傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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有り難いことに評価10の数が100を超えました。
普段はそこまで評価は気にしないのですが、流石に100超えは特別感があります。何せ☆10はサイト内最高評価ですからね。拙作がハーメルンの中でも最高クラスに面白いと100人以上の方に思って頂けたということで、これは大変に名誉なことです。
勿論、☆10以外の評価もとても有り難いです。評価したところで読者に何か特典があるわけでもないのに、わさわざ手間を割いて評価を頂けるというだけでもう幸せです。趣味で書いただけの毒にも薬にもならねぇ小説に☆貰って食うメシは美味ぇか? 涙が出るほど美味ェ……

というわけで限りない感謝と共に第四十一話投下です。次回は修羅場だと言ったな? スマンありゃ嘘だった。



41.復活の「I」

「あ、アイさん!? 死んだはずじゃ……!?」

「残念だったね、トリックだよ!」

 

 まさに感動の再会、という感じだったアクアとルビーのそれとは異なり、アイとミヤコさんの再会はそんな何とも言えぬ空気感の中で行われた。

 まあ、ミヤコさん視点では二人の時より更に何の脈絡も突拍子もなかったので仕方ない。普通に玄関からひょっこり故人が現れたのだから腰を抜かすのも(むべ)なるかな。

 

 

 時は宮崎での一件から数日経った週末の昼下がり。MV撮影と慰安を兼ねた宮崎旅行から帰ってきてすぐ次の仕事に取り掛かろうとしていたミヤコさんに無理を言って少し時間を作ってもらい、現在僕は人目につかないよう事務所ではなくミヤコさんとアクアとルビーが暮らす──今は家政夫(めしつかい)壱護(いちご)さんもいるが──自宅にお邪魔していた。

 

 無論、その目的は遂に実体化を果たしたアイと引き合わせるためである。これまでは説明しようにも目に映らないのでは難しかったのと、万が一実体化が不可能となった場合にぬか喜びさせないよう黙っていたのだが、こうして無事実体化できた以上は秘密にする理由もない。

 

 とはいえ、あれこれ説明するより実際に見た方が早かろうと事前説明の一切を省いて「大事な話がある」としか伝えなかったのが良くなかったのだろう。玄関に入るなり霊体から実体に移行し僕の背後からひょっこり顔を覗かせたアイを見たミヤコさんは見事に腰を抜かしてしまったというわけである。

 やはり疑われるなり怒られるなりしてでも多少の事前説明はあった方が良かったかもしれない。アイはミヤコさんを驚かせられて満足げにしているが、流石に身も世もない悲鳴を上げながら「成仏してくださいいぃぃぃ!」と叫んでいる彼女を見ていると居た堪れない気持ちになってくる。

 

「悪霊退散! 悪霊退散! 壱護はどうなってもいいから私は助けて!」

「悪霊とはご挨拶だね。でも私は寛大だから加藤元社長のダッセぇグラサン一つで勘弁してあげよう!」

「おいコラ何シレッと俺を人身御供にしてんだ。あとこのグラサンはダサくねぇし俺は加藤じゃなくて斉藤だ!」

 

 ちなみにアイの存在を知っていた壱護さんにはちゃんとアポを取る際に事情を説明している。彼がそれを知っている、ということもアクアとルビーには説明済みだ。本当に何も知らなかったのはミヤコさんだけである。

 

「よく来てくれた、シオン。とりあえず上がってくれ」

「いらっしゃいママ! ケーキ買ってあるから一緒に食べよ!」

「わぁい食べる食べるー!」

「お、お邪魔します」

 

 アクアに招かれ家に上がらせてもらう。その横を年の近い姉妹同士でじゃれ合っているようにしか見えないアイとルビーが和気藹々と通り抜けリビングに向かっていくのを、ミヤコさんは愕然と目で追っている。

 

「ど、どういうことなの……? これは幻覚……? イヤ…幻覚じゃない……!……イヤ…幻覚……? やっぱり幻覚なの!? イヤ……何なのこれは!?」

「これが情報量の差か……混乱する気持ちは分かるが取り敢えずリビングに行こうミヤコ。そこでアイとシオン君が全部説明してくれるから」

 

 混乱するミヤコさんを宥めつつその腕を引く壱護さん。いや本当に申し訳ない。結果的にそうなってしまったというだけで本当に他意はないのだ。あったとしてもそれはアイだけだ。何せ「説明不要ッ! 見た方が早い!」と強く主張したのは彼女なので。

 

 アクアに案内されてリビングに場所を移し、既にルビーと一緒に仲良くケーキをパクついているアイの隣に腰を下ろす。ルビーと僕でアイを挟んで座っている形だ。

 テーブルを挟んだ向かい側に壱護さん、ミヤコさん、アクアの順で席に着いた。まだ混乱が収まらず目を白黒させているミヤコさんを正面にしたアイはケーキを口に運ぶ手を止め、フォークを置いて口を開いた。

 

「久しぶりだねー夫人。まあ私視点だとそんな久しぶりでもないんだけど……元気してた?」

「……本当に……アイさん、なのね……」

「正真正銘、アナタのアイドルB小町のアイさんですよー☆ ちなみに実は死んでなかったとか、死んだけど古の秘法で生き返ったとかそういうんじゃないからね」

 

 そうしてアイは自分が死んでからの出来事をミヤコさんに語っていった。火葬によって魂が完全に肉体から剥離した後、その状態で暫くその辺をさ迷っていたこと。その時、偶然近くにいた僕に引き寄せられた結果、僕の魂のエネルギー──ツクヨミは霊力と言っていたが──を糧とすることで魂だけの状態で生き永らえたこと。そこから徐々に力を付けていき、やがて物質に干渉できるようになり、先日遂に完全な魂の物質化を果たしたこと。

