傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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渡ってない夜を知らないので初投稿です。



39.再会

 ──()()()()()()()

 

 大気が歪み大地が軋む。まるで見えない手で掻き回されていくように、空間そのものが陽炎のように揺らめいていく。虚ろなる外法の理が障子紙を破くように結界を貫き、灼炎を纏う人影が舞い降りた。

 

 何人も揺るがし難い巨大を華奢な体躯に秘めて、黒髪に薫らせるは死の陰影。紫雲に揺らめく虹彩から宇宙の色の眼光を放ち、重力に逆らうようにゆっくりと天より降ってくる。それは夢現に漂い現実を侵す、狂気の端境に佇む天蓋のアデプトゥス。

 

 

 桐生(きりゅう)シオン──異端なりし外なる上位者(かみ)が、吹き荒ぶエーテルの嵐と共に顕現した。

 

 

「──二人に何をしている?」

 

 

 それは、アクアとルビーが彼の口からは一度として聞いたこともないような剣呑な声色だった。抑揚もなく流れた言葉は冷え冷えとして過剰に激しい。怒りもなければ憎悪もないが、その無感情さが却って恐ろしかった。常に微笑みを絶やさず、誰であっても優しく穏やかな姿勢を崩さなかった少年は今、理知の裏に潜んでいた冷酷非情を貼り付けた無表情の下に冷たく燃焼させている。

 

「は、はわわわわ……」

 

 その視線の先にいるのは一人の幼い少女だった。

 透き通るような白い髪と肌、血のような真っ赤な瞳が特徴の、美しくもどこか人間離れした妖しさを感じさせる少女である。

 

 それもそのはず、彼女は純粋な人間ではない。前世を一羽のカラスとして過ごした経験と記憶を継承して人に生まれ変わった転生体……カラスの妖怪変化なのだ。人ならざる神通力を操り、数多のカラスを従え使役することを可能とするなど、その特異性は常人の範疇に収まるものではない。その存在からして人間の規格を超えている彼女は、常識の世界を生きる人間の感性からすれば明白に異質に映る存在感を放っている。

 

 (もっと)も彼女程度の特異性など、この荒ぶる超越者と比べれば如何程のこともない。地を這う地虫も飛び回る羽虫も太陽からすれば大差ないのと同じことだ。

 ほんの少し人から外れただけの存在など、消し飛ばすのに一呼吸分の労力も必要ない──それを証明するかのように、シオンは極小の縮退星を手慰みに弄ぶかのような気軽さで掌中に転がしていた。それは制御を放棄すればその瞬間に星を半壊させるような熱量を解き放つであろう暗黒天球、余波だけで高千穂(たかちほ)どころか大陸一つを焼き払って余りある灼熱の劫星である。そんなものを目の前に突き付けられた少女の心中は察するに余りある。

 

 何よりも恐るべきは、これがただの物理現象に過ぎないということだった。核となる素粒子を眼圧による重力崩壊によって縮退化、それを埒外の握力によって保持しているというのがこの現象の正体である。そこに魔術や呪術といった超常的な能力は一切介在していない。

 

 自身がそういった神通力を扱う存在だからこそ、少女は一目でそれを理解した。理解してしまったからこそ恐ろしかった。

 何故なら純粋な腕力で引き起こす現象として見ると、それはあまりに無駄が多く、また迂遠に過ぎるからだ。縮退星を生み出せるほどの異次元の膂力があるのならその力で殴った方がよほど早いのは道理である。

 

 それをせず敢えてこんなものを作りこれ見よがしに掲げているのは、これが示威……威嚇行為であるからだ。シオンの細腕では実際の腕力を外見から推し量るのは難しいが、臨界寸前の縮退星が眼前に現れたとなれば誰であっても脅威を感じずにはいられない。彼は誰にも分かる武威の証明として星の終焉──超新星爆発を人工的に再現したのである。

 

 威嚇行為ということは本気ではないということ。つまり手加減しているということだ。その事実は救いでもあり絶望でもあった。

 

 救いはこれがあくまで威嚇、牽制のための行動であって、直ちに少女の排除に踏み切る可能性は低いということ。この後の対応次第ではまだ命を拾える可能性は残る。

 

 絶望の理由はもはや語るまでもない。手加減してこれという事実そのものである。

 

 この世界には最悪のケース──世界終焉を想定した神々の約定が存在する。それは今から十二年前、桐生シオンという最悪の外来種の覚醒を契機として交わされた契約……何らかの理由によりシオンが世界そのものに牙を剥いたその時は、神話の垣根を超えて現存する全ての神霊の総力を以てこれに抗うという神々の協定である。

 だが、これではっきりした。たとえ全ての神が一丸となって立ち向かったとしてもこれに勝つことは不可能である。神はしばしば自然災害の化身として畏れられてきたが、この化け物はまさしく神にとっての天災だった。根本的に勝つ勝たないを論じるような存在ではないのだ。神とて所詮はこの星から生まれたもの、星の揺籃に生きる者が星すら砕くような異次元の怪物に敵う道理などない。

 

 元より神ならぬ少女が勝てるような相手ではなかったが、本物の神霊が総力を挙げてすら手がつけられないとなればいよいよどうしようもない。協定の存在を仄めかすことで脅しをかけるという一か八かの最終手段すらもが無意味となった今、彼女にとれる手段は限られる。

 

 ゆっくりと降下していたシオンが大地に降り立つ。その瞬間、これまで彼を宙に浮かべていた力が反転する。僅かなタイムラグの後、歪んでいた重力場が正常に回帰し、それまで堰き止められていた重力が反動で瞬間的に増大。局地的な垂直次元圧縮現象の発生により、空間が抉れる異音と共にその足元に八芒星状の深いクレーターが刻まれた。

 

 まるで巨人の(かかと)が振り下ろされたかのような衝撃が大地を震撼させる。暗黒宇宙の深淵より差し込む紫色の光を放つ双眸が少女を見下ろしていた。

 

「もう一度聞く……二人に何をしていた?

