「そういう時は言葉ではなく、行動で信じてもらうだけだ」
わらわらとヘルメット団が湧いて出てくる。
「ほう。自ら私たちの巣へ飛び込んでくるか」
後方にいる、他のヘルメット団よりも豪華な装飾が施されたヘルメットを被ったヘルメット団が話をする。
「お前ら!命知らずどもをもてなしてやれ!」
彼女がヘルメット団のリーダーなのだろう。彼女の言葉が終わるとヘルメット団らが襲いかかってくる。
「ん、雑魚がいくら集まろうと変わらない。蹴散らしてやろう」
シロコの声を合図に、アビドスの皆は自分の持つ銃を撃つ。
先生も手にタブレットを持ち、皆に的確な指揮を下す。
(これが、キヴォトスの戦闘...)
敵味方全てが、銃弾なんて気にせず撃つ。ノノミが使う銃に至っては、たったの数秒で何百発も撃っていた。都市であれば破産していることだろう。
ホシノは他のアビドスの者よりも前に出て、敵の銃弾を一身に受けているのにも関わらず、怪我もしていないどころか、敵を手に持っている銃で捻り潰していた。血一滴も流れないまま、無数の銃弾が飛び交う戦場というのはとても異質であるように思えた。
(...そろそろ動かなくてはな)
あんなことを言った手前、何もしないわけにはいかないので腰についている刀に手を伸ばし、掴む。
掴んだ瞬間、走馬灯かのように記憶がフラッシュバックする。
何度も、この刀で肉を裂いてきたのに、なぜこの瞬間だけが思い出されるのだろうか。
それはきっとあの瞬間が、俺が生きてきた中で、最も辛い殺人だったから。
「ふふ、これでいいんですよ。これで」
ふと、言葉が脳裏によぎる。
血に塗れた部屋の中で、俺は、俺は...
「...」
刀から手を離し、次元鞄の中にしまっておいた鎌を取り出す。
「........初陣だな。ダ・カーポ」
そう言いながら、両手でしっかりと鎌を持つ。
「固まってるとやりやすいな」
ヘルメット団が物陰に固まりながら銃を撃っている場所まで一瞬で飛んでいく。
その勢いで一人の銃を蹴りで弾き飛ばす。
「つ、突っ込んできた!撃て、撃て!!」
六〜七人が俺に銃を向け、引き金を引こうとした瞬間、彼女らが手に持っていた銃はバラバラになり、地面へと転がる。
「遅いんだよ、お前ら」
俺は彼女らに余裕の表情を見せる。
「銃が一瞬でバラバラにされた⁉︎」
彼女らは自分の武器が破壊されたことにより、自分の拠り所がなくなったかのように恐怖し出した。
「ば、化け物...」
「逃げろ、逃げろ!!」
物陰に隠れて狙っていたヘルメット団は散り散りになって逃げていく。
キヴォトス流の戦闘はこんな感じで良かったのだろうか?気絶くらいはさせた方が良かったかもしれない。
「あいつらは...」
アビドスの皆の様子を確認する。
彼女らは余裕と言う表情をしている。それとは対照的に、ヘルメット団は壊滅寸前といった様子だった。戦闘が始まってから一分くらいなのに...
彼女らがいくら強かろうと、あの数を一分程度で壊滅させるのは現実的じゃない。それを可能にしているのは...
"ホシノ!そこ抑えられる?"
"シロコ!あそこにミサイルを撃って!"
"ノノミ!五秒経ったらそこに掃射して!"
"セリカ!あのあたり、狙い撃てるよね?"
先生が指示した通りに彼女らが動くと、ヘルメット団が面白いくらいに蹴散らさせる。先生の未来予知をしているかのような的確な指揮が、戦闘を大幅に短縮させることを可能にしていた。
ヘルメット団のリーダーは、こちら側のあまりの蹂躙ぶりに混乱しており、まともな指揮ができていないようだった。
「倒すなら今だな」
家々の壁に飛び、壁を走りながらリーダーに近づく。
「く、来る⁉︎お前ら!撃てぇ!!」
飛んでくる銃弾を切り、弾き、全てを処理したと思えばすぐに壁を蹴り、リーダーのすぐそばまで飛んでいき、銃を真っ二つにする。
「ひ、ひい⁉︎」
「あいつらを狙ったのが運の尽きだな」
鎌の取手の部分をリーダーの顔面に強く叩きつける。リーダーは叩きつけられた勢いで吹き飛び、気絶したようだ。
「り、リーダー!!」
指揮官を失ったヘルメット団達が混乱する。その混乱に乗じて先生らのところへ戻る。
「司令塔は倒した、俺らの勝ちだ」
"ナイスだよ。グリス"
先生からお褒めの言葉をもらったところで、アヤネから報告が入る。
「敵の退却を確認」
「並びに、カタカタヘルメット団の補給場、アジト、弾薬庫の破壊を確認」
敵の損害の報告が入ったところで、シロコが
「これでしばらくはおとなしくなるはず」
と安堵の入った声をもらす。そして
「よーし、作戦終了。みんな、先生、グリスさん、お疲れ〜」
ホシノの作戦終了を伝える言葉が響く。
皆、帰る支度を始める。
「...俺、あまり役に立たなかったな」
実際、ヘルメット団のほとんどを倒したのはアビドスのみんなだ。
「そんなことありませんよ。グリスさんはとってもかっこよかったですよ〜」
ノノミからフォローの言葉が届く。
「壁を走って、目標に速やかに近づく動き...帰ったらやり方を教えて」
シロコからも言葉が届く。
「それを言うならホシノの、とんでもない攻撃から味方を守りながら、手堅く相手に打撃を与えていた姿は格好良かった」
素直に意見を述べる。
「うへ〜、それは先生の指揮あってのことだよ〜」
「確かにそうですね〜、まるで背中に羽が生えたような感覚になりました!」
「これが大人の力...とてもすごい」
"それほどでもないかな"
"アヤネのサポートありきだよ"
「え⁉︎わ、私ですか⁉︎」
皆が先の戦闘について意見を交わし合う。
そんな中ホシノがセリカに
「これで少しは、先生とグリスさんを信じる気になった?」
と聞く。それに対してセリカは
「.....まあ、実力は認めざる負えないわね」
「でも、実力があるからって、信用できるわけじゃないから!」
どうやらまだ、警戒されているようだ。
"もう少し信頼してくれてもいいのになー"
「まあ、こればっかりは積み重ねだろ」
ひとまず話が終わったところで
「それじゃ、学校に戻ろっか〜」
と、ホシノの声が響いた。
......一つ戦闘が終わったのに、血の匂いはしなかった。
誤字脱字等がございましたら、報告してくださるととても助かります。