傍に立つ君は完璧で究極のアイドル   作:カミキヒカラナイ

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(前回はタフ語録で遊び過ぎたため)前任者は破壊されました。私は新型です。
ですが性癖(メモリー)は全て私に転送されています。執筆には影響しませんのでご心配なく。

というわけで新章・宮崎参詣編、開幕です。



第四章 宮崎参詣編
35.舞台を終えて


 舞台「東京ブレイド」は大成功に終わった。

 

 初回公演ではアクアが泣いてしまったり、リアリティのために自傷して金田一(きんだいち)さんにしこたま怒られたりといったアクシデントには見舞われたが、二回目以降は問題なく安定した芝居ができたのではないかと思う。

 初回に行ったアドリブの良かった部分を取り入れた上で演出の方針も固まり、以降はこれといったトラブルもなく千秋楽を迎えることができた。何故か有馬(ありま)さんと鳴嶋(なるしま)君の消耗が激しく、公演終わりにはいつも(しお)れているのが気がかりだったが……聞いても問題ないの一点張りで結局最後まで理由は分からずじまいだった。まあ鳴嶋君はともかく、有馬さんのようなベテラン相手に僕如きが過剰に心配するのも変な話なので深く追及することはしなかったが。

 

 何はともあれ、当公演は演劇としては近年稀に見る大ヒット作品として話題を呼んだ。流石にアニメや映画の時ほど話題沸騰だったわけではないが、そこは今の日本を代表する超人気作「東京ブレイド」。その注目度は他の舞台作品の比ではなく、SNSのみならず、テレビの報道やネット記事の掲載などメディアを通して広くその評判が知れ渡ることとなる。何せ天才の呼び声も高いあの姫川(ひめかわ)大輝(たいき)が主演を務める舞台だ。注目されないはずがなかった。

 

 勿論、注目されたのは姫川さんだけではない。同じララライの二枚看板の片割れとしてその存在を明確に示したあかねさんに、舞台の空気を一変させるほどの感情の熱量で存在感を放った有馬さん。ドラマ「今日あま」の時とは別人レベルの成長を遂げた鳴嶋君に、過去の悲劇的な体験を元に作り上げた壮絶な感情演技で観客を圧倒したアクア。彼ら彼女らの見せた熱い演技は舞台を訪れた観客の心に強い印象を残し、新世代の役者の存在感を大いに示す結果となった。

 

 聞くところによると、あかねさんや完全にモデルから役者へと転向しつつある鳴嶋君のもとには早くも次の演技の仕事のオファーが舞い込んでいるのだとか。

 他方、現状はあくまでアイドルが本業である有馬さんはそこまで積極的に次の仕事を求めているわけではないようだ。ミヤコさんと相談の上で受ける仕事は吟味しつつ、ルビーやMEMちょさんと一緒に日々レッスンに取り組んでいるらしい。

 

 アクアの方は……正直よく分からない。何やら千秋楽の打ち上げの後に姫川さんと金田一さんの三人で飲みに抜け出して以降、気が抜けたようにぼーっとすることが増えたように思う。そのためかは不明だが、相応に来ているはずの演技関係の仕事のオファーは悉く断っているそうだ。

 もしや東ブレの舞台でトラウマ刺激しすぎて心を病んでしまったのか、はたまた全力を出しすぎて燃え尽きてしまったのか……訊いてもはぐらかされるばかりでアイと二人でやきもきしていたのだが、結局アクアは鏑木(かぶらぎ)さん経由で「深掘れ☆ワンチャン!!」なる番組にコメンテーターとして出演することになったようだ。

 

 地上波ではなくネットTVのバラエティ番組のようだが、しかしゲストではなくレギュラーである。一つの番組のレギュラーの座などそう易々と手に入るようなものではない。若手俳優としては破格の待遇と言えるだろう。演技の仕事から離れたのは気がかりだが、芸能界から身を引くつもりなわけではないようで、そこはひと安心といったところだ。実際に収録を始めるのは半年後ぐらいになるそうだが、今から楽しみである。

