俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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大変おまたせしました

今回もたくさんのFAを頂きました!


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寿司フライ様より、セト店長のFAを頂きました!
うお、無防備な座り方!


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リン様より 顎の長いエンジェルハウンドとドロシーちゃんのFAを頂きました
うお、うざ!!



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真機楼様よりドロシーちゃんとモブくんのFAをいただきました!

まだまだたくさんあり、紹介しきれてないものもありますが
どれも全てありがたくモチベアップに喜んでいます!
本当にみなさまありがとうございます! これからも頑張ります!



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おりすい様より素晴らしいFAを頂きました!
ドロシー
リナ
ジグ部長
そして三人セットです! 本当にありがとうございます!


四十三話 敗北とは、勝利を得たプレイヤー以外全員に与えられるものである

 

 

 

 その説明に、耳を疑った。

 

「……敗北しない?」

 

 なにそれ。

 そんな効果ありえるの?

 そんなの出来たら。

 

「絶対勝てるじゃん!」

 

 ゲームに敗北しないってファイトに負けないってことだ。

 考えるだけでどれだけおかしいのかわかる。

 

 例えばライフがゼロになっても負けないとしたら?

 ずっと続けられる。

 

 例えばメインデッキがゼロになっても負けないとしたら?

 ずっと戦えてしまう。

 

 例えば一発で二十点のダメージを与えられても無視が出来るし、ブロックする必要なんて一切ないからずっとクリーチャーで攻撃が出来る。

 それもあのエンジェルハウンドっていうクリーチャーは破壊不能だ。

 文字通り無敵。

 文字通り最強。

 

 理不尽としかいいようがない。

 

 あれさえあれば、あのメガバベルの社長ちゃんのバベルデッキ相手でも……

 

「ん?」

 

 いや、まって。

 敗北しないって……負けないんだよね?

 

 …………()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ちょっとめんどくさいね」

 

 

「サレンさん?」

 

 腕を組みながら、いつもの表情で呟くサレンさんには動揺が見られない。

 驚いてない?

 

「サレンさん、驚かないの? あ、もしかしてそういう効果見慣れてるとか……」

 

「いや、流石に私でもファイトに敗北しないなんて滅茶苦茶な効果は初めて見た」

 

「はじめてなの!?」

 

 全然驚いてないのに?!

 なんだったら、なんだこいつ? って顔で、お客さん二人が見てるよ!

 

「なんやこいつ」

 

「こわ」

 

 ほら、言われてるじゃん!

 

「落ち着け、ユウキ」

 

「落ち着きすぎだよ、サレンさん!」

 

 どういう心臓してるのさ!

 そんな態度だから、なんか人の心分かってないんじゃないのか? とかミカドくんとかに言われるんだよ!

 

「こういう時は驚くのが普通の人間なんだよ?」

 

「ナチュラルに非人間扱いされてる?」

 

「だってサレンさんだし」

 

「……ひどい」

 

 なんで傷ついたような顔してるの?

 そんなのサレンさんじゃないよ。

 

「私にも驚かない理由がある」

 

 すっと指を立てて、差したのは……モブさん?

 

 

 

戦っているあいつが、まるで諦めていない

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

「……エンジェルハウンドか」

 

 大げさな演出(エフェクト)と共に出現した白いドラゴン。

 

 その迫力はただのバトルフィールドの演出に収まらない圧力。

 闇のファイトにも迫るビリビリとした威圧感に、覚悟をしてなかったら驚いてただろう。

 その効果も何も知らない一般人だったら頭が真っ白になっていたかもしれない。

 が。

 

 ()()

 

 

 いや、正確に言えば悪くない。別段悪くないんだが。

 ……その強くない。

 破壊不能だし、ゲームに敗北しないっていうルール介入効果は強い。

 ステータスもまあまあ5/5もあるし、飛行だし、瞬間発動あるのは強い。まあ強いよ?

 

 だけど7コストも使って出す価値があるか?

