思ったより殺意高い事してきたなぁ。しかもあの巡航ミサイルとやらかなりの速度だった。市街地という事もあり建物が遮蔽となり視認が遅れたというのもあるが、あれを撃ち落とすのは至難だな。そしてカタコンベの出口から出てきたところを一網打尽にするというのは確かに効率的だ。カタコンベで変に迎撃してこちらへ突入してくる人数がばらける事を回避したのだろう。中々考えたな。――まぁ無傷なわけだが。
『みなさん!ご無事ですか!?返事をしてください!』
『ナギサ、落ち着きたまえ。巡航ミサイルの存在を知っていながら、彼が何の対策も施さないはずがないだろう?』
アヤネの通信越しに一緒にこちらの様子を伺っていたナギサがこちらへ必死に声をかけている。セイアは私に対する理解度が高いな。よく分かっているじゃないか。
「けほっけほっ――この声、ナギちゃん?こっちは大丈夫だよー!ちょっと砂埃でけむいけど、それ以外は問題ないよ」
『ミカさん!?良かった……こちらからは様子がまだ見えなくて心配しました……』
「へーきへーき!私頑丈だから☆他のみんなは大丈夫?」
「けほっ、こちらも問題ありません。――ですが、私達は本当に巡航ミサイルを受けたのでしょうか」
「あ、ハスミちゃんも大丈夫そうだね。ってあれ、ハスミちゃんも無傷?すごいね?」
「いえ、これは――」
巡航ミサイルを受けたはずなのに自分が無傷である事にハスミは戸惑っているようだ。次第に舞い上がった砂が払われると、砂埃によって若干制服が汚れてしまってはいるものの、先生を含め全ての生徒が無傷だった。――というか先生に対してバリアのようなものが張られているんだがあれは何だ?先生が張ったもの……だよな?先生もあのような防御手段を持っていたのか。後で聞いてみるとしよう。
「うへ~口に砂が入ったぁ。アビドスでもないのになんでこんな目に~」
「私もだよぉ。うぇっ!ぺっぺっ!」
「――ユメ先輩こっちに向けて口の砂飛ばさないでください。張り倒しますよ?」
「ご、ごめんねホシノちゃん!わざとじゃないの!」
相変わらずユメとホシノは仲が良さそうで何よりだ。緊張感が無いのも考え物だがユメで居る状況で緊張感を保つ方が難しいかもしれない。あれはヒヨリと同種だ。
「みんな無事みたいだね、良かった……。――多分、彼が対処してくれたのかな」
先生の言葉を肯定するように、私は先生の肩を二回程軽く叩く。先生が肩を叩かれた方を振り向くが、誰も居ないのを確認すると、私だと察したようでお礼を小声で呟いてきた。
しかし確実に一人だけ無事じゃない子がいる。その子は――
「いっっったあああああああい!お兄ちゃん!痛いよぉ!助けてぇ!」
何もない所から急に女の子の声がして全員が声がした方へ振り向くが、彼女達にその姿が見える事はない。
「え、な、なに!?何の声!?も、もしかして――幽霊!?」
「コハル落ち着け。師匠が使ってた透明になる魔法じゃないか?」
「正解だアズサ」
出来ればあの子には声を抑えて欲しかったが、こうなっては仕方がない。透明化の魔法を解除し、私の連れてきたペットの姿を見えるようにする。
「な、なんすかこのおっきな化け物――!?」
「く、くひひひ……!でかいなぁ……!それに強そうだ……!」
「――!総員、戦闘態勢!」
「あー待て待て。その子は私のペットだ」
『――は?』
ハスミが私の可愛いペットに攻撃をしようとしていたので制止する。いや普通に危ない。攻撃してたら殺されてたよ君。
「おにいちゃーん!治癒魔法かけてぇ!」