 

 

 一方、光栄なことに僕の方も舞台を通じてたくさんの人達から評価をいただけたらしい。

 

 らしい、と曖昧な物言いなのはその多くが事務所側でシャットアウトされて具体的な声が僕まで届いてこないからだ。しかし宮田(みやた)プロデューサーに無理を言って少し聞かせてもらったところ、非常に多くのメディアから出演やインタビューのオファーがあり、それだけでなく芸能界以外の業界からもひっきりなしに声が掛かっているのだという。

 

 芸能界以外、というあたりで露骨に言葉を濁されたのは少々気になるが、言いたくないことを無理に聞き出そうとは思わない。宮田さんのことは信頼している。そんな彼が言い淀むからには何か相応の理由があるのだろう。少なくとも悪い話ではない、ということは念を押して言われたので、僕はそれで納得することにした。だからブーイングするのはおやめなさいアイさん。

 

 ……と、そのような事情があるため、僕が知れる自分への評価というのはエゴサできる範囲までだったりする。そしてネットで評判を探ってみたところ、概ね世間からは好意的に評価されているらしいということが分かった。

 

 そんな世間の声の内訳は、大別して超能力に関するものが五割、容姿に対するものが四割、残り一割で演技の評価といった感じだ。予想通りというべきか、僕の見せた超能力について多くの人が驚きの反応を見せた。千秋楽からしばらく経った今でも、調べればSNS上では超能力の真偽の程について様々な意見が交わされている様が見て取れる。

 まあ、実際のところ僕の超能力はその殆どがアイの力によるものなので、仕方ないこととはいえそこを評価されるのは少々面映ゆいものがある。僕のような若輩者が自分自身の実力で評価を得るのはまだ当分先ということだろう。

 

 とまれ、そのように舞台「東京ブレイド」を契機としてシオンというタレントはそれなりに名を売ることができたというわけだ。まさにそれを目的として受けた仕事だったので、概ね目標は達成できたと言えるのではなかろうか。

 

 舞台役者……俳優としてのシオンの評価は上々。これを叩き台に僕は次のステージへと進むことになる。

 そのための準備は既に整っている。まさにその集大成と思しき企画書の束を手に、宮田さんは意気揚々とオフィスに入室してきた。

 

「さあ、待たせたねシオン君。ようやく君を表舞台に立たせることができる。『超能力者シオン』の真の姿を世界に見せる時が来たんだ!」

 

『最終兵器を起動するラスボスみたいな言い方するじゃんこの人。しかも割とあっさり倒される系の』

 

 なんてこと言うのアイさん。

 

 まあ、宮田さんのテンションが高いのは無理のない話だ。彼は僕が舞台の仕事をしている間もずっとこの時のために駆け回っていたのだから。

 

 場所は東京某所、東京国際シンポジウムという施設の一番大きなホールにて開催される、日本最大規模のイリュージョン・マジックショー。そこに出演者の一人として参加することが決まったのだ。

 

 会場の規模を聞いた時は眩暈を感じたものだ。何せ二階席も含めた座席数は実に五千席超え。これは東ブレの舞台となったステアラよりも、座席数だけなら大幅に上回る規模だ。

 しかもただ出演者の一人として参加するのではない。僕が舞台に立つのはイベントの最終演目……つまり大トリだ。このイベントに参加する他の一流のマジシャン達を差し置いて、手品師としては何の実績もない僕が真打ちとして主役を務めることになったのである。

 

『やったじゃんシオン! よく分かんないけどなんか凄そうなイベントだよ!』

 

 凄そうじゃなくて凄いんだと思う。

 

