BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

68 / 68
エピローグ兼また殺陣回でございます。
名前だけ出てたけど姿は無かったあの預言者が出てきます。
クロハの敵としてですがねぇ!!!


58.夜叉烏

 天守の決戦より数日。

 炎に焼かれた部分の修繕が行われているその足元で、ニヤは大量の書類に囲まれていた。

 湯呑のお茶も飲み干し、そろそろ抜け出してしまおうかと考えた時、部下から客人が見えたと告げられる。

 まさしく僥倖。ちょっとだけだが、書類から逃れられる。

 ペンをペン立てに戻しつつ、客人をお通しするよう指示。

 机の前に回り、いつも通りの飄々とした笑顔で、ドアを潜って現れたシャーレの先生を出迎える。

 

 「これはこれは、2度も百鬼夜行を救って下さった勇者様ではありませんか。」

 

 ”もう、そんな風に呼ばないでよ。頑張ったのは、百花繚乱の皆とレイヴンだよ。”

 

 「まあまあ、そう謙遜なさらずに。今回の件、被害が広がる前に決着を付けてくれたのですから、ちょっとくらい褒めても罰は当たらないってもんでしょう?」

 

 事実、ニヤのこの言葉は本心だった。

 避難させた住民から、何も起きなかったじゃないかとクレームが届いたほどに、先生達の対応は迅速だった。

 住民たちのその鬱憤は、今開かれている和楽祭によって解消している事だろう。

 閉じた扇子で先生を指し、掴みどころのない笑顔を崩さないニヤの頭に、ふと先生の手が乗せられた。

 

 ”それなら、私を褒める分、他の皆も褒めてあげてね。私が褒められた分はニヤにお返しするから。”

 

 「にゃッ!?相も変わらず奇怪な人ですねぇ、ホントに!」

 

 頭を優しくなでる先生と、驚きながらも満更でもない様子で受け入れるニヤ。

 先生の後ろから、頬に傷跡を残すレイヴンが、2人を冷ややかに見つめている。

 ニヤはもう少し続けていたい気分ではあったが、彼女の気迫に気圧され、先生の手を退ける事にした。

 

 「とまぁ、雑談はこの辺にしておいて、お呼び立てした理由をお伝えしましょうか。これ以上長引かせると、目線だけで射殺されてしまいそうですし……。」

 

 「分かってるならさっさと話せ。」

 

 「ハイハイ、ちょっと待ってくださいね。今回、あなた達にお手紙が届いているのですよ。」

 「こちら、大預言者クズノハから、それぞれ先生とレイヴンさん宛てです。」

 

 ニヤが机の引き出しから取り出したのは、ひもで束ねられる少し古ぼけた手紙。

 蛇腹に折りたたまれた紙片には、先生の本名と、カタカナでレイヴンの名が宛てられている。

 

 ”クズノハから?一体どうして?”

 

 「まあまあ、まずは読んでくださいな。」

 

 2人はニヤに言われるがまま手紙を取り上げ、紐を解いて紙片を開く。

 また達筆を見せつけられるのではと、嫌な予感がしていたレイヴンだが、今回は杞憂で終わる。

 崩し字ではあるものの、現代人である2人が読めるよう配慮されていた。

 

 「フム、今回は読めそうだ。」

 

 ”花鳥風月部のは達筆だったもんねぇ……。”

 

 苦笑いを浮かべた後、クズノハの筆先を目で追い、それを読み上げる先生。

 レイヴンは1度手紙を閉じ、ニヤは先生を静かに見守る。

 

 〔時候の挨拶を書くべきだろうが、黄昏は時の流れが曖昧故、桜舞い散る頃、とさせてもらおう。〕

 〔よくぞ、花鳥風月部とヒトツメを止めてくれた。百花繚乱最初の長として、礼を申し上げよう。〕

 〔だが其方(そち)よ、(わらわ)がいつ便りを出したか覚えておるか。サッサと顔を出しに来んか。〕

 〔エビスの雪原の先、黄昏の寺院で待っておるぞ。良い茶菓子を持ってまいれ。〕

 