「はいはい。肩代わりしてくれてありがとう。――にしてもそこそこのダメージを受けたようだな。これだけの人数がいればそうもなるか」
「無属性は辛いぜお兄ちゃん……」
その気持ちはよく分かるぞ……。そして巡航ミサイルの威力がキヴォトスの生徒にとって驚異的なものであったという証左だろう。連れてきて正解だったな。
「お腹の中に女の子が……?あの、そろそろ説明してもらってもいいっすか?」
「あぁ、紹介しよう。この子はイモーロナク。私のペットだ」
見た目は五メートルを優に超える肥満体型の首なしの体。腹部が大きく裂けており、そこから見える体内は生々しい。そしてその裂けた腹部には私と血の繋がらない妹が入り込んでいる。私もこの子の生態を理解しているわけではないが、妹がこの巨人を操っているのだと思う。着ぐるみのような感じだろうきっと。
生徒達全員が無事だったのも、この子の持つフィートによるものだ。肉の壁というフィートを持っており、一定範囲内の味方の受けたダメージを全て肩代わりする事が出来る。それによって本来生徒達が受けるはずであったダメージは全てこのイモーロナクが引き受けた。
「な、なるほど……。異世界の人とは聞いてたっすけど、今になってやっと異世界の人って実感が持てた気がするっすよ」
「まぁイチカとは会う機会が無かった上にモモトークでしか関わりが無かったしな」
たまにちょっとした相談に乗るくらいの事はしていたが、私がノースティリスの話を聞かせる事はほとんど無かったし仕方がない。
「この女の子……?も貴方のペットって事は、やっぱり強いのかしら?」
ヒナは同じペットとして性能が気になるようだな。
このイモーロナクは私がすくつへ行く時に必ず連れて行くタンクだ。つまり私の持つペットの中でも最上級の性能をしている。とはいえその性能は耐久力に特化させているので、火力という面では私や他の攻撃職のペットには及ばない。逆に、耐久力の面においては私を含め他の追随を許さない。私が安心してすくつへ潜れるのはこの子のおかげと言っていいだろう。
「貴方がヒナちゃん?お兄ちゃんの新しいペットだよね?これからよろしくね!」
「えぇ、よろしく。強さという意味ではまだ貴女には及ばないけれど」
「気にしない気にしない!これから強くなればいいんだから!お兄ちゃんと一緒に居れば嫌でも強くなるよ!」
イモーロナクもキヴォトスのペットと仲良くしてくれそうで何よりだ。お兄ちゃんである私をぞんざいに扱ったり、妹でもないのに私をお兄ちゃんと呼びさえしなければとても気さくな良い子だからそこまで心配はしていなかったが。
『みなさん気を付けてください!人が沢山集まってきています!恐らくはアリウスの生徒です!』
呑気に話していると、アヤネが敵の接近を知らせてくれる。こちらも迎撃が出来るように陣形を整え、アリウスの出方を待つ。次第にガスマスクを着けた集団が私達を囲むように集まり、完全に包囲される形となった。
『あぁ、やはり貴方もいたのですね。手際が良すぎるとは思いましたが――まさかミサイルまで対処するとは思いもしませんでした』
そうして相手の通信映像から、異形の女性の姿が映し出された。こいつがベアトリーチェか。真っ赤な肌に白いドレス。目は……これはどうなってるんだ?赤い目が幾つもあるように見えるし、ただの装飾と言われればそう受け取れそうな……。奇怪な奴だなぁ。
『ようこそ、私の支配するアリウスへ。先生と、そして――異世界から来た異物』
それはお前もだろ。投擲スキル高いな。いや、これも高度な自己紹介の一種か?