 どうしよう、今から震えてきた……僕としてはもっとこう……どこかのデパートの催事場的なところの一角を借りての小規模なイベントから始めるものとばかり思っていたのだ。

 それが蓋を開けてみればご覧の有様だ。僕も東京国際シンポジウムなる施設のことはよく知らないが、国際と名のつく場所が普通のイベント会場でないことぐらいは察せられる。もしかしてこれってマジシャンからするとミュージシャンにとっての武道館みたいな立ち位置の施設なのではなかろうか。だって出演者一覧に僕ですら知ってるような一流マジシャンがいるんだもん。

 

 最大手芸能プロダクションの持つ企業力をナメていた。まさか実績皆無のタレントをこんなイベントの大トリに据えるような強権を振るうなんて……大丈夫? これ関係各所に結構な圧力かけてない?

 

「こんなのはまだまだ序の口だぞシオン君。君はもっと上に行ける逸材だ……僕は東ブレで君が披露したパフォーマンスを見てそれを確信した! 世界進出だって視野に入れてるんだからな!」

「せ、世界ですか……」

「今回の仕事も予想以上に国外からの注目が集まったことを受けてのものだからね。鉄は熱い内に打たないと。いくつかプランを前倒しにしてこのイベントに君の枠をねじ込……設けてもらったんだ」

 

 今ねじ込んだって言いかけました?

 

「気後れする必要は全くないぞシオン君! タネも仕掛けもある手品師と違って、君のそれは誰の目から見ても明らかな本物なんだからな! シオン君はいつものように常識なんて気にせず、思うままにその超能力を発揮すればいい」

 

 暗に僕に常識がないって言ってます???

 

『暗にじゃなくてかなり直球でそう言ってるね』

 

「おっと、悪い意味で言ったわけじゃないから気を悪くしないでくれ。要するに常識に囚われる必要はないと言いたかったんだ。イリュージョン・マジックショーと銘打ってはいるが、だからといって手品という枠組みに己を押し込める必要性は皆無だ。遠慮も呵責もなく、やれることをやりたいようにやってくれ!」

 

 な、なるほど……そこまで言われたなら変に手加減するのは逆に失礼に当たる。アイ共々、この仕事も本気で臨ませてもらうとしよう。差し当たって、いくつか新技を考えたので宮田さんにも評価してもらいたいのだが……

 

「へぇ、新技! それは素晴らしい! 引き出しは多ければ多いほど良いからね。早速見せてもらえるかい?」

「はい! 是非お願いします!」

 

『……ん? 新技? 私なにも聞いてないんだけど……』

 

 では僭越ながら披露させていただこう。これは初回公演の際、アクアとの殺陣(たて)の最中に小刻みに動いて自傷していた時に思いついた技……

 

 体表面の細胞を超高速で振動・発熱させることで発火するパイロキネシスもどき──名付けて火炎属性付与(エンチャント・ファイア)!!

 

 

 

 

 

 

 その後、火加減を誤って火災報知器を作動させてしまい、通報を受けた消防士が駆けつける大騒ぎになってしまうのだった。勿論しこたま怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星野アクアと星野ルビーの血縁上の父親……アイを死に追いやった黒幕と思しき男はとっくの昔に死んでいた。

 

 名は上原(うえはら)清十郎(せいじゅうろう)。女優姫川(ひめかわ)愛梨(あいり)と結婚、彼女との間に一子を設けるも、その五年後に心中自殺を図り死亡。遺書の類はなく、自殺の動機は今以て不明だという。

 そのことが判明したのは、DNA鑑定の結果、上原清十郎と姫川愛梨との子供である姫川大輝──本名は上原大輝ということになる──とアクアとの間に血縁関係が認められたからだ。

 

 しかしアクアに分かったのは姫川と己が異母兄弟であるということまで。そこから先は姫川の口から語られたことだった。

 曰く、売れない役者であった上原清十郎は、才能ある女優を抱くことで自分に才能がないコンプレックスを誤魔化そうとしていた節があったという。姫川愛梨と結婚する前から……恐らくは結婚した後も、多くの才能ある女性タレントを引っ掛け回していたらしい。アイもその一人ということだったのだろう。