 

「かくして苦節十二年! 念願叶って実体化した私はこうして帰ってきたというわけなのでしたー! 要は全部シオンのお陰ってわけ。ね? シオン♡」

「まあ、大体そんな感じです……ずっと黙っていて申し訳ありません。確実に実体化できるという保証もなかったので、事情をお話しするのに時間がかかってしまいました」

「いえそんな! 謝らないでください」

 

 涙を拭ったミヤコさんは僕とアイを見て柔らかく微笑んだ。怒ったような様子はなく、ようやく目の前の光景を現実のものと飲み込めてきたのか、困惑の色が薄れその表情は喜びを噛み締めるようなものに変化しつつあった。

 

「むしろ謝らないといけないのはこちらの方です。うちのアイが大変お世話になったようで……壱護はこのことを知ってたのね」

「JIFの時にこいつに見つかってな。あの時は色々と精神的に限界だったから見かねて教えてくれたんだが、その時点ではまだアイは俺の目には見えなかった。……本当にアイなんだな。いや、信じてなかったわけじゃなかったんだが、やはりこうして目で見えると得られる実感が違うな」

 

 この二人の反応を見る限りでは、やはりギリギリまで黙っていたのは正解だったのだと思わざるを得ない。正直星野兄妹とミヤコさんを前にしてアイのことを黙っているのには罪悪感があったのだが、下手をすると修復不可能なまでに拗らせてしまう恐れもあってずっと言えなかったのだ。

 

 初対面でいきなり暴露するのは論外。僕への信用も信頼もない状態でアイのことを伝えても「こいつは何を言ってるんだ」と呆れられて終わりだ。いや、呆れられるだけならまだしも無用な警戒を招く恐れもあった。何せ世間的にはアイに子供はいないことになっているのだ。いきなり現れた男がそれを知っている時点で怪しさ満点。もしかしたら知らないはずの知識を持っている点から信用に繋がる可能性もあったかもしれないが、それに賭けるのはあまりにもリスキーだ。アクアとルビーのアイへの想いの強さを知った今ではなおのことそう思う。

 だから最低限「こいつの言うことなら少しは耳を傾けてやるか」と思ってもらえる程度には仲を深め信頼を得る必要があったのだ。結果的に想定よりも早くアイが実体化できたのでその必要もなくなったわけだが……まあ終わり良ければ全て良しということで。

 

「……というか話を聞く感じだと、もしかしてシオンはアイのために進路を決めたのか? 俺とルビーに近付くには確かに同じ学校に通うのが一番手っ取り早かったろうが……俺の立場で今更こんなことを言うのはどうかとは思うが、本当にそれで良かったのか? アイは過去の人間だが、お前は今を生きてる人間だろう。他にやりたいこと、選びたい進路はなかったのか?」

「陽東高校を選んだのも芸能界に入ることを選んだのも自分の意思だよ。知っての通り僕は孤児でお金がなかったから、僕の学力でも特待生枠を期待できる陽東は狙い目だったし……それに」

 

 それに、僕とてアイを……かつて一世を風靡したアイドルの姿を間近で見て育ったのだ。血の繋がりはないが、過ごしてきた時間はアクアやルビーよりも長い。それだけ共にいれば少なからず影響を受ける。アイのようなキラキラした人間になりたい……僕がそう思うようになるのは必然だった。

 

 無論、芸能界がただ綺麗なだけの場所でないことはアイを見て分かっていたし、頭の冷静な部分はもっと安定した職に就くべきだと主張していた。芸能人など水商売、もっと普通の企業に就職して堅実に生きていくべきだと。

 そう思いつつもこの道に進んだからこそ今の僕がある。結局憧れを捨てられなかったということだ。そして僕はそれを全く後悔していない。

 

「アイは一度も強制はしてない。彼女がくれたのは切っ掛けだけ。芸能界に入ることを決めたのは僕自身の意思だから、アクアが気に病む必要はないよ」

「そうか……それなら良いんだが」

「それに結果論だけど、ほら、今の僕結構成功してるでしょ? 大手プロダクションに所属できたし、マジックショーも大成功でかなり話題になった。親なし金なし家なしの僕だけど、これならもう将来は安泰なんじゃないかな」

「近年稀に見る大成功だと思うぞ。デビュー一年目でここまで話題になったタレントなんて数える程もいないだろ。……そういや、何で超能力者なんだ? アイに憧れたっていうならアイドルとか俳優じゃないのか?」

「それはアイが人目を忍ぶことなく表を歩けるようにするためだね。『今ガチ』の時に話したこと覚えてる? 最初は霊能力者として売っていこうと思ってたんだよ」

 

 こうして実体化したアイだが、やはりどうあっても彼女は故人である。これでただの一般人だったなら問題はなかったのだろうが、アイは十年前とはいえ一度はアイドル界の頂点に立った有名人。相応にファンも多く、当然ながら彼女の顔を知る者は多い。そんなアイが顔を晒して外を出歩いて、もし彼女を知る者にそれを見られて騒ぎになってしまっては事だ。

 

 所詮は十年前の有名人、考え過ぎである……と楽観するべきではない。何せアイはとんでもない美人だ。外を歩けば(たちま)ち人目を集めてしまうだろう。そしてスマートフォンが普及した今のご時世である。誰もが高性能カメラを携帯しているに等しい昨今、アイのような目立つ容貌の人物は常に第三者から撮影されるリスクに晒されていると言って良い。

 本来そういった行為は肖像権侵害に当たるのだが、誰もがそれを弁えてくれるわけではなく、公然とそれを無視して他者の顔写真を無断でSNS等に載せる層は一定数いる。そうなった場合、アイの知名度であれば容易くその正体に辿り着かれてしまうだろう。そうなれば世間は大騒ぎだ。