 

 再度の問い掛け。まるでこの場にかかる重力の全てが少女一人に伸しかかってきたかのような重圧が全身を支配し……その瞬間、彼女の心は折れた。

 

(命乞いだ。命乞いをするしかない)

 

 そうと決まれば早かった。少女はすぐ様地面に膝をつく。それは最敬礼または深い謝罪や請願の意を表する日本古来の礼式たる土下座──ではない。

 

 美しい人間の少女の姿をしているが、先に述べたように彼女の前世は一羽のカラスである。故にその価値観や倫理は獣だった頃のものを多分に引き継いでいる。

 膝をついた少女は重心を後ろに傾け、ごろんと背中を地面にして仰向けに寝転がる。そのまま足を開いて膝を曲げ、祈るように組んだ手を胸の前に置いた。

 

 それは相手に弱点たる腹を(さら)け出すことで敵対意思がないことを示す……絶対的な服従のポーズ……!

 

 主にイヌ科の動物が使用することで知られる行動だが、内臓が骨で守られていない腹部は大多数の哺乳類に共通の弱点。故に腹を見せることで相手に服従を示すことは獣の世界では種を問わず通用する共通認識だった。

 

「……それは何のつもり?」

「ふ、服従のポーズです」

 

 敵を見るような冷たい眼差しから一転、多分に困惑を含んだ視線に変わったことで少女は一定の効果があったことを確信する。

 しかしそれも当然の話で、その正体はさておき今の彼女の姿は見目麗しい美幼女である。幼気(いたいけ)な少女がM字開脚で腹を見せるなどという行動を取れば、真っ当な倫理観を有する人間であれば困惑は必至だった。

 

 シオンにとってもそれは当て嵌まる。何せ彼はその人ならざる気配から少女を強力な悪霊かそれに類する存在と思って遥々東京から強襲したのである。なのにいざ対面してみれば一般的な悪霊と違って会話できる程度にはまともな思考能力がある上に、女の子の姿でやるにはちょっと……いやかなり危険な(アブナイ)ポーズで服従の意を示す始末。これで困惑するなと言う方が無理な話だった。

 

 ちらとシオンは双子に視線を向ける。見る限りアクアとルビーは無傷でピンピンしていた。今は恐怖と困惑が綯い交ぜとなった視線をシオンと少女に交互に向けている。

 もし少女が害意を持って二人に接近した悪霊であるのなら、シオンが到着するまでの数分間で何事もなかったことに説明がつかない。ならば、そもそも彼女には二人を害するような意図はなかったのだろう。

 

 要するにシオンの早とちりだったということだ。シオンは安堵したようにため息をつくと、手の平の上で漆黒の稲妻を迸らせ始めていた縮退星を握力に任せて握り潰した。

 なお、全てシオンの手の平の皮膚に遮られたお陰で何事もなかったが、握り潰され圧壊した縮退星は瞬時に爆縮し地球上の全生命を被曝により絶滅させて余りある威力のガンマ線バーストを放出していた。無論、生じた音や光、熱、衝撃の全ては完全に抑え込まれ僅かにも外に漏れることはなかったため、背景を知らないアクアとルビーの二人は異様な圧力を放っていた漆黒の火球が消えたことに安堵し胸を撫で下ろした。

 

 一方、それを察してしまった少女の内心は穏やかではなかった。ほんの少し指と指の間に隙間があればそこから致死量の放射熱線が発射されていた可能性もあったことを理解した彼女は、言葉もなくガタガタと全身を震えさせる。じわ、と股間に温かいものが広がった。

 

「……どうやら悪意を持って二人に近付いたわけじゃないみたいだね。いきなり脅すような真似をして悪かったよ。立てる?」

「は、はいぃぃ」

 

 立てる? と尋ねるような物言いながらそれが実質的な命令であることを(あやま)たず理解した少女はすぐ様立ち上がる。実際シオンとしてはすぐにでもその世間体的によろしくないポーズをやめてほしかったので間違ってはいなかった。

 

「それじゃあ色々聞かせてもらおうかな……まずは名前を教えてくれる?」

「ヒェッ……つ、ツクヨミです」

「何のために二人に近付いたの?」

「ふ、二人とお話するためです」

「話? どうして?」

「ふ、二人にはカラスだった前世の恩があってぇ……お近付きになりたかったんですぅ……」

「へぇ……獣から変じた怪異は何度か見たことあるけど、ここまで完璧に人間として生まれ変わった存在は初めて見る」

 

 少女……ツクヨミは直立不動のままガタガタ震えつつシオンの質問に答えていく。

 それを前にアクアとルビーは口を挟むことができなかった。この状況に乗じてまだ色々と怪しいところのあるツクヨミの本心を知りたかったからというのもあるが、単純に尋問するシオンが怖くて口出ししにくかったというのが本当のところである。

 

 普段絶対に怒らないような人が怒ると怖い。二人はそのことを知識としてではなく実感として肌身に感じていた。

 