 

 Lifeに関するクリーチャー能力は、出したコストの数=ステータスが基本してバランスが取られている。

 1コストなら1/1、2なら2/2,5コストなら5/5と。

 それに能力を足したり減らしたりして、ステータスのバランスが取られている。

 

 故に7コストなのに5/5ということは、飛行、破壊不能、さらに瞬間発動と何よりも敗北無効能力でバランスを取られているのだとわかる。

 わかる、が。

 

 使ってみるとわかるのだが、これが使いにくい。

 7コストも出せる盤面にならもう中盤から終盤になるし、それで5点の打点を捩じ込んでも1~2回も殴れば相手が死ぬ。

 なら敗北不可避に使うか? といわれると7コストも残しておいて何も出来ない、これに頼るだけなんてことはまずないのだ。

 これしかないときなんてまず盤面が詰んでんだろ。

 そもそもの話をすると。

 

 ……これのカード普通に知ってんだよな

 

 Life部で封印されてた奴を見た時よりも前から知ってた。

 前世でそれなりに有名だったのだ、こいつは。

 だって。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()

 

 ちゃんと敗北じゃなくて、相手の勝利も封じるやつで。

 そうなんだよなぁ。

 このエンジェルハウンド、無効化出来るのは敗北だけ。

 デッキアウト、ライフゼロ、腐死カウンター十個、あと特殊敗北。

 防げるのはこれだけ。

 

 ――()()()()()()()()()()

 

 勝利からは逃げられないのだ。

 あっちのほうなら5コストに、能力対象にならないし、破壊不能だし、ステータスとちょっとした時滅制限(タイマー)が入ってたが安定性は上。

 ちゃんと調整されてたやつなんだよな。

 敗北を無視できる効果だけでも弱くない。

 敗北を無視出来るから負けるデメリットのもつカードとのコンボ、自滅ギミック類の一切合切踏み倒しなど悪辣な使い方も研究されていた。

 いつぞやの世界選手権でも16位ぐらいで結果を出したデッキのギミックにも組み込まれてた記事を見たことがある。

 エンジェルハウンドは画期的なカードではある。

 敗北条件、勝利条件に対するLifeの挑戦的なデザインではある。

 あるが。

 

 ()()()()()()()()

 

 前世の環境がこの世界環境からめちゃくちゃ進んでたこともあるが、それでもこのカードが今の環境でもやや古く、使いづらいのは間違いない。

 破壊不能程度と言われても。

 

 手札やデッキに戻す(バウンス)

 除外ゾーンに送り込む(除外除去)

 この二つは破壊じゃないし。

 

 タフネスをマイナス修整する(起因処理)

 生贄に捧げさせる(サクリファイス)

 この二つは破壊を経由しない墓地送り(死亡)だ。

 

 カードのコントロールを奪う(N T R)

 カードの効果を無効化する(そげぶ)別物に変化させる(その声は、我が友ではないか?)

 敵味方とも記載がなければ基本効果の対象はコントローラーのものだし、効果を無効化にしてしまえばそれも消える。

 蛙とか蛙とか、羊とか、めぇめぇとかぁんだてめえはぁ? 消えなデザイン失敗!

 

 あとはハードロックとかで、使い手自身に投了させるとかでも対処出来る。

 ダメージと破壊除去しか詰んでいないデッキならば出た途端に完全に詰むが、そんな一枚のカードで完全メタになって負けが決まるなんてTCGやってたらよくあることだ。

 対応札を入れてないほうが悪いし、妨害を叩き込めないほうがさらに悪い。

 怖いのはいきなり出てくること、そういうのがいると想定していないこと。

 そして、俺は当然こいつがいることを知っているから対応カードをデッキに入れている。

 

 しばらく間が空いてたからこいつを引き抜いて、上位互換のほうに入れ替えてたら厄介だったなぁと思うぐらいだ。

 

 とまあずらずら考えたが。

 

「……一つ確認したい」

 

「なんですか?」

 

「もう一つ効果があったはずだが、教えてくれるか?」

 

「はい。天界龍(エンジェルハウンド)はこのカードは場から墓地に送られる時、墓地ではなく()()()()()()

 

「ああ、そうだ。再利用出来ないデザインになっている」

 

 素直に教えてくれた天儀の言葉に頷く。

 以前に俺も見たことがあるカード情報であるからこそ教えてくれたのだろう。

 

 カードの効果説明は義務じゃない。

 あくまでも円滑なゲームの処理のための作法みたいなもので、別に言わなくてもいいのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まあプレイのために宣言が必要だし、手順確認という意味では大事な習慣だ。