 それは、孫の来訪を心待ちにしている祖母のような、先生をせっつく文章だった。

 先生の胸中は、日々に追われて行くのが難しいと言い訳をする気持ちと、確かに待たせすぎたという申し訳なさでないまぜになる。

 

 ”アハハ……。随分怒らせちゃってるみたいだね……。”

 

 「あらら~。急いで顔をお出しになった方が良いのでは~?」

 

 ”そうするよ。案内をお願いしても良いかな?”

 

 「ハイハイ。ナグサさんにお願いしておきましょう。」

 「ささ、レイヴンさんの方も読んでみてくださいな。」

 

 先生特有の能天気さにため息をつきつつ、レイヴンも手紙を開き、文字を追いかける。

 所々の読めない文字をエアに翻訳してもらいながら、全文を静かに読み上げた。

 

 〔よくぞ、花鳥風月部とヒトツメを止めてくれた。百花繚乱最初の長として、礼を申し上げよう。〕

 〔しかしその道中、其方が屍山血河を抜いたと聞いておる。屍山血河は修羅の獲物。それを抜いた者、すなわち修羅なりや。〕

 〔其方がそうではないと信じておるが、屍山血河の扱いを含めて、其方と話がしたい。〕

 〔屍山血河と共に、神木より東にある、稲荷の祠に詣でるがよい。そこで待っておるぞ。〕

 

 「屍山血河と共に来い、か……。一体何を話すのやら。」

 

 疑問符を頭に浮かべる先生の隣で、手紙を無造作に閉じながら、眉間にしわを寄せそう呟くレイヴン。

 ニヤは口元を扇子で隠しながら、困ったように首を傾げた。

 

 「それは合ってみないと分からないねぇ。私達陰陽部も、クズノハ様と直接お会いした事は無いもので。」

 「屍山血河は1つ下の階に用意してあるよ。準備が整ったら受け取って、祠に向かってくださいな。」

 

 「なら早速行かせてもらう。待つ理由もない。」

 

 「ハイハイ、お気を付けて~。」

 

 ”行ってらっしゃい。”

 

 手紙を机に戻し、悠々と去っていく背中に、先生とニヤは手を振った。

 レイヴンが部下に導かれ執務室から去ると、先生は朗らかな笑顔を崩し、ニヤの糸のように細い目を見つめる。

 

 ”ニヤ、レイヴンに何を隠してるの?”

 

 「……はてさて、何の事でしょう?生まれてこの方、隠し事なんてした事もないんですがねぇ。」

 

 ”ニヤ……。”

 

 あくまで飄々としていたニヤだったが、この大人相手には隠しきれないと悟り、笑顔を崩して先生に向かい合う。

 外れて欲しいと願っていた先生の嫌な予感は、ニヤの真剣な顔で確信へと変わる。

 

 「……申し訳ないのですが、お話しできないんです。クズノハ様のご意向でして。」

 「ただまあ、危険な目に合う事など無いでしょう。お手紙に合った通り、お話しするだけでしょうからね。」

 

 ”……そうだよね。ありがとう、ニヤ。クズノハにもよろしく伝えておくね。”

 

 先生は決して納得していない。ニヤもそれを分かっている。

 それでも先生は退くことを選び、ニヤもこれ以上話すことはしなかった。

 努めていつもの笑顔に戻すニヤは、先生を冗談と共に送り出す。

 

 「ありがとうございます、先生。ついでに、この書類も引き受けてくれると、とっても嬉しいのですが……。」

 

 ”それはダメ。”

 

 「そんな~。」

 

 しくしくとわざとらしくウソ泣きをするニヤを尻目に、先生は執務室を出ていった。

 数拍置いて、唇を固く絞ったニヤは、部下に向けて軽く頷く。

 部下が何も言わず去った後、ニヤは黒電話の受話器を上げ、ダイヤルを3度回す。

 