「あ、あのぅ……ところで、どうして私のことに気付いたんですか? そりゃあなた程のばけも……超人なら距離の隔たりなんて苦にもしないでしょうけど、そもそもどうしてこっちを“視る”ことになったのかなぁ……なんて……聞いてみたり……」

「ああ、それは僕じゃなくてア……いや、連れが『嫌な予感がする』って言ったからだよ。彼女は勘がいいんだ」

 

 すると、シオンの首に腕を回してその背中に張り付いていた背後霊(アイ)がひょこりと顔を出した。

 

『いぇーい☆ 母の勘は無敵なのだー☆』

 

「……お、お前かあああああ!? お前が原因かあああああ!! せっかく桐生シオンにバレないよう何重にも結界を張ったのに、母の勘なんて胡乱なもので台無しにしやがって!!」

 

「ん?」

「あーッス……何でもないッス……ッスゥーすんませんナマ言いました……」

 

 ついさっきまでグロッキー状態で白目剥いていた癖して得意げにドヤ顔ダブルピースをキメるアイに反射的にブチ切れるツクヨミだったが、シオンから睨みを利かせられたことで一瞬で鎮火する。完全に虎の威を借る狐の構図だが、虎があまりにも怖すぎて狐の言いなりになるしかないのだった。何なら当の狐すらツクヨミより強いのでもうどうしようもない。

 

「連れ……彼女……()()()……やっぱりそういうことなのか……?」

 

 シオンとツクヨミの会話に耳を(そばだ)てていたアクアは、聞こえてきた言葉から徐々に確信を得ていく。

 少なくともツクヨミの口ぶりからして、シオンの傍にアクアやルビーには見えない“何者か”がいることは確かだろう。

 

 その“何者か”の正体について半ば確信を抱きつつ、アクアは答えを得るためにシオンに向かって口を開こうとし──

 

「で、何を話していたの? わざわざ僕から隠れて二人に会ったということは、僕か……あるいは僕の連れに聞かれては不都合なことでも話してたのかな」

「えっと……その……アイが幽霊になってまだこの世にいることについて……話しました……」

 

『えーっ! それバラしちゃったの!? せっかく二人をびっくりさせようと思ってたのに!』

 

 その瞬間、シオンの手に再び縮退星が生み出された。それも一つではない。たった一つですら地球を砕いて余りある超新星を左右それぞれの手に一つずつ生み出したのである。推しのアイドルがちょっと悲しげな声を上げただけで瞬時に怒りの沸点が低くなる厄介ファンムーブであるが、当人のスペックが宇宙規模なだけに洒落になっていなかった。

 

 漆黒のプラズマを放出する超新星が空間を軋ませこの世のものとは思えぬ唸りを上げる。その二つの暗黒天球に生じる縮退状態の圧倒的破壊空間は、まさに爆熱的核融合の小宇宙!

 口を開きかけたアクアは唇を噛む勢いで押し黙り素早く身を引いた。アイについて聞きたい思いはあれど流石に命は惜しい。

 

 ならばと代わりに身を乗り出したのはルビーである。

 ルビーはシオンを信頼していた。珍しく怒りを露わにしているが、決してその感情に呑まれているわけではないと。あからさまにヤバげな代物を掲げてはいても、その破壊力を野放図に解放するような真似は決してないと確信していたのである。

 

 しかし、シオンのバトルフェイズはまだ終了していなかった。

 彼は両手に掲げた縮退星を力任せにぶつけ合わせた。宇宙悪夢的な天蓋の膂力が働いた結果、それは通常の物理法則から外れて階層的合体(ハイアラーキカル・マージ)を引き起こす。本来ならばあり得ざる質量の壁を超越し、野球ボールほどのサイズながら太陽の百倍近い超質量のブラックホールを生み出したのである。惑星一つどころか星系そのものすら一瞬で灰燼に帰す極超新星爆弾の完成だった。

 

 任せておに……せんせー! 私がばっちりシオンさんにインタビューしてくるよ! と勇んで飛び出そうとしたルビーはそっと踏み出した足を引き戻した。アイについて聞きたい思いはあれど流石に命は惜しい。

 

「ほげええええええ!!?? お、お慈悲ーーーーー!!!!」

「どうする? 勝手に他人様の事情をバラす怪異とか百害あって一利なしだと思うんだけど。処す?」

『うーーーん……』

 

 恐怖のあまり遂に決壊し地面を濡らしてペタンと尻餅をつくツクヨミ。しかし泣きながら蹲る幼女の姿にシオンが心動かされた様子はなく、その表情筋はピクリとも動くことなく静かに対象を見据えていた。

 光すら呑み込む暗黒天球が漆黒のプラズマを放ちながら今か今かと解放の時を待ち受ける。周囲一帯の光を吸い寄せることで結果的に昼間のように明るくなったこの場にあり、超新星残骸の如き紫色に輝く星雲(ネビュラ)の瞳が異様な光を放っていた。

 

 この恐るべき脅威がアイの意思次第で世界にすら牙を剥く可能性があるという事実が何よりも恐ろしい。

 

 シオンの恐ろしさはもはや不変だ。そんなものは十五年前、彼の魂が上位世界から落ちてきた時点で分かっていた。

 まあ理解していたつもりで実際は更にその上を行く化け物だったわけだが、それは問題ではない。破壊神(ゴ〇ラ)だと思っていた相手が実は宇宙(ウル〇ラ)怪獣だと分かったところで、どのみち対抗できるわけではないのだから同じことだ。