「貴女が、ベアトリーチェ?」
『如何にも。既にご存じかもしれませんが、ゲマトリアの一員です。通信越しでのご挨拶となる事をお許しください』
『ふふっ私の事が気になりますか?どうやってアリウスを手中に入れたのか……必要ならば、あなた方が知っている情報と交か――』
「ヒナ、やれ」
「――了解」
私の合図と共にヒナがデストロイヤーでアリウスの生徒を制圧にかかる。不意を衝かれたアリウスがヒナの攻撃に耐えられるはずもなく、正面に居たアリウスの殆どが無力化された。
『――想像以上の野蛮人ですね。今は先生と会話して――』
「トキ、アリス、ケイ、お前達も制圧にかかれ」
「――仰せのままに。モード2へ移行します」
「あの女が魔王なのですね!――光よ!」
「私は木刀なんて使った事ないのですが……」
同じく私の合図と共にトキ達が動き出す。それとアリス、通信映像にレールガンを撃っても意味はないからやめようね。
「うへぇ、容赦ないねぇ」
「ん、どっちが悪役か分からない」
やかましいぞシロコ。敵と会話などするだけ無駄だ。相手を踏み付けて這い蹲らせ、いつでも殺せるようになってから好きなだけ会話すればいい。
「みんな!彼に任せると全部終わらせちゃいそうだから私達も動くよ!」
『はい!』
先生も私の態度を見て会話する気が無い事を悟り、残りの生徒達に声をかけて前線へと送り出す。
「ようやくこうして動き出せる時が来ました……。今、みなさんを救護します。覚悟!」
ミネが率先してSGと盾を手に突撃してアリウスの生徒を制圧しにかかる。いや、君って衛生兵とかそういう類じゃなかったの?救護ってなんだ?とんでもない勢いでアリウスを無力化しているが、まさか気絶させる事を救護と呼んでいるのかあの子?やっぱキヴォトスよく分からんな。――他の救護騎士団の生徒はミネが気絶させたアリウス生を治療している。これもうマッチポンプだろ。
「きひゃははははは!虫けら共がぁ!死ねぇ!」
死ぬのはまずいかな。元気なのは良い事だが、もう少し言葉を選んで欲しい。確かあの子がトリニティの戦略兵器と呼ばれている正義実現委員会の委員長、剣先ツルギだったか。近距離タイプの二丁持ちを見るのはネル以来だな。ネルと違ってSGの二丁持ちだが、こちらはかなり理に適っているように見える。見ている限り被弾を気にせず突っ込むタイプのようだ。イモーロナクの肉の壁の範囲外にまで飛び出してしまっている。そのせいでケガを負ってしまっているが、すぐに治癒しているように見受けられる。自然治癒スキルが高いタイプなのだな。キヴォトスにも色々なタイプが居て面白い。これだけでもアリウスへ来た甲斐があると思える。
「ごめんねアリウスのみんな。これが終われば貴女達にもきっと――」
ミカはアリウスへ手を出す事に罪悪感があるようだ。しかしそれでもこちらへ付いてきたのは贖罪の為か、それとも別の想いがあったか。まぁどちらでも構わない。ナギサがミカは強いと言っていたが、その言葉に偽りはないようで、ツルギと同じかそれ以上のペースで敵を削っている。
「ヒフミちゃん!左から来てます!」
「は、はい!」
「アズサちゃん!爆発物を使う時は一言かけてください!」
「ごめん、忘れてた」
「コハルちゃん!――今日も可愛いですね♡」
「あんたふざけてるの!?」
補習授業部はハナコがブレインとして動いているようだな。コハルをからかいたくなる気持ちは少し分かる。賄賂で簡単に転がせるほどにちょろいしな。エッチな事に敏感なのもハナコにとっては良いカモなのだろう。
「ユメ先輩もう少し下がってください。そこまで戦うの得意じゃないでしょう」
「ごめんねホシノちゃん。盾が無い状態で戦うの慣れてなくって……」
「――そういえば私が使ってましたね。これが終わったら返しましょうか?それとも――あの人なら良い盾持ってそうですし、今度相談してみます?」
「それ良いかも!」