 そんでもって。

 

 


 

律たるもの天界龍(エンジェルハウンド) コスト7

5/5

ドラゴン・天使 唯一無二のクリーチャー

 

飛行・瞬間発動

このクリーチャーは破壊されない

 

あなたはゲームに敗北することはない

このカードが場から墓地に送られる場合、代わりに除外領域に置かれる

 


 

 

 俺が憶えている限りだと確かこいつのテキストはこうだったか。

 たまに前世のカードよりも弱かったり、強かったりの誤差はある場合があるが、こいつは変化していないタイプだったのを憶えている。

 

 そして、あの<沈黙>の使い方。

 天儀のターンでの使い方だから、優先権的に打ち消しをしないと俺のカードが使えなくなる。

 だから正しいが、クリーチャーの攻撃も出来なくなる効果は相手のターンに使わないといけない。

 確実に通す、マスカウのための前方確認としては正しい。

 

 正しいが、天界龍は別にマスカンじゃない。

 

 先程上げた通りの弱点類、対処方法――それぐらいは想定してるはずだ。

 天儀ほどのパーミッション使いがそんな隙を理解していないわけがない。

 沈黙の弱い打ち方、マスカンとしての偽装。

 間違いなくサブプラン、別の勝ち方を用意している。

 コストと効率を考えれば多分自滅前提のデッキ削り、ライフ交換、ダメージ引き換えの火力類……

 まあ天界龍辺りをやっきになって除去で手札使い切ったら死ぬという流れか。

 

「ふむ」

 

 そこまで考えて、息を吸って切り替える。

 要点はまとめた。

 頭の隅においておけばいい、ミスしないことにだけ囚われると思考リソースが足りなくなる。

 カードの種類は多く、俺も知らない奴もあるんだ。知らない殺され方だってある、だから考えすぎても意味はない。

 優先順位を決める。

 あとは……彼女が妖鬼管弦楽団(トロルオーケストラ)の内容を憶えているか

 

 自分の手札を薄目で確認する。

 

 この()()()()()()()()()()()()

 

 それが鍵になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 間違いなく特殊勝利だ。

 

「ドアのターンエンドです」

 

 (ドア)はエンドを告げる。

 

「なにかありますか?」

 

「ありません」

 

 墓地発動をしてこない。

 彼が墓地発動でなら<沈黙>をすり抜けられることに気づいていないわけがない、と思います。

 

「俺のターン。レディ、アップキープ、ドロー」

 

 ああ、このタイミングで沈黙を打ちたかった。

 けど、前のターンに引いてしまった。

 天界龍、これを出せるタイミングがあそこしかなかった。

 そうでないと……もうサブプランで詰め手順を仕掛けるつもりだったのです。

 

「ライフ、メインを1枚ずつドロー」

 

 彼は動揺してくれたでしょうか。

 沈黙まで打っておいて、これが大事なものだと誤魔化されてくれたでしょうか。

 

 天界龍に出来れば2枚、1枚でもいい。除去やターンを費やしてほしい。

 

「メインフェイズ1」

 

 音を立てないように息を吸う。

 ボードを操作し、公開情報の墓地カードを確認。

 中身まで一枚ずつ見てる暇がないから、名前リストだけショートカットで表示。

 見逃しがないように確認する。自分のターンでも一度、相手の手順中でも一度ずつ。

 

 見逃せば負ける、それが私の戦い方です。

 

「魔石<音合わせの岩場>をセットします」

 

「どうぞ」

 

 丁寧な宣言で、流れがわかりやすい。

 普段のファイトだとさっさと手順を飛ばす人が多いから、ボードの操作に忙しい。

 使ったカードに合わせて、こちらもカードをセットして発動の割り込みをしないとタイミングを逃してしまうから緊張が途切れない。

 水泳で鍛えてた体力がなかったらとてもやっていけなかったと思う。

 

「コスト3でクリーチャー<早起きのシー・アー>をプレイ、通りますか」

 

「通ります」

 

「<早起きのシー・アー>を召喚、これは速攻を持つ」

 

 彼のフィールドに呼び出されたのは慌ただしく跳ね起きるトロル。

 その手にはトロンボーンが握られていて、けたたましく、慌ただしく吹き鳴らす。

 

 早起きのシー・アーは、五個の決まりを出来るだけ頑張って守って起き上がる。

 

 ――早起きの心得第一条 冷たい湧き水で顔を綺麗に!