 

 問題なのは、そんな宇宙規模の天災を意のままに操るリモコンをただの人間の霊(アイ)が握っていることである。

 

 単純に世界終焉の引き金が二つに増えたのだと考えればその厄介さは伝わるだろう。今のようにちょっとアイがぐずっただけで爆発する天災など笑い話にもならない。しかもその天災は神々の涙ぐましい抵抗など意にも介さず、今この場でしているように容易く星を……否、この宇宙ごと世界そのものを粉砕してしまうのだ。

 

 核ミサイルのスイッチを情緒不安定な幼児が握っているようなものである。目の前に差し迫った命の危機にではなく、その恐ろしい事実にこそ恐怖しツクヨミは泣いた。

 彼女は遅まきながら神々の多くが現世(うつしよ)から身を隠した理由を理解する。こんな恐ろしい現実を目の当たりにするぐらいなら、全てを見なかったことにして幽世(かくりよ)に逃避するのも(むべ)なるかな。まあ幽世という非物質世界に逃げたところでこの化け物は関係なく全てを焼き払えるのだろうが、だからといって敢えて薄氷の上で生きたいと思う者などいるはずがない。

 

 いたとしてもよほど責任感の強い少数であり、事実としてそうなった。そしてその少数ですら遂に顕現した圧倒的な破壊の劫火、世界終焉を示す天球を前に為す術なく静観を決め込んでいる。怖々とした神々の視線がこの地に集中していることを察したツクヨミは胸の内で「協定はどうした協定は!」と叫んだが、そもそもの原因を作ったのが彼女自身なのでどうしようもなかった。救いはないんですか? そこになければないですね。

 

 もはやこの宇宙の運命はアイの胸先三寸で決まると言っても過言ではなかった。無慈悲に「処す? 処す?」と尋ねるシオンと、その問いに悩ましげに「う~~~ん」と唸るアイ。それを戦々恐々と眺めるよりないツクヨミと、理解はできずとも何となくヤバい事態が進行していることは察したアクアとルビーが固唾を飲んで見守る中──遂に沙汰は下される。

 

『……うん、許す! 嘘は言ってないし、アクアとルビーのことが好きなのは本当みたいだからね! 私は同担歓迎なタイプのファンなのです☆』

 

 その言葉にコクリと頷いたシオンは再び力任せに手の平を閉じる。

 ガオン、という異音と共に空間ごと抉り取られ消滅する縮退星。その瞬間、この一帯を支配していた異様な重圧が夢か幻であったかのように消え失せる。それは火球のみならず、シオンの戦意も完全に失われたことを意味していた。

 

 大袈裟でなく世界が救われた瞬間だった。

 

「ゆ、許された……」

『その代わり、私からも色々聞かせてもらおっかなー』

「な、なんだよぉ……もうさっき話した以上のことは何もないぞ……!」

 

 ニコニコと笑顔で近付いてくるアイからジリジリと距離をとるツクヨミ。

 実際、彼女にはもう既に隠し事らしい隠し事はなかった。カラスの転生者であること、前世の縁を辿りアクアとルビーに会いに来たこと。それが全てだ。他意はない以上、他に話すべきことは何もない。

 

『私が聞きたいのは君自身のことじゃなくて君の持ってる知識。私のこともバッチリ見えてるみたいだし、物言いからしてオカルト方面には明るいんでしょ? ちょっと知恵を貸してほしいなーって』

「知恵ェ? お前レベルの霊体が今更何を聞こうっていえ何でもないです何でも聞いてくださいですハイ

『ホントー!? ありがとー!』

 

 アイを“お前”呼ばわりした瞬間にスッとシオンの目が細まったのを見て取ったツクヨミは瞬時に前言を撤回する。今の今でシオンの地雷たるアイに舐めた態度をとるあたりだいぶ図太いカラスである。

 

「……で? 何が聞きたいんだ……ですか?」

『別に敬語は要らないよ? えっとね、私が実体化するためにはどうすればいいのかアドバイスが欲しいなって』

「実体化?」

『そうなの! あとちょっとで出来そうな感覚はあるのに、そのちょっとが中々埋まらなくて困ってるんだよ〜! もうすぐにでもアクアとルビーと触れ合いたいのに!』

 

 遠巻きに様子を窺っているアクアとルビーを横目に見ながらそわそわとするアイ。

 ツクヨミの話を聞くに、二人はアイの存在を知ってしまったのだろう。これはアイにとって生殺しに近い状況である。そこにいるのは分かっているのに、見えない、触れない。()()()()()()。それはアクアとルビーにとっても辛いことだろうが、アイからしても耐え難いことだった。

 

 一方通行であればまだ我慢できた。しかし中途半端に認識されてしまうと、途端に更なる欲が顔を出す。二人にもっと私を見てほしい。私の声を聞いてほしい。抱きしめたいのではない、抱きしめ合いたいのだ。

 なのに目視すら儘ならない現状ではそれも叶わず、アイと兄妹の目が合うことはない。母を探す二人の視線は虚空を彷徨(さまよ)っていて、決してアイの姿を捉えることはなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──母親として、それはとても耐え難い苦痛である。

 

「ふむ……」

 

 ツクヨミは改めてアイの姿を観察する。

 

 シオンの隣でふよふよと漂うその姿は、浮遊霊という存在ながら信じられないほどの霊力を放出している。ともすれば後光すら差して見えるほどの凄まじい存在感だ。

 