確かに盾なら幾らか倉庫に眠っている物がある。アビドスの借金対策を考えるのも遅れてしまっているし、そのお詫びとして何か用意しておこうか。しかしそうか、ホシノの持っている盾はユメの遺品とも言えるものだったんだな。
「あぁ……みなさんがバッタバッタとなぎ倒されてます……やっぱり世界は残酷なんですね……」
「――仕方ないよ。ゲヘナの風紀委員長に正実の委員長が居て、アビドスの奴らもかなり強い。ミレニアムから来たあの人のペットもかなり出来る」
「あの人は当然のように巡航ミサイルに対処していたし、調印式の日に私達が襲撃したとしても、勝てるビジョンが浮かばないな……」
「こればかりはサオリに同意します。なんだか馬鹿らしくなってきますね」
『――サオリ、よくもあんな野蛮人を私のアリウスに招き入れてくれましたね』
「……マダム」
『まさか貴女達が裏切るとは思いませんでした。アツコの事はもうよろしいのですか?』
うん?生徒達の戦いを眺めている間にベアトリーチェがサオリ達に絡んでいる。私達に相手にされないからって確実にマウントを取れる相手のところに行くの情けなさすぎるぞ。
「アツコは――返してもらう」
『返す?驕りが過ぎますよ。アレは元より私の物であり、ただの生贄です。全く……あの異物のせいで余計な自信をつけましたか。これが終われば再教育が必要ですね』
そんな機会があると思っているのがお笑い草だが、私に巡航ミサイルを対処されているというのに、ベアトリーチェに焦りの色は見えない。まだ他に策があるようだな。
『こんな事もあろうかと、儀式は既に始めております。ユスティナ聖徒会の複製を諦めなければならないのは業腹ですが、致し方ありません』
あぁ、もう儀式は始まっていたのか。それで余裕の態度を崩していないというわけか。正直儀式には興味あるんだよなぁ……。これでアツコの命が懸かっていなければどんな結果が生まれるのか見る為に放置していたというのに……!
「こ、このままだと姫ちゃんが……!私達が裏切っちゃったせいで生贄になっちゃいます……!」
「急がないとまずいね……」
『――ふふっ。本当に子供というのは愚かですね。貴女達が裏切っていなくとも、アツコは生贄にするつもりでした。それとも、本気で約束を守ると思っていたのですか?私には何の得もありませんのに』
「――くそっ」
「サオリ、落ち着け」
悔しそうに歯噛みするサオリをなだめる。まだ焦る必要は無い。
「いいか、状況は私達の有利に進んでいる」
ベアトリーチェは私達がアリウスに侵入した瞬間に巡航ミサイルをお見舞いしてきた。その後、ユスティナ聖徒会の複製を諦めるという旨の発言をした。つまり、先ほどの巡航ミサイルで私達を一掃出来ていれば、このまま計画を続け調印式に備えていたであろう事が窺える。――実際ここで先生達が始末された場合に調印式が行われるかは別問題だが。
そして、この推察が正しければ儀式が行われたのはつい先ほど――ベアトリーチェがこうして私達に姿を見せる直前だろう。その後私達を包囲し、ベアトリーチェは長々と話をしようとしていた。ここから分かる事は――
「今こうして話しているのも儀式を終えるまでの時間稼ぎだ。そう考えれば中々に滑稽なものだろう?余裕そうな表情を見せておきながら、実際には必死こいて時間を作り出そうとしているだけなのだから、いっそ笑えてくる」
もしベアトリーチェが私の存在に初めから気付いていれば早期に儀式を始めていたかもしれないが、先生の存在しか捕捉出来なかったベアトリーチェは欲をかいた。例え先生が相手であってもユスティナ聖徒会の複製はさっさと諦めておくべきだったな。
「――そう言われるとそうかも。笑えるね」
「や、やっぱり、大人ってすごいんですね……私なんか儀式が始まってるって言われてから焦ってばかりでそんな考え思いつきませんでした……」
『――余計な真似を。ですが構いません。時間が必要なのは確かですが、それほど時間は要するものではありませんので。少しでも足止め出来れば十分です』
私とて悠長に構えるつもりはない。今までは先生達のペースに合わせていたが、儀式が始まっているというのならば話は別だ。