 「……もしもし。うん、そう。クズノハ様から屍山血河と一緒にお呼び出し。」

 「…………うん、神木東の祠。回収とご供養、よろしくね。ハイハイ~。」

 

 ニヤは受話器を戻すと、ふぅ、と重いため息を吐いた。

 クズノハからの手紙は、3通目が存在する。

 陰陽部に宛てられたそれには、レイヴンの仏を供養し、屍山血河を回収しろと指示されていた。

 

 「……ごめんなさいね、先生。これだけは、本当にお話しできないんです。」

 「しかしまあ、こんなに早くお声がかかるとは。つくづく運の無い人だね……。」

 

 もう2度と、レイヴンと会う事はない。

 そう言えば先生はきっと、直談判の為にクズノハの元へ向かうだろう。

 それだけは、避けなければならなかった。

 ニヤはゆっくりと目を伏せ、自身の昏い一面に、またため息を吐いた。

 

 「さようなら、凶鳥さん。」

 

 誰も聞くことの無い見送りが、執務室に静かに響く。

 和楽祭で賑わう百鬼夜行には、昔と変わらぬ桜吹雪が舞っていた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 屍山血河を右手に握り、神木沿いの街道を堂々を行く。

 当然、街行く人々からは、ジロジロと視線を感じる。

 この時代に刀を持つ奴なんて、何かの撮影の小道具を運んでいるか、旅行に浮かれて模造刀を買ったかのどちらかだ。

 目が集まるのも無理はない。

 ある程度進んで、エアが導く通りに左へ曲がる。

 裏路地に入れば、視線は一気に消え、雑踏のざわめきは左右の木の壁で遮られる。

 十字路を右、左、また右へと曲がれば、正面に石造りの狐が見えた。

 これが、クズノハの手紙にあった祠だろう。

 

 「神木の東、稲荷の祠、ここか。」

 

 『ここで待っている、とは書いてありましたが、周辺にクズノハらしき反応はありません。』

 

 頭頂部の耳を澄まし、辺りを見渡すも、人っ子1人感じられない。

 もちろんスキャンやレーダーにも、何の反応もない。

 ため息をつきながら、祠の横の柵に寄りかかる。

 

 「狐につままれた、というやつか?もう5分待って出てこなければ――」

 

 『ここにおるぞ。』

 

 脳天から響く声に、左手が自然に柄にかかった。

 もう一度スキャンを実行するも、やはり何もいない。

 

 「エア、さっきの声はなんだ……!?」

 

 『声?声なんて、どこからも聞こえませんが……。』

 

 『ふふふ、驚くのも無理はない。其方のみに話しかけているのじゃからな。』

 

 スピーカーや音響トラップを疑い、スキャンを何度も実行しながら辺りを睨むも、何も見つからない。

 体は自然と戦闘モードに入り、心拍数が上がる。

 まさかと思いながら、祠の方へ体を向ければ、また脳天から、正確には脳内に声が響く。

 

 『そう、妾はそこにおるぞ。』

 

 何処からどうやって見ているのかは分からない。

 だが、確かにこいつは、クズノハは俺を見ている。

 左手を下ろし、だが戦闘モードは切らずに、祠にゆっくりと近づく。

 

 『レイヴン、バイタルが乱れています!何を聞いているんですか!?』

 

 「クズノハか……。悪趣味な手品だ……。」

 

 『悪趣味とは、また酷い言い草じゃのう。まあよい。』

 『祠の前で、手を合わせ、拝むがよい。その先、黄昏で会おうぞ。』

 

 俺達をからかうようなクズノハの声で、嫌な予感がどんどん膨らんでいく。

 俺だけが聞こえる声を届けられる存在など、神であろうと悪魔だろうと、ロクな奴では無いはずだ。

 エアも何が起きているのか察したようで、俺のそれと共振する闘争が伝わってくる。

 