 ――早起きの心得第二条 ウッドミントで歯を磨く!

 ――早起きの心得第三条 お腹いっぱいにお山の空気を息を吸って!

 ――早起きの心得第四条 力いっぱいラッパを吹く!

 ――早起きの心得第五条 ゲンコツが嫌ならおひさま出てからラッパを吹くこと(超大事)

 

 そんな物語。

 怖い顔をしているけれど愉快な彼の物語を、私は知っています。

 

「シー・アーの効果発動。墓地から<フィルトー山の赤髪妖鬼、キーラQ>を蘇生」

 

 空気いっぱいに吸い込んだトロンボーンの吹き鳴らしに、目を覚ました一体が蘇る。

 それは赤い、太陽のようにまばゆい赤毛の女性妖鬼。

 

「キーラQが場に出た時、手札から土地をセットすることが出来る。手札から土地をセットする」

 

 1ターンに本来出せるのは土地か魔石のどちらか一枚のみ。

 けれど、キーラQを出せばそれを一枚追加出来る。

 土地をクリーチャー化出来る、妖鬼管弦楽団(トロルオーケストラ)の戦い方としてはとても大事。

 

 彼の手札は残り3枚。

 私の手札は残り4枚。

 

 無駄打ちは出来ない。

 

 

手札から<偉大なるネズミの楽王>をプレイします、通りますか?

 

 

 もう一体の切り札!

 

「効果の説明をお願いします」

 

 手を上げる。

 ないとは思うけれど、プレイを続行するならば打ち消せるようにカードは掴んだまま。

 

「説明をします。<偉大なるネズミの楽王>は唯一無二(ユニーク)クリーチャー、召喚コストが13あるもののこれは自分のライフが初期ライフより少なければ少ないほどコストが軽減されます。ステータスはたったの3/3です」

 

「それ以外の効果はなんですか?」

 

「2コスト支払って起動することによって、墓地からクリーチャーを蘇生。そのカードコストが自分のコントロールする土地枚数以下になるようにですね」

 

「合計コストですよね?」

 

「そうだよ?」

 

 彼のコントロールする土地は8。

 つまり、合計8コストまでのクリーチャーが並ぶのだ。

 複数体で。

 

 妖鬼管弦楽団(トロルオーケストラ)がフルメンバー出揃うじゃないですか!

 

「通しません」

 

「ですよねー」

 

「瞬間魔法<苦渋の運命>で()()()()()()()、ネズミの楽王を打ち消します」

 

 

「は?」

 

 

 手札を1枚消費した。

 これで残り3枚。あちらは2枚。

 土地は残り2枚です。

 

「待って、今何のカード使った?」

 

「<苦渋の運命>は5コストで魔法・能力を打ち消しますが、0コストで使用してもいい。その場合()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 0コストで打ち消せるが、対価は5点ライフのロスト。

 土地にも出来ず、迂闊に乱用すれば即敗北に繋がるデメリットの大きすぎるカードだ。

 けれど、天界龍を出していればこのデメリットを踏み倒せる。

 

 私はライフが0になってもファイトを続行できるのだから。

 

 

「……」

 

 

 さすがの茂札さんでも困惑している。

 もしかして、ライフ0でも大丈夫なことに気づいていない?

 いやまさか……

 

「それ……どこで手に入れた?」

 

「えっ」

 

「まだ確か刷られてないはず。レアではあるとおもうけど、レガシーとかだったりしないよね?」

 

「もしかして…………<苦渋の運命>です?」

 

「うん。どうやって手に入れたか教えてくれると助かるんですが、どうでしょうか」

 

「えっと……普通にカードショップで売ってましたよ? シングルでしたけど」

 

「えっ゛!? マ゛シ゛テ゛!? どこ!? どこで?! 店名は?! 近所にある?!」

 

「え、あの、近所じゃないです……エレウシスのショップです。エレウシスはテスト用にまだ流通してないパックとかが先に入ってくるらしいので」

 

「まさかの先売り!? 幾らだった??」

 

「え、あの」

 

「多分十数万ぐらいだと思うんだけど、よく買えたね」

 

「いや、これ安かったですよ? デメリット多くて外れ品だからって、でも一応レアだから六千円ぐらいって」

 

「は???」

 

「ピィ!!」

 

 怖い!