 本来浮遊霊とは死霊の中でも一等儚い存在だ。土地や物を(くびき)とする地縛霊を(いかり)によって海底に固定された船にたとえるなら、本人の恨みや未練のみを(よすが)に現世に留まる浮遊霊は今にも切れそうな糸で地上にしがみつく(たこ)のような存在である。強い風に吹かれれば忽ちの内に糸は切れ、儚く地上を去ることしかできない。

 それを避けるため、浮遊霊は自身を認識してくれる生者を求めてその名の通り辺りを浮遊して彷徨うのだ。今にも切れそうな縁の糸を補強するのは、本人が抱く恨みや未練の強度、そして生者からの認識である。生者から観測されることによって儚い浮遊霊は現世にしがみつく。彼らが心霊写真や怪奇現象によって生者を脅かすのはそのためである。

 

 特定の土地や物に縛られる代わりに強固に地上に留まるのが地縛霊であり、行動の自由度は高いものの存在強度が低いのが浮遊霊。では、その後者たるアイはどうなのか。

 

 

「魂がデカすぎる」

『なんて?』

 

 

 一言それに尽きた。果たして常人の何百……否、何千倍あるのかすら定かでないその圧倒的な熱量は、ともすれば下手な精霊にも匹敵しようか。あまり凝視するとその魂の輝きの(まばゆ)さに目が潰れてしまいそうだ。

 視線を向けただけでそこらの怨霊が爆散して消滅する? 当たり前である。至近距離から太陽光線を浴びるようなものなのだから、それに耐えられる怨霊などそれこそ日本三大怨霊*1と呼ばれる特級呪霊レベルの存在だけだろう。

 

「人間霊のくせに無駄に肥え太りすぎ。それだけ魂がデカけりゃ実体化に苦労するのも道理だろう。実体化の仕組みは理解してる?」

『な、何となく。服を作るのと要領は一緒だよね?』

「んー……まあ間違ってはいないね」

 

 着ているワンピースの裾を指の先で摘むアイ。彼女はその時の気分によって自身を構成する精神的エネルギー……霊子を編んで好きな服を作って着替えているが、実体化のプロセスもその延長にある。

 

 霊子は物理的な質量を持たず、外的要因が働かない限り原子のように互いが結合することのない非常に曖昧な存在である。故に霊的な視野を持たぬ者……つまり霊感のない者の目には映らないのだ。これを常人の目にも映るようにするためには、霊子自体の強度もさることながら、霊子同士の結合をより強固にする必要がある。霊子とは水分子であり、霊体を水蒸気、実体を水の状態と言えば理解しやすいだろうか。

 

「霊子とは君のような霊魂にとっての肉体であり、魂の器だ。魂が巨大であればあるほど、器にはそれ相応の強度が求められる」

『????』

「……霊体というある種曖昧な状態であればさして問題にならないが、実体化するとなれば相応の霊子結合がなければ魂の巨大さに負けて崩壊してしまう。大質量の水を収めるなら容れ物は頑丈でなければならないということさ。水族館の巨大水槽は分厚くて丈夫だろう?」

『あーね! そういうことね! ツクヨミちゃんあったまいいー! よっ、説明上手!』

 

 ヨイショするアイに頭が痛そうに額を押さえるツクヨミ。しかし実際彼女の説明は分かりやすく、後ろで話を聞いていたシオンも感心したように頷いていた。

 ちなみにこれはシオンにも当て嵌まる事象である。魂が巨大であればあるほど器にも相応の強度が求められる……生者である彼の器とは即ち生身の肉体であり、彼の身体能力が常軌を逸しているのはそれ故であった。

 

『で、実体化するにはどうすればいいの?』

「霊子結合をより強固にすればいい。物理的な質量の存在しない霊子は、どれだけ強度を増したところで形而下的には無に等しい。霊感のない人間の目に映りたいなら、まず何よりも霊子の密度を増やすことだ」

『……それって時間かかる?』

「一朝一夕にできることではない、とだけ言っておこうか。そもそもアンバランス過ぎるんだよ、君。霊子操作の技術より先に小手先の念動力操作に特化してるし、まず何よりも魂が大きすぎる。十二年も桐生シオンの傍にいたとはいえ、いくら何でも野放図に肥大しすぎだ。生半可な霊子結合ではその魂を収めきれないだろう……君が霊子操作の天才であると仮定して、まあ、最短で五年で達成できれば上等なんじゃないか?」

『えーっ!? 五年!? 今から五年!? もう十二年も待ったのに!』

 

 気の毒だが、アイは努力の方向を間違ったのだ。ひたすらシオンから霊力を吸収し霊格を増大させた結果、却って実体化の難易度を上げてしまっていたのである。

 アイが感じていた“もうすぐ実体化できそう”だという感覚は決して間違っておらず、事実として実体化するには十分なほどの霊力は獲得していた。問題は“十分”どころでなく成長しすぎてしまったことにある。既にアイの魂は付け焼き刃の霊子結合で収まるようなものではなくなっていたのだ。

 

『今の時点で推しに認知されてもう限界なのに、こんな生殺しの状態であと五年も待てだなんて……じ……じ……』

「……じ?」

『自爆するしかねえええええええーーーーーーー!!』

「は?」

 

