なぜイヌはまるでわが子のようにかわいいのか、科学が証明 「特別な関係は確かにある」
愛情ホルモン「オキシトシン」の放出
同様に興味深いのは、イヌと一緒にいるときに、人間の脳内では、気分が良くなる神経伝達物質が放出されているということだ。 恋愛相手であろうと、自分の子であろうと、親しい友人であろうと、自分にとって大切な存在である人の目を見たり触れ合ったりするとき、私たちの体はオキシトシンを生成する。 愛着、愛情、つながりを司るホルモンのオキシトシンは、生まれたばかりの子と親が絆を形成するために重要な役割を果たす。新生児を抱いたとき、親のオキシトシンの量は上昇し、同じ行動を繰り返したいと思わせるようにする。これがさらにオキシトシンの放出につながると、シルバー氏は言う。 これと同様の現象がイヌとの関係でも起こる。人間もイヌも、見つめ合ったり、遊んだり、話したり、触れ合ったりするときにオキシトシンが急上昇することは、複数の研究で示されている。その結果、これらの行動を繰り返すようになり、オキシトシンの放出が続き、絆が強められる。 2015年に学術誌「Science」に発表された論文が述べているように、イヌは人間の絆形成の経路を乗っ取ってしまったと言える。つぶらな瞳で見上げてきたり、名前を呼んだときに駆け寄ってきたりすると、人の体はオキシトシンを放出し、小さいものを守ろうとする生物学的な反応が起こり、世話をしたくなるのだと、尾形氏は言う。 ラコスさんも共感して、人間の子どものようにシオとバブカを育てていると話す。毎月のイヌの美容院代、おもちゃとおやつの定期購入、医療保険料を支払い、イヌたちは家中どこででも(ベッドも含め)寝ることができる。 家族旅行にも連れて行くが、ごくまれにそうできないときには、各部屋にテレビがついたペットホテルに預ける。家を購入する際にも、フェンス付きの庭があることが条件だった。「イヌたちへの深い愛情で胸がいっぱいになるほどです」
愛情をかきたてるイヌの性質
イヌに対する深い愛情の起源は、人類がイヌを飼い始めた頃まで遡ると、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の比較認知研究室長であるフェデリコ・ロッサーノ氏は言う。 最初から、人間は、穏やかで協調的な性質のイヌを選んできた。視覚的な合図や、どう振舞うべきかといった指示を仰ぐために人間の目や顔によく注意を払うイヌに対して、報酬を与えてきた。 外見も、人間に似た特徴を持つイヌが好まれた。昔のイヌは、長い鼻に尖った頭蓋骨を持っていたが、現代のイヌは丸い頭に大きな目、膨らんだ頬をしていると、ロッサーノ氏は指摘する。眉の内側辺りの筋肉も、人間の悲しみや好奇心、喜びに似た表情を作れるようになっている。 「人間は視覚志向型です。だから顔の表情のような視覚的な刺激が、強い感情的反応を誘うのです」と、尾形氏は言う。2024年11月に学術誌「Social Cognitive and Affective Neuroscience」に発表された別の脳画像の研究でも、私たちの脳が、イヌと人間の表情に対して同じように反応することを示している。 言い換えるなら、少なくとも私たちの脳によれば、イヌは赤ちゃんのようにかわいいのだと、ロッサーノ氏は言う。また、イヌは子どものようにボールを追いかけたり、ぬいぐるみを家中に運んだりして遊び、幼児のように思考する。実際、イヌには2~3歳児並みの認知能力があるという研究もある。 そして、2017年に学術誌「Society & Animals」に発表された論文が示すように、多くの人はイヌのことを、人間の赤ちゃんのような弱い生き物で、自分で自分を守ることができない存在として見ている。 もしあなたがイヌを飼っているなら、イヌと人間の関係が親子の絆によく似ていることを証明するのに、脳スキャンも血液検査も必要ないだろう。もちろん、検査で証明されればなお説得力があるが。 ラコスさんは、たとえ会話ができなくても、また中学校を卒業することが絶対にないとしても、シオとバブカにエサをやり、守り、幸せにするために何でもすると話す。イヌたちは家族の一員であり、彼らに対して自分は全責任を負っているという。「我が家は、あの子たちなしには我が家ではありません」
文=Julia Ries Wexler/訳=荒井ハンナ