 『レイヴン、クズノハは、あなたと何らかの方法で交信を?』

 

 「そのようだ。どうやら、こいつを拝むしか無さそうだな……。」

 

 『……分かりました。バイタルと周辺環境を監視します。どうか、気を付けて。』

 

 「ああ、頼むぞ。」

 

 屍山血河をベルトに差し、両の掌を合わせて、目を閉じる。

 ただでさえ静かな裏路地から、更に音が消えていく。

 頬の傷跡を撫でる空気が少し冷たくなった時、脳内に響いていたのと同じ声が、正面から聞こえてきた。

 

 「もう開けてよいぞ。」

 

 目を空ければ、そこは百鬼夜行では無かった。

 木々には桜が芽吹き、彼岸花が辺りを覆う。

 青々と茂る芝生の上に、雪が薄く降り積もる。

 目の前には、神社の階段の上に座りキセルをすする、白い生徒が1人。

 この生徒も、この場所も、明らかに普通じゃない。

 

 「……エア、ここはどこだ?」

 「……エア、聞こえるか?エア!」

 

 「其方の相方ならおらぬぞ。来てもらいたかったのは、あくまで其方だけじゃからの。」

 

 エアとの交信が途絶えただけでなく、体がやけに軽い。

 背中に手を回すが何もなく、ベルトに繋げたグレネードも無い。

 ただ、右腰に屍山血河が残るのみ。

 どうやら、クズノハにしてやられたらしい。

 眉間にしわが寄り、犬の耳が後ろに倒れるのも隠さず、悠々と煙を吹かすクズノハを睨む。

 

 「幻覚、という訳でもなさそうだな。」

 

 「いかにも。ここが、黄昏。現と彼岸の狭間よ。」

 

 黄昏の名の通り、百鬼夜行は真昼間であったにもかかわらず、ここの空は夕暮れ色に染まっている。

 目の前のクズノハ、体躯は小さく、白狐の耳と尻尾を生やす、一見可愛らしい印象を受ける少女。

 だが、纏う雰囲気が明らかに老齢のそれ。

 屍山血河の鞘に右手を添え、クズノハから目を逸らさない。

 

 「……それで、わざわざこんな所に呼び出して、何のつもりだ。」

 

 「それよ。その刀、屍山血河。其方はヒトツメとナグサとの戦いで、見事に使いこなしておったのう。」

 「じゃが、キキョウからも言われたじゃろう。それは、まごうことなき呪物。それを握る者は、いずれ剣気に飲まれる。」

 「人を斬り、それを愉しむことしか出来ぬ、哀れな物ノ怪へとなり果てるのよ。」

 

 「俺がそうなる前に、これを渡せと?」

 

 「そうしても良いが、便りにも書いたじゃろう。其方と話がしたいのじゃ。」

 

 クズノハはキセルで俺と屍山血河を指しながら、そう告げる。

 既に俺が“物ノ怪”であるかのような言い草に腹が立つが、一先ずクズノハの話に付き合う。

 時折ひゅうと吹く風が、頬の傷跡にしみる。

 

 「……何が聞きたい。」

 

 「其方よ、命とはどうあるべきと思う?」

 

 飛び出してきたのは、哲学の教科書にでも乗っていそうな問い。

 いきなり何のつもりか、静かに笑うクズノハの目を見上げるも、冗談の色は1つもない。

 

 「……これは何のテストだ?」

 

 「寺子屋ではないのだから、思うままに答えればよい。言ったであろう、其方と話がしたいだけ、とな。」

 

 「話をするだけなら、こんな大掛かりな事をする必要も無いだろう。こいつを持ってこさせる必要もな。」

 

 「ふむ、実に聡い……。では、こう問おうか。」

 

