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超自由、でも気を抜けば即クビ…。Netflixという戦場で学んだ生存戦略

こんにちは。東京でLampTokyoというブランディング・マーケティング・クリエイティブ会社を経営している的場タカキといいます。

僕は2004年にソニーに新卒入社して12年間マーケターとして勤めた後、日本に上陸して間もない頃のNetflixの日本法人(Netflix Japan)に転職しました。

今でこそ多くの人が知るNetflixですが、自分が入社した2017年初頭はまだまだ日本での知名度が低く、ビジネスとして苦戦している状況でした。

そんな状況下で、ソニーという日本企業から、当時まだ20名前後のスモールチームだったNetflixという米国企業に転職したわけですが、長く日本企業にいた身からは想像もできなかった新鮮で刺激的なカルチャーギャップを体験しました。

思い返すと戦場に飛び込んだような転職体験だったわけですが、今回の記事では、その時の体験を振り返ってみたいと思います。

最後まで読んでもらえたらうれしいです。

なぜ、Netflixに転職することになったのか?

まずはNetflixに転職した経緯のところからお話できればと思います。

当時(2016年頃)の自分は新卒でソニーに入社して13年目を迎えており、「ビジネスVAIO」の立ち上げや、インド駐在など、マーケターとして本当にたくさんの経験をさせてもらっていました(もしご興味あれば過去のnoteも読んでみてください)。

中でもソニーでのキャリア終盤に任せられていたPlayStation4のマーケティングはマーケターとしても大きな成長の手応えを感じていた仕事でした。

仕事自体は順調だったわけですが、個人的には少し物足りなさを感じていた時期というか「マーケターとしてもっと尖った施策をやりたい」「自分自身のマーケターとしての腕をもっと磨きたい」と当時の自分は漠然と考えていたんです。

そんな時に当時の上司だったソニー・インタラクティブエンタテインメントのマーケティング部長Yさんから、会食に誘われたんです。

指定された焼肉屋さんに行ってみたら、Y部長の他、ソニー・ピクチャーズ役員のSさん、Netflix Japan副社長のHさんという何だか凄いメンツで。

「ここになぜ僕?」とちょっと緊張したのを覚えています。

当時のNetflixは日本に上陸して間もない頃で「黒船襲来」なんて見出しで、経済誌でも話題になっていました。

僕はPlayStationの仕事の中で、Netflix Japanの社員さんとやりとりする機会がありましたし、自分自身も早くからNetflixの会員になって映画やドラマを見ていましたが、日本ではまだまだ知名度が低かった状況で。

だけど、個人的に「Netflixは日本の映像業界にとって“救世主”になるかもしれない…」という可能性を感じていたんです。

「黒船」ではなく「救世主」だと感じた理由

「救世主になる」とはどういうことか?

たとえば地上波テレビのドラマの場合、1話大体50分、放送回数は1クール12話程度…という具合に枠(フォーマット)がカッチリ決まっていますよね。

だけど本来はストーリーによって1話ごとの尺を変えてもいいし、12話で完結するのが難しい場合はもっと長い話数でもいいし、逆に短くてもいい。

また、世間のコンプライアンス的な目も年々厳しくなっていて、地上波だといろいろ制約も多くなっている。

要するに制作側の意向とは別の理由で、尺や放送枠、大人の事情といった都合でコンテンツとしての可能性が狭まっているような窮屈さを感じていたんですね。

その点、Netflixはそのような制約がなく、CMによってストーリーが分断されることもないし、制作陣の意向で自由に映画・ドラマを作っているような感じがした。制作費も桁違いだし、単純に映像クオリティとしてのスゴさも感じていました。

実際に当時からNetflixオリジナルの映画やドラマは面白かったですし、「次のエピソードを押す指が止められない…」と寝不足の日がよくありましたから。

そういうことも含めて、美味しい焼肉とお酒で勢いづいた僕は「欧米を席巻しているNetflixが日本で成功しなかったら、日本のエンタメ業界は終わると思います!」と、すごい目上の方々の前で熱くぶちまけてしまったんですね。