 

 かと言ってこれから先の人生ずっと顔を隠して生きていけ、なんて酷なことは言えない。霊体だった時ならいざ知らず、仮初の肉体とはいえせっかく生身の身体を手に入れたのだ。親子で買い物とか、外食とか、旅行とか生前できなかったことを……アクアとルビーと一緒に大手を振って陽の当たる所を歩いてほしい。

 

「そこで僕らはこう結論付けた……逆に考えるんだ。顔バレして騒ぎになるのが問題なら、敢えてこっちから顔を晒して騒ぎを起こしてやればいいさ、と考えるんだ」

「な、なるほど……?」

「要するにこっちの与り知らないところで騒ぎになって収拾つかなくなるくらいなら、最初からこっちで手綱を握ってコントロールしようってことだね。そのためには僕が強力な霊能力者で、その力でアイを蘇らせたっていう筋書きにするのが都合が良かったんだ」

「……ああ、そういうことか」

 

 まあ、壱護さんと話し合った結果霊能力者じゃなくて超能力者になったわけだが。それが正しかったことは先のマジックショーの成功が物語っているだろう。

 

「確かに、シオンが死んだ人間を蘇らせたって聞いたら『遂にやりやがったなコイツ』って思っても疑いはしないかもしれん……」

「えっ! じゃあじゃあ、ママと一緒にお出掛けできるってこと!? マスクとかサングラスで顔隠さなくても一緒に外歩けるの!?」

「そうだよ〜! まあその辺を公表するのはもうちょっと先……というかシオンの事務所と話し合う必要があるけど……でもあのプロデューサーシオン限定でゲロ甘だし何とかなるっしょ!」

 

 宮田Pにはまた迷惑かけてしまうことになるが……先日もお土産のチーズ饅頭を渡しながら突然宮崎に飛んでったこと謝ったら白目剥いてひっくり返っちゃったし……

 

「物凄い騒ぎになるのは想像に難くないわね……でもよく考えて決めたことなら反対はしません。これから先ずっと姿を隠して過ごせ、なんて話、酷だものね。……それはそれとして、アイさんはこれからどうするの? アクアとルビーと一緒に暮らすのなら、流石に十年前アイさんが暮らしてた家は引き払っちゃったからまずは物件探しね」

「うーん、それなんだけどまだちょっと無理なんだよねー」

「無理? 何か理由があるの?」

「うん。実は私、シオンから五メートル以上離れられないんだよね。シオンから霊力? とかいうエネルギーを貰って生きてるから、離れすぎるとそれが途絶えて消滅しちゃうの」

 

 そう、結局この制約は実体化できるようになっても変わらなかった。

 否、変わらないどころか悪化したと言って良いだろう。ツクヨミ曰く精霊と同等の位階にまで魂を昇華させたアイは、より強大な霊となった代わりに著しく燃費が悪くなった。存在の維持により多くの霊力を必要とするようになってしまったのだ。

 

 一応、僕の方から能動的にアイに霊力を送ることはできるようにはなった。今までは体外に溢れ出た余剰分のエネルギーをアイが勝手に取り込んでいただけで、僕自身はそのエネルギーを知覚していなかったのだが、この間のき……キスによって一度に大量の霊力を直接的に吸われたことによってようやく僕もそれを知覚することができるようになったのだ。

 だがやはり今の今まで自覚していなかった力だけに、生命力譲渡(霊能マッサージ)でその扱いに慣れていたアイと比べて僕の操作はかなり稚拙なものだった。一度試しにとアイに霊力を送ってみたのだが、僕にとってはほんの少量動かしただけのつもりでもアイにとっては過剰な量だったようで、危うく供給過多で破裂させかけてしまったのだ。咄嗟に吐き出していなければ危なかっただろう……あれは過去一の量のゲボだった。アイには悪いことをしたと思う。

 

「だから一緒に暮らすにしてもシオンも含めて四人暮らしになるってわけ。私はそれでも良いって言ってるのにシオンがさぁ」

「僕をパパ扱いしないでくれるなら考えても良いんだけど」

「もう、照れなくてもいいのに♡」

「そういうんじゃないんで……」

 

 ギュッと腕に抱きついて上目遣いしてくるアイだが、騙されんぞ。ルビーも、そんな物欲しそうな目をしてもダメなものはダメです。何なら同い年の君からパパ呼ばわりされるのが一番複雑な気持ちになるんだぞ。

 

「……?? …………???」

「……ミヤコ、気持ちは分かるがそんな目で見られても俺は知らんぞ。俺が再会した時にはアイは既にこんなだった。俺達の知るアイはもういなくて、ここにいるのは恋愛脳(スイーツ)拗らせた喪女の幽霊でしかないんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ」

「おいそこ☆ 聞こえてるぞ☆」

 

 ミヤコさんの心中は察するに余りある。生前のアイがどのような振る舞いをしていたのかは僕には知る由もないが、少なくとも今のようなあらゆる現世の(しがらみ)から解放されてはっちゃけまくってる感じでなかったことだけは確かだろう。十年ぶりに再会した自社のトップアイドルがこんなになってれば唖然とするのも無理はない。

 

「ち、ちょっと待って頂戴。五メートル以上離れられないって、いつからそうなの? 実体化できるようになってから? それとも、ま、まさか初めから……?」

「ふふーん、最初からでーす☆ シオンが四歳だった時からずーっと一緒! ちっちゃい頃のシオンちょー可愛かった〜! もちろん今も可愛いけど☆ ていうか私が可愛く育てたんだけど☆

「ぎ……逆光源氏計画……!? 将来有望な美少年を自分好みに育てて美味しく頂くという、この世総ての女の夢……! 完成していたというの……!?」

 

 もしもしミヤコさん?