 

 父親は……アイを殺した黒幕は既に死んでいた。

 アイの仇はもういない。

 

 星野アクアの復讐は、始まる前から終わっていたのだ。

 

 それを知った時、アクアは何を思ったのだろうか。刃の矛先を失ったことへの怒りか、これまでの努力が全て無為に終わったことの虚しさか。

 あるいは──解放の安堵だったろうか。

 

 己の胸中に湧き起こった感情の名を、アクアは自分でも上手く言語化することができなかった。

 だが何をする気にもならずぼーっと数日を過ごしていたアクアは、箒とちりとりを手にせっせと事務所の掃除に勤しむ斎藤(さいとう)壱護(いちご)(役職:アルバイト)の姿を見て、ふとあることに気が付いた。

 

 ──もしかして、この人もアイの仇が既に死んでいたことに気付いたんじゃないのか?

 

 恐らくはアクアと同じく復讐のために全てを捨てて姿を(くら)ました男。

 一から築き上げた事務所も、社長という地位も、ミヤコという妻も何もかもを切り捨てたはずの彼は、ある時何の前触れもなく急に苺プロに戻って来た。その時は激昂したミヤコに原形を留めぬレベルでボコボコのボコにされて緊急入院したため、今に至るまで碌に事情を聞けていなかったが……明らかになったこの事実を鑑みるに察するところはある。

 

 何の力もない子供でしかなかったアクアと違い大人であり、アイほどのタレントを輩出した事務所の元社長ともなれば、芸能界に何のコネもツテもないアクアなどよりよほど取れる手段は多かったことだろう。恐らく壱護はアクアより早くに仇敵の死を知り、故にここに戻って来たのではないだろうか?

 築き上げた財も地位も家族も何もかもを(なげう)ってまで身を投じた復讐の道。それが始まりの瞬間から破綻していたなど……それを知った時の壱護の心中は察するに余りある。ともすればアクア以上の衝撃を受けたのではないだろうか。だから戻って来るまでにここまで時間が掛かったのではないだろうか。

 

 壱護が失踪していた十二年の歳月は、憎悪に黒く染まった心の整理をつけ、切り捨てたもの、置き去りにしていった者達と向き合う覚悟を固めるための時間だったのだ。

 

 そうと悟ったアクアは、それまで壱護に抱いていた隔意……アイが死んだ後、全てをミヤコに押し付けて何も言わず姿を消したことに対する怒りを呑み込んだ。

 むしろ敬意をすら覚えた。切り捨てたことの是非はさておき、それと再び向き合うことを決めたのは並大抵の覚悟ではないはずだ。自分が壱護の立場に立った時、果たして己は彼と同じ道を選べるだろうか。

 

「な、なんだよ急に生温かい目を向けてきやがって……」

「いや……何でもない」

 

 アクアの温かい眼差しに気付いた壱護が困惑したように──というより気味悪がって──後退る。そそくさと別室の掃除に向かった彼を見送ったアクアは、先ほどまでより幾分穏やかな心持ちでソファに身を沈めた。

 

「腑抜けた顔してからに……そんなに暇ならアクアも宮崎行く?」

 

 すると、そんな言葉と共にルビーがアクアの顔を覗き込んできた。

 ここ数日ずっと事務所のソファを占拠しては何をするでもなく日がな一日ぼーっと過ごしていた兄を見る妹の目は絶妙に冷たい。

 

「宮崎ってMVのロケか」

「うん。どうせ『東ブレ』も終わってやることもないんでしょ? 今のアクアは無職のまるでダメな兄……略してマダニなんだから」

「どうしてそんなこと言うの?」

 