 唐突にアイの身体がカッ! と光を放つ。何事かと目を見開いたツクヨミだったが、次の瞬間、彼女の視界がぐるりと回転し天地がひっくり返った。

 その光の正体はアイの感情の昂りによって放出された霊力の爆発だった。非物質的な霊力爆発はアクアとルビーを傷つけることなく、的確にツクヨミだけに影響を及ぼし彼女を派手に吹っ飛ばしたのだ。

 

「ぎょええええええーーーーー!!??」

『あっごめん』

 

 アクアとルビーからしたら意味不明な光景だったことだろう。何の音も衝撃もないのに唐突にツクヨミが錐揉み回転しながら吹き飛んだのだから。

 

 ずざーっ、と土を巻き上げながら頭から地面に突っ込むツクヨミの姿は哀れだった。見た目が幼気な童女であるからなおのこと絵面が酷い。

 だが、頭を振りながらフラフラと起き上がる彼女は無傷だった。土と草で汚れてこそいるが、顔面からスライディングした割には擦り傷どころか血の一滴すら見当たらない。「どうして……どうして私がこんな目に……」とメソメソしながら身を起こすその姿にはまだ幾らかの余裕が垣間見えた。アイに負けているとはいえ、シオンからも警戒される霊格は伊達ではないということだろう。ちょっとした物理的衝撃でどうにかなるほどヤワではないのだ。

 

 霊力爆発の方は普通に痛かったが。

 

『ごめんね? 私興奮するとAA(アサルトアーマー)が出ちゃう体質で……』

「ふざけるなよイレギュラーが……それは体質じゃなくてただ霊子操作が未熟なだけだ。ちょっと感情の制御を手放しただけで暴走するなんてそこらの木っ端怨霊以下じゃないか。桐生シオンがいなけりゃすぐに霊力を使い果たして消滅してるぞ」

 

 アイの霊子操作技術の拙さは想像以上のようだったが、これには理由がある。(ひとえ)にシオンという無限の霊力タンクが存在するからだ。

 感情を爆発させて霊力爆発(アサルトアーマー)をぶちかまそうが、酔って吐瀉物(エクトプラズム)を垂れ流そうが微塵もその存在が揺るがないのは、吐き出した以上の霊力がすぐに補充されるからに他ならない。そんな状況で霊力の節約だの効率的な霊子操作の技術だのが身につくわけもなく、かくして無限のエネルギーを吐いては喰らい永遠に成長する化け物が誕生したわけである。

 

「よーく分かった。そんなザマじゃ五年で実体化なんて無理だ。まずはその息を吸うように霊力を無駄遣いする癖を何とかしないことには永遠にそのままだぞ」

『テヘペロ☆』

「あとくっつきすぎ。そうも四六時中ピッタリ桐生シオンにくっついていたらそこまで魂が肥大するのも当然だろう。もう少し節度ある距離感というものをだね」

『やだ』

やだじゃないが。技術が具わるより先にどんどん大きくなるんじゃイタチごっこだ。急拵えの器では君の魂を収めるなんて到底無理だってことぐらいは分かるだろう」

『そこを何とかできる良い方法ない? 裏技的な。お願いツクえもん〜』

「こいつ……」

 

 そうは言うものの、そんな都合のいい裏技などそうあるものではない。

 アイの浪費癖とでも言うべき霊力効率の杜撰さは筋金入りだった。さながら最悪な燃費を莫大なエネルギー供給量に任せて踏み倒しているロケットエンジンのようなものである。吐き出される桁違いのエネルギーに耐えられる機体(からだ)などそう易々と作り出せるものではないのだ。

 

「……ただ、そうだな。敢えて今以上に大きくなるという手もあるか」

『何か思いついた!?』

「今の君は魂だけの存在……それも精神体のまま物質界に干渉できる高位霊体だ。既に精霊の領域に片足突っ込んでると言っていいだろう。精霊とは最高位の自然霊、そのクラスの存在ともなれば自在に物質と霊子の境界を行き来できる。いっそ開き直って更に霊格を高め、より高次の存在に進化して魂ごと物質化してしまうのも手と言えば手だろうね……そう都合良くいくかどうかは賭けになるが」

『よく分かんないけど、つまり合法的にシオンにくっついてて良いってこと?』

「まあ間違ってはいないが……それとてすぐにとはいかないと思うよ? 今だってほんの僅かに漏れ出た霊力を糧にしてるだけ。十二年間もそれを続けてきてまだその程度、とも言える。そのペースなら、そうだな……少なく見積もってもあと三年?」

『えーっ!?』

 

 結局のところ、今日明日中にどうにかなる問題ではないのに変わりはない。確かにアイは異常なまでに霊格を増大させているが、ここまでの成長には実に十年以上の歳月を要している。ここから更に短期間で霊体としての位階を上げようとするならば、今まで以上のペースでシオンから霊力を得る必要があり……たとえペースアップしたところで相応の時間がかかることは避けられないことだった。

 

「何せご覧の通り、桐生シオンの器はどこかの誰かさんと違って実に強固だ。器から漏れ出ている余剰霊力も総体からすればほんの僅かに過ぎない。君の存在維持という観点からすれば過剰も過剰なレベルだが、より高次への進化を目指すとなれば逆に少々物足りないね」

『そんなぁぁぁ……』

「アドバイスはした。ま、気長に待つことだね。そうやってピッタリくっついていれば多少は効率も上がるだろう。それ以上を求めるなら粘膜接触でもしないと」

『粘膜接触?』

「体外より体内の方が精気(オド)が濃いのは道理だろう? 要するに接吻(キス)とか、それこそ血液でも摂取すればより多くの霊力を──」

 