 茂札さんの顔が怖い!

 まるで親の敵を見るような顔です!

 

「ふざけんな、なんて特安だ。保護しなきゃ、エレウシスだな! 憶えてたらでいいから後で店名教えて、明日にでも直行してくる」

 

「茂札くん。エレウシス・カレッジは、夏と冬のエレウシス祭の時しか一般開放されてないよ」

 

「え、そうなんですか店長?!」

 

「そんな凄んでも本当です」

 

「嘘だー!!」

 

 なんか頭を抱えてしまった茂札さん。

 

 

 どう考えても、天界龍を出した時よりショックが大きいんですけど。

 

 困ったような顔を向けるな。

 お前がもっと凄み出せ。

 

「…………天儀さん」

 

「はい」

 

「その、余ってたらでいいんですが、本当に余ってたらでいいんですが、その1枚、出来れば2枚ぐらい適正価格よりちょっと高めでいいんで売ってくれませんか」

 

「えっ」

 

「二万ぐらいなら出しますので、2枚でなら五万ぐらいでいいですかね……サレン! 指立ててるんじゃねえ!! 初手6万は卑怯だろ!」

 

 なんか観戦スペースにいた店員さんが右手でサムズアップしてた。

 と思ったら、なんか左手で人差し指を立てて振ってる。

 

「10万だと!? くそ、俺も出すかせめて1枚でも! 12万で! 俺が先に交渉してるんですけど! ほら、抑えて! ユウキちゃん、抑えて! そこの金持ちを抑えろ、防災なんてもってるセレブは下がってろ!」

 

「……すみません。私も自分が必要な分しかもってないんで売れないです」

 

「そっか」

 

「ごめんなさい」

 

 <苦渋の運命>は今デッキにいれている2枚と予備の1枚しかもっていない。

 デメリットを踏み倒せる天界龍がなかったら、その場凌ぎにしかならないカードだし。

 でも使ってみると意外と便利ではあるし、助けられることも多いから欲しくなる気持ちはわかる。

 

「……サレンダーしたりとかしたら売ってくれたり?」

 

「やめてください」

 

「ジョークジョーク」

 

 かなり目が本気だったんですけど。

 

「ファイトを再開します」

 

「どうぞ」

 

「魔石を起動、<音合わせの岩場>の効果を使ってトロル二体をステイに。4コストを生成します」

 

 <音合わせの岩場>は妖鬼管弦楽団のサポート用カードだ。

 魔石だから召喚酔いなく使えるし、単純に起動するだけでも1コスト生み出す。

 代わりに種族トロル、楽団のメンバーをステイにすることによってその数x2のコストを生み出す。

 

 ただし、自分のターン中でしかもメインフェイズでしか起動出来ない制限がある。

 音合わせの練習は自由時間にしか出来ない。

 

「続いて、魔法<水銀の鏡蛹>をプレイしたいです。通りますか?」

 

「?」

 

 水銀の鏡蛹……?

 楽団にそんなカードはあっただろうか。

 いやまって、たしかジグ部長から聞いた憶えがある。

 

 そうだ、思い出した。

 茂札さんのデッキで使われていたカードだっていってた。

 確か5コスト、墓地からも使える。その場合、自分のクリーチャー1体を除外する。

 効果は場にいる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を出す。

 

 ステータスは変化しないものの、確か同名クリーチャーであることを利用したコンボをされたといってました。

 だとすると握ってる残り一枚はそのカード? 特殊勝利ではない?

 

 いや決めつけは危険です。

 

 コピーされて厄介なクリーチャーはいるでしょうか。

 <早起きのシー・アー>は速攻だけ。

 <フィルトー山の赤髪妖鬼、キーラQ>は高いステータスと気難しく毎ターン土地を出していないとエンドフェイズに墓地に送られるデメリット。

 あとは私の<律たるもの天界龍(エンジェルハウンド)>。

 

 あれのゲームに敗北しない効果で引き分け狙い?

