TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない! 作:サーナイト過激派
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目を覚ませば、腕の中で温もりと鼓動を感じた。
「らぁ……」
それは、すぅすぅと安らかな寝息を立てている。
ちらりと見た外は既に明るく、耳を澄ませばそこそこ騒がしい人の声がした。
朝方に眠ったんだし、今はお昼くらいかな……そう思えば僅かにくぅとお腹が鳴った。
「おはよぅ……」
しわしわの震えた声で名前を呼んで、その温もりを感じようと抱える腕を少し強めた。
小さくて、細い、そんな体だけど、その身に秘めた力は絶大。
私より大きなガブリアスだって殴り飛ばしちゃうんだから、本当に凄い。
触るとどこもかしこもぷにぷにしてるのに、どこにそんな力があるんだろう……。
こんなに華奢で可愛いのに……戦う背中は格好良くて……。
「……ズルいよね」
ラルトスの頭に顔を埋めて、と大きく息を吸う。
この子特有の甘い体臭と……僅かに鉄の匂いがして顔をしかめた。
……返り血か、ケガか、もしくは私自身から匂うか……取り敢えず起きたら水浴びでもしようかな。
「……でも今は」
もう少しだけ、このまま温もりを感じていたい。
ラルトスを抱き締めたまま、もう一度瞼を閉じた。
「ラルラルッ! ラルァッ!」
所変わって、黒曜の原野……この辺りでは比較的危険度の低い見晴らしの良い野原に、調査という名目で足を運んでいた。
この辺りはそこまで過酷な環境ではない事もあって、ポケモンの強さもそこそこ……調査隊として生きる為に、ここの原っぱにはかなりお世話になった。
捕獲用のボールや、キズぐすりの材料集めに原っぱ中を駆けずり回ったもんね……。
ただ、調査自体は終わっている土地でもある。
暴れていたバサギリは鎮めたし、図鑑も埋めて……本来なら用事はないのだけど……。
「ルァアアッ!」
今回は、ラルトスの希望でここにやってきていた。
視線の先では、ラルトスが手持ちの皆へと怒声をあげている。
ラルトスの伝えたい事はニュアンスくらいしか伝わらないけど、なんとなく、こう言っているように思えた。
『鍛え直しよ!』
って。
「……オヤブンガブリアスの群れなんで、ラルトス以外にどうにか出来るポケモンなんていないよ」
そう呟いたけど、ラルトスはただ首を横に振るだけ。
真剣な表情で手持ちの皆へと激励を飛ばし続けている。
今は走り込みをさせているらしいけど……ガチグマがすっごく苦しそう……そのくらい当然?
私の手持ちの中で一番打たれ強い筈なのに、最初に倒れたから?
でも、あれは私を庇ってくれたから……。
「ラル……」
あ、ちょっと考えてくれてる。
「ラルッ!」
あ、それはそれなんだ。
うわ、倒れたこんだガチグマの巨体がラルトスの蹴りで浮かび上がった……。
それを見てた皆が、血相変えて走り出して……。
私はその場に座り込みながら、膝を抱えてその様子を眺めていた。
「ふふ……」
ダメだなぁ、みんな苦しんでるのに、大変そうなのに。
本当なら私がトレーナーとして皆を鍛えなきゃいけないのに……。
私を守ろうとしてくれるラルトスの行動の全てが嬉しくて……愛しくて、つい笑っちゃう。
それに皆も本気で嫌がってる訳じゃないのが嬉しい。
皆、私を守ろうと、もっと強くなろうと頑張ってくれてる。
……本当に、嬉しい。
「精がでるね」
「ゴン」
皆を見守っていた私に話し掛けてきたのは、コンゴウ団のヨネさんだった。
足元には、相棒のゴンベがいつも通り大きな口を開けて佇んでいる。
「ヨネさん。エヘヘ……ラルトスが張り切っちゃって」
「わかるよ、あの子はずっとショウの事守ろうとしてたからね。なんでも今回かなり危なかったんだって? そりゃあ、ああも必死になるよね」
「トレーナー冥利に尽きます……もっと私も頑張らないと」
「ショウはよくやってると思うけどね……ま、無理しない程度にね。ショウが怪我したら、みんな悲しむよ」
