で殺害した事件の異例さも強調した。死刑求刑が視野にある可能性もある。

 被告の生い立ちを「一般情状に過ぎない」とした検察側に、弁護側は「虐待」という表現で対抗した。被告の親族や専門家の証言から、生い立ちが事件に影響を与えた重要な事情だと主張するだろう。

 生い立ちを重視すべきかどうかは、それが安倍氏を殺害する意思決定に影響を与えたと言えるかで変わる。裁判員には、法廷で語られる被告の半生を冷静に分析することが求められる。

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この記事を書いた人
仙道洸
ネットワーク報道本部|西成・動物園担当
専門・関心分野
在日コリアン、在日外国人、司法
森下裕介
東京社会部|裁判担当
専門・関心分野
司法、刑事政策、人権
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    河野有理
    (法政大学法学部教授=日本政治思想史)
    2025年10月28日21時20分 投稿
    【視点】

    個人的な意見としては、被告の人生の背景を量刑判断にあたって過剰に考慮すべきではないという検察側の主張に賛成だ。もっともそれは、必要以上に軽くすべきではないということであるとともに、必要以上に重くすべきではないということでもある。 一人の命を殺めた殺人犯として(殺人罪の成立については争わないらしい)淡々と捌いてほしい。 被告の複雑な人生の持つ意味はもちろん重要だ。それが裁判を通じて社会に投げかけられることの意義も大きいだろう。だが、それは量刑の判断とはまた別の問題ではなかろうか。むしろそれを社会の側がどう受け止めるかが重要だろう。

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