 簡単な予測を突きつければ、クズノハの笑みは消え、おもむろに階段から立ち上がった。

 先程までとは打って変わって、キセルをパチパチと打ちながら、むき身の敵意で俺を睨みつけてくる。

 同時に、ジャケット越しに肌を刺す空気が更に冷たくなったのも、気のせいではないだろう。

 

 「己、命を奪う事に何も思わんのか?」

 

 「ああ、何も。友人を殺せば惜しい。憎い相手を殺せれば清々する。だが、よく知らん奴を殺した所で、何も思わない。」

 

 「己が殺した者が、誰かの友であり、家族であり、伴侶であった。そうは考えんのか?」

 

 「無い。一々そんな事を考えていては、この仕事は出来んのでな。」

 

 互いの瞳を睨み合い、眉間のしわは更に深くなる。

 凍えるような冷気と相反するように、右手から伝わる熱も強くなる。

 鞘の中で燃える刃が、早く抜けと吠えている。

 

 「ならば問おう。武具は、如何なる者が握るべきか。」

 

 「武器は道具に過ぎん。武器で人が死んだからと言って、武器をすべて捨てるべきという考えは、ナンセンスだ。」

 「人間は、例え素手でも互いを殺し合う。それが何も生み出さない、何も得られることは無いと分かっていてもな。」

 「それは、歴史が証明しているはずだ。」

 

 そう言い放った瞬間、クズノハは落胆を示すように、大きくため息をついた。

 悲しげな顔を伏せながら、キセルを指でくるりと回す。

 

 「……やはりか。まっこと、惜しいのう。」

 

 そして、キセルから叩き落した灰が、桜の花びらへと変わった。

 向かい風と桜吹雪で視界を奪われ、咄嗟に左手で顔を覆い隠す。

 少しして突風が止み、目を開ければ、そこには神社もクズノハも無い。

 代わりに、大振りな刀を咥え二又の尾をピンと立てる、大きな白狐がそこに居た。

 

 「やはり、己は修羅よ。修羅を屠るは、我が責なれば。」

 「怨むなよ、夜叉烏。」

 

 クズノハの声とその殺気は、確かにあの狐から響いている。

 熱を発する屍山血河を抜けば、何をせずとも赤黒い炎が燃え上がる。

 喰らえ。喰らえ。全てを喰らえ。

 あの老狐を。我が仇を。神なるものの遣いを喰らえ。

 言われなくても、そうするつもりだ。

 刃を構え、クズノハに1歩近づけば、白狐は弧を描くように歩き出した。

 互いの瞳を睨みながら、じりじりと輪が縮む。

 

 「……のう、烏よ。出来るなら、手向かわずに彼岸へ向かってくれると、有難い。」

 「――己が屠ってきた者達のようになァ!!!」

 

 刀を器用に咥え直した袈裟切り。

 咄嗟にそれを打ち払うが、質量の差で体全体が沈む。

 続けざまの2連撃で更に体が押し返され、クズノハの体ごと押し込むような突きが眼前に迫る。

 横にステップしてかわすも、すかさず振り上げられた大太刀が直撃。

 咄嗟に受けるがその威力はすさまじく、体ごと大きく弾き飛ばされた。

 どちらも空中で身を翻して大きく後退。

 これは、手加減をしていい相手ではなさそうだ。

 

 相手の出方など窺わず、クズノハに向かって走り出す。

 血迷ったかと言いたげにクズノハは悠々と構えるが、俺が放った一太刀を防いだ時、その眼は大きく見開かれた。

 巴流奥義、渦雲渡り。

 炎の刃が描いた閃光は、その初撃だからだ。

 必死に受け流すクズノハを押し込むように、1歩、また1歩と踏み込みながら、目にも留まらぬ連撃を叩き込む。

 守りの姿勢に入ったクズノハ目掛け、両手で刃を掲げて〆の上段。

 ごうごうと燃え滾る怨嗟を、大地を踏み抜きながら一心に振り下ろす。

 クズノハは確かにそれを防いだ刹那、刃と地走り両方の炎が吹き上がり、真っ白な毛を黒く染め上げた。

 