「ラルァッ!」
ヨネさんと話してる間に、ラルトスの訓練は新しい段階に移ったらしい。
ラルトスの手の間から放たれる光線――多分サイケ光線――が走る皆に襲いかかり始めた。
地面を豪快に抉る、尋常ではない威力の込められた光線に、皆顔色を悪くしながら、対処していく。
蹴り飛ばしたり、電撃で相殺したり、ひらりひらりと避けたり……あっ、ガチグマにクリーンヒット……あ、ビルドアップで耐え……られなかったかぁ。
崩れ落ちるガチグマから視線を外して、ヨネさんを横目で見上げてから――。
「みんなって……誰なんでしょうね……」
――俯いて、吐き捨てるように、小さく、呟いた。
「……ん? 何か言ったかい?」
「あっ……ううんっ、なんでもないです!」
私は、誤魔化すように慌てて立ち上がった。
「私も、見てるだけじゃなくて、ラルトスの特訓、手伝いに行ってきます!」
それが必要かは、わからないけど。
なんだかちょっと気まずくて、私はその場を後にした。
……いや、わかってる。
コトブキ村の皆も、コンゴウ団とシンジュ団の皆も。
テル先輩も、ラベン博士もシマボシ隊長も……皆私の事を心配してくれてる。
今回、かなり危なかったという話をすれば、皆悲しそうに顔を歪めて、労ってくれた。
無事で良かったと涙ぐんでくれた。
心配したと言われれば、胸が温かくなった。
感じる優しさに、胸がいっぱいだった。
――でも、『やめて良い』とは誰も言ってくれなかった。
誰も、私を守ると言ってくれなかった。
こんなにいつも、皆の為に頑張ってるのに、それでも……誰も。
いつも辛くて、大変で、死ぬような思いをして突き進んできたのに……誰も……。
どんなに危ない時でも、危ない目にあっても、皆は……私を助けてはくれるけど、守ってはくれないんだ。
それが、その事実が……ここでは私はひとりぼっちなんだって、よそものなんだって、改めて突き付けられているみたいで……苦しかった。
本当に、このまま続けていいのかな?
暴走するキング達を鎮めたら、この異常事態を収めたら、元の時代に帰れるのかな?
……もし帰れなかった時、私は、ここで……
皆は……私を……受け入れて――
「ラル」
「――ラルトス……」
――気付けば、目と鼻の先に、ラルトスの顔があった。
いつの間にかしゃがみこんでいたみたいで、ラルトスの両手が、頬に添えられていた。
こつん
ラルトスの、
私のラルトスは、こうしないと人の感情を読み取れない……。
しかも、他のラルトスに比べてひどく読み取り辛いらしい。
でも、私が悲しんでいるのはわかったのか、ラルトスは私の頬を優しく撫でながら、
「ラルッ! ルララッ!」
『安心して。必ず守るから』
……空耳かもしれない、勘違いかもしれない。
でも、私は確かに、ラルトスがそう言っているような気がした。
頬に触れる小さな温もりと、細められた瞳から確かに感じる、私への親愛に……とても、胸が温かくなった。
「……うん……ありがとう、ラルトス」
きっと、どうなっても、ラルトスは私の味方だ。
ずっと……ずっと守ってくれる……私を、ずっと……。
それだけは、例えどんな事があっても、疑わない。
それだけは、変わらないんだと、心の底から信じる事が出来る。
「ラッ! ラルラル!」
「ふふふ……うん、私、もうちょっと頑張ってみるよ」
私を励ますような、元気の良い声に微笑んで、その小さな体を抱き上げた。
その温もりを確かめるように、ぎゅうと抱き締めて、私は笑う。
キョトンとした顔で、腕の中で私を見上げる姿は可愛らしい。
可愛くて、格好良くて、頼りがいがあって、私を守ってくれて、ずっと一緒にいてくれる……。
「ラルトスは、私の最高の相棒だね」
そう言って笑えば、ラルトスも笑みを返してくれる。
ただそれだけのやり取りが、私の心を埋めてくれる気がした。
良く晴れた、とある日の事だった。
「ラルッ!」
「もうちょっとしたら、ご飯にしよっか」
「ラルラルル!」
――ラルトスにも、私が最高の相棒だって思って貰えてたら、嬉しいな――