TS転生ラルトス♀はサーナイトになりたくない!   作:サーナイト過激派

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乗るしかない、このビッグウェーブに!


君と一緒なら大丈夫だよ

 あっっっっっっっっっっぶな!

 

「ラルァッ!」

 

 内心の焦燥を誤魔化すように、冷気を纏った右のストレートで、ガブリアスの頬を打ち抜いた。

 ったく、俺の不在を狙うたぁ、ふてぇ奴等だ!

 危なくうちのトレーナーがキズモノにされるところだったじゃねぇか!

 

ゲシッ

 

 苛立ち混じりに足元に転がったガブリアスの頭を蹴りつけた。

 

 守れず倒れた仲間の不甲斐なさに思うとこもあるが……まぁこんな相手じゃあ仕方ない。

 あの一時期は主人公とすら呼ばれた、最優の600族ガブリアスのオヤブン個体の群れ……あまりにもイレギュラー過ぎる。

 あいつらだけじゃ、流石に荷が重かったみたいだ。

 

「ラッ!」

 

 それはそれとしてあいつらは鍛え直しだな!

 後でみっちり、がっつり、ねっとりと!

 チラリとトレーナーの腰についたボールに目を向ければ、なんとなくカタ、と震えた気がした。

 

 そこで視界の端、視線と意識を反らした俺の様子を隙と見たか、ガブリアスの一体が大きく口を広げて飛び込んできた。

 まあ、悪くない。

 俺だけなら、少し判断が遅れたかもしれないが……。

 

「ラルトス、右! 早業、ねんりき!」

 

 生憎、俺にはトレーナーが、相棒がいるんでね!

 オーライ!

 おらっ、くらえ、ねんりきっ!

 そんでそのまま……トレーナーの方向に跳んでぇ!

 

 此方を真っ直ぐ見つめるトレーナーの瞳に、疑問は何一つ浮かんでいない。

 俺を疑う気は一切感じられず、ただただ感じる信頼が心地好い。

 

 ……なら、その期待に応えてやらなきゃ、男が廃る!

 

「れいとうパンチ!」

 

「ラルァッ!」

 

 冷気を纏った拳で、うちのトレーナー、()()()ちゃんの背後に迫っていたガブリアスをぶん殴った。

 うちのショウちゃんを直接狙うたぁ、狡い野郎だ。

 

「ラルッ! ラルラルラッ!」

 

 だが、今ここに俺がいる限り、俺の目が黒いうちは――赤いけど――ショウちゃんには手ぇ、出させねえからな!

 

 そうして俺は、此方を見て既に腰が引けているガブリアスの群れへと、再度突撃するのだった。

 

「力業で、チャームボイス!」

 

「ラァッ!?」

 

 それあんまり使いたくないんだけど!?

 思わず振り返るも、ショウちゃんは何も思ってないきょとんとした様子で俺を見つめていて。

 しかもガブリアス達はやぶれかぶれになったのか一度に突撃してくるし……くそ、確かにこれが最適解かよ……!

 仕方ない……大きく息を吸い込んで……。

 

「ラァアアアアアアア♪」

 

 何処か媚びたような、可愛らしい甲高い声が響いて、ガブリアス達を打ちのめした。

 ……俺の、尊厳を犠牲にして。

 

 くそ、ただでさえラルトスとかいう可愛らしいポケモンに()()しちまったのだから、こういう可愛い技はあんまり使いたくねぇんだけどな……くそ。

 やんわりと、それは伝えてあった筈だが……ただそんな拘りでショウちゃんに危機に晒すのも業腹だし……仕方ねえか。

 

「やった……やった! やった! やったねラルトス!」

 

 それに……ショウちゃんの俺に向ける満面の笑みはプライスレスだ。

 これだけで多少残っている疲労も溶けて消えていくみたいだ。

 

「ラッ!」

 

 俺は、そんなショウちゃんへとニヒルな笑みを浮かべ、親指を立てるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スー……スー……」

 

 俺はショウちゃんに抱き抱えられながら、布団に横になっていた。

 場所はコトブキ村、オヤブンガブリアスの群れを一掃した後、このまま夜営は無理だと必死に雪原を走り回って、どうにか帰還したのだった。

 その時にはもう明け方で……外套だけ脱ぎ捨てたショウちゃんは力尽きたように眠りについてしまった。

 