 クズノハが炎から逃れようと後ろに飛んだ瞬間、両足で地面を蹴飛ばし、ぐるりと体を回して空中から斬りかかる。

 葦名忍び流、寄鷹斬り。

 炎が形作る大振りの刃が、クズノハの鼻先に迫る。

 だが、刃はクズノハに届かず、むしろ突風によって俺が大きく吹き飛ばされた。

 手足を振って姿勢を整え、刀を地面に突き刺して踏みとどまる。

 刀を離さずとも、息を荒くするクズノハ。

 鞘に収め、また駆け寄ってくる俺を見て、クズノハは大きく飛び上がった。

 風を纏ってふわりと浮き上がり、吹き降ろす突風がクズノハを地面へ突き落す。

 咄嗟に刀を抜き、天から落ちる兜割を、ほんのわずかに横へと受け流す。

 刃が打ち合った瞬間、火花が激しく飛び散り、俺の体を押しのける。

 だが、クズノハ渾身の兜割も、あらぬ場所を斬っていた。

 舞い上がった花びら越しに映る、大きく見開かれた目に、引きつった頬。

 狐の形をしていても、感情は存外見えるものだ。

 

 「こンのッ、化け烏がァ……!」

 「……己に見せたくは無かったが、そうも言っていられんかッ!!!」

 

 宙返りで大きく跳び下がったクズノハは、咥えた刀を高く掲げる。

 すると、クズノハの周りにあった花びらが浮き上がり、渦を巻きながら刀へと集まっていく。

 あれを続けさせるのはマズい。左手の刀と自前の本能、両方が警鐘を鳴らす。

 姿勢を落として全力疾走。

 だが、10歩進んだ所で刀は振り下ろされ、裂ける大地がこちらに迫る。

 体をねじりながら横に跳び、髪を少々と引き換えに、見えない何かを紙一重でかわした。

 足を止めてクズノハを見れば、奴は忌々しそうにこちらを睨む。

 飛ぶ斬撃とは、猪口才な。

 

 再び大地を蹴り飛ばし、全速力でクズノハに詰め寄る。

 クズノハは竜のように浮き上がり、刀を優雅に振るって斬撃を放つ。

 それを右へ左へとかわしながら、彼我の距離を近づけていく。

 その最中、コーラルは無意識に左手を這い、刀身に赤い雷光を纏わせる。

 全てを焼き尽くす、神殺しの雷光を。

 喰らえ。喰らえ。我が仇を。

 そしていつか、我らは神をも喰らおうぞ。

 黙っていろ。黙って、力を寄越せ。

 

 終わらない連撃もついにバテたか、クズノハが大地にふわりと降りてきた。

 歓喜する屍山血河を握りしめ、地面すれすれまで沈みこみ、更に加速。

 クズノハは頬を引きつらせ、大きく叫びながら足元を薙ぎ払う。

 だが、遅い。

 刃を飛び越えクズノハの鼻先を足蹴に、より高く飛び上がる。

 その鼻を斬り落とそうと構えた瞬間、つむじ風が俺の体を持ち上げた。

 さっき飛び越えた下段が、俺を持ち上げる風を作ったのだ。

 クズノハは1周するように地面を薙ぎ、また俺を天へと持ち上げる。

 そして俺を見据えたまま、高く掲げた刃に風を集める。

 良いだろう。尋常に勝負。

 