「サオリ、儀式が行われる場所に心当たりはあるか?」
「あ、あぁ。恐らく、バシリカにある至聖所。そこにアツコ達が居ると思う」
「そうか、では案内を頼む。――イモーロナク!私は先に行く。ここに残り先生達を守れ!」
「はーい!」
サオリを横抱きにして私達二人で先に行かせてもらう。万が一にでもアツコが犠牲になってしまっても蘇生は出来るが、サオリ達の願いもあるので出来れば手遅れになる前にどうにかしたい。周りの様子を探ると、アリウスの生徒達は既に大半は気絶、あるいは無力化されており、私が先行したとしてもそれ程時間をおかずに追いつくだろう。
状況の確認を終え、加速を唱える。私はサオリの案内を頼りに至聖所へ向かう事にした。
サオリに案内されながらアリウス自治区を走り抜ける。当たり前の事だが追手は来ていない。アリウスの生徒がこちらを追ってくるような余裕はなく、たとえ追える人員が居たとしても今の私に追いつけはしないだろうが。――それよりも気になるのはアリウスの惨状だ。殆どの建物がボロボロで半壊している。およそまともに人が住めるような環境ではない。スラム街であるダルフィでもここまで酷くはない。衛生面においても期待は出来ないだろう。まともな水も飲める事はなく、雨水を貯めたり泥水を啜っていたとアズサは言っていたが、ここだけ環境がノースティリス以下だ。これらを元に戻すのは骨が折れそうだな。先生にこの辺りの事は一任する予定だが、サオリ達をこんな所に住まわせるのは嫌すぎる。私も何か対策を考えておいた方がいいかもしれない。一応案はあるにはあるが……あまり使いたくはない手段だから先生が早めに解決してくれる事を願おう。
「サオリ、こんな事を聞くのもなんだが、本当にこんな所に住んでいるのか?」
「あぁ……貴方にとっては信じられないだろうが、アリウスではこれが普通なんだ」
「そうか……」
これらの廃墟とも言えるような建物は内戦によって生まれた被害らしく、ベアトリーチェが内戦を収めた後も、補修される事なく放置されているらしい。そしてアリウスの生徒達は幾つかの建物に押し込められ、そこで暮らしているとの事だった。
生徒達をまとめたのは管理しやすくするためだろうな。徹底的に心を折り脱走させないようにし、生徒同士で相互監視させる事で脱走のリスクを更に減らしながら管理が出来る。やり方としては悪くはない。だがリソースをケチりすぎて食事すらもまともに与えないのは悪手だ。例え技術を教え込んでも栄養が足りなければ体が技術に追いつく事はない。もう少し栄養管理もしていればヒナ達を相手にしてもまだ善戦出来たかもしれないのに。
あるいは、それすら必要無いと切り捨てた上で捨て駒にしているのか。――それでも意味が分からんな。内戦を収めたのは数年前だとかそんな最近の事では無いようだし、長い事ベアトリーチェはここに居座っているはず。そこまで時間を掛けておいてこの惨状を作ったのは一体何故だ?どう考えても幼い子供を洗脳教育した上で万全の体を作り、私兵として使う方が戦力になる。こう考えるとベアトリーチェが何をしようとしていたのかさっぱり分からんな。後で聞き出してみようか。儀式の内容も知りたいしな。
そんな事を考えながら至聖所の前まで辿り着いた。
「案内ありがとう。降ろすぞ」
「私こそ運んで貰ってすまない。――アツコ、無事でいてくれ」
二人で一緒に至聖所へと入る。至聖所という名前だけあり、雰囲気は神聖なものを感じる。これで建物がボロボロでなければ祈りの一つや二つはしていたかもしれない。奥には何かを象っているかのような大きなステンドグラスが張られており、その前に十字架が建てられている。そして、その十字架に磔にされている子が居る。茨のようなもので拘束されており、入り口からでも分かる程に外傷が酷い。
こうやってよく見ると、ステンドグラスに象られている何者かがアツコを取り込もうとしているようにも見える。こういうのを何て言うんだったか。パレイドリア現象か?