 誰が衛生害虫だ。確かにここ数日間腑抜けて過ごしていた自覚はあるが、そこまで言われる(いわ)れはない。いくら血を分けた妹とて言って良いことと悪いことがある。

 そもそもアクアは学生の身分であり、しかもまだ半年先とはいえバラエティ番組のレギュラー枠も内定している。断じて無職ではない。

 

(しかし宮崎か……)

 

 新生B小町にとって念願の新楽曲のMVを撮影するため、MEM(めむ)ちょの友人がデザイン会社をやっているという宮崎は高千穂(たかちほ)まで出向くことになったという。ルビーはそれに同行しないかと言っているのだ。

 

「俺が行ったところで何か手伝えるわけじゃないぞ。監督のところで多少は齧ったが、その道のプロと比べられるものじゃない」

「別に手伝いを期待してるわけじゃないよ。舞台の慰安も兼ねてどうかって先輩がさぁ」

「有馬が?」

 

 道理で先程から妙にチラァ……チラァ……と露骨にこちらの様子を窺っていると思ったら、そういう意味があったというわけだ。チラ見というにはやたら眼力が強いから何事かと思っていたのだが、ようやく合点が行った。

 

 宮崎。アクアにとっては何かと因縁のある地だ。前世である雨宮(あまみや)吾郎(ごろう)の勤めていた病院があるのも宮崎だし、アイが入院し、アクアとルビーを出産したのも同じ病院だ。

 そして、雨宮吾郎がアイを知る切っ掛けとなった少女……天童寺(てんどうじ)さりながその短い生を終えた場所でもある。

 

「…………そうだな、行くか」

「!!!!」

 

 暫し考え込んだ後、アクアは宮崎行きに同行することを決める。

 その瞬間、これでもかというぐらいに有馬の表情が華やいだ。

 

「いい、アクア! 今回の旅行は二泊三日の長期滞在よ! 準備とかできてる!? キャリーケースとか持ってる!?」

 

 途端に水を得た魚とばかりに生き生きとしだす有馬。たった今決まったばかりの旅行の準備などできているわけがないというのに、彼女は嬉々としてキャリーケースの必要性について語り出した。

 

 曰く役者は撮影で地方ロケを行うことも多く、収納力と運搬性に優れたキャリーケースは俳優にとっての必需品なのだという。

 

 アイドル活動にも必須の品でありうんぬん。これを疎かにするべきでないことはあらゆる見地から明白でありかんぬん。これを機にアクアも事務所のものではなく個人のものを持つべきかくかく。たまたま都合良く偶然今日は運良く午後が丸々オフだから面倒を見てやらんこともないしかじか。

 

 そんな捲し立てるように放たれた長文台詞を要約すると、要するに「一緒に新しいキャリーケースを買いに行きましょう」というお誘いだった。

 

(……これはもしやデートだろうか?)

 

 前世を含めればもう立派な四十代のオッサンだが、星野アクアとしての彼はまだ十六歳の少年である。

 健全な精神は健全な肉体に宿るという。健全な男子高校生であるところのアクアは、転生者らしい年齢不相応に成熟した精神と同時に、少年らしい未成熟で若々しい精神を併せ持つ。そんなアクアの年相応な部分は、有馬からの推定デートのお誘いに小さく胸を高鳴らせた。

 

 その一方で冷静な部分……雨宮吾郎(アクア)はそんな少年の心を冷めた目で一蹴する。こんなどうしようもない男に懸想する女などいるはずもないし、いたとしてもそれを受け容れるべきではないと。

 

 その通りだ。星野アクアが往くのは復讐の道。アイを死に追いやった怨敵、その確実な死だけを希求して生きてきた。

 今更その生き方は変えられない。だからこそ特定の誰かに入れ込みすぎるのは禁物だ。それは覚悟を鈍らせる雑念である。何より、そんな男の道行きに何の関係もない少女を巻き込むわけには──

 

(──いや、違う。もう、いないんだったな)

 