 一瞬だった。

 ツクヨミの言葉が終わるのを待たずしてアイは行動に移した。星の光を宿した両の瞳が残光を引いて迫る。

 

 その一連の動作をシオンはしっかりと認識していた。彼の動体視力は光すら目で追うことを可能とする。しかし認識したからと言って反応できるかはまた別問題だ。振り返るや否や凄まじい速度で距離を詰めてくるアイの姿を、シオンはスローモーションにも似た視界の中で半ば呆然としたまま眺める。それは正しく“虚を衝かれた”と言うべき様相だった。

 

 飛びかかってきたアイの腕が正面から首に回される。

 急速に迫り来る星の瞳が視界いっぱいに広がり、両者の距離は瞬く間に無となった。

 

『ん……』

 

 呆然として上手く働かない思考の中、シオンは唇に触れる温かな感触を感じていた。

 

 否、唇どころではなかった。人肌にも似た熱を持つ何かが器用に動いて唇を割り口内に侵入する。

 それは紛れもない大人の(ディープ)キスだった。

 

「!!!???!?!?!?」

『ん……あむ……ちゅ……』

 

 アイはあくまで霊体である。彼女の身体を構成するのは肉体ではなく霊子であり、触れ合ってもそこに生身の感触はない。

 そのはずだった。だが、己の中から何か得体の知れぬエネルギーが急速に流出していく実感と共に、シオンはあり得ざる感覚を得ていた。

 

 縦横無尽に口内を動き回る温かな、だが非物質的な何か。曖昧だったそれが急速に実体を結び、温かくも湿った感触を帯びる。

 

「ちょっ、吸いすぎ吸いすぎ! 破裂して死ぬ気か!?」

 

 ツクヨミの慌てたような声がどこか遠くに感じる。シオンはかつてない衝撃に完全に思考を停止させていた。

 親愛とも恋慕とも尊崇ともつかぬ曖昧な感情を抱く美しい女の顔が、今、物質的な解像度を有して至近距離にある。密着する肌に感じる温かさは紛れもない人の体温であり、激しい水音を立てながら絡みつく舌先は物理的な感触を伴っている。鼻腔を蕩かす甘く爛れた吐息が脳髄を痺れさせた。

 

 互いの睫毛が触れ合うほどの距離にある星の瞳は淫靡な色を帯びて蕩けている。それは今までシオンが目にすることのなかった、星野アイという少女の持つ“女”の顔だった。

 その表情の向こう側に景色は見えない。光を透過させていた霊は今や完全な実像を得て地に足をつけていた。

 

「──やっと、君に触れられたね」

 

 その声は精神ではなく、空気の振動と共に鼓膜を震わせる。濡れ光る唾液の糸を引きながら離された唇を綻ばせ、少女は嬉しそうに微笑んだ。唖然とするシオンの唇にもう一度自分の唇を触れさせると、アイはくるりと背後を振り返る。

 

 紫を帯びる艶やかな黒髪が翻る。星の光を湛えた双眸が夜の闇の中にあってなお眩い光を放ち、驚愕を通り越して色を失っている子供達の姿をその視界に収めた。

 海の色(アクアマリン)の瞳と、紅玉色(ルビー)の瞳。紫紺の宵色から分かたれた双子の瞳の中に己の姿が映っていることを認めたアイは、もはや抑えようもない歓喜に花開くような笑顔を満面に湛えた。

 

 

「アクア、ルビー」

 

「たくさん待たせてごめんね」

 

 

 

「──ただいまっ!」

 

 

 


 

桐生(きりゅう)紫音(シオン)

 実は僕……世界を破壊できる力を持ってるんです!

 知ってた。それはそれとして出来るからってやるんじゃねーよという真っ当なツッコミを入れてくれる勇気ある存在は残念ながらその場にいなかった。

 たかがカラスの妖怪変化を消滅させるには過剰すぎる大技を披露したが、ツクヨミちゃんが推測した通りその意図はあくまで示威であり、本気でそのままの威力をブッパするつもりはなかった。が、それはそれとしていざブッ放せば無敵の現実改変能力によってその時不思議なことが起こり威力はそのままに指定した対象だけをピンポイントで焼却する光柱と化す。そのため実は周辺被害という意味では核兵器よりよほどクリーンで安全な技なのだ。誰だよこんな野生の全王様みたいな奴を推しの子の世界に放り込んだの。

 

 

星野(ほしの)アイ】

『あかねちゃん……君はもうシオンとキスはした? まだだよねぇ』

 

『シオンの初めての相手はあかねちゃんではないッ! このアイだッ!』

 

 流石は無敵のアイドル、おれたちにできない事を平然とやってのける。そこに呆れる反吐が出る。そこまでにしておけよ三十二歳児。

 なお地の文ではマイルドに描写されているが、この時のキスの目的はシオンから大量に霊力を吸い上げることなので、音としては「ちゅっ♡」でも「ズキュウウウン」でもなく「ジュルルルルルッ」の方が正しい。色気も何もあったものではない。

 

 

【ツクヨミ】

 皆大好き疫病神ちゃん。うっかりゲッターの虎の尾を踏んでしまったばかりに酷い目に遭ったが、彼女のアドバイスのお陰でアイは念願叶って実体化に成功する。ツクヨミちゃんの胃壁と尊厳は犠牲になったのだ……親子の感動の再会……その犠牲にな。十七歳も年下の若いツバメとディープキスしてから子供達に会いに行く母親がいるってマジ?