「アツコ!」
サオリが思わずといった様子で声を掛ける。予想はついていたがあの子がアツコか。ならば早めに助け出すとしよう。そう考えた矢先――
「よく来てくれました。一応、歓迎して差し上げましょう」
ベアトリーチェが姿を現す。横には何やら生徒を引き連れており、その子の様子を見ると、中々に面白い状態になっている。
「ヘイローを破壊する爆弾を巻き付けているのか……!」
そう。ベアトリーチェが引き連れてきた生徒にはヘイローを破壊する爆弾がお腹辺りに巻き付けられていた。ガスマスクを着けているために表情は見えないが、体の震えからして怯えているように見える。これが爆発してしまえば自分の命が無いのだから当然だ。人質とは考えたな。確かにこれなら迂闊に手は出せない。
――ここに居るのが私ではなく先生だったなら、の話だが。
実際にはそのつもりで用意していたのだろう。私がここに姿を現すまではベアトリーチェは私を捕捉出来ていなかったのだから。
だがそんな事はもうどうでもいい。さっさと終わらせるとしよう。もし行動が間に合わなくて死んだらごめんな人質ちゃん。
ベアトリーチェへと鈍足をかけ行動を遅らせる。こちらは既に加速状態なので私とベアトリーチェの速度には今雲泥の差がある。その隙にベアトリーチェに対し氷の矢を撃ち込み、間髪入れず電撃の光線を見舞う。
「ぐあっ!この……!調子に……!」
ほう?私の魔法を二発受けて尚耐えるか。ベアトリーチェが二の句を継ぐ前に人質であった生徒へ一気に近付く。そしてヘイローを破壊する爆弾を素早く回収し、爆弾をその辺に投げ捨てる。
「サオリ、キャッチしてくれ!」
「――!分かった!」
そして人質であった生徒の腕を掴み取り――サオリの元へ投擲した。私の意図を察したサオリも体勢を整える。
「ふぇっ!?な、なにを――きゃぁぁああああああ!」
「――っと、無事か?」
サオリは無事に投擲された生徒をキャッチしてくれた。これでベアトリーチェから距離を離す事が出来た。
「は、はい……その、ありがとうございます」
「礼は後であの人へ伝えてくれ。私はただ君をキャッチしただけだ」
「図に乗るなよ異物が……!何度も何度もコケにして……!よくも私の計画を台無しにしてくれましたね……!」
激昂したベアトリーチェの様子が何やらおかしい。というより、体が変形し始めている。あれか、ブースト的なやつか。そうか、ゲマトリアはそんな事が出来るんだな。このまま様子を見ていたいのは山々だが、アツコの救出が済んでいないので変身の途中だろうと構わず始末させてもらう。
炎の剣を作り出し巨大化し始めた体を袈裟斬りに振り下ろす。
「ガァァァッ!――クソガァッ!」
変身の途中ながらも反撃を繰り出そうと右手を振るってくるが、鈍足の影響が残っているベアトリーチェでは私の速度に追いつく事は出来ず、振り抜いた頃には私はそこには居ない。背後へと回り込んだ私は炎の剣で背中からベアトリーチェを串刺しにする。
絞り出すように苦悶の声を上げるが、既に抵抗する体力を失っているようで体を前に屈ませながら首が垂れる。終わりの予感を抱いた私は首元へ近づき、もう一度炎の剣を作り出す。
――そして、垂れ下がったままの首を撥ね飛ばした。
イルヴァ豆知識
・イモーロナク
イゴーロナクの妹ver。名前から分かる通りクトゥルフ神話由来のモンスター。性能は間違いなく優秀ではあるのだが、イモーロナクは希少種フィートが無いため遺伝子合成による強化幅がかなり小さい。なので、タンク目的で育てるなら肉の壁を持たせたシルバーベルを採用した方がそちらの方が圧倒的に強い。というかシルバーベルが無法。まじでこいつなんなんだよ。
・ブースト
HPが一定割合以下になった時に発動する火事場の馬鹿力的な能力。速度が大幅に上昇し、連続射撃4と連続魔法2が付与される。敵が使うと強い。こっちが使うとすくつだと大体ワンパンなのであまり発動する機会が無い。発動出来れば強い事は間違いない。