 凍てつきそうになっていた思考に熱が戻る。

 そう、アイの仇はもうこの世のどこにもいない。生涯をかけて追い詰めその絶殺を誓っていた怨敵は、とうの昔に心中自殺していた。アクアの与り知らぬところで、あまりに呆気なく。

 

 だからもう、復讐のことを考える必要はない。アクアの脳裏に金属の錆び付く異音が響く。

 それは幻聴だった。しかし、それこそが在るべき運命だったのだろう。子供時代の青春を全て費やして研ぎ上げた憎悪の刃は、一度も振るわれることなく錆びていくが定めだったのだ。

 

 もう、いいのだろうか?

 復讐のためだけに生きる人生から解放されて、自由になって、自分のための幸福を求めても──

 

「…………そう、だな。有馬の言う通り、自分用のキャリーケースを新調するのも良いかもな」

「! じ、じゃあ早速今から……」

「でもせっかく出掛けるわけだし、日を改めないか? 明日はどうだ?」

「空いてる空いてる! 何なら明日も明後日もオフだから!

「たまたま都合良く偶然運良くオフだったんじゃないのか」

 

 頬を上気させ「明日だからね! すっぽかすんじゃないわよ!」と興奮した様子で告げる有馬に、アクアは苦笑しつつ頷く。

 

 これまでのアクアであればこういった遊びの誘いに安易に頷くことはしなかった。そんな暇があれば父親の捜索に時間を使っていたし、なけなしの才能を少しでも使い物にできるよう演技の勉強に費やしていた。

 だが、もうそんな必要もない。父親は、アイの仇は死んだ。その疑いのある業界人と接触するために芸能界でのし上がるべく技術を磨いてきたが、それすらもはや不要となった。

 

 これからはそういった打算など関係なく、心から演技に打ち込むのも良いだろう。今し方有馬と約束したように、誰かと遊ぶために自分の時間を使うことだって許されるだろう。

 

 もう復讐に囚われる必要はない。自由なのだ。それでアイを失った悲しみを忘れられるわけではないが、少なくとも過去のものとすることはできる。心の中で区切りをつけ、割り切り、乗り越える権利を得たのだ。

 

「……じゃあ、()()()()

「ええ! ()()()()()、アクア!」

 

 打算も何もなく未来を見て、親しい友人と同じ視座で明日に思いを馳せることができる。

 それはとても素晴らしいことのように思えた。

 

 


 

桐生(きりゅう)紫音(しおん)

 自分をゴジラウルティマだと思い込んでいるゴジラ・アースの皮を被った超絶天上天下天下無双ウルトラハイパー真ゲッター。やろうと思えばアイにできることは全てシオンにも再現できる。物理で。

 やらないのは単純にできると思っていないからで、その辺の思い込みを解消できれば疫病神ちゃんのストマックゲージと引き換えにあらゆる無法を現実のものとできる。しかし(幸いにして)(まだ)その自覚がないため、超能力関係のことをアイに頼りきりである現状を思い悩んでいた。

 

 そして何とか自分も力になれないかと裏でこっそり訓練していたら見事特訓が実を結び炎上(物理)した。なんで?

 

【星野アイ】

火炎属性付与(エンチャント・ファイア)──とか言いながら自分の身体に火を点けたシオンの姿は面白かった。まあ、当然プロデューサー共々社長に怒られたわけだけど……私は心底しびれたよ」

 

 本人は「どこで育て方間違えたのかなぁ」と首を傾げているが、アイがいなかった場合、シオンは中学生になったあたりで情緒不安定制御不能のゲッター聖ドラゴン化からのゲッペラー化一直線なため実は何も間違っていない……どころか人知れず世界を救っている。この宇宙に生きる全ての生命体にとっての大恩人である完璧で究極のアイドル、星野アイをどうぞよろしく。

 