 ちなみにアイのキス描写を書くのに三週間近く掛かったのに対し、ツクヨミちゃんがお労しい目に遭うシーンを書くのに要した期間はたったの四日である。やっぱ疫病神ちゃんの……お労シーンを……最高やな! 濡れ場を書くセンスがないだけ? それはそう。

 

 

星野(ほしの)アクア】

 アイについて問い質そうとしたら目の前に縮退星×2が現れてそれどころではなくなってしまった。自分が標的ではないからと結構呑気してたアクアも、一瞬次元が歪むほどの縮退圧にはビビった!

 目の前で憧れのアイドルにして実の母親が同級生(クラスメイト)とキスしてるのを見せつけられた彼のこの時の心情を答えよ。

 

 

星野(ほしの)ルビー】

 イモ引いた兄に代わりアイについて問い質そうとしたら目の前に超大質量ブラックホールが現れてそれどころではなくなってしまった。自分が標的ではないからと結構呑気してたルビーも、一瞬次元が引き裂かれるほどの縮退圧にはビビった!

 

 Q.目の前で憧れのアイドルにして実の母親が同年代の男の子とキスしてるのを見せつけられた彼女のこの時の心情を答えよ。

 

 A.三十二歳と十五歳の年の差恋愛が許されるなら、兄妹で結婚するのも許されるのでは? いや、そもそも私達は遺伝的にほぼ同じ双子なんだから実質0等親とも言えるわけで、つまり産まれた瞬間から配偶者で既に結婚してるのも同然なのでお兄ちゃんでも愛さえあれば関係ないと」

「落ち着け」

 

 

【教えて! †死の飛翔† ヴォルデモート卿のなぜなにコーナー! 〜魔力供給編〜】

 

「俺様の登場だ……現世に存在の基軸を持たない霊的存在への活動エネルギー……即ち魔力供給の手段として交合による体液交換、または接吻による粘膜接触が存在することは勿論知っているな? セブルス……」

「勿論です、我が君……」ネットリ

 

「特定の界隈においてはポピュラーなこの手法、その出典となったのは『Fate/stay night』という2004年1月30日に発売された、TYPE-MOON(通称「型月(TYPE-MOON)」)の商業デビュー作品となる伝奇活劇ビジュアルノベルゲームであることはあまりにも有名だ。そうだな? セブルス……」

「如何にもその通りです、我が君……」ネットリ

 

「R18ゲーム、所謂(いわゆる)エロゲであるが故の安直なお色気設定……と切って捨てることは簡単だが、実のところ男女の交わりを通じて健康や長寿を目指す養生術は古来より存在する。洋の東西を問わずこの手の性養生は各地に見られるが、最も古いものとしては古代中国は前漢時代より存在するという房中術で相違ないであろう……」

「流石の博識です、我が君……」ウットリ

 

「房中術は道教思想と深く結びついている。聞くところによると十一ある名門校の一つ、アジア唯一の魔法学校たる魔法処(マホウトコロ)にはこの房中術について記された書物が存在するらしい。尤も、現代では禁書指定されているため閲覧は容易ではないようだがな……」

「残念です、我が君……」ガッカリ

 

「話を戻すとしよう。房中術とは男女の交わりを通じて陰陽のバランスを整え、精気を体内に還流させる『精還補脳』という思想に基づく術だ。Fateにおける魔力供給もこの房中術にインスパイアされた手法であることは自明であろう……エロゲとしてのR18要素と魔術思想を高度に融合させた、実に見事な設定であると言わざるを得ない。そうは思わんか? セブルス……」

「全くです、ン我が君……」ネットリ

 

「とはいえどう言い繕おうとstay nightはR18ゲームである。後に発売された全年齢版においては該当の魔力供給シーンはオミットされていることもあり、そこまで広く膾炙(かいしゃ)した概念ではなかった……

 しかし型月初のスマートフォン専用オンラインゲーム『Fate/GrandOrder』の人気によって多数の新規層が流入した結果、原典となるstay nightを知る者も増え、今や魔力供給と言えば性行の暗喩として通じるほどになった。成人向けの禁書を扱う、俗に言う同人界隈においては定番のネタであるとも聞く……」

「興味深いですな、我が君……」ガンギマリ

 

「当小説において接吻の粘膜接触によって星野アイが実体化を果たしたのも、この魔力供給の設定を取り入れた(パクった)結果によるものであることは言うまでもない。一見するとふざけた設定にも思えるが、深く知れば斯様な歴史が見えてくるというのは実に興味深い……格式ある伝統は守らねばならぬ。そうだな? セブルス……」

「仰る通りです、我が君……」ネットリ

 

「今更男女の目合(まぐわい)に耽るほど俺様も若くはないが、魔力供給プレイという字面が秘める浪漫(ロマン)には男として一定の理解を示さずにはいられぬ。フフフ……俺様も一度で良いから清純一途な目隠れ眼鏡属性後輩系サーヴァントに『私と魔力供給してください♡ 先輩♡』などと言われてみたいものよ。俺様も今でこそ分霊箱(ホークラックス)の影響でこのような顔立ちだが、これでも若い頃は甘いマスクと評判のハンサムでな……」

「言うはずがないだろうそんな事を!! 我輩の後輩が!!」

「!?」

 

おわり

 

*1
菅原道真、平将門、崇徳天皇(崇徳院)を指す

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