するとNetflix副社長のHさんが「そんなに熱い想いを持ってるなら、的場くん、Netflixに来ちゃえばいいじゃん」と。

「日本でビジネス開始したものの結構苦戦しているから、マーケターとしてチャレンジしてみない?」と声をかけてくれたんですね。

その時は正直、その場の悪ノリだと思っていました(当時の上司であるY部長もその場にいましたし)。

でも、翌日Hさんから「すぐ履歴書、送ってね」とメールが来て。「本気だったのか!?」と思って、とりあえず履歴書を送ってみると即レスで「では面接に来てください」と。

その猛スピード感にやや困惑しつつも、マーケターとして「新しい風」を求めていた僕は、面接を受けてみることにしたんです。

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あの焼肉屋で僕の運命が変わることになるとは

面接官はなんと10人!

面接に行くと、最初に副社長のHさんが出てきて僕のキャリアをあらためていろいろと深堀りされました。その後に、マーケティングチームのディレクターと面談して、その次に人事担当者と話して、初日は計3人からの面接を受けました。

数日後、もう一度呼ばれてオフィスに行くと、今度は会議室のモニターがロサンゼルスとオンラインでつながっていて、アメリカ本社の人たち計4人と面接。

さらに数日後、また足を運んで追加で3人と面接をして、合計10人と面接をしたんです。

とにかく、それくらいNetflixは採用面接に力を入れていて、10人全員が採用候補者に対してそれぞれ評価を行うのです。

そのうち1人からでも「ちょっとこの人はどうだろう…」という評価を受けると、入社は難しい。それくらいシビアな目で審査されるわけですね。

10人から面接を受けるなんて初めての経験だったので、結構な疲労でしたが、後日、無事に正式採用の連絡がありました。

だけど、正直少し悩んだのも事実です。新卒から12年間も勤めたソニーグループにかなりの愛着もありましたから。

ただ、これまでの仕事経験の中で、マーケターの腕が真に試されるのは、うまく行っている時よりも、苦境に立たされている時だという実感もあって。

そういう意味では、日本市場で苦戦していたNetflixでの仕事はマーケターとして絶好の腕試しになる。そういうワクワクを感じて、思い切って転職を決めました。

入社して感じたスゴいところ

①グローバルで超自由な働き方

ソニーという日本の大企業から、外資系のまだスタートアップ感の色濃かったNetflixに転職して、衝撃を受けたカルチャーギャップがいくつかあります。

まず日本法人といえど、業務はすべて英語。会議はもちろん、メールも英語です。

また、当時はそこまでリモート会議が世間に浸透していませんでしたが、Netflixでは毎日のように朝はヨーロッパ、夕方はアメリカの人たちとオンラインでミーティングをやっていました。

ソニーにいた頃は日本は日本、アメリカはアメリカ、というように各国の法人が独立した形で仕事をしていました。

だから、そうした国境の“区切り”がまるでない日本も海外も1つのチームとして動いていく仕事スタイルが新鮮だったんですね。

「海外のスタッフとも、こんなリアルタイムで一緒に仕事をするんだ」と驚きました。

加えて、Netflixは勤怠という概念がなく、出社時間もないし、休日取得も自由

会食やタクシーなどの使った経費の上司承認もなくて、自分が「これは仕事において必要だ」と感じるものなら、基本的にすべて経費として認められました。

要するに、めちゃくちゃ自由だったわけです(風の噂で、シンガポールかどこかの法人で経費で車を買った人がいて、さすがにその人はクビになったと聞きましたが…笑)。

ソニーも日本企業としては自由と裁量を与えてくれる会社でしたが、Netflixにはそれをはるかに凌駕するまさに「ノールール」の自由さがありました。

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ロサンゼルス本社に出張した時の僕のデスク


②全方位型の超シビアな評価制度

そうした最大限の「自由」が与えられている代わりに、会社に対して価値を与えることや、仕事に対して求められる「責任」も異次元レベルで大きかった。

たとえば、一つひとつの会議における緊張感が半端じゃない

普通10人くらいで会議をすると、活発に議論に参加するのは4〜5人くらいで、他の人は聞き役になってしまいがちですが、Netflixでは基本的にそういうことがありません。