 空中で刀を鞘へ戻し、クズノハを殺すという意志を、自身に宿るコーラルを、全て刃に集める。

 意志は炎へと変わり、ごうごうと歓喜の唸り声を上げる。

 コーラルは雷光へと変わり、バチバチと嘶き空を裂く。

 鍔と鞘の隙間から炎が溢れ、赤黒い星々が強い光を放つ。

 そして、クズノハと俺は同時に刀を振るい、風と炎がぶつかり合った。

 風は炎をかき消さんとうねり、炎は風をも焼かんと吠える。

 だが、どちらが勝ることは無く、炎と風は同時に掻き消えた。

 クズノハはすかさず2撃目を放とうと構えるが、何か忘れていないだろうか。

 葦名の居合は、十文字。

 雷光が嘶く刃を掲げ、ガラ空きの胴目掛けて、渾身の力で振り下ろす。

 刃となったコーラルはクズノハ目掛けて飛んでいき、無防備な腹を切り裂いた。

 さして深手にならなかったようだが、それで十分。

 同じ大地で睨み合えば、怯えが混じりだしたクズノハの目に、炎と雷両方を怒らせる俺が映った。

 

 息を荒げ、ヨタヨタと姿勢を崩すも、なお刃を振るわんと声を上げるクズノハ。

 大振りな袈裟切り2連を横へとかわし、隙だらけの横一閃は打ち上げる。

 風を纏った渾身の兜割も、半歩ずれればかわせてしまう。

 何かに気づいたクズノハが後ずさりするも、刀を固く咥えて踏みとどまり、俺に切っ先を放った。

 よりにもよって、悪手を選ぶか。

 迫る切っ先に1歩踏み込み、腹を踏みつけ地に落とす。

 そこから大きく飛びかかり、炎と雷が混じり合った刃で2度斬りつける。

 守ることも出来ず、一気に2つの深手を負ったクズノハは、声も上げずに地に伏せた。

 その後ろで刃を水平に掲げ、炎と雷をうねりと共に纏わせる。

 ごうごうと唸り、バチバチと嘶く刃が、クズノハの目に入った瞬間、無防備な背中目掛けて踏み込んだ。

 刹那、全ての理を置き去りにしたと錯覚した。

 この突きは、使った俺をそう思わせるまでに速く、深い。

 クズノハは守りの構えを取るも、突き出した刃が刀身を穿ち、炎と雷のうねりがクズノハを押しのける。

 我が闘争、その奥義を見たり。

 名付けて、緋車突き。

 

 緋車突きにより巨体を吹き飛ばされたクズノハが、桜吹雪の奥へと消える。

 桜吹雪を断ち切れば、そこには小娘の姿のクズノハが、腹を押さえて転がっていた。

 既に刀と闘志は折れている。焦ることも無い。

 血の滴の代わりに桜の花びらを落とすクズノハ。

 俺が自分に近づいてくる事に気づくと、クズノハは腹を押さえていた左手を俺に突き出した。

 

 「まっ、待ってくりゃ――!」

 

 水平に掲げ、炎と雷と共に、口の中へ切っ先をねじ込む。

 更に根元まで押し込み、頭を掴んで捻りつつ、引き抜く。

 喉奥から血が勢い良く吹き出し、その滴全てが桜へと変わる。

 そうして地面に倒れたクズノハは、末端から桜へと変わり、消えていった。

 肘で刀身を挟み、血と共に炎を拭っていると、どこからともなくクズノハの声が響く。

 

 「己の事は覚えたぞ、夜叉烏。妾の目は百鬼夜行中にある。袖の振り方には気を付ける事だ。」

 

 「わざわざ忠告どうも……。」

 

 屍山血河を鞘へと戻せば、その音はどこか満足げ。

 目線を上げると、沈まぬはずの夕暮れが、沈もうとしていた。

 夜が来る。青く凍てつく夜が。

 そんな言葉が脳裏によぎり、だが大して気に留めず、俺は静かに目を閉じた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 目を開けると、真昼間の百鬼夜行に戻っていた。