 

「しかもエネルギー補給の名目で合法的にお触りし放題! 幽霊だから人目を憚る必要ナシ! オールウェイズ・バックハグ!」

「アイさん……恐ろしい子!」

 

「……?? …………???」

「……シオン君、気持ちは分かるがそんな目で見ないでくれ。君は今の年取って落ち着いたミヤコしか知らないから意外に思うかもしれないが、こいつ元港区女子だから。イケメンとお近付きになるためにこの仕事始めたような奴だから」

「黙りなさい壱護。昔の話よ」

「はい」

 

 そういえばマッサージとは関係なく見た目が若々しいから忘れてたが、もう四十代なんだよなミヤコさん。如何にも落ち着いた大人の女性という雰囲気だったが、なるほど。アクアとルビーも何となく懐かしげな目をしてるし、昔は結構ヤンチャだったのかもしれない。

 

「しかしあのアイがなぁ……誰かを愛するって気持ちが分からないと悩んでいたガキが、変われば変わるもんだ」

「私が愛を知ったのはアクアとルビーのお陰……まあ知ったと同時に死んじゃったわけだけど。でも、シオンのお陰で私は“次”の機会を得ることができた。あり得なかったはずの人生の続き……だから第二の人生は愛に生きるって決めたの。もう私は私の気持ちに嘘を吐かない」

 

「──だからシオン!」

 

 アイは僕の腕を抱きしめる力を強めると、ぐいっと顔を寄せた。吐息が触れるような距離。普段の……いや、以前の僕達であれば別段珍しくもない距離感だ。

 だが、僕は至近距離にある彼女の顔を直視できなかった。目を向ければ否応なく彼女に……彼女の唇に視線が吸い寄せられる。そして脳裏に思い起こされるのは、つい数日前に宮崎で起きた夜の一幕。

 

「私、君のことが──」

「ま、待って……!」

 

 やっぱり駄目だ。

 恥ずかしい。

 

「お……お友達からでお願いします……」

「なんでえええええええ!!」

 

 いくら鈍臭い僕でも、この期に及んでアイの気持ちが分からないということはない。彼女が僕に向けてくれている好意が友愛ではなく親愛の類であろうことは察しがつく。

 そして僕はその気持ちに対し満更でもなく思っている。思っているはずなのに……どうしてだろう、何故かアイのことを直視できない。というかそれ以前として──

 

「き、距離が近い……もうちょっと離れて……」

「まさかの接近拒否!?」

 

 ガーン、とショックを受けたように顔を青褪めさせるアイ。

 いや、勘違いしてほしくないのだが、別にアイのことが嫌いだからこんなことを言っているのではない。むしろ逆だ。なまじ彼女のことを異性として意識してしまったからこそ耐えられないのだ。

 

「なんで!? どうして!? 今まで抱き着いても何も言われなかったのに! ……ハッ! ま、まさか昨日ついに我慢できなくてお風呂場に乱入したのが良くなかった!? もしかして怒ってる!? しばらくやらないから許して!」

「ママその話詳しく」

「ルビー、ちょっと静かにしてような」

「はぁいお兄ちゃん♡」

 

 昨晩の件なら僕もびっくりして反射的に霊圧でアイを吹っ飛ばしてしまったのでおあいこだ。

 

 アイが言う通り、今のように抱き着いてくるなんてこれまでは日常茶飯事だった。昔は気恥ずかしく思った記憶もあるが、今となっては日常的すぎて意識しなくなって久しい。

 では何故今になって急に恥ずかしさを覚えたのかと言えば、それはアイが実体化したからに他ならない。

 

 ぶっちゃけ、今までは抱き着いてこられても生身の人間を相手にしているという感覚に乏しかったのだ。これは別にアイを人として見ていなかったとかそういうことではなく、極めて物理的な話である。

 何せアイは幽霊だ。触れても物質的な感触は全くなく、重さもなければ体温も感じない。例えるならば冷んやりとした空気の詰まった人型の袋といったところだろうか。肌が触れ合うような距離にアイがいる、という事実にドキッとすることはあっても、密着することで得られる感触には何の感慨を抱くこともなかった。

 

 しかし今は違う。実体化したアイには体温があり、触れれば生身の肉体の感触がある。女性の身体、ということならあかねさんをお姫様抱っこしたことがあるので触れるのが初めてというわけではないが、アイの距離感はその比ではない。今までと同じような感覚で全身を使って抱き着いてくるものだから、宮崎での一件以降彼女を意識してしまっている僕としては堪ったものではなかった。

 男の身体とは根本的に異なる柔らかな肢体。香水など使ってないはずなのに不思議と香る花のような匂い。何より、あの日以降こちらへの好意を隠そうともしないその表情。彼女から向けられるどこか蠱惑的でしっとりとした眼差しに僕は混乱しっぱなしだった。

 

「つまり霊体でならボディタッチしまくって良いということだね?』

「そうだけどそうじゃないんだよ……ちょっ、どこ触ってんのさ!」

 

 スゥゥゥ……とアイの肉体が光の粒子となって解れ、一瞬で霊体と化す。そのままスキンシップを続行しようとしてくるが、違うそうじゃない。というかせっかく家族に会いに来てるんだから見えなくなるんじゃないよ。

 

『でもまだ実体化を長時間続けるの慣れなくてキツイんだよ〜ずっと集中してないといけなくて疲れるし〜」

「そうかもしれないけど、練習だと思って頑張ろう? 」

 

 でないと将来的にアクアとルビーと一緒に暮らす時に支障が出るだろう。実体化を維持できないことには二人の目に映らないし、それ以前にまず霊力の扱いに習熟して燃費を良くしないといつまで経っても僕から五メートル以上離れられないままだ。

 

