「政治熱」顧みて(下)若者がデモに参加した2015年
【和歌山】総選挙が予定されている政治の年のはじまりに、「政治熱」を振り返る連載。今回は、2015年におきた政治への関心の高まりについて、その中にいた人に話を聞いた。
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和歌山大在学の2015年9月、「SEALDs KANSAI」に参加した。
当時は大学3回生。ゼミが始まり、戦時の障害者の待遇などについて学んでいました。そこに安全保障関連法の話が出てきて、1人でデモに行くようになりました。7月の衆院での強行採決に問題意識を持ち、「ここで何もしなくていいのか」と思いました。主に大阪や和歌山でのデモに参加し、時には東京にも行きました。9月に法案が成立した後、他大学の人から声をかけられ、「SEALDs KANSAI」に加わりました。
デモに参加して感じたのは若者の少なさ。「若者がデモに参加した15年」という切り取り方をされることもありますが、実際は大半が年配の方でした。学生は時間的にも金銭的にも余裕がないのは大きいと思います。
SEALDs解散後、学内で研究会を立ち上げた。
「元SEALDs KANSAI」ということにあまりこだわりたくありません。そこで出会って刺激を受けた人は多いし、そのつながりは今でも大切にしています。でも、「SEALDs」は「緊急行動」なので、居場所になってはいけないと感じます。
SEALDsは、あのときだからこそ必要だった「祭り」のようなもの。解散後は、自分たちの生活圏で運動を切りひらいていくことが求められると考えるようになり、17年春に学内で「社会科学研究会」を立ち上げました。安保法案以外の、たとえば地元の課題なども扱う必要があると感じていたからです。立ち上げ当時は10人くらいで学習会やシンポジウムを開いていました。今もまだ後輩が続けていて、人数も20人くらいに増えました。研究会での活動の方が、自分たちの生活圏の中でやっている分、時間を重ねて一緒に勉強でき、充実していたと感じます。
大学卒業後は教育の世界へ。
今は、埼玉県の学校で国語科の教諭をしています。安保法案の一件を通して、とことん本を読むくせがつきました。安保法案の問題では、自衛権だけではなく、憲法や教育にもつながります。教育のあり方や理念などを土台に据え、考えながら学校という場で働くのは楽しいです。
若者が社会問題への関心を失ったのではなく、社会問題へ関心を持てないような社会に変わった。
若者の社会問題や政治への関心が高まらないのは、学生の主体性の問題ではなく、社会状況の問題だと思います。政治の話をしても「どうせ変わらないし」とネガティブな方向になってしまう。政治を「汚い」ものだと捉えている若者が多いように感じます。しかも、ややこしい。政治離れと言いますが、日本社会では政治が近づきがたいものになっているということだと思います。投票率も決して高いとは言えませんよね。
「余裕がない」のも一因。単位を取らないといけないのはもちろん、アルバイトも忙しい。時間がなさ過ぎるのは問題です。和歌山大では昨年、コロナ禍を受け、学費軽減の署名運動が起こりました。運動を担った学生には、当事者じゃない人も多かったと聞きました。本当にお金に困っている人たちは、運動に参加する余裕がない。「余裕ある自分たちが声をあげないと」という心持ちだったといいます。
政治や社会問題などに関心を抱くには、余裕が必要だと考える。
コロナ禍が提起したものは大きいと思っています。一番印象的だったのは、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグがツイッターでトレンド入りしたこと。かなりの人々が関心を示したのは、おそらく外出自粛で家にいて、しっかりニュースを追いかけることができたから。「かつての日常」とは忙しすぎる日常。政治や社会問題に関心を持つには、時間を確保しないといけない。もっと余裕がある社会を作っていかないといけないのではないでしょうか。
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安全保障関連法と、「SEALDs」らによるデモ 2015年、当時の安倍政権が集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法の成立を目指すと、これに反対するデモが全国で起きた。中でも、大学生らでつくる「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)」の活動は注目を集めた。
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はっとり・りょうへい 1993年、福井県小浜市生まれ。和歌山大学在学中に、「SEALDs KANSAI」に参加。その後、学内で社会科学研究会を立ち上げた。2020年、同大院を修了し、現在は埼玉県内の学校で国語教諭として働く。
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