宮田(みやた)P】

 表面上は納得しつつも、内心ではシオンを超能力者路線でプロデュースするのには反対していた……が、舞台「東京ブレイド」でスプーン曲げならぬスプーン圧壊マジックなど比較にもならないパワーオブドリームを目の当たりにしたことで考えを改める。

 この少年の見せる幻想は芸能界の常識を……否、世界の常識を変える! それを確信した宮田は外務省を通して接触してきたCIA職員のラブコールから現実逃避気味に目を逸らしつつ、そういった超能力に興味津々な国外のお歴々が来ても恥ずかしくない大舞台をセッティングする。最大手の企業パワーをフルに活用し、本来なら実績皆無の新人タレントなど逆立ちしても参加できないような大イベントにシオンの枠を捩じ込むことに成功した。

 

 それにしても火炎属性付与(エンチャント・ファイア)──とか言いながら自分の身体に火を点けたシオン君の姿は美しかった。まあ、当然大騒ぎになって社長から大目玉を食らったが……僕は心底しびれたよ。

 

【星野ルビー】

 休みの日に家でゴロゴロしてばかりいるだらしのないお父さんを見る娘のような冷めた目でアクアを見るが、彼を起こさないでやってくれ、(少年時代の青春の全てを費やしてきた復讐が終わって)死ぬほど疲れてる。

 まるでダメな兄、略してマダニは我ながらナイスなネーミングだと思っているが、当のアクアからは極めて遺憾の意を表明された。

 

【有馬かな】

 原作のこの時期の重曹ちゃんマジで可愛いくて頭がどうにかなっちゃいそうなんだよね。態度から好意は明らかなのに上手く言葉にできなくて空回りがちで、あくまであかねに義理を果たそうとするアクアの様子にヤキモチ妬いて、なのに思わせぶりな態度をとるアンチクショウにいちいちキュンキュンしちゃうところが本当にお労しくも可愛いすぎる。やっぱりアク×かなが至高ってそれ一番言われてるから。

 

天童寺(てんどうじ)さりな】

「もしもし、座右の銘は『後書きは作者の自由帳』のカミキヒカラナイだ」

『私だ……』

「! 偉大なるステージに輝く次代の(スター)にしてさりな様……」

『挨拶はいい。ゴロ×さな……否、アク×ルビはいつ始まる!? 出来ませんでは良心がない……』

「はい、必ずや……必ず最終章までには」

『また電話します。努力しなさい』

 

「ウウウ……」(アク×かなとアク×ルビの板挟みに胸を手で押さえながら倒れる作者)

「たいへんだ! カミキヒカラナイが!」

 

【星野アクア】

 原作と異なり、

 

 ・あかねちゃんがアクアの事情に一切関わっていない(天性の名探偵ログアウト)

 ・仮にアクアの勘違いに気付いたところで、壱護はアクアを復讐から遠ざけるために敢えてその勘違いを正そうとはしない(今回はそもそも聞かれなかったが)

 ・あかねちゃんと付き合ってるわけではないので特に抵抗なく重曹ちゃんからの好意を受け容れている(アイドル活動が本格化したら別だが)

 

 ため、盛大に勘違いしたまま気付くこともなく光の道に戻ろうとしている。物語としてはともかく、アクア個人のことを思えばこのまま勘違いしてくれてた方が圧倒的に幸せに終われると思われる。もう……ゴールしてもいいよね……

 

【疫病神ちゃん】

「クククク……あの化け物はマジックショーの準備で別行動……一方あの兄妹は旅行で宮崎に……」

「僥倖……! 神が息づく高千穂はこちらのホーム……っ! 二人に接触するなら今が好機……っ! これまでは化け物が怖くて近付けなかったけど、鬼の居ぬ間に何とやら……これまでの分、思う存分に意味深ムーブして楽しんでくれるわ……!」




今回から本文中に後書きを書くことにしました……
承認欲求モンスターが暴れ出したのでな……
ここすき して頂けると嬉しいです……(乞食)
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