「……そう言えば、あかねのことはどうするんだ? アイも、ずっとシオンと一緒にいたんならあいつのことは知ってるんだろ?」

「……ッッ!!」

 

 すると、ふとアクアがそんなことを問い掛けてきた。その言葉を聞いたアイが顔を強張らせる。

 

 まあ、当然の疑問だと思う。その実態はビジネス彼氏彼女とはいえ、僕とあかねさんは対外的には交際関係にあることになっているのだから。

 当然、アイのことは打ち明けるつもりだ。アイと……その、そういう関係になるならないは別として、その存在を黙ったまま付き合っていたことは確かなのだ。せめてしっかり事情を説明しないとそれこそ不義理というものだろう。

 

「早速明日予定を空けてもらってるんだ。あかねさんにはそこで全てを打ち明けるつもりだよ」

「ふしゃーっ!」

「……見ての通り、アイはあまり乗り気じゃないみたいだけど」

 

 何故か猫のような鳴き声を上げながら威嚇するアイ。

 どうせアイのことを世間に公表すればすぐにあかねさんも知ることになるのだ。遅いか早いかの違いでしかない以上、早いに越したことはないと思うのだが。

 

「おー、おー、警戒してやがる。まあ当然か。何せ相手は現役JKだもんなぁ。張り合うには分が悪いって自覚はあるワケだ」

「クッ、他人事だと思ってニヤニヤしやがって……! 佐藤社長のクセに……!」

「実際他人事だからなぁ! 何とでも言え言え! こんな面白い修羅場見れるんなら少しぐらいの悪口は広い心で受け流してやるよ!」

「やーい“元”社長! 現職アルバイト! 若妻捨てたダメ男! いい歳して金髪なんて恥ずかしくないのー!?」

「ハッハッハ、その手の悪口雑言はミヤコに散々言われたからな! 今更効きゃしねぇぜ!」

ジで夢も希望もない、ラダラ生きてるだけのッサン! 略してマダオ!」

「うおっ……それは火力高すぎ……」

 

 なんて酷いことを言うんだ。人の心とかないのかな?

 マダオ呼ばわりされて流石にショックを受けた様子の壱護さんを尻目に、アイは「そんなことより!」と声を張り上げた。

 

「こちとら永遠の二十歳! 相手が十七歳の現役JKだとしても決して分の悪い勝負じゃないはず!」

「二十歳? 三十二歳だろ」

「シャラップマダオ! 二十歳です! 二十歳で死んだから永遠の二十歳なんですぅー!」

 

 アイの年齢に関しては議論の余地があるだろう。彼女の主張の通り死んで生身の肉体を失った時点で年齢は固定されるのか、それとも意識が連続している以上は加齢していくと考えるべきなのか。これについては魂が経年変化するか否かが論点になるのだろうが、その辺に関して僕はあまり詳しくないのでそのうち専門家(ツクヨミ)の意見を聞きたいところだ。

 まあ、僕はアイが何歳だろうが気にはしないが。お互いもはや死とは無縁の身だ。年齢なんて気にするだけ無駄である。

 

「アイさんが勝負を急いだのはそういう理由だったのね……」

「そういうこと! せっかく十年かけて育てた好みの男の子をぽっと出の女にとられてたまるもんですか! ()られる前に()らないと!

「惚れ惚れするぐらいのハングリー精神……見事だわ!」

「これが恋する乙女のあるべき姿なんだねママ!」

「恋する乙女? 捕食者の間違いだろ」

「シャラップマダオ」

「はい」

 

 まあ、何はともあれ明日だ。自惚れでなければあかねさんはそれなりに僕に好意を抱いてくれていた……と思う。だが、その相手に実は別の女性の幽霊が憑いていて、それなり以上に親しくしていたと知れば少なからず失望を禁じ得ないだろう。僕だって意中の相手の傍に別の異性がいたと知れば複雑な気持ちになるだろうからこれは仕方がない。

 

 あかねさんを悲しませてしまうことになるのは非常に心苦しいが、いずれ打ち明けねばならないことではあったのだ。覚悟を決めるしかないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大事な話がある。直接会って話したいから時間を作ってほしい──LINE経由でシオンからそう告げられたあかねは、遂に恐れていた日が来てしまったことを悟った。

 

(きっと別れ話だ)

 

 交際している男女間における“大事な話”など「別れよう」ぐらいしかあり得ない。大穴で「結婚しよう」のパターンもあるが、これは互いに高校生であるシオンとあかねに関しては別れ話以上にあり得ないので早々に除外される。

 

 あかねは虚脱感と寒気に身体を苛まれながらも、何とか震える手を動かし返信の文面を打ち込んでいく。

 

 恐れてはいたが、可能性として常に覚悟していた事態ではあった。所詮、シオンとあかねはビジネス彼氏と彼女……番組(今ガチ)の延長上の関係でしかなく、この現状はシオンの温情によって維持されていた仮初の幸福に過ぎない。

 そうと理解していてなお、あかねは目前に迫る破局に打ちのめされるばかりだった。それだけシオンと恋人関係でいられた数ヶ月間は夢のような時間だったのだ。

 

(何がいけなかったんだろう……)

 

 あかねの自惚れでなければ、仮初の恋人関係とは思えないほど大切にされていたように思う。お互いに忙しい身のためそう頻繁にとはいかなかったが、それなりにデートも重ねてきた。無論、ファン向けの彼氏彼女のアリバイ作りという名目ではあったが、そこに義務的な空気感はなく、シオンはいっそ献身的なまでの甲斐甲斐しさでエスコートしてくれたものだった。

 あるいはそれが良くなかったのだろうか。あかねは自問自答する。夢のような時間に浮かれて甘えすぎていたのかもしれない。彼から与えられる好意に対し、果たしてあかねは何か返せていただろうか。