 安らかに寝息をたてるショウちゃんだけど、その顔には疲労が色濃く出ていて、否応なしに自分の不甲斐なさを突き付けられる気分になる。

 今回は間に合った、けどもし似たような事が起きれば……。

 

「ルッ……」

 

 ……ショウちゃんは、本来しなくても良い苦労をいっぱいしてる。

 家も家族も何でもある時代から、何もないヒスイの時代に身一つで放り出されて……排他的な村で生きる為に、必死に人の為に駆けずり回って……。

 ポケモンだって、大自然の中で生き抜く逞しい個体ばかりだから、ショウちゃんの身が何度脅かされたか。

 

「ルゥ……」

 

 まだ、こんなに幼い女の子がして良い苦労じゃない。

 その頬に手を当てれば、ハリがあって柔らかく、温かい。

 ……けれど、ヒスイに飛ばされる前に比べれば、幾分かカサついているように思えた。

 

「んん……ラル、トス……」

 

 手の感触を嫌がったのか、ショウちゃんは軽く頭を振ると、俺のほうに刷り寄せてきた。

 ぎゅうと、俺を甘えるように抱き締めるショウちゃんは、俺の小さな胸元に顔を埋める。

 すぅすぅと寝息をたてる姿に、俺は苦笑してしまう。

 こんな小さな、柔らかくもない傷だらけの体に埋めて安心出来るなら……いくらでも受け入れるよ。

 

「ラルラル」

 

 その頭を優しく撫でて……少しだけごわついている髪を軽く鋤いて……俺はただ彼女の心に安寧をと願った。

 今はただゆっくり眠ってくれ。

 起きたらまた頑張らなきゃいけないけど……大丈夫。

 

「ラルゥ……」

 

 何があっても絶対に、俺が守るから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンに転生して何年経ったか。

 ショウちゃんに()()()()()、彼女の手持ちになって、いずれはポケモンの世界らしく旅にでも出るのかなぁなんて呑気に構えていたら……ヒスイなんていう過去の時代に飛ばされて。

 ……正直ヒスイの事はよくわかってない。

 あのゲームは本編じゃなかったから、プレイしてないし詳しくは知らないんだ。

 けど、この時代に生きるポケモンの力強さや凶暴さはこの身で痛い程に味わった。

 そんな修羅の時代に飛ばされて生きなければいけない彼女の気苦労は、察するにあまりある。

 だからこそ、俺は全力で彼女を守り続けるんだ。

 

 ……ただ、それはそれとして……。

 

 なんでラルトスなんだ!

 しかもなんで♀個体なんだよ!

 せめてラルトス♂であれよ!

 エルレイドっていう希望すら断たれたと気付いた時は、ショウちゃんの手持ちになってポケセンで検査を受けた時に「♀ですね」って宣告された時は、世の全てを呪う勢いだったよ!

 

 ラルトスは兎も角、キルリアやサーナイトは駄目だろと、元男としての矜持が叫んでる。

 あんな姿に、彼氏が手持ちにしていたら嫌なポケモンNO1のサーナイトの姿になるくらいなら、ラルトスのままの方が何百倍もマシだ!

 なんだよあのヒラヒラ、媚びやがって……!

 ゲームを楽しんでいた時は純粋に可愛いーとか思ってたけど、自分がその姿になるのは話が違う。

 TS転生なんて最早珍しくないかもしれんが、それを受け入れるかどうかもまた違う話だからな!

 

 だから俺は決めている。

 ラルトスのまま、最強になる!

 そんで、ショウちゃんを最強のトレーナーに……するつもりだったけど今はちょっと変わって、元の時代に戻す!

 そして……いずれ出会う事になるだろう、全ての元凶をしばきたおしてやる!

 

 それまで、俺はこの少女を、全力で守り続ける。

 もう、絶対に危機には晒させない。

 あらゆる危険から守りとおす。

 

 俺の、この身に代えても。

 

 改めて、そう胸に刻み込んだ。




元男のラルトスくんちゃんはポケモンにわか
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