 それなら単純だ。

 天界龍は破壊出来ないだけで、コントロールを奪われてもすぐに対処出来るように用意はある。

 墓地起動で手札に戻すバウンスもあるからいつでも引き戻せる。

 

 これを打ち消すべきでしょうか。

 

 手札を見ないで思い出す。

 私の手札はフィニッシャーの秘宝<砂の天秤>と瞬間魔法<精還元>と土地が1枚。

 <精還元>は3コストで魔法・能力の打ち消しが出来るけど、ライフカードを1枚捨てることによって2コストで発動出来る。

 その場合、3ライフ回復する効果まで発揮出来る。

 

「――」

 

 特殊勝利かコンボ用のカードを茂札さんなら握ってる。

 残り一枚が間違いなくそれだ。

 

 だから。

 

「通ります」

 

 この次が本命。

 見逃さない。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

「え?」

 

 そんな言葉に思わず目線を向けた。

 茂札さんは、こちらを見ていた。

 

 まっすぐに見ていた。

 

「偉大なる鼠の王は言った。自分が死んだあとにわかると、つまりそういうことになった」

 

「どういう……」

 

「魔法<水銀の鏡蛹>を発動、君の場にいる<律たるもの天界龍(エンジェルハウンド)>の名前、常時効果をコピーした3/4のコピーが生成される」

 

 じくじくと。

 フィールドから染み出すように水銀の水たまりが広がり、それは鏡となって現れた。

 最初は私の姿が映り、その次に私がコントロールする天界龍が浮かび上がって――鏡から現れる。

 

 ()()()()()()()()

 

「伝説の、天界龍をコピーですか」

 

 けれど、そこから感じる圧力は薄い。

 飛行、瞬間発動、破壊されない効果は持ち合わせている。

 ゲームに敗北されない効果もあるし、破壊されたら除外されるのもそっくりそのまま。

 

 けど、それだけ。

 

「想定済みです――ドアの前に敗北の扉は開かれない

 

「いいや、開くさ」

 

 そういって茂札さんは片手を上げて。

 

 

 

 

「もう鍵はこじ開けた」

 

 

 

 

 バキン、と音がした。

 

「え?」

 

 音がしたのは私の背後。

 振り返る、そこには天界龍がいるはずだった。

 だけど、その体はさらさらと砂のように崩れていく。

 

 苦悶の雄叫びを上げながら身体をくねらせて、その端から砕けていく。

 

「なっ!? なんで!?」

 

 天界龍は破壊されないはず!

 何かのカード効果? でも茂札さんは宣言をしていない。

 私がなにかした?!

 

「ルール効果だ」

 

「ルール?」

 

「ルールを変革する律たるものでも、全てのルールは破れない」

 

 

「――唯一無二(ユニーク)()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 崩れていく。

 

「故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これはルールによる処理であり、死亡でも破壊でも生贄でもない」

 

 苦悶を上げる私の天界龍を見下ろして、鏡越しの天界龍は吼えた。

 

「――唯一無二の称号は継承されていく。ターンエンド」

 

 指が高々と鳴った。

 

「俺は許可を求めさせない」

 

 そうして、私の天界龍は葬り去られた。

 

「ッ」

 

 まさか、そんなルールがあったなんて。

 いやあった。

 ただ意識してなかっただけ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まだです! 私のターン」

 

 私のターンになれば、あちらの天界龍も処理出来る。

 

「レディフェイズ! アップキープフェイズ!」

 

 引くカード次第で手札は増やせる、土地はまだたくさんあるか、ら――

 

「……アップキープフェイズ?」

 

 まて。

 まって。

 

「俺は扉を開かない」

 

 アップキープは。

 

 

「開くのは君の手だ」

 

 

 私の残りライフは。

 

 

 

「運命は扉を叩く」

 

 

 

 残り4枚。

 手に触れるはずだったライフデッキは――目の前から消え去った。

 

「あ」

 

 <苦渋の運命>が訪れた。

 

 

 

 

 

 

「グッドゲーム。俺の勝ちです、対戦ありがとうございました

 

 

 

 

 

 







 運命は自分の顔をしているものだ。


             ――銀鏡の幻視者(水銀の鏡蛹より)
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