 

(それとも夜な夜な長電話してたのが良くなかったのかな……)

 

 あかねは会えない時間を埋めるように度々長電話に興じていたことを思い起こす。時にはベッドに横になりながら寝落ち通話をすることもあった。直接会うのとはまた違った特別感に浮かれつい長時間話し込んでしまっていたが、楽しんでいたのはあかねだけでシオンは負担に思っていたのかもしれない。

 

 いずれにせよ、今更悔やんだところで後の祭りである。三日後に会う約束を交わしたあかねは暗澹たる気持ちになりながらスマホを置いた。

 

 それからの三日間は非常に長く苦しい時間だった。何度こちらから電話して“大事な話”について問い詰めようと思ったか知れない。早く答えを知って楽になりたいと思う反面、永遠にその日が来ないでほしいと願う自分もいる。二律背反があかねを苛んだ。

 

 だが、あかねがどれだけ苦しもうと自ずと時間は過ぎ去っていく。ふと、顔色悪く約束の日を迎えたあかねは明日がクリスマスイブ──シオンの誕生日であることを思い出した。

 激動に満ちた一年が寒く寒く閉じ行き切り替わろうとしていた。少し前まではこのような気持ちで年末を迎えるなんて想像もしていなかった。既にプレゼントも用意していて、楽しいクリスマスを過ごすはずだったのに。

 

(……でも、まだ別れ話って決まったわけじゃないし)

 

 精神的に死にそうになりながらも、あかねはまだ僅かな希望を捨て切れずにいた。端的に未練タラタラだった。

 だが、全く根拠のない希望的観測というわけでもなかった。あかねにそう思わせるのは、今も部屋に大切に飾ってあるダイヤモンドの花束の存在が故である。

 

 貴金属や宝石の類にそこまで強いこだわりのないあかねをして、見る度に思わず陶然とため息を零さずにはいられない。恐ろしく精巧で神秘的な作りのそれは、シオンが超能力者として鮮烈なデビューを飾ったイリュージョン・マジックショーにおいて手ずから生み出し、サプライズとしてあかねに贈られたものだった。

 常識的に考えて、これほど手の込んだものを全く気のない相手に渡すだろうか。いや、そんなはずはあるまい。何せこれを贈られてからまだそこまで日が経っていないのだ。これほどのものをプレゼントしておいて、その僅か数日後にすぐ別れ話を切り出すなどあり得ない……というよりあってほしくなかった。もし本当にそうだとしたらあまりにも残酷すぎる。

 

 そうだ。よしんばこれから切り出されるのが別れ話だったとして、もしかしたらシオンにとっても不本意なものである可能性もある。

 

 例えば、事務所から別れるよう圧力が掛かった可能性だ。先般の舞台「東京ブレイド」とマジックショーによって、今やシオンは一躍時の人である。ここからどんどん人気を得て更なる飛躍を果たすであろうことは想像に難くない。

 何よりあの容姿だ。夢のような麗しさを体現し、祝福の神像のようにして在る彼の女性人気は比類ない。それはある種の偶像(アイドル)的な人気であり……そしてアイドルに処女性を求めるのは何も男性だけではないという現実がある。

 

 そう。女性ファンを獲得する上において、あかねという交際相手の存在は邪魔以外の何物でもないのだ。世の女性が憧れて止まないアイドルの傍に女の影がある……それだけで離れていく層は一定数存在することだろう。それを厭った事務所が交際関係の解消を図ったとしても何も不思議なことはない。

 

 そうであるならば、確かに悲しいがまだ救いのある破局だった。何故ならシオンに嫌われたわけではないからだ。都合の良い夢だと笑わば笑え。シオンに嫌われるくらいなら死んだ方がマシだと、あかねは本気でそう考えていた。

 

 あかねは庭の鉢植えに植えられていたスグリの花*1を一枝手折ると、それを手に家を出た。場所は奇しくも初めてのビジネスデートで待ち合わせた駅前の噴水広場である。あの時と決定的に異なる点は目的地へ歩を進めるあかねの目が死んでいることだろう。

 

 だが変わらぬ点もある。それは待ち合わせ場所に近付くにつれ明らかとなっていった。

 

 駅を出てひと目ですぐに分かる異様な空気……恐ろしく静まり返っているのに、静けさとは正反対の熱気が渦巻いているのだ。その熱気の正体は駅前にいる人々の視線であり、それらが集中する先にあるのはただ一人。その人物は常以上の勘の鋭さを発揮し、まだ広場に足を踏み入れてすらいないあかねの気配を悟って首を巡らせた。

 その僅かな挙動だけで熱気が膨らんだかのようだった。周囲の視線の圧を弄ぶ様も艶やかにして、広場の中心に立つ一人の少年の姿がある。遠目にも端正な彼こそはあかねが恋してやまない相手……桐生(きりゅう)シオンその人だった。

 

 その時、風が吹いた。広場を駆け抜ける一陣の風がシオンの黒髪を舞い上げる。まるで世界が彼の表情が周囲へ表出することを望んだかのようだった。

 あかねと視線が合ったシオンが微笑んだ。しかしそれは何という微笑みだろうか。紫水晶(アメシスト)を思わせる神秘の瞳が妖光を発していて、まるで深い深い谷底から霊気が立ち昇ってくるかのようだ。しかもそれは熱い。見た者の目から入って内側を……心を、魂を焼く。焼き付く。あかねは眼底にその色が永遠に焼き付いて残ることを確信した。

 

 あかねは思わず駆け寄り、シオンの胸の中に飛び込みたい衝動に駆られた。彼の微笑みに常とは異なる緊張が僅かに滲んでいることを察してしまったから。その胸に縋り付いて、捨てないでくれと、嫌わないでくれと人目も憚らず泣き喚くことができたらどれだけ良いか。