 心配するエアに聞いてみると、目を閉じてから10秒ほどしか経っていないのだとか。

 装備も、力も、相方も戻ってきた。刀を返したら、もうここに用はない。

 そう思い体を翻すと、背中にごとりと音がぶつかる。

 稲荷の首が、落ちたのだ。

 首を稲荷の足元に戻し、ついでに何故か居た陰陽部に屍山血河を押し付け、百鬼夜行を後にする。

 そうして大通りに戻った時、エアから何か忘れていないかと一言。

 逃げられるかと思ったが、そう甘くは無いらしい。

 体を反対方向に向けて、百鬼夜行の伝統博物館に足を進めることにした。




これにて、百花繚乱2章もおしまいです。
次は多分オラトリオ編になると思います。
ネクソンとヨースターはデカグラ編の完結はよ。

その前に外伝を書ききらなきゃ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

Blue Archive ─To raven.Welcome to the kivotos.─(作者:タロ芋)(原作:ブルーアーカイブ)

渡り鴉よ。透き通った世界にようこそ▼殆どお話を投稿した告知に使うくらいしか使っていませんが一応のTwitter垢です。▼https://x.com/t1w1jAL869JZ3Sz?t=t4q9NaJ6v8P8AevEdopumA&s=09▼活動報告などで出して欲しい、絡みの欲しいキャラや展開などの要望など適当に投げてもらえれば幸いです▼https:/…


総合評価:6288/評価:8.31/連載:66話/更新日時:2025年05月11日(日) 23:57 小説情報

猟犬烏の青春(作者:面無し)(原作:ブルーアーカイブ)

基本は「レイヴンの火」ルートの621が、ブルーアーカイブにくる話です。▼n版煎じですがよろしくお願いします。▼ストーリーも履修中だからキャラのエミュとか物語の流れとか……不備があってすまない、すまない……▼621転生で下記要素が見たくて書きました。▼・本体はあくまで包帯ラップ巻き621にしたい。▼・『メインシステム 戦闘モード起動』がやりたい。▼・特定条件下…


総合評価:1631/評価:8.34/連載:67話/更新日時:2025年04月30日(水) 01:47 小説情報

ミシガン英雄伝記補遺:透き通る世界を地獄が歩く(作者:柴猫)(原作:ブルーアーカイブ)

 『木星戦争の英雄ミシガンは、ルビコンで転んで死んだ』彼の生きざまを描いた伝記の最後は全て、そう締めくくられている。▼ これは死したはずの英雄が正史から外れた、透き通るような青春に先生として左遷させられた後を描く、いわば補遺である。▼ 願わくば、この物語があの子たちの青春を思い出させる一助とならんことを。▼※AC6とブルアカのクロスオーバーものです。「ミシガ…


総合評価:5117/評価:8.92/連載:21話/更新日時:2025年09月17日(水) 00:00 小説情報

ハンドラー・ウォルター先生概念。(作者:ヤマ)(原作:ブルーアーカイブ)

 Q.どうしてソシャゲの主人公はサポートしかしてないのにモテるの?▼ A.ハンドラー・ウォルター。▼ アーマードコア6のネタバレを含みます。▼ ストーリーを知らない方は買ってきてプレイしよう!▼ n番煎じかつ既出概念ですが、ウォルターの猟犬になった(脳を焼かれた)記念+どうしてもウォルターの心情を自分で書きたかったので書きました。みんなの解釈と違ったらごめん…


総合評価:26551/評価:9.29/連載:68話/更新日時:2025年09月09日(火) 01:15 小説情報

キヴォトスに狩人様がやってきた(作者:小説を書く左廻りの変態)(原作:ブルーアーカイブ)

▼月の魔物を殺した…しかしそれは奴の思う壺だった。▼血の遺志をあえて継がせ、次世代に繋げることで生きながらえる。身体は変異をはじめ、立っていることもままならない。所詮私は奴の手のひらの上で踊らされていたに過ぎなかったのだ。青ざめた血も何もかも……▼目が醒めると私の体はもはや人のものではなく、まるでイカの様な姿になってしまっていた。私はこのまま生きれば第二の月…


総合評価:1821/評価:7.33/連載:41話/更新日時:2025年09月20日(土) 00:13 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>