なぜなら、会議での自らの発言や行動がすべてアウトプットとして評価されるから。

たとえば、マーケティングチームで会議を行う際に、そこに人事担当者も同席して、発言していない人に話を振ってきたり、意見を出さない人がいると“アウトプットなし”ということで厳しい評価が下されるわけです。

また、通常の会社だと自分の評価や査定をするのは直属の上司ですが、Netflixの場合、評価をくだすのは世界中の全同僚たち。

実名による360度評価が行われて、自分に至らない部分があると、ズバズバと辛辣なフィードバックを受けたりもしました(数十名の社員から厳しい評価をされると、結構心折れそうにもなります…)。

会社の求める基準を満たしていない人は容赦なくクビになったり、入れ替わりも超激しかった。実際、当時は毎月1人は同僚がいなくなってましたね。

そういったことがあるから、会議に対する社員の参加意識も尋常ではないわけです。

会議の場はある意味、戦場でもあるわけですね。

思い返すとなかなかシビアな毎日でしたが、僕自身はそういう緊張感はわりと嫌いじゃなかったし、裏を返せば会議の場は自分のアウトプットをみんなに見てもらえる最高の舞台でもある、とわりとポジティブに受け止めていました。

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戦場とは思えないほどオシャレなオフィスでした


③「カルチャーブック」の存在

Netflixにはシリコンバレーから生まれた最高の文書とも言われる「カルチャーブック」というものが存在します。

これはNetflixの企業カルチャーや、社員に求められるマインドセット・姿勢をまとめたもので、Netflixで働く社員の行動指針となるような文書です。

社員にとっての経典となるようなものですね。

一般公開もされている文書なので、興味がある人は以下のリンクからお読みください(日本語でも読めます)。

この「カルチャーブック」のNetflix社員への浸透具合もスゴかったですね。

たとえば、僕はマーケティングマネージャーの職を任されていたので、自分が考えた施策・企画を全体ミーティングの場で発表したりするわけです。

そんな時に、経理や法務などマーケティング職以外の人たちからもガンガン意見が飛んでくる

それも別にそれぞれの専門職視点からの意見ではなく「その企画、もっとこうした方がいんじゃないですか?」というピュアな一般目線からの意見だったりするんです。

最初の頃は「マーケティングの門外漢にそんなこと言われたくないよ」みたいな反発心もありました。

しかし、そうした周囲の意見をちゃんと受け入れて「プロフェッショナル視点から一歩引いてみると、確かにそういう見方もあるかも」と素直に受け止めるのが、Netflixのカルチャーなわけです。

こうした「インクルージョン」の文化があるからこそ、フィードバックを自分を成長させてくれる意見として素直に受け止める気持ちが持てるし、だからこそ360度評価も成り立つわけですね。

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カルチャーブックの概要

自分はこうしたNetflixならではの独特なカルチャーへの適応に最初は苦労しました。

大きな裁量を持たせてくれるし、仕事のスピード感も異次元な会社なので、良かれと思って最初はガンガン1人で仕事を進めていたんですね。

ところがある日、僕のそうした姿勢について「タカキは周囲と断絶して、自分1人だけで仕事を完結しようとしている。共有をもっとすれば、いろんな人から意見を受けて、仕事のクオリティがもっと上がるのに」とフィードバックを受けて。

共有しないということは、私たちへの「トラストネス(信頼性)」を欠いているということでもある、と。

そのフィードバックを受けてハッとしました。

確かに自分の考えやアウトプットを過信している面があったことにあらためて気づいたんですね。

そこからはこれまでの仕事スタイルを変えて、周囲への共有・相談を徹底するようになりました。

働いてわかったNetflixが「世界中で強い」理由

こうした強めのカルチャーに抵抗感を抱く人もいるかもしれません。自分も最初はそうでしたから。

でも、自分はカルチャーブックに書かれている内容自体はシンプルに素晴らしいと思ったんですよね。

だから、独立して自分で会社を経営する中でも、Netflixの経験から学んで自社のカルチャーブック(MVV)を作りました。

経営者になってあらためて思うのは「会社としてこういう姿を目指しましょう」と明言してそれを社員に浸透させることは、めちゃくちゃ重要であると同時に、難しいことでもあるということ。

会社としての理想像に向かっていく方法は、社員それぞれやり方があって、経営者としてはそれも尊重しなければいけません。

ただ、ひとつ言えるのは、そのような会社としての「理想像(あるべき姿)」があるのとないのとでは、社内の雰囲気やカルチャー、一体感がガラッと変わってしまうということ。

ときに会社運営そのものを左右するくらいに。

自分自身が経営者として組織を運営する上でも、Netflixのカルチャーブックからはめちゃくちゃ影響を受けていますね。

それくらい強固な独自カルチャーがあって、それが尋常じゃないレベルで浸透しているからこそ、Netflixという会社は全世界で強い。

実体験からも、僕はそう感じています。

高いアベレージよりも、突き抜けた武器を持つ

Netflixのような仕事へのコミットや成果に厳しい会社で働いてみて、あらためて感じたのが、独自の強みや武器を突き抜けて磨くことの大切さ。

それはNetflixというシビアな戦場で生き残るための僕なりの生存戦略でもありました。

Netflixで働くような社員は本当に優秀な人が多くて、能力チャートでいうと全項目で90点以上をとるような人たちです。一つひとつの平均値が非常に高い。

普通の会社なら「デキる」と言われるような平均80点くらいを取っていても、生き残れないわけですね。

そして僕自身は全項目で90点みたいな優等生タイプではなく、パラメータに凸凹があるタイプで、それを自覚してもいました。

だからこそ、60点とか70点くらいしか取れない項目がある代わりに、自分の得意なことや強みを150点取れるくらい磨き上げたんです。

そうすると、凸凹はあるけどトータルアベレージは90点くらいになるので、なんとか生き残ることができるし、自分の存在感を周囲に認めさせることだってできる。

そうした僕自身の“強み”というのはソニー時代に培ったハード(PCやデジカメ、ゲーム機本体)、ソフト(ゲーム作品などのコンテンツ)、プラットフォームのすべてを複合した総合的なマーケティング力。

そして「どれだけ尖った施策を考え、実行まで持って行けるか?」という企画力・実行力でした。

では、具体的にどのようなマーケティング施策をNetflixで行ったのか?

そのへんの詳しい話は、また次回できればと思います。最後までお読みいただきありがとうございました。

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コメント

6
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杉山渉

伸びる会社、 沈没する会社の 違いがよく分かりました

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lakz

「インクルージョン」の文化、実体験が身近に感じてすごく勉強になりました。 共有ありがとうございます!

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LampTokyo 的場タカキ いいね
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MisiQ

日本では中々お目にかかれなさそうな勤怠管理ですが、取り入れるべき点も多そうで勉強になります🌺

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財前

勉強になります👏

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(株)LampTokyo 創業者・CEO ソニー12年勤務後、Netflixの日本立ち上げメンバー。「ビジネスを動かすクリエイティブ」をモットーに、ブランディング、マーケティング、クリエイティブを一気通貫でサポートしています。会社HP 👉http://bit.ly/3JxLSgR
超自由、でも気を抜けば即クビ…。Netflixという戦場で学んだ生存戦略|LampTokyo 的場タカキ
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