 だが、それは許されない。それだけは決して許されないことだった。シオンに命を救われ、番組で生じた関係を利用してその寵愛を受け続けてきたあかねにその資格はない。自分の存在が彼の道行きの障害となってはならないのだ。あかねに許されているのは、障害となってしまうその前に潔く身を引くことただそれのみ。

 

「……お待たせ、シオン君」

 

 だから、あかねはその衝動を心の奥底に押し込んで、ただ寂しげに微笑んだ。

 

 その微笑みの裏に、底知れない諦観と悲しみを秘めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、紹介するね。こちらは星野アイ。僕の……なんて言えばいいんだろう。えっと、僕に憑いてる幽霊です」

「シオンの彼女の星野アイで〜す☆ 君のことはずっと見てたから知ってるよあかねちゃん!」

 

「………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?」

 

 芸能人もよく利用するという完全個室を備えた喫茶店の一室にて、シオンとその隣に当たり前のような顔をして座る知ってるけど知らない女と向かい合ったあかねは、目の前の光景を理解するのに多大な時間を要した。

 

 どうやら別れ話というわけではなかったようで、個室に入り席に着いたシオンの第一声は「ずっと秘密にしていたことがあり、それについて謝らないといけない」というものだった。いよいよとなった時は手折ったスグリ*2の枝の鋭利な断面が自身の首筋に向かう可能性もあったが、幸いにしてその必要はなくなったらしい。

 

 尤も、そのすぐ後に別の女を紹介されることになるなどとは思いも寄らなかったが。浮気だろうか。あかねはもう出番はないと思っていたスグリ*3の枝を握り直した。

 

 だが、一瞬頭に血が上りかけたあかねは目の前の女性の顔を見てすぐに冷静になった。初対面なのは間違いないが、それはあかねにとってもよく知る顔だったからだ。その才能を模倣するべく散々に分析した相手なのだから既視感があるのは当然である。

 

 しかし相手は故人だったはずだ。それが何故、かつての姿のままこの場にいる? 手品のように唐突に虚空から現れたことと関係があるのか? ていうか何それが当然みたいな顔してシオン君と腕組んでるのそこ私の場所なんですけど!!

 

「あかねちゃんのことはそれなりに認めてるけど、君はあくまで二番目だから☆ そこんとこ弁えてシオンと付き合ってね☆」

「何だァ? てめェ……」

 

 これみよがしにシオンに身体を押し付け、その首筋に顔を(うず)める間女(アイ)の姿。かつてネット上で間女と呼ばれ弄ばれた経験のあるあかねは本物を目の当たりにしたことで一瞬でキレた。手の中で淡い黄色の花を咲かせていたスグリ*4の枝が木っ端微塵に粉砕される。粉塵がパラパラと床に落ちた。

 


 

桐生(きりゅう)紫音(シオン)

 ひっくり返っても勝ちようない(ゲッター)

 君だけルールは適用外(上位次元出身)

 君が笑顔で放ったアバダケダブラ(ストナーサンシャイン)

 

 お前達もデンレゼ最高と言いなさい(mrnakm並感)

 

 しかしそんな完璧で究極のゲッターの悪魔も恋する乙女の猛アタックの前には形無しだった。というか良くも悪くも平常時の「愛らしさ優先で色気は控えめ」というアイドル的な振る舞いのアイに慣れ切ってしまっていたため、急に「女」を前面に押し出してきたアイの姿に耐性がなく困惑しているというのが実情。例えるなら可愛がっていたミミロルがある日突然ミミロップ通り越してメガミミロップになり、媚び全開のスキンシップ攻勢を仕掛けてきたようなものである。

 

 でも今は、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。問題なのは遂にシオンが自身の魂のエネルギー……霊力を認識してしまったことである。

 

 傷口から流れる血で心臓と動脈の拍動を自覚するように、シオンはアイのキスによって自分の中にある霊力が動く様を知覚した。これを切っ掛けに、遂にシオンは霊力を操作する術を身につけたのである。疫病神ちゃんの恐れていた事態が起きてしまったのだ。

 

 シオンがやばいのは魂がデカイから。そのやばい魂のエネルギーを能動的に出力する術を知ってしまったからにはもう……ネ……

 

 

星野(ほしの)アイ】

 宇宙そのものに匹敵する巨大な魂の生み出すエネルギー……その総量はもはや人類の想像が及ぶ範囲を逸脱して余りある。

 アイは心のどこかで甘く見ていたのだ。そうでなければ、安易に「シオン自分で霊力動かせるようになったの? なら試しに私に送ってみてよ!」なんて言葉が出てくるはずがない。

 今までのアイは、例えるなら地上に降り注ぐ陽の光を浴びていただけ。その心地好い暖かさを以て太陽本来が持つ熱量を侮り、直接それに触れに行けばどうなるか。

 

 そうだね。大惨事だね。

 

 これがギャグ小説でなければ木っ端微塵になって鬱展開オチか、過剰なエネルギーをブチ込まれたことで暴走モードになってバトル展開オチになるところだった。ギャグ小説だったから特大ゲボで済んだんだ。ゲイリーがあなたにギャグオチを持ってきたよ。ゲイリーにありがとうと言って。

 

 ちなみに実体を得てメガミミロップにメガシンカしたアイだが、本音を言うとシオンの方から好きと言ってもらいたい思いはある。女の子なので。

 にもかかわらずやたらスキンシップでアピールしたり、今回はお断りされたが自分から告白しかけたのは、(ひとえ)に焦りがあったからだ。

 

 そう……自分と違って今を生きる人間であり、現役JKという希少価値があり、自分ほどではないが(←ここ重要!)可愛くて、頭が良くて芸能人としての才能も申し分ない女の子──黒川(くろかわ)あかねという恋のライバルの存在である。

 

 

星野(ほしの)アクア】

 今更ながらシオンが自分の進路も将来設計も何もかもをほぼ全てアイのために決めていたことを知って震える。キミグッドドルオタ(ファイター)として認めるネ(震え声)

 元々好感度が高かった上にアイの恩人と知ってからは更にそれがカンストし、もはやアクアにとってシオンは親友を超えて莫逆(ばくげき)の友と言っても過言ではない存在となった。

 

 故にもはやアクアがシオンの言葉を疑うことは一切ないだろう。たとえそれが、アクアを秘密裏に北の大地へと誘う罠だったとしても──(盛大な前フリ)

 

 

星野(ほしの)ルビー】

 恋い慕うセンセーの健在、愛する母の復活、推しの父親(パパ)化(←New!)……度重なる幸運の連続により、ルビーはまさに幸福の絶頂を謳歌していた。世界は鮮やかに色付き、全てが光り輝いて見える。

 真に幸福を知らぬ者が他者を幸せにすることなどできない……だが、本当の不幸を知らぬ者が絶望の只中にある者と同じ視座に立つこともまたできない。しかし絶望の内に生まれながら本当の幸福の形を知ったルビーは、本当の意味で誰かの不幸に寄り添い、幸福にできるアイドルとなったのだ。彼女の輝きはきっと多くの人々の闇を照らし、たくさんの夢を見せることだろう。

 

 星野ルビーは輝き続ける──たとえそれが、寒風吹き荒ぶ試される大地であったとしても!(盛大な前フリ)(巻き込み事故)

 

 

斉藤(さいとう)ミヤコ】

 立てば聖母、座れば社長、若い頃は港区女子。まあ若いイケメンと一緒に仕事をしたいと言ったのは本当だが、それとは別に裏方として(アイドル)を輝かせる仕事に誇りを持っていることも確かなので悪しからず。

 社を象徴するアイドルの死、社長にして夫たる壱護の失踪……彼女もまたアイの死を切っ掛けに自己の変化を余儀なくされた人物の一人であり、今の母性が服着て歩いてると形容される有り様は過去の壮絶な経験の上に成り立っている。

 

 しかしそんな苦労に苦労を重ねた過去も今は昔。霊能マッサージという名の生命力譲渡により今や彼女は港区女子だった頃より若々しく、街中に繰り出す度に芸能事務所のスカウトマンとエンカウントするレベルの美貌を持ち、日に三十時間の勤務という矛盾に耐えられる破格の体力を有し、超人の巣窟と化した新生B小町の三人を壱護ごとまとめて粉砕できるだけの圧倒的なパワーを手に入れた。そしてアイが帰還したことで彼女の心に影を落としていた最後の憂いも消え失せ、ミヤコは遂に超絶無敵天上天下天下無双ウルトラハイパーミヤコとして覚醒を果たしたのである。もう何も怖くない。

 

 ちなみにアイがシオンを手篭めにして星野家の一員になればアクアとルビーの養母であるミヤコはシオンの親戚みたいな立場になれるので大いに応援している。何故って親戚という立場なら遠慮なく霊能マッサージの恩恵に与れるからだ。……今までも別に遠慮してなかった? 半分は当たっている、耳が痛い。

 

 

斉藤(さいとう)壱護(いちご)

 

〜馬鹿でもわかる! 苺プロ強さランキング!〜

 

 星野アイ>超絶無敵天上天下天下無双ウルトラハイパーミヤコ>>>>>>>デスルビー>>(越えられない壁(大人の事情))>>星野アクア>>最近事務所に住みついたアシダカ軍曹のジョージ君>>斉藤壱護>ジョージ君のエサ

 

 壱護「なんか俺のランク低すぎない!? 新入りのクモより下なの納得行かねぇんだけど!?」

 アイ「フフフ、これは物理的な強さだけじゃなくて権限の強弱も含めたランキング……マダオなんだからこの順位は残当じゃんね?」

 壱護「そのマダオって言うの止めろよ! グラサンぐらいしか共通点ねぇだろ!」

 

 

黒川(くろかわ)あかね】

 黒川あかねは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の霊を除かねばならぬと決意した。

 あかねにはオカルトがわからぬ。あかねは、ララライの女優である。かなちゃんに憧れ、役を演じて暮してきた。けれども浮気と間女と寝取られに対しては、人一倍に敏感であった。やろうぶっころしてやる。

 

 遂に出会ってしまった二人。アイは一方的に知っていたが、あかねの方は完全に青天の霹靂だったので混乱するのも(むべ)なるかな。しかしアイの百点満点の挑発によりあかねの明晰な頭脳は瞬時に事態を把握。かくして龍虎相搏つ戦いの火蓋が切られたのである。決闘(デュエル)開始の宣言をしろ! シオン!

 

 ところでこのシオンって奴、アイから明確に好意を向けられていることを理解していながらあかねという彼女をキープしてたってことになるんスけど、いいんスかねこれ。こいついつか刺されると思うっス。忌憚の無い意見ってやつっス。

 

*1
今日のスグリ:アカスグリ(レッドカラント) 花言葉:あなたに嫌われたら私は死にます

*2
今日のスグリ:アカスグリ(レッドカラント) 花言葉:あなたに嫌われたら私は死にます

*3
今日のスグリ:アカスグリ(レッドカラント) 花言葉:あなたに嫌われたら私は死にます

*4
今日のスグリ:アカスグリ(レッドカラント) 花言葉:あなたに嫌われたら(ry




次回、修羅場(真)

……なに? どうせ予告通りにならないんだから次回予告する意味はないだと?
半分は当たってる、耳が痛い(被ダメージ時、カット